第1章9 【グランメモリ】
「おりゃ!」
ヴェルド「せい!」
フウロ「ふん!」
迫り来る魔獣、終わりなき獣臭。鼻をツンと刺激してくるこの匂いにも大分慣れたものだ。
この大群を相手に、俺達はよく戦えてる方だ。普通、こんだけキリのない奴らを相手にするとなると、体力だけじゃなく精神が持たねぇからな。
後ろの方ではジンとセラが魔獣の追撃を阻止している。
それにしても相変わらずというか、本当に終わりのない無限湧きだ。これもあいつがやってるのか。
俺はそう思いつつも、炎を前方に吹かせ森の奥の更に奥へと進んで行った。
『シャァッ!』
突然コウモリのような魔獣が上空から攻撃を仕掛けてきた。
「そんなのに当たるかよ、火炎砲!」
俺はそう詠唱し、口から彷徨より威力抑えめの炎の渦を吐き出す。
それは、たちまちコウモリ達の体を包み込み、灰にした。
ヴェルド「どうやら、これは本物らしいな」
灰になったコウモリの残骸を見てヴェルドが言った。
フウロ「極力偽物の魔獣を送り出し、奇襲として本物を送り込むというわけか......」
セラ「いくら、魔獣を作ったとしても、それは偽物に過ぎない。本物の方が強いという訳ですか......」
セラがそう言いながら、フウロの背後に迫っていた魔獣を斬り裂いた。
フウロ「ッ......済まない」
セラ「いえ、後ろは私達が守ります。今は一刻も早くセリカ様を救出せねば」
フウロ「そうだな。ーーヴァル、奴の気配は感じるか?」
「色々な気配がありすぎてどれがどれだか分かんねえよ」
仮にこれってのが見つかったとしても、こんだけ獣の匂いが溢れてたらそれに紛れ込まれる。鼻を頼るのは無理だ。
フウロ「やはり、これだけいればその感覚も鈍くなるか......ヴェルド、魔獣を氷漬けに出来ないのか?」
ヴェルド「やろうとしてんだけど、本物が氷漬けにされた奴をぶっ壊してこっちに来るから意味がねえ」
ヴェルドはそう言いながらも魔獣を氷漬けにしようと試みている。
しかし、残念ながら後ろの魔獣がすぐに突破する。数があるというのはそれだけ戦略に融通が効いていいな。
フウロ「クソ......進みたくても進めない状況か......」
セラ「あの、フウロ様」
フウロ「なんだ?セラ」
セラ「ここは私が引き付けます。ですのでその隙をついて奥まで行ってください」
フウロ「そんな事出来るわけが......」
ねぇな。
俺も心の中でそう思った。
これだけの数だ。10匹程度なら全部引き付けれるだろうが、これだけいれば魔獣達の統率性が無くなる。おまけに人工的に作られた魔獣だ。簡単に引き寄せられるわけがない。
セラ「簡単なことです。こいつらの習性を利用するのです」
「「「 習性? 」」」
さっきも言ったが、こいつらに統率性は無い。習性なんてもんは欠片も存在しねぇと思うが……
セラ「はい、見たところこの魔獣達は守りに徹したり、逃げようとしたりすれば、必要以上に攻撃してきています」
フウロ「なるほど、そんな習性があったのか。しかし、その習性を利用して引き寄せられるのか?」
フウロが問いかけた。
セラ「全部を引きつける必要性はありません。皆さんが進む道を開けることさえできれば良いんです」
フウロ「しかし、お前一人では」
セラ「1人でもやるしかありません。これは、我が主の暴走に気づけなかった私の責任です」
セラが悔しそうな顔をしてそう言う。俺は、背後に迫ってきていた魔獣を殴り飛ばした。
セラ「ですので、私が時間を稼ぎます。その間に皆さんはなんとしてでもセリカ様を救出しに向かってください」
フウロ「ーー分かった」
フウロがそう返事をするとセラは引き返した。
それを見た魔獣のほとんどが、俺達を無視してセラ達の方へと向かっていく。
フウロ「死ぬなよ」
フウロは段々と見えなくなるセラ達の背中に声をかけた。
それを聞いたセラが右手を上げて、軽く手を振った。
フウロ「よし、セラがあそこまでしてくれている。私達はなんとしてでもセリカを救出するぞ」
「「 おう 」」
そして、一行は森の奥に向かって駆け出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ん......」
ここは......屋敷の中……かな?
私は暗闇の中で目を覚ました。
あれ?私どうしちゃったんだろ?確か昨晩......
私はちょっとずつ記憶を辿っていった。
夜中に外から音がして、確かあの群れの中に唯一いた魔獣......いや、動物さんが尋ねてきたんだっけ......あの動物さん、何かを訴えていた気がするけど......
私にはそれより先思い出すことが出来なかった。
《コン、コン、コン》
誰かが部屋の外を歩く音が聞こえる。
だ、誰!?
暗闇でひとりぼっちの中だ。私は思わずかけられていた布団を抱きしめ、扉の向こう側に警戒を移す。
『私だ、エフィ』
誰かが私の脳に直接語りかけてくる。
ーーこの感覚、昨日の動物さんだ。
私はそう感じるや否、声を出さずにはいられなかった。
「どうしたの?こんな時間に」
『君の仲間が戦っている』
「戦っているって......誰と?」
『私達を魔獣にした者とだ』
「魔獣にしたって、どういうこと?」
『ーーそうか、君は何も聞いてないんだったな』
「ーーどういうこと?」
『今回の事件、私達はディランという人間によって強制的に魔獣にされた。私が今こうして普通にいられるのは、君が気づいてくれたのと、私自身の精神が強かったおかげだ』
「ディランさんが真犯人?それに私が気づいたから元に戻れたってどういうこと?」
『それを説明したいとこだが、何せ時間が無い。このままだと彼らは......』
「よく分からないけどとにかく大変な事になってるって訳……ですね」
『そういう事だ。彼らの元へは私が案内する。彼らを救うために来てくれないか?』
「ーーでも、私1人なんかが行ったところで何も変わらない......」
『君一人じゃない。森の中にいる同胞だって君が気づけば私と同じように君の味方になる』
「私に......そんな力は無い」
『君が気づいていないだけだ』
「でも......」
『頼む、君しかいないんだ』
「私......しか......」
『そうだ』
私はその言葉を聞いて昔の忘れていた事を思い出した。
あれは、私が5歳の時。
私は泣き虫で、臆病で、友達なんてものを作れなかった。いや、作ろうとしなかった。
そして、8歳の時、唯一自分を大切にしてくれていた母を失った。
私に出来ることは何も無かった。それは、私がとても弱かったから。
ーーいや、違う。私には何か出来たはずなのに何もしなかっただけだー
私はそう思うと目から涙が出ていた。頬を伝っていき、ぽつりぽつりと零れ落ちて布団を湿らせていく。
『私はあの時、君の母に助けられたんだ。そして、君はこんな所で泣いてる暇はないはずだ』
ーーそうだ、こんな所で怖がってることなんてできない。ヴァルさん達がピンチならそこに駆けつけないと……。
私はそう決心するとドアを開けた。
『乗りたまえ。私が君の仲間のところまで連れていく』
「本当に大丈夫なの?」
『私は、君の母にあの時頼み事をされたんだ』
「お母さんが?」
『あぁ、そうだ。「娘を守ってください。そして強い心を持った子に育ててください」ってな』
「お母さん......」
『君は、確かに強くはないかもしれない。でもここから始めればいい』
そう言うとその動物は私を乗せて走り出した。
「ところで、私、あそこで寝てたけど他のみんなはどうしたの?」
『君は、また森の中で倒れていたんだよ。それを必死になって君の仲間達が助け出して、君はあそこで寝てたんだ』
「何でそんなことに?」
『それは、多分、ディランとかいう奴の仕業だ』
「ディランさんが......」
『あれは、最早生き物ではない。早くせねば君の仲間達がやられてしまう』
「ーーでも、何で私なんかが......」
『それは君が私達と会話ができるからだ』
「話ができるから?」
『そうだ。付け加えて言うならば、君は私達にかけられた呪いを解くことが簡単に出来るからだ』
「そう......なんだ......」
『そろそろ森の入口に着くぞ』
「あの、こんな事聞くのはおかしいと思うけど、名前、なんていうの?」
私は圧倒的に場違いな質問をしてみた。
『「ジン」だ。君の母が付けてくれた名前だよ』
「ジン......さんか、よろしくね」
私は改めて動物改めジンに顔を合わせてそう言った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
セラと別れ、走り出してからそこそこに時間が経つ。
セラが引き寄せてくれたおかげが、さっきまでの騒ぎが嘘だったかのように魔獣が襲って来ない。
「クソっ!ディランの奴どこ行ったんだ」
森の奥地へと到着したが、化け物になったはずのディランが見えてこない。
「やっぱ昨日の場所か......」
ヴェルド「そこ以外考えられねえだろうな」
あの丸い瘴気団がある場所。そこ以外に考えられる場所はない。
フウロ「ーーなぁ、いくらセラが魔獣を引き寄せてくれたからとは言え、いくらなんでも魔獣が1匹もいないのはおかしくないか?」
フウロが来た道を見ながら言う。
ヴェルド「確かに、全部が全部引き寄せられたわけじゃないからな」
ヴェルドも同じ様に来た道を見て言う。
しかし、俺には何故そうなっているのかが勘で分かった。
「んなもん、あえて魔獣を送り出してないだけに決まってるだろ。あいつの前に現れた俺達を一気に落とす作戦なんだろう」
ヴェルド「そう考えると、かなり厄介だな」
フウロ「それに、原理はよく分からんが、奴は『グランメモリ』とかいうアイテムを使って自身を魔獣の姿に変えている」
ヴェルド「簡単にはセリカを助けれるわけがないな」
ヴェルドが髪を掻き回しながら行った。
「ーーこの奥だな」
俺は、森の奥から大きな獣の匂いを感じ取った。
フウロ「何がだ?」
「この奥にディランとセリカの気配を感じる」
フウロ「もう敵の位置は近いというわけか......」
そう言うとフウロは剣を取り出した。
「ッ......フウロ!後ろだ!」
フウロ「ゔぅっ!」
フウロが鈍い声を上げる。
そして、フウロの背中から血が垂れていた。もちろん、この攻撃を仕掛けてきたのは......
ディラン「フッフッフッ。まさか、こんなにも早くここまで来るとはね......」
そこには、屋敷内で見たものよりも遥かに大きくなった魔獣の姿をしたディランが立っていた。
「おい、セリカを返しやがれ!」
ディラン「あの金髪の子ならこの更に奥だ。ただ、そこには誰も近づけさせんがね」
ディランが、魔物ながら気味の悪い笑みを浮かべながら言う。
ディラン「君達には何もすることが出来ず、ただただ仲間が死んでいく様を見てもらうことにするよ......」
ヴェルド「そんな事させる訳ねえだろ!アイスグラウンド!」
ヴェルドがディランを氷漬けにしようと攻撃する。その攻撃は見事に当たった。しかしーー
ディラン「そんな攻撃、喰らったとしても傷一つ付かないよ」
当たったはずなのに、ディランの体には傷どころか氷の破片さえも付いていなかった。
ヴェルド「嘘だろ......」
ヴェルドが落胆の声を上げる。
ディラン「君達はグランメモリの力を理解していないようだね......この力はね、私のようななんの力もない者にとてつもない力を与えてくれるんだ。そう、村どころか国1つ滅ぼせれるほどの力をね」
「国丸ごとだと......?」
ディラン「安心したまえ。君達にはそんなものを見なくていいように、今この場で殺してあげるから」
ディランはそう言うと唇の端を上げてニヤリと笑った。
「そう、易々と殺されるわけねえだろ」
ディラン「さあ?それはどうだろうか......うっ!」
突然、ディランの背中を切った人物がいた。その正体は、不意打ちを喰らったはずのフウロだった。
フウロ「残念だが、私はあのようなもので殺られる玉でないことをお前は理解してあるはずだ。それに、私はお前と正面から堂々とやる気はない」
フウロがディランを見下ろし、剣を首筋に当てて言う。
ディラン「奇襲とは、なかなかなことをしてくれるではないか。しかし、私はそんな攻撃など痛くも痒くもない」
「連獄!」
ヴェルド「アイスクリエイト、アイススピア。とりゃ!」
俺とヴェルドは一斉にディランに向けて攻撃を放った。
ヴェルド「痛くも痒くもないなら、痛いと感じるまで攻撃し続けてやるよ!」
ディラン「フッ良い覚悟だ。果たして、君達は私の攻撃にどこまで耐えれるかな?」
そう言うと、ディランは両腕を広げ何かをばらまいた。
《メキ......》
それは卵のような形をしており、ヒビが入った。
「まさか......」
ディラン「そう、御察しの通りこれは魔獣の卵だ。普通の獣と違うのは、生まれた瞬間から成体として戦えることだ。さぁ、行け、我が下僕達よ」
ディランがそう言うと、卵が一斉に孵化し、魔獣が現れた。
フウロ「随分と気味の悪いものを作るなぁ?ディラン!」
フウロがそう叫びながら魔獣達を斬り裂いていく。
「ここまでするのに丸1年はかかったがね......。たったの1年。だけど、私にとっては非常に長い時間だった」
ディランはそう言うとヴェルドに向けて引っ掻き攻撃をしてきた。
ヴェルド「喰らうかよ!アイスシールド!」
しかし、ヴェルドが作った氷の盾を砕いてディランの攻撃が当たった。
ヴェルド「うぉっ!」
「大丈夫か!?ヴェルド」
俺は炎の息吹を吐いてディランの攻撃を逸らす。
ヴェルド「こんくれぇなんてことはねえ」
逸らしたとは言えど、少しだけ引っ掻かれたのか、ヴェルドの額から血が出ていた。更には体の至る所に擦り傷や打撲の痕ができている。
防いだつもりでもこれか。たった一撃でここまでかよ……。
ディランは魔獣を召喚するだけでなく、自身の攻撃によってもこちらに大ダメージを与えてくる。
どうやって突破すればいいんだ?ー
俺がそう考えている間も、ディランの攻撃は止まらない。魔獣達も次々と生まれていってる。
「魔獣さえ居なければ、こんな奴すぐに倒せれるって言うのによォ!」
俺は空に向かって叫んでいた。
「魔獣さえ居なければ良いんですよね?」
その叫びに答えるかのように誰かが言った。
ーーそれはたくさんの獣を連れたエフィだった。
言語紹介
マナ:魔法を使う時に消費するエネルギーのようなもの。空気中に漂っており、魔法の扱いに長けた者ほど体内に取り入れるのが早くなる。ただし、瘴気団のように汚染され、人体に悪影響を及ぼす事もある
次回予告
第1章10 【グランメモリ】




