第5章12 【十二節・表裏一体】
「ぶすーっとした顔してんなぁ」
「うるせぇ」
不貞腐れた顔の方が近いかな?
馬車に揺られるミイの顔は泣き疲れた子供のような、照れ隠しのような、よく分からない顔をしている。
ちなみに、隣にいるネイは気持ち悪そうにオェェェェェ。
「不思議だな。なぜミイは大丈夫でお前ら2人は乗り物がダメなんだ」
「体の違いなんじゃねえの?これでも、俺の体は6兆年生きてる体だからな」
「学者達が聞いたら、すぐにでも拘束しに来そうな体だな」
「来たらぶっ殺す」
「こ、殺しはダメオロロロロロ」
あ、今度はネイが先に吐いた。物理的に。
「これがもう1人の俺とはなぁ。情けねえ」
「し、仕方ないじゃないですか......。私だって、その体だったら......」
「じゃあ、入れ替えるか?この薄汚い体と」
気にしてたんだな。
ミイの体は、1000年くらいか?放置されているので、ハッキリ言うと臭いし汚い。後で風呂に入れねえとな。嫌がる可能性あるけど、そこはネイに任せておこう。
「まあ、それは後でキレイキレイにしてあげますから」
「......なんか嫌な予感しかしねえ」
「なんなら、今ここでやります?ヴァルの家は狭いですし」
「嫌だよ!なんでこいつらに裸体晒さねえといけねえんだよ!」
いや、そうじゃなくて、あの書庫でやるって意味だろ。
「別に、私の体だから、ヴァルに晒す程度は問題ないんですけど......」
お前はお前で、なんで頬を赤らめてそう言う?俺が変態みたいに聞こえるからやめろ。冗談抜きで。
「仕方ないから、家に着くまでは我慢しますよ」
お前、絶対ヤラシイ事考えてるだろ。
「なあ、俺はいつまでこんな変な会話を聞いてないといけないんだ?というか、俺は帰っていいのか?」
痺れを切らしたクロムがそう言う。
「あー、セリカ達に状況説明するためにも、お前はいてくれ。多分、俺とこいつらじゃまともな説明が出来ないだろうから」
「俺も暇じゃないんだがな」
「暇だから付き合ってんだろ」
「あの祠に立ち入れるのは俺だけだから付き合ってやってるんだ。察しろ」
「俺達を散々色んなところに連れてったツケだと思え。つか、ただの街のギルドに大掛かりな仕事を持ち込みすぎなんだよお前は」
「仕方ないだろ。イーリアスから1番近くで、そこそこ強い奴らが集まってる都合のいい所だったんだから」
「強い奴らか......」
もっと良いところならたくさんあると思うけどなぁ。わざわざ王様に会いに王都に行ってんだから、王都にあるコールドミラーの力を借りればいいのに。まあ、起きた戦いが全部うちの街だったのもあるのだが。
「お前らは強い。そんじょそこらのギルドに比べたら、遥かに強い方だ。確か、龍王祭だったかの大会に出るんだろ?期待してるぞ」
「やっべ。王様に期待された。負けたら洒落になんねえ」
「安心しろ。王様と言っても創真の国王よりも王様年齢は若い」
王様年齢ってなんだ。つか、ネイが会ったことのあるデルシアに1回会ってみたいんだけど。
「デルシアって奴に会えるのか?」
「今、めちゃくちゃ忙しい時期だからな。気になるってだけでは会えないだろう。ただ、顔写真程度ならあるぞ。ほら」
クロムがモノクロの写真を渡してきた。
「白髪美女......だよな?」
モノクロでハッキリとは見えないが、この写りなら白髪だろう。
「ヴァル......」
「あ、お前も白髪美女......っていつの間に」
「ミイと対峙した時からですよ。気づかなかったんですか?」
「気づかんかった......」
だって、あの洞窟薄暗かったんだもん。見えるわけねえじゃん。というか、ミイはいつまでブスっとした顔してんだよ。もう気持ちの整理くらいついただろ。よく分からんけどさ。
「ところでお前ら、酔いはもう大丈夫なのか?」
「「 オェェェェェ 」」
なんで思い出させんだよ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「これで、良しですかね」
髪型を整え、汚くなった服を一新させる。これで、大分女の子らしくなった。幼女に近い体型なのが気がかりだが。
「......こんな可愛い服装望んでねえ。お前みたいに、もっと普通にお洒落に出来なかったのか」
「文句言わないでください。見た目幼女なのに」
「うるせえ、お前が14の時に変なことしてたのがいけねえんだろうが!というか、なんで同じ龍人で歳も同じなのに、こんなに差ができるんだ!」
ミイと私の体を交互に見比べる。なぜかヴァルとクロムも見比べている。
「なんででしょう?」
同じ龍人で、時が止まったと言えど同じ14歳。なぜ、ここまで体格差がついたのか。昔の私は何をしていたのか。よく分からない。
「良いからギルドに行くぞ」
「はぁ!?この格好で!?」
「この格好でだ」
「嫌だっつてんだろうがバカ!こんな格好あいつらに見られたらなんて顔をされるか......」
「これくらい丸くなりましたってことでいいんじゃないですか?むしろ、私は好きです」
「お前の好みなんか聞いてねえんだよ!その服寄越せ!」
「きゃっ、ちょっとやめてくださいぃ!」
ミイが無理やり服を引っぺがそうとしてくる。やめて、服破けて晒し者になっちゃうから。
「どうせ、胸がデカいか小さいかの違いなんだ。俺がその服着ても問題ねえだろうが」
「や、やめてください!」
「おいミイやめとけ。どうせお前の体じゃサイズが合わねえよ」
「ちっ......。今日はこの辺にしといてやる」
悪役の捨て台詞みたいなものを吐いて、ミイが歩き出した。
「おい待てよ。どうせお前も道分かんねえだろうからさ」
「俺をあいつと一緒にすんな。道に迷わねえよ。方向音痴はあいつの特権だ」
「なんですか、その言い分!私だって、本気を出せばーー」
「くどいから行くぞ。お前ら面倒臭い」
クロムに一喝された。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おっスオラヴァル。ただ今よく分かんねえ仕事から戻って来たぞ」
「何よく分かんないこと言ってんの?各方面から怒られるからやめなさい」
夕暮れ時になってヴァルが帰ってきた。横にネイ。後ろにはクロムと......
「......?その子誰?」
背が小さくてよく見えないが、もじもじしているのだけは確認出来る。
「なんだかんだあってーー」
「待って、ヴァル」
何かを口にしかけたヴァルを、ネイが手で制す。
「みんな。改めて言うけど、ごめん」
わちゃわちゃしてたギルドが静かになる。
「みんなにはよく分からないことでたくさん迷惑かけたけど、もう全部終わらせて来たから」
ネイが綺麗に腰を90°に折り曲げて謝る。
「えっと......」
「それで、新しいメンバーを紹介しまふ」
肝心なところで噛んだ。可愛げがあっていいが、そこは噛むべきところじゃない。というか、みんな驚くくらい静かに聞いてるな。そんなに面白い話じゃないと思うけど。
それと、後ろにいる子は誰なんだ?ずっともじもじしてるけど。
「私の裏の心。新しい仲間のミイです」
ネイが横にずれて、後ろにいた子の顔がよく見えるようになる。
ネイと同じ龍人で、ちょっと体格が小さめ。それに、裏の心ってことは......。
「まさか、あいつだって言うんじゃねえだろうな」
私が言うよりも先にヴェルドがそう言う。
「そのあいつです。散々暴れ回ったもう1人の私です」
「冗談じゃねえ。俺はそいつに右足左腕をやられたんだ!」
「あー、それに関しては、また今度埋め合わせしときますから......」
言われるだけでは満足出来なかったのか、ヴェルドがミイ?の元に近寄る。
「お前のせいで俺はなぁ!」
「うるせえよ。腹パン野郎が」
「「「 ゲッ...... 」」」
ヴェルドとミイの出会いは最悪だったであろう。だって、いきなり喧嘩口調で始まったのだから。
「自業自得だと思えこのナルシストが。俺が簡単に頭を下げるとーー」
「あー、すみませんすみません。うちのミイがどうもすみませんでしたァ!」
ヴェルドを見上げる姿勢だったミイの頭をネイが無理矢理下げさせる。
「な、何すんだこのバカ!こんな奴相手に痛てて」
抵抗したミイを更に押さえつける。
「一応、あなたのせいなんですか、、ちゃんと誠心誠意持って謝ってください。というか、そういう約束だったはずでしょ?」
「そんな約束したっけな?」
「シラを切るんじゃねえよ」
ヴァルの拳骨がミイに襲いかかる。
「何しやがんだ!」
「謝るって約束だっただろうが!いつまでその服装に不貞腐れてんだ!」
「もう気にしてねえよバカ!」
どうしよう。割り込む隙がない。抑えられそうなフウロは寝てるし、グリード......にはハナから期待しないし、そもそも酒に酔い潰れてるし、ライオスはいないし。
「なあ、俺もう帰っていいか?」
あ、クロム喋った。
「あ悪ぃな。もう帰っていいぞ」
そう言われて、クロムがそそくさと出て行く。
「なんで残る必要があったんだ?」
そう呟いてるところを見ると、無理やり連れてこられたんだろうなぁと思う。
「んで、結局何が言いたいんだこのガキ共は」
タバコ蒸したままこっちに来るのやめてもらえますか?ネメシスさん。
「俺は事情をよく知らねえから何も分からねえけどよ、とりあえずは新しい仲間が増えるってことだろ?」
「そういう事です。よく分かりましたね」
「いや、今ので分からん方が不思議だろ」
「脳ミソの小さいおじさんには、理解出来ないと思ってたので」
「お前ら似たり寄ったりだな。ちょっとは口の利き方に気を付けろ!」
2人の頭にヴァルの拳骨が......。手加減してるつもりだろうけど、なんか痛そう......。
「とりあえず......みんな座ったら?」
ミラさんが満面の笑みでやって来た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ミラの淹れたコーヒーの湯気が、優雅な雰囲気を醸し出している。
「「 不味い 」」
2人がそんなことを言わなければ、もっと美味しく感じられただろうな。
「そんなこと言ってやるな。ミラちゃんの淹れたコーヒーは最高だろうが」
「黙れ変態」
(ミイって、中々にキツイ子だね)
小声で隣にいるヴァルにそう言う。
「聞こえてるぞセリカ」
「あっ......ははは」
2人して地獄耳とか厄介なコンビだ。心読まれないだけ幾分かはマシだけど、いや、内緒話が聞かれるだけで十分厄介だ。
「後オッサン。その口に咥えたおしゃぶり外せ。煙が邪魔だ」
「へっ、活きのいいガキだな。お前にゃこれの良さが分からねえだろうな。ふぅー」
顔を近づけて、肺に溜め込んだ煙を吐き出す。ここで斬られても、文句は言えまい。
「舐めやがーー」
「ミイ。それはダメ」
ネイがミイの右手を押さえる。
「......」
「それはダメ」
「......ちっ」
裏の心と言うよりも、ただの親子にしか見えない。座ってるだけだと、ネイは普通に大人の背格好に見えるしな。
その点、ミイはネイと比べてしまうからか、随分幼く見える。言動から見ても、ネメシスの言うように、ただのガキだ。
「......なんか今、誰かの心の中で侮辱を受けた気がするんだが、斬っていいか」
「それはダメ」
前に、ネイが心を読むのはやめたとか言ってたが、本当なんだろうか?嘘ついてる気がするのだが、本当に心読むのやめたの?心の中で問いかけて、答えてくるかどうかで確かめよう。
声が、聞こえてますか?
「どうしたんだセリカ。急に目閉じて」
「あ、いや。何でもない」
まあ、こんなくだらないことやる必要無いよね。
なんだかんだあって、ネイは幸せそうにしてるし、もう1つの心であるミイは、なんだかんだで馴染めると思うし、私が口出しするような事じゃないんだろうな。
正月もとっくに終わって......終わって......。
「お正月もう終わってんじゃん!」
「急にどうしたセリカ。どうせ俺達なんて年中休みのようで休みじゃないんだし、どうでもいいだろ」
「正月遊び、全然やってない!」
「「「 えぇ...... 」」」
こうしちゃいられない。まだ正月三が日から1日過ぎた4日。まだまだ猶予はある。
「ネイ、いやミイ。これから行くよ!」
「え、行くってどこにぃぃぃぃぃ!」
どうせなら新しい仲間であるミイを連れていこうと思い、無理矢理引っ張っていく。
「ちょ、え、助け、助けてくれぇぇぇ!」
「頑張ってきてください。ついでに、着物とか着せさせたらどうですか?」
「それいいね。ネイりん。まだ私の正月は終わらない!」
「あ、ちょ、あぁあぁぁあぁ!?」
今年は良い1年になるぞー!
とりあえず、これで第5章前半は終了です。次回、ちょっとした短編を挟んだ後、後半に入ります。




