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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第7章 【悪魔の科学者】
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第7章5 【真相】

「......お前、何のためにヒカリをネイとして生かした......」


「何のために?そらお前、ただの気まぐれに決まってんだろ」


 気まぐれで人助けか......


「なら、なぜ街を破壊した」


「それも、ただの気まぐれだな」


 気まぐれ......


 そんな理由で、罪のない人々に手をかけた......


「やるか?聖王。俺の手元には、人質という形の小娘がいるんだぜ?しかも、その正体はヒカリだ。変に手を出すことはやめた方がーー」


「聖龍・ルミナスレイ!」


 人質がどうした。


 こんなことを言うのもあれだが、化け物クラスのネイが俺の技1発2発でやられるような奴ではない事を、俺は知っている。


 多少当たっても問題ない。こんな事で引いてるようじゃ、民を導く者としての示しがつかない。


「なるほどねぇ。こいつ相手に攻撃が当たっても、多少は問題ないってか。信頼って言うのかねぇ」


「ああそうだ。俺達は、固い絆で結ばれている。多少無茶しても、笑って許してくれるさ」


「へぇ......なら、こうするか」


「......?......っ、何するつもりだ!」


「多少当たっても、大丈夫なんだろ?でも、あくまで『多少』だ。全部を当てるわけにはいかねえからなぁ」


 奴の体が、若干薄くなったかと思った次の瞬間、目を眩ませるほどの光が発生して、視界が開けた時には奴の姿が消えていた。


 ただ、代わりにネイが宙に浮くようにして立っていた。


「あー、あー、あー、なるほどねぇ。足が動かねえが、こりゃ良い体だ」


「......まさか、お前は......」


「すげぇだろ?俺、元々半人半霊みてえなもんだからな。同じ、半人半霊の奴に乗り移れんだよ」


 ネイが半人半霊......?


「お前、知ってんじゃねえか?こいつ、黒の人格が離れてるだろ?こんな、善意の塊を俺は見たこたァねぇ」


 あれか......2月頃にあった、ネイの裏の心事件。まさか、あの時の『ユミ』という人格が離れたせいで、半分幽霊になっていたとは......


「あー、でも、白髪ってのは気に食わねぇなぁ。こうするか......」


 何の気まぐれか、髪色を赤と黒の混ざった感じに変える。何の気まぐれだ?


「......で、どうするよ?聖王様。やるか?」


「っ......」


 倒せれないわけではない。むしろ、ネイの体になった分、聖龍の力で有利に立ち回れる。ただ、それは同時に、倒そうとすれば、ネイ自身も殺してしまうことになってしまう。


 この状況、俺の方が不利だ。


「出来ねぇよなぁ。大事な仲間なんだろ?」


「......クソっ」


「諦めな。お前じゃ、今の俺は倒せれない」


 諦めるしか......ないのか?


アラン「クロム様!ご無事ですか!」


「っ......アラン!」


フェリシア「クロム自警団、ここに参上!これより、街に害をなすものの排除を行います!」


 フェリシア......


フェリシア「クロム様、お下がりください。ここは、我々にお任せを」


「......すまない」


 こいつらなら......聖龍の力を持たないこいつらなら、ネイの体からあいつを引っ剥がすことが出来るかもしれない。


「お兄ちゃん、今回復するから、ちょっと横になってて」


「......すまん」


「謝りたいのはこっちだよ。こんな状況になってるのに、すぐに駆けつけられなかったんだし」


 いや、お前らは悪くない。


 奴を倒す力のない、俺が悪い。


アラン「クロム様、この者が......この事件の犯人なのでしょうか?」


「戸惑うのも無理はない。今のあいつは、体だけの存在だ。中身は全くの別物。ネイは俺達の仲間だが、殺す気でやらねば逆に殺られるぞ」


ルーダ「面倒だな。だが、斬っても良しなんだな」


「それ以上の気持ちで行け」


ルーダ「承知。我が剣術を見せてやる!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ほらほらほらほら!そんなんじゃ、俺に一切傷をつけることは出来ねぇよ!もっと本気で来いよ。俺を楽しませろよ!」


ロイ「セヤァッ!」


「遅い。遅すぎる」


ロイ「グアッ......」


ルーダ「ロイ、無茶をするな!」


ロイ「分かってるさ。だが、無茶でもしないと、こいつを倒せれない......」


 その無茶が自分の首を絞めていることに気付け。


 あの女の体をした男。俺達の攻撃を1歩も動かずに弾き返している。体は、クロムが言う虚弱体質。なのに、使う魔法は超一流。しかも、見た目を超えた範疇で使ってきやがる......


 どうやって対処しろって言うんだ。クロム、お前が苦戦するような相手を、俺達自警団が束になったら勝てるとでも思ったのか?


「あーあ、面白くねぇなぁ。クロムが集めた自警団って言うから、少しは期待してたんだが、どいつもこいつも期待外れだ」


メノア「おりゃぁ!」


「女の子が、そんなバカでけぇ斧振ってんじゃねえよ」


メノア「きゃあっ!」


ルーダ「メノア!」


 不意打ちも、全て無意味。あいつ、後ろにも目がついてるんじゃないのか?いくらなんでも、察知するまでが早すぎるだろ......


バアル「クソっ......」


ダギル「地に膝を着くな!バアル!誰も、敵を見逃せなんて言ってねえぞゴルァ!ギガフィア!」


「そんな、基本中の基本の魔法なんざ喰らうかよ。鍛えてから出直せ」


ダギル「グアッ......」


 自警団唯一の魔法使いであるダギルも、あいつの魔法には遠く及ばない。


 ......考えろ。打開策はあるはずだ。


 奴は、足の動かない女の体を使ってるせいで、常に宙に浮いている。浮き続ける限り、マナは消費されていくはずだ。長期戦に持ち込めば、いずれはマナ切れを起こして動けなくなるはず。


ルーダ「長期戦に持ち込むぞ!みんな、必死で耐えろ!」


「おっと、長期戦に持ち込んで、俺がマナ切れになるのを狙う算段だな?残念だが、こいつの体は、大気中にあるマナを使って魔法を放ってるんだ。戦いが長引けば長引くほど、お前らが不利になっていくんだぜ?優しい俺からの忠告だ」


ルーダ「クソっ......!」


 ハッタリである可能性はある。だが、こいつの表情を見るに、嘘ではないことが伺える。


ルーダ「セヤァッ!」


「無茶はしないんじゃなかったのか?」


ルーダ「グァッ......!」


 しっかりと隙を見られてからの、正拳突き。


「やめとけ人間。聖王でもなけりゃ、俺を止めることは出来ねえよ」


アラン「ならば、クロム様の右腕である私が......!」


「だからやめとけって言ってんだよ」


アラン「............」


 奴が、アランに目を合わせただけで、アランが倒れていく。


ルーダ「......」


「安心しろ。気絶させただけだ」


 目を合わせただけで気絶......?


 有り得ない。それが事実だとしたら、こいつはなんて力を持ってるんだ......


「あーあ、なんか興醒めだなこりゃぁ。誰も強いぇ奴がいねぇじゃねえかよ。クロムの自警団だって言うから、多少は期待してやったんだがな。まあ、所詮は普通の人間だったって事だ。じゃあな」


 そのまま、女の体を取った男は、自ら炎の中に飛び込んでいって消えた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ダギル「おい!水が切れたぞ!まだ火は燃えてんぞ!」


フェリシア「言われなくても分かっております!急かさないでください!」


ダギル「バカヤロウ!こんな大火事、少しでも気ぃ抜いたらすぐに元通りだ!急げ急げ!」


 ......なんで、こんな事になってしまったのでしょうか。


 セレナ様が積み上げた、『平和を形にしたような国』だったはずなのに、突然現れたテロリストによって、街の一部が半壊。死者は数百人超えを予想される。


 オマケに、奴はネイ様の体を乗っ取って暴れた。クロム様が手を出せなかった理由もよく分かります。


 私は聖龍の力を持っていないから、殺さずに分離させることは可能だったかもしれない。なのに、戦うことが出来なかった。


 ロイとメノアが一瞬でやられて、ルーダの読みが簡単に外れて、バアルとダギルの攻撃が一切効かなくて、アランが目を合わせられただけで気絶させられて......


 ハッキリ言って、私は怖かった。


 天馬騎士隊が壊滅させられて、セレナ様が拐われてしまったあの日のことを思い出してしまった。


 もう、あんな事は2度とさせないと思っていたのに、足がすくんで動かなかった。


ラグエ「酷い有様だな」


フェリシア「......やっと戻ってきましたか」


ラグエ「悪いな。これでも急いで任務から戻って来た方なんだ」


フェリシア「サラとでしたっけ?上手く行きましたか」


ラグエ「急ぎで帰ってきたんだ。上手く行ってるかどうかなんて分かったもんじゃねえ」


 クロム様から任せられた任務を、そんな雑に終わらせてくるとは......一緒について行った、サラは何をしていたのだろうか?


ラグエ「何があったのかは聞かない。聞いても意味はないからな。だが、俺は街をこんなことにしてくれた奴を許さねえ。泣いて詫びようが、俺は地獄の縁を見してやるんだ」


 ラグエ程の武器使いなら、それも可能かもしれない。


 だけど、あの魔導士相手にラグエが全力を出して、何分耐えられるかの勝負になる。


 控えめに言って、ラグエだけではどうにもならないと思う。


ラグエ「......クロムの野郎も、この騒ぎで殺られちまったか」


フェリシア「死んではいませんよ。ただ、満身創痍な事に変わりはありませんね」


ラグエ「......今ので、勝てる気がしなくなってきた」


フェリシア「もっとやる気を出してください。あなたは、我が自警団の中でも3本指に入る実力の持ち主なのですから」


ラグエ「......3本か。どうせ上2人はクロムとアランだろ」


 ......ラグエ、あなたなら、クロム様は越えられなくても、アランあたりなら越えられると思いますよ。


ダギル「お前ら!話し込んでないで手ぇ動かせ!今が正念場なんだよ!」


ラグエ「......仕方ねぇ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


クロム「っ......痛たたたた......」


メイ「お兄ちゃん......」


 全身ボロボロだ......


 メイのお陰で、なんとか死にはしなかったが、こんなにボロボロになったのはいつぶりだろうか?


クロム「あぁ......」


メイ「大丈夫......?」


クロム「なんとか......な。みんなはどうなった?」


メイ「......ロイとメノアがお兄ちゃんよりかは大丈夫だけど、それでもボロボロな状態。他は、ルーダとバアルが軽傷。ダギルは、血を垂らしていたけど、街の消火作業に今も当たってる」


クロム「......そうか」


 大丈夫ではないか......


クロム「クソっ......!」


 悔しくて、俺は痛みのない右腕で壁を殴りつける。


クロム「っ......痛って......!」


メイ「バカなの?そんな強く打ちつけたら、お兄ちゃんくらいの力だったら痛いよ」


 ......


 ......


 ......


 ダメだな。何も言い返せれない。


メイ「......ねぇ、お兄ちゃん」


クロム「......なんだ」


メイ「......どうするの?」


クロム「......」


 どうするべきか。


 俺の頭では、どうするべきかなんて分からない。このまま、またあいつが現れるのを待つか......


 ......いや、奴は別の街でも破壊を行う。ただ単に、『楽しさを求めて』そうする。


クロム「なあ、メイ」


メイ「......?」


クロム「ヒカリのこと......覚えてるか?」


メイ「......うん。覚えてるよ。いっつもお兄ちゃんと喧嘩してた。それくらいだけど」


 喧嘩......そうだな、もう1回、あいつと言い合える日が来ればな......


クロム「ネイの正体。それが、そのヒカリだって言うんだ」


メイ「......!」


クロム「もちろん、敵が言ってた事だから嘘だって線もある。だがな、俺には奴が言っていた事が嘘だとは思えない」


メイ「......つまり、ヒカリさんはネイさんとして生きてるって事?」


クロム「そうだ。性格も見た目も、何もかも違うが、そういう事なんだ」


メイ「......そう」


 ......


 ......


 ......


 何がどうしてこうなったんだろうな。


 素直に、ヴァル達に協力を仰ぐか......


「よう、兄妹愛の良いお2人さん」


クロム「っ......!?」


 何の前触れも無しに現れたネイの姿をしたエンマ。その顔には、不気味な笑みを浮かべている。


クロム「何しに来たってて......」


 慌てて剣を握りしめるが、手のひらにじんじんと痛みが伝わっていく......


「落ち着けよ、聖王。今日は、お前に話があって来たんだよ」


クロム「話だと......?」


メイ(ねえ、お兄ちゃん......)


クロム(心配するな。俺が守ってやる)


 守ってやるとは言ったが、正直奴が本気で来たら守りきれる自信はない。


「お前ら、明日この王城にもう一度来てやる。時間は言わねぇ。だが、俺が来るその時までに、ダークとクリスタルの記憶媒体を用意しとけ。じゃあな」


 それだけ言って、奴は俺達の返事も聞かずに消え去った......


クロム「......」


メイ「ダークとクリスタルの......記憶媒体......?」


クロム「グランメモリの事だ。前に、ヒカリがここを出て行く時に2本だけ忘れていったメモリがあるんだ」


メイ「もしかして、それが『ダーク』と『クリスタル』のメモリ?」


クロム「多分な。触ったことが無いから何とも言えんが、多分そうだ」


メイ「......何に、使うのかな?」


クロム「さあな」


 考えたくもない。奴が、その2本......いや、あれがヒカリだと言うのなら、その体にはあいつが持っていた6本のメモリが入っているはずだ。合わせて、8本のメモリを所持することになる。


 嫌な記憶が蘇る。あいつが、身投げをしたあの日。


 俺は、見えていたというのに止められなかった。


クロム「......メイ、俺の書斎のベッドの裏に、隠し金庫がある。暗証番号は0815。それで開く」


メイ「その中に、そのメモリがあるの?」


クロム「ああ」


メイ「............渡すつもりなの?」


クロム「用意しておくだけだ。あいつが何をするつもりなのかを聞いてから判断する。最終的に、渡す羽目になるかもしれんがな」


 ......そうなった時は、そうなった時だ。

人物紹介

ロイ

性別:男 所属ギルド:クロム自警団

好きな物:剣 嫌いな物:槍

誕生日:11月3日 身長:178cm 17歳

見た目特徴:黒髪の若々しさを感じる青年。剣使いではあるが、筋肉量が他と比べて少ない。


 クロム自警団の青年剣士。自警団の中では特に若く、その若さ故に他よりも行動力がある。ただし弱い。クロムが調査に出た先の村で、剣の腕を磨きたいと志願してきたロイをクロムが受け入れた。


次回予告

第7章6 【揃った記憶】

 会話文の横にキャラの名前を表示するんですけど、その時の視点キャラによっては名前が分からず表示されていないということがあります。それは基本なのですが、たまに、何のためかは自分でも分からないんですけど名前を書かない時があります。大抵、そういう時は普通に分かると思うので問題は無いと思ってるのですが......

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