第6章22 【計画】
騎士団長の"シドウ"について歩き始めてから約10分程度。
シドウ「姫、ツクヨミ様をお連れしました」
ネイ「その名前で呼ばないでください」
ゼイラ「ツクヨミ......様......」
前に見た事のある金色の髪をした、品位のある女の人。間違えるはずもなくゼイラ王女である。
ゼイラ「来てくださったんですね......」
なぜか歓喜に満ちた声でネイの手を取る王女。
ネイ「な、なんですかあなた」
ゼイラ「ずっとお会いしたいと思っておりました。まさか、こんな形で会えるなんて......」
1度会ってるじゃん。あの、対龍人用の麻酔弾とかいうやつを使ってさ。
ゼイラ「......やはり、お母様の言っていたとおり、美しいお方ですね」
ネイ「何でもいいですけど、何なんですか?ここは」
ゼイラ「え?ご自分で入られたのでは?」
ネイ「......なんと説明したらいいか」
ヴァル「お前らがここに叩き落としたんだろ!早く出せ!」
セリカ「ちょっとヴァル!一応王女様だよ?」
ヴァル「王女とか何とか知らねえよ!誰でもいいから、さっさとこの鉱石だらけの洞窟から出しやがれ!」
うわぁ、これは相当精神に来てるな。イライラが募りに募っている。口から吐いてる炎が、この洞窟の岩という岩を溶岩に変えかねない勢いだ。
ゼイラ「シドウ、今すぐあの方達を捕らえなさい」
シドウ「はっ!」
セリカ「え、ちょっ、何これ!?」
周りから、一瞬にして兵達が駆け寄ってくる。流石は王国の権限。むしろ、こんなところに何も警戒せずにやってきた私達が間違っていた。
ネイ「ちょっと!ヴァr......彼らは私の仲間です!」
ゼイラ「ええ。分かっております。ですが、これもあなた様のためです」
ネイ「な、何言ってるんですか!意味が分からないですよ!」
ヴァル「ゴタゴタうるせえな。話があるなら3文で終わらせろ。そして、さっさと俺達をここから出しやがれ!あと、ネイは渡さねえからな」
ヴァルにしてはまともな内容の文章。
シドウ「大人しくしろ!貴様ら。殺されたいのか!」
ヴァル「それはこっちのセリフだ!お前ら、よくもネイに対龍人用の麻酔弾とか使いやがって!ばっちゃんがいなかったら大変だったんだぞ!」
ゼイラ「......それは......大変申し訳ないことをしました。あの時の私は、色々と急いでいたので......」
ネイ「......とりあえず、ここから出してくれませんか?なぜか迷い込んでしまったので」
ゼイラ「......それは、出来ません」
ヴァル「はぁ?......っ、ちょっと待て!その煙はーー」
ゼイラ「ツクヨミ様。これも、あなた様の為なんです」
ゼイラが手に握っていた空き瓶。ちょっと煙が抜けていたが、その煙は、私達の嫌な予感を的中させた。
ゼイラが向けた瓶から、直接煙を吸い込んだネイりんは、その場にゼイラに抱えられるようにして倒れる。
ヴァル「おい!お前ら、またそれを......!」
シドウ「大人しくしろ!火と氷の龍殺し!」
セリカ「きゃっ......」
前方にだけ注意していた私の背後から、騎士団が馬乗りのような形になって押さえてくる。
ゼイラ「その者は精霊魔導師です。牢の方に入れててください」
シドウ「承知致しました」
ヴァル「待てやゴルァ!氷炎龍の咆哮!」
とうとうヴァルが、あたり一面、私のことすら気にせずに炎と氷の息吹を吹きかける。だが、騎士団が構えていた盾は、その息吹を全て打消した。恐らく、当たった魔法をマナに分解し、辺りに散らせていくという最新鋭の武器だろう。
ヴァル「あ"ぅっ......痛てて......」
シドウ「如何なされますか?この方は」
ゼイラ「ツクヨミ様の大事な御方です。ギルドの宿泊先に戻しておきなさい」
ヴァル「ふざけんな!」
シドウ「黙れ!」
ヴァル「グハッ......」
シドウが、無理矢理にヴァルの意識を奪う。これで、戦える者はいない。あっという間の出来事だった。
「オラッ!」
セリカ「あぅ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「と、いうわけなんだ」
もう1回、1から説明し直してほしいくらいの説明だった。ヴァルにしては、上手く言葉をまとめられていたと思うが。
ヴェルド「えーっと、大事なところはセリカとネイを捕らえられたって事だな」
ヴァル「そうだ。捕らえられた、そこが1番大事だ」
レラ「何のために?」
ヴァル「さあ?ネイに関しては、ツクヨミだなんだ言ってたから......」
フウロ「また魔女絡みか。勘弁してほしいものだな」
ヴァル「もう運命なんだろうな。で、あいつらの計画を知るってことはどうでもいい。さっさとネイ達を助け出す。それだけだ」
実に目的が分かりやすい。ただ、私としてはネイだけじゃなく、セリカまでもが捕らえられた理由を知りたい。精霊魔導師......それだけで、なぜ捕えられる事になるのだろうか。
ヴァハト「......今晩行っても、警備は頑丈じゃろう。行くなら、明日の決勝試合中じゃな」
フウロ「だが、そうなると......」
レラ「助けに行った人は、決勝に出られなくなる......」
ヴァル「俺は構わねえ。出るって言っても、たったの5人だろ?なら、俺を除いても強い奴5人ならたくさん候補があるだろ」
フウロ「......そうだな。では、決勝には全力をだす。ネイ達の救出は、バレない程度に全力で尽くす。決勝試合は、私、ヴェルド、シアラ、ライオス、グリードで良いだろう」
ヴァハト「ああそうじゃな。バランス的にも、この5人で優勝を目指してもらうとしよう。それで、2代目達の救出じゃが......」
こちらの組み合わせが1番難しい。全員で行けば簡単な話だが、そうなれば観覧席にグランメモリーズのメンバーが1人もいない事になる。これは、明らかに「警戒してください」と言っているようなものだ。
最小限の人数で、でも強い面子で行かないといけない。4人くらいいれば十分だと思う。ヴァルと、ミラお姉ちゃん。あとは......
ヴァハト「ヴァル、ミラ、エフィ、レラ。この4人を向かわせよう。ヴァル、それでいいか?」
ヴァル「十分だ。あと、シロップも連れて行きたい」
レラ「この子?」
白い、もふっとしてるが固い生き物。小龍と言うらしい。
ヴァル「狭い通路とかがあった時に、この、なぜか人の言葉を理解する小動物がいれば役に立つ。いいよな?シロップ」
シロップ「ネイを救うためなら、任せといてよ」
ヴァル「決まりだな」
ヴェルド「......本当に、大丈夫か?向こうだって、完全に警戒してねえとは言えねえだろ」
ヴァハト「お前が心配するほどこいつらは弱くはないわい!それは、お前がよう知っとることではないか!」
ヴァル「こっちは任せてろ。お前は、グランメモリーズを優勝に導いてくれ」
ヴェルド「......分かったよ。コールドミラーを叩き潰して1位になってやるよ!だから、お前は死ぬなよ」
ヴァル「任せてろ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「......」
知らない天井だ。
「......」
周囲を見渡すと、シンプルだが、綺麗な飾り付けの部屋だ。それに、私が横たわっていたベッドも、凄く良い物だということが分かる。
「......」
そうだ、私、確か対龍人用の麻酔弾とかいうやつでまた眠ったんだ。麻酔がどれだけ効くのかは分からないけど、多分、いつも通り15時間くらいは寝てる。
「......ヴァル」
本来なら、今日は決勝戦。恐らく、ヴァルは私を助けるために、試合を放り出している。いや、放り出すというのはおかしいかな。誰かに任せてると言ったところだろう。
若干麻痺している体を動かして、たまたま近くにあった鏡を見る。いつの間にか、私のボロボロになった服は消え去り、葡萄染色のドレス装束になっている。普段よりも、スカートがかなり長い。これでは、逃げ出す時に不便だ。高い物だと分かっているんだけど、仕方ないと10cmほど破く。
「靴......」
はないようだ。素足で逃げる他ない。
「......」
気づかなかったが、手首足首に謎の輪っかが締め付けるように巻いてある。
「魔術不滅器具ですか。めんどくさい物を......」
私の力で簡単に解けるものではない。これでは、転移術で逃げるのは厳しそうだ。
「......前方よし、右左よし」
音を立てないように、こっそりと部屋から抜け出す。幸い、内鍵がない扉ではなかった。代わりに、鍵穴でしか外からも内側からも開けることが出来ない扉だったが、なぜか部屋にある髪留めで事足りた。
髪留めだって、形を変えれば針金のようにできる。魔法が使えなくても、錬金術は使える。錬成陣さえ書ければだけど。
さて、ここからは、派手な衣装でバレないように逃げないといけない。あわよくば、途中でヴァル達と合流して、この輪を外してもらいたい。
「背中明けの服にしてくれるのは嬉しいけど、もうちょっと動きやすい服にならなかったんですかね。動きにくいっちゃありゃしませんよ」
誰に言えばいいのか分からない文句を呟く。
「あーあ、俺も決勝試合見に行きたかったなぁ」
「そんな事言うなよ。今日は給料高めなんだしさ」
「そうだとしてもさ、グランメモリーズとコールドミラーの全面対決が見られるんだぜ。こんなにも勿体ねえ日はないだろ」
「まあまあそう言うな。俺達は、牢にいる精霊魔導師と、この先にいる巫女の監視をしねえといけないんだし」
「あーあ、そんなめんどくせえこと放り出してぇ」
「すみません!」
「グハッ......」
「ハッ......」
ユミほど上手くはできない。だけど、こうやって腹を殴って気絶させ、頭を思いっきり地面にぶつけて脳震盪を起こさせるくらいのことなら出来る。
このまま私がいた部屋に戻られたら、もうバレてしまう。せめて、もう少し距離を稼いでからにしないといけない。
ついで感覚で兵達の持ち物を漁る。それぞれが剣を構えていて、片方が何かの鍵を持っている。会話の内容からして、セリカも捕らえられている可能性があると考えると、これは頂いといた方が良さそうだ。ついでに、剣も1本携えさせてもらう。何もないよりかはマシだ。
「......迷路みたいなお城。地図がほしい......」
自負したくはないが、私は相当な方向音痴。既に、自分が来た道が分からなくなっている。こんなので脱出することが出来るのだろうか。
「姫、大会の方はよろしいのでしょうか」
「ツクヨミ様を捕らえることが出来た今、その必要はありません」
「では、計画を最終段階に進めるということでよろしいのですね」
「ええ。あの者から、精霊の鍵は預かっていますよね?」
「抜かりなく。こちらでございます」
ゼイラとシドウの怪しげな会話。耳の良さのおかげで、かなり離れていても聞き取ることが出来る。
「私はこのままツクヨミ様の様子を見に行きます。あなたは、彼女を呼んできてください」
「かしこまりました」
分かれ道に来たところで、2人は別々の方向へと行ってしまった。ゼイラの方は、私がいた部屋のところに行こうとしている。追いかけるのはやめといた方がいい。ならば、彼女らの計画を知るためにも、シドウの方について行った方が良さそうだ。
......
......
......
歩いても歩いても、シドウはどこの部屋にも入ろうとしない。というか、この城大きすぎるでしょ......
「失礼致します」
突然、シドウが止まる。急いで柱に隠れるが、バレてはいないだろう。
「ベルメル様、時間です」
「随分と早いんですね」
「ええ。思った以上に都合よく進んでくれましたから」
ベルメル......?聞き間違えでなければ、あの日、セリカと一緒に会った精霊魔導師。なぜここに?
「セリカ様を捕らえたと聞きましたが......」
「大丈夫でございます。彼女にも、追追計画を話して賛同していただくつもりでございます」
「そうですか。セリカ様も、私達の味方に......」
「ええ。話せば分かっていただけるはずです」
「そうですよね。世界を救うためですもの」
2人を追いかけようとは思ったが、鍵もせずに出ていったベルメルの部屋を物色物色。
「これと言って何もない......」
漁れど漁れど何も出てこない。やっぱり、あの2人を追いかけた方が良かったかな?
「......これは?」
引き出しの中に、何やら文字がびっしりと書き込まれた紙切れ。
「......急がないと」
人物紹介
ピアナ
性別:女 所属ギルド:シェミスターライト
好きな物:スイーツ 嫌いな物:暑いところ
誕生日:6月7日 身長:159cm 18歳
見た目特徴:ピンク色の髪に、ツインテールでまとめた髪型。バストサイズC。
治癒術師であり、水の神殺しという攻防一体の魔導士。かなり強い。




