第2章5 【異世界】
朝が来た。
ヒカリは昨日言ってた通りもういない。
「うーん」
セリカは大きく伸びをし、カーテンを開ける。
いつも通りの朝だと思っていたが、今朝は霧が濃い。視界が悪そうだ。
「今、何時?」
セリカは時計を見る。
時計の針は8時を指していた。
「5時くらいだったら何も思わなかったけど、8時に、霧か......」
ーーなんか、嫌な予感がするーー
セリカはそう感じていた。もしかしたら、昨日襲われたからかもしれない。
「弱気になってちゃダメ。いざとなったらヴァルが守ってくれるし」
セリカは着替えを始めようとした。
《ドカーン!》
突然爆発音が聞こえた。
(え?何?)
セリカは慌てて窓から街の様子を見る。
時計塔が崩れていく様子が確認できた。
「な、何が起きてるの!?」
セリカは大慌てで着替えを済ませ、時計塔の方へ向かっていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あぁ、なんだ?今の爆発音」
ヴァルは今までに聞いたことない爆発音で目を覚ました。
「たくっ、こんな時間から何だよ」
ヴァルは苛立ちをあらわにしながら窓から外を見る。
そこからは、時計塔が崩れていく様子が伺える。
「は?マジかよ!?」
ヴァルは驚きのあまり、朝飯抜きで外に出て行った。
ちなみに、ヴァルは昨日着ていた服のまま寝ていたので着替える必要は無かった。
「おいおい、どうなってんだ......」
ヴァルは時計塔に着くや否、改めて崩れた時計塔を見て驚愕の表情を浮かべる。
「ーーこれは......」
ヴァルは崩れた瓦礫くずの中に、あるものを見つけ拾い上げる。
「間違いねえ。こりゃ爆弾だ。んでもって、誰かが爆発させたってことか......」
「ご名答」
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「ッ......さっきの声、どこだ」
ヴァルは辺りを見渡す。
「ここですよ」
上の方から声が聞こえてきた。
「ッ......」
その声の主は時計塔の上からヴァルを見下ろしていた。
「お前か、この騒ぎを起こしたのは......」
ヴァルは睨みをきかせながら言う。
「That's right.しかし、これはまだ始まりにすぎませんよ、ヴァルさん」
男が降りてきて言う。
「なんで、俺の名前を知っていやがる?」
「名前をどうして知ったのか。その答えは今、お話することは出来ませんね」
「んだと、てめぇ自分の立場が分かってるのかぁ?」
「ええ、分かっていますとも。それを承知の上で話をしていないだけです」
この男の言っていることが理解できない。
「理解しなくて結構。ただ、1つ覚えておいて欲しいことがあります」
男は人差し指を立てながら言う。
「私の名前はライガ。以後お見知りおきをヴァルさん」
そう言うとその男ーライガーはヴァルの鼻先を指で弾いた。
「ーーッ」
咄嗟のことにヴァルは少々混乱した。
「ーー誰がお前のことなんか覚えるかよ......今、この場でぶん殴って終わりだ」
ヴァルはそう言うと拳に炎を灯した。
「おぉ、噂通りの人物ですな。しかし、今ここでやり合うのは少々勿体ない。ここは一旦引かせてもらいます」
そう言うと男は背中を向け立ち去ろうとした。
ーー舐めやがってーー
ヴァルは勢いをつけ、ライガに突進しようとした。
「おっと、1つ言い忘れておりました」
そう言うとライガは突進したヴァルの体を掌を差し出し強制的に止め、話を始めた。
「ッ......体が動かねえ......」
ヴァルの体はまるで、金縛りにでもあったかのように動かなくなった。
「私、こう見えても異世界から来たものです」
「は?異世界だと......何言ってんだお前」
「信じなくて結構。いずれあなたは否が応でも信じることになりますから」
そう言うとライガはヴァルを吹き飛ばし、まるで、影に飲まれるように消えていった。
「なんなんだ......あいつ......」
ヴァルはしばらくの間呆然としていた。
「あ、ヴァル!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ーーセリカか......」
セリカが手を振りながら近づいてくる。
「どうしたの?そんな険しい顔して」
セリカはヴァルの顔を覗き込みながら言う。
「否、別に大したことはねえ......」
ヴァルはライガと名乗る男のことは黙っていることにした。
「? ......まあ、いっか。それよりも、この有様どう思う」
セリカが崩れた時計塔の方を向いて言う。
「どうもこうもねえ。爆弾の破片が見つかった。誰かが爆発させたってことだ」
ーーそして、その犯人はあいつだーー
ヴァルは歯ぎしりをした。
悔しさからだった。自分の力が遠く及ばないことを知った悔しさからであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よっこらしょっと」
ヴァルは近くにあったブロック上のコンクリートに腰掛ける。
あれから1時間が経ち、騎士団が到着して今は、現場の確認作業と瓦礫の撤去作業が同時に行われていた。
「お疲れだな」
誰かが話しかけてきた。
フウロだった。
「こんだけ派手にやらかされたからな。瓦礫の量とかが尋常じゃねえ」
「あぁ、全くだ。一体誰がこんなことをしたんだろうな」
フウロは苛立ちを隠さずに言った。
「ーーフウロ、これをやったやつを俺は知っている。そして、さっきそいつと戦った。一方的にやられたけど」
「な、犯人が分かってるのか!?それに一方的にやられたってどういうことだ?」
フウロはヴァルの方を揺すりながら叫ぶ。
「お、落ち着けって」
ヴァルに宥められ、フウロはヴァルの隣に腰掛ける。
「ーーそれで、これをやったのは誰なんだ?」
「ーーあいつは、ライガって名乗ってた。とんでもねえ魔導師だ」
「ヴァルが一方的にやられる程の強さを持つものか......どんな奴だった?」
「なんて言うか、スゲー変人だった。加えて言うと、俺が不意打ちで突進したのに、あいつは掌かざすだけで俺の動きを止めやがった」
「それほどの手練なら何かしらの情報が出回っているだろう。しかし......」
ーーそんな魔法の使い手なんて聞いたことがないーー
これはヴァルも同じことを考えていた。
「後、あいつ去り際に妙なこと言いやがった」
「妙なこと?」
「『私は異世界から来たものです』ってな。そんな話誰が信じるかよ......」
「異世界か......しかし、もしそれが本当ならそれまでの手練で噂にならない説明がつく」
「まさか、信じる気か?」
ヴァルは冗談かというふうに聞く。
「しかし、ここまでやれるようなやつだ。それでいて、何かしらの噂にもならない。異世界から来たのなら全て理にかなっているだろ?」
「そりゃ、そうだけどよ......」
「信じたくないのは私も同じだ。しかし、世界が私達が住んでいるこの世界だけとは限らないだろ」
「ヒカリに聞いてみるか......」
「それがいいかもな」
そう言うとフウロは立ち上がった。この後も作業を進めるつもりだろう。
「あ、フウロ。さっきの話はセリカとか他の連中には話さないでくれ」
「? 何でだ?」
「異世界から来たとかそんなんが噂として広がったら......なんか、その......ろくでもないことが起きそうな気がするんだよ」
「そうか......分かった。他の誰にもこのことは言わない。ただし、お前は無茶をするな、分かったな」
「あぁ、分かった」
そう言ってヴァルはフウロと、別れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「異世界人か......こんなんヒカリが聞いたらなんて答えるだろうな」
きっと、冗談はやめなさい。いるなら、それを証明してみて、とか言うんだろうな。
「よう、ヴァル」
また、誰かが話しかけてきた。
「ヴェルドか......」
「どうやら、俺は歓迎されてないらしいな」
「しばらくの間1人で考えさせてくれよ」
ヴァルはハエでも追い払うように手を振る。
「考え事なんてお前らしくないぞ」
そう言うとヴェルドはヴァルの隣に腰掛けた。
「お前が一番最初に現場に到着したらしいな」
ヴェルドが声のトーンを低くして言う。
「だったらなんだって話だ」
「否、一番最初に行ったんなら、犯人とかそういう奴を見かけたんじゃないかと思って」
「そんな奴いなかったよ。俺が行った時にはすでにここは瓦礫だらけ、誰も怪我人がいなかっただけ、良かった方だ」
「そうだな」
しばらくの沈黙が続いた。
「よう、久しぶりだなって言いたいところだが1夜ぶりか......」
沈黙を破ったのはヴァルでもヴェルドでもなく、一人の男だった。
「お前......」
その男に見覚えがある。昨日、セリカを襲った人物だ。
「ヴァル、誰なんだこいつ?お前のことを知っているらしいが......」
ヴェルドが聞いてくる。
「知ってるも何も、昨日セリカを襲った通り魔だ」
ヴァルは目の前の男を睨みながら答える。
「通り魔!?こいつがか?」
ヴェルドは改めて目の前の男を見る。
「おうおう、随分と敵意むき出しだな。折角昨日の嬢ちゃんの様子でも見に来てやったのによォ」
男はヴァルが睨みつけるのを気にもせず話を続ける。
「お前、今更何しに来やがった」
「そのお前って呼び方やめてくれよ。俺の名前はキルディスだ」
そう言うと男ーキルディスーはズボンのポケットから小さな箱のようなものを取り出した。
「悪いが、昨日のように見逃してあげる訳には行かないんでな」
そう言うと男はその箱、恐らくグランメモリであろう物を体に突き挿した。
《バード》
キルディスの体がみるみる鳥獣のような姿に変わっていく。
「おい、ヴァルこれって......」
「多分というか、絶対グランメモリだな。なんでお前がそれを持っていやがる」
「これかい?これは、私の仲間から貰った戦闘用の特別なアイテムだ。そして、君たちの反応を見るにこれのことを知っているようだな?まあ、その記憶もすぐに忘れてもらうがな」
そう言うとキルディスは変化した体を使って突進して来た。
とっさの判断でヴァルとヴェルドはそれを避けるが後ろにいた逃げ遅れた作業員に攻撃が当たった。
「ほらほら、君達が避けるから無駄に人が3人かな?死んじゃったよ」
攻撃をまともに食らった作業員の人はもう既に息絶えていることが分かった。
それくらい、体を斬り裂かれていた。
「たった一撃で......」
ヴェルドが唖然としている。
「一撃ではないよ。まあ、君達にはこの攻撃は見えてないだろうけどね」
そう言うとキルディスは再びヴァル達の方へ突進してくる。
「アイスグラウンド!」
「連獄!」
まともに避けていては誰かが犠牲になると判断したヴァルとヴェルドは反撃をする。
「無駄だ。そんな攻撃私には効かない」
「嘘だろ......」
確かに全て当てたはずだ。それなのに傷一つ着いていなかった。
「それなら、倒れるまで攻撃し続けるまでだ。火竜の鉄拳!」
「アイスニードル!」
「さて、君達がジリ貧で殺られるのが先か、それとも私が殺られるのが先か。ーーまあ、そんな答えはもう既に出ている。君達が殺られるのが先だ」
そう言うとキルディスは全ての攻撃を跳ね除け突進してきた。
「ッ......まずい!」
避けようとしたが間に合わなかった。
「暴風剣!」
巨大な竜巻がキルディスの体を飛ばした。
「大丈夫か?ヴァル、ヴェルド」
その攻撃をしたのはフウロだった。
「悪ぃ、また助けられちまった」
「礼なんて後でいくらでも聞いてやる。そんなことよりも今はこいつを倒すことに専念するんだ」
「あぁ、分かってるさ」
そう言うとヴァルは体制を整え拳に力を入れた。
「フッ......人間が1匹増えたところで私に叶うわけがない」
「それはどうだろうか、俺たちゃ1回お前のようなやつと戦って勝ってんだよ!」
ヴェルドがキルディスに向かって叫ぶ。
「そうか、お前らディランを倒した奴らか。なるほど......」
キルディスは考え込むように翼を顎に当てている。
「おい!無視してんじゃねえぞ!」
ヴァルはそんなキルディスに向かって叫ぶ。
「君達とは長い付き合いになりそうだ。私の名はキルディス。これでも異世界から来たものだ。きっと私達の仲間も君達の知らないところ、あるいはもう出会ったのかな?まあ、とにかく私と同じような力を持ったものが沢山いる。果たして君達に勝つことが出来るかな?」
そう言うとキルディスは人間の姿に戻り、姿を消した。
「勝ち逃げされたな......」
フウロが剣を鞘にしまいながら言う。
「異世界だと......?そんなところから敵は来てるのか。つか、ヴァルとフウロは知ってたのか?」
ヴェルドが尋ねてくる。
「私はヴァルから聞いたに過ぎない。それに、この塔を壊したのも多分あいつの仲間だろうな」
フウロがヴェルドの疑問に答える。
「とにかく、なんかとんでもねえ事が起きようとしている。一刻も早く対策を練らねえと」
「とりあえず、ヒカリに聞いてみるのが一番か」
「そうだな」
(異世界人だと?ふざけるな!そんな奴らに俺達は負ける訳にはいかねえよ!)
ヴァルは決意を新たにし、ギルドに向かっていった。
人物紹介
レラ・ヴァイラル
性別:女 所属ギルド:グランメモリーズ 年齢:18歳
好きな食べ物:姉の入れるコーヒー 嫌いな食べ物:ピーマン
誕生日:3月4日 身長:158cm
趣味:編み物
見た目特徴:茶髪のショートヘアー、バストサイズはCカップ
ミラの妹。姉と同じように変身魔法を使うが、姉と違って相手の姿をコピーして使うことはできない。
次回予告
第2章6 【演技】




