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僕には視える  作者: sn0w
1/1

ある少女の苦悩


私立江陽学園


可もなく不可もなく、いたって普通の高校だ。


僕もそんな学校に通うなんてことはないただの高校生。

強いて言うならば僕には視えるということだ。

霊ではない。僕に視えるのは、、、、



「翔、今度は彼女を見てやってくれよ!」

そう言ってきたのは中学から付き合いのある橘だ。

隣にいるのは同じクラスの柊真奈さんか



「橘いい加減にしてくれ。出席番号からすると今日高橋から当てられるのは僕なんだ。予習しておかないと面倒くさいことになる。」

僕はジェスチャーであっちに行けと手を扇ぎながら応えた。



「そんなの俺が教えてやるよ。席も前だし。そんなことより早く彼女を占ってやってくれよ。」

食い下がる橘。イケメンがどんどんこちらに顔を寄せてくる。やめてくれ。



「ごめんね神崎くん。でも神崎くんの占い当たるって評判だから。お願いできないかな?」

そんなに真面目な顔をされると断りづらい。



「はぁ、わかったよ。ただしあくまで占いは占いだからね。いい?」



「うん!もちろん!ありがとう神崎くん!」

その笑顔があるなら占いに頼る必要はないんじゃないだろうか。


彼女の手のひらを差し出すように促す。

側から見れば手相を見てるように見えるだろう。

だがそれは違う。

僕が観ているのは指の先。

"小指の先"だ。

そこから伸びているのは細く赤い糸。

僕は彼女の小指を観察しているように見せながら自分の指先に感覚を集中させる。

触れた。

静電気のような感覚が指から体に伝わり、瞬間、隣町の高校のバスケで有名な男子の顔が浮かんだ。


「どう?神崎くん?」


柊さんが神妙な顔で僕を見つめる。


ふぅ。と一息つき、


「ちなみに好きな人ってあの有名な藤田くん?」


「う、うん!すごい!よくわかったね!」


「そっか。うん。大丈夫。きっとうまくいくよ。」


僕は少し微笑んで彼女に応援の言葉を送った。


嬉しそうな顔をして良かったぁ〜。ありがとう!

と感謝の気持ちを表して自分の席に戻っていく彼女に小さく手を振りながら僕は橘を恨めしげに見つめた。


「そんな顔すんなって。悩んでたみたいだから背中を押してあげたかったんだよ。昼飯奢るから許してくれよ。」

申し訳なさそうな顔をする橘をみて、僕はしょうがないなという気持ちになった。

こいつのこの素直なところが憎めない要素なのだろうなと思いつつ僕は悲しい知らせを橘に伝えた。


「付き合えるとは思うけど、もって3ヵ月ってところじゃないかな。」


「マジかよ。」


「たぶんね。たぶん。」

この見立てを崩された事は無い。

ほぼ間違いなく2人は別れるだろう。


いつからだろうか。僕にはいわゆる運命の赤い糸というものが見えるようになった。

運命とはいうが実際には違う。

果実をイメージしてもらうと分かりやすいが、相手がいないとそもそも見えず、相手が見つかると最初は桜色、相手との距離が近づくに比例してその色は赤味を帯びてくる。


そして真っ赤になったその時は2人が結びつく時期が来たことを意味している。


じゃあ一目惚れはどうなるかというと、いきなり真っ赤だ。これは変わらない。


結ばれた後にその糸が腐ったりんごのような色になってくるに従って終わりが近いことを示している。


すると当然の疑問として、ならば運命とはなんぞや。

という事になるがそんな事は僕もわからない。


理屈を考えても答えは出ないので運命とは偶然の一致とかそういうありきたりな理解で僕はいる。


糸の見方として他には太さがある。


これは心の結びつきが強いほど太いものになる。

桜色の太い糸があったりするがこれは友情などの時点ですでに強い結びつきがあるということだ。


これが僕が柊さんと藤田くんが別れるのではないかと

思った理由だ。友情の時点で細い結びつきが恋人になることによって太くなるのはなかなかない。

僕の経験では3割ぐらいだろう。


それにしてもあの糸に何か違和感を感じたのだが何だったのか。

ジュクジュクというような鼓動を打っているようなあの感じ。


「い・・・・おい・・・・・お〜い翔さんよ〜。」



橘の呼びかける声が僕の意識を引き戻した。


「あぁ、ごめん。なんだっけ?」


「最近ますますお前暗いぞ?大丈夫か?」


この力を使うと否が応でもあの時のことを思い出す。

僕がこの力を使い、ある人たちの仲を引き裂いたあのことを。



---




あっと言う間に放課後になり、サッカー部部室に向かう橘と途中まで談笑して僕は下駄箱にたどり着いた。

かばんを置いて取手に手をかけた時、その声はかけられた。


「あなた、不思議な力を持っているでしょ。」


上履きの青いラインを見て僕はその声の持ち主が上級生であることを示している。


「僕に言ってます?」

一応確認する。


「もちろん。あなたの占いが良く当たるということを聞いてここ数週間ストーキングしたわ。」

ここまではっきり言われると逆に清々しい。


「そこで気づいた事はあなたは恋占いしかしない事。

そしてなかなか依頼を引き受けないこと。」

「占いをした後にいつも曇った表情をすること。好物は豚骨ラーメンだという事と前髪ぱっつんの黒髪ストレートロングの子を見る時間はその他の女子を見る時間より2秒長いということよ!」


人の性癖をどさくさに紛れて言うのやめて。


「そして私は結論に至ったわ。あなたは恋愛関連の力を持っていて、しかも干渉が可能。そしてそこに何かトラウマを持っている!」


「えっと・・・・あなたは?」


「ん?そういえば名乗ってなかったね。ごめん。私は戸松星奈。新聞部の部長を務めてるの。

この学校は退屈なほど平和だからネタ探しにも迷っていた時に君の噂でしょ?これしかないって思ったの!」


そう言ってくるりと一回転してスカートをひらめかせながら彼女は微笑んだ。

一回転する意味は?などの疑問はその一瞬の画の美しさの前に風に吹かれたように消えていった。


「トラウマなんて、、、ありませんよ。」


答えなくとも良かったが、彼女はしつこそうだし、答えておいたほうが結局は早く済みそうなのでこの会話に付き合うことにした。


「じゃあなんで占いを断るの?受けてあげたほうがあなたの印象はよくなるし、外したとしてもあんなに念をおしていればあなたを恨む人なんていないと思うけど。」


少し首を傾げながら僕に尋ねてくる。


「そうでもないですよ。人なんて勝手なものですから、自分に都合のいいことだけ覚えていて、相手に責任を押し付けるなんてざらにあります。この間も気をつけないと別れる可能性があるって忠告したのにパートナーに気を遣わずに別れて、そのくせその責任を僕に押し付けてきた人がいましたよ。」


めんどくさい男を演出するためにわざとらしくため息をつく。


「ひどい人がいるんだね。でも大丈夫!私は紳士な取材を心掛けているから!あなたにまずいことは伏せるから!だから、ね?」


食い下がってくる。たしかに星奈先輩の立場からしたらこんなに面白そうなネタはない。


「はあ。分かりました。取材を許可します。ただし、僕から情報は与えません。先輩が勝手に僕を取材することを許可するってことで。」


もっともらしい理由で断ることもできたのに、僕はこう答えていた。

僕の粗雑な答え方にも先輩は目を輝かせて応えた。


「わかったよ!ありがとう!!」


眩しい笑顔に夕暮れの光が後ろから差し込み天が彼女の美しさを魅せるために演出しているのかと思ったほどだった。




---




それからは先輩の徹底的な取材という名のストーキングが始まった。

先輩曰く

「自然な生活の中にこそ真の人物像が見える!」とのことだ。

許可を与える前と後ではモチベーションが違ってくるらしい。


僕といえば橘にそそのかされて占いを週1,2で行う日々だった。

体力的には疲れないのだが、人の行方を覗き見るので、精神的に疲れてしまう。


星奈先輩が声をかけてきたのは屋上で僕が昼食の焼きそばパンを食べ終わり、横になりながら流れる雲を見上げていた時だった。


「よっ。立ち入り禁止の屋上で一人昼食だなんて主人公だねぇ。」


先輩が僕の頭の方向から近付いてくるのがわかる。


「ならそんな主人公に会いに来る先輩はヒロインってことになるけどいいんですか?」


先輩この位置だと見えそうです。


「あれ?もしかして私いま口説かれてる?」


「そういうことになります?」


「ならないかなあ?」


「ならないですよ。」


「んか」


見えた。


「先輩モテるらしいじゃないですか?」


「ん?」


「友人に聞いてみたら有名だって教えてくれましたよ。」

「なんでもどっかのプロダクションからスカウトされたり、2週間に1回は告白されたりするそうじゃないですか?」


「噂ってすごいよね。いくらなんでも2週間に1回はないって思うでしょ普通。」


頻度が違うぐらいか。


「まあみんな全部が全部真実だとはおもってないとは思いますけどね。」

「あ、変人としても有名ですよ。」


「・・・・・・・/////」


「照れどころがわからない。」


「そんなことより占ってほしい人がいるんだ。」


「誰ですか?」


「わ・た・し(*´з`)」


「なんだこの人」

先輩に対して辛辣になってしまった。


「ごめんごめん。いやさ、やっぱり自身で体験してみるのが一番手っ取り早いんじゃないかな~って。」

頭を少し掻きながら先輩は僕に言った。


「いいですよ。僕も先輩がどんな人と結ばれるのか興味がありますし。」

外見は可愛いんだよなぁ。外見は。


「そう言われると怖くなってきたな。」


「やめます?」


「そういわれるとやりたくなっちゃうのが人の性。」


「はいはい。手のひら出してください。」


「はーい。」

そういいつつ手を差し出す先輩。

その手を自分の手に重ねると少し湿っぽいのがわかった。


「緊張してます?」


「まあね。手汗恥ずかしいごめんね。」


「いいですよ。何かやる前に話でもしましょうか。緊張してると見えにくかったりするんで。」


「頼む。」


僕の嘘の理由に先輩は気づいているのかいないのか。僕の話を促した。


「先輩も気づいてらっしゃるように、僕にはいわゆる運命の赤い糸が見えます。人間だけでなく、動物もです。」

「ただし実際にはその時その時につながる薄っぺらいもので、最初からつながれた糸の相手とずっと繋がっていられた相手を僕は見たことがありません。」


「・・・・・。」

とうに先輩の手汗は引いていたが、構わずに僕は続ける。


「この力を手に入れて間もない時、自分の力がどこまでできるのだろう。って試したことがありました。

少しほつれさせたり、引っ張ってみたり、束ねてみたり、それぞれで少し違いがあって面白かったです。

でも子供の好奇心って時にどんな想いより邪悪で。いえ、僕自身が最低な人間だった。」

「試さずにはいられなくなってしまったんです。」


「-------------------赤い糸を切断したらどうなるか-----------------」


「結果はわかりきっていました。わかりきっていたのにしてしまった。」

「プツン。って。」

「切れたんです。あの音。自然に切れた音とは違うあの音。」

「今も耳にこびりついて離れない。あの音で目を覚ました朝はひどい気持ちになります。」


風が二人の間を流れた。


「両親でした。仲がいいって近所では評判だったみたいです。太い糸で繋がっていて、別に特別裕福な家庭ではなかったけど、すごく幸せだったと思います。」

「そのあとは悲惨でした。太い糸であればあるほど切断した影響が強く出るというのはその時初めて知りました。」

「父と母は些細な事で喧嘩するようになって、毎晩言い争い、次第に食卓での会話も無くなっていきました。」

「ついには父が暴力を振るうようになり、とうとう離婚。ぼくは母親についていく形で終わりました。」


「母が夜になると一人リビングですすり泣いている声が聞こえるんですその度に自分が犯してしまった罪を忘れてはいけないと思います。」

「占いをしたくないのはできるだけその罪から逃げたいからです。学校にいるときにもこの意識のなかにいたら、きっとおかしくなってしまうから。」


随分長くかかってしまった罪の告白を先輩はどう思っただろうか。

先輩の表情を見ることが怖い僕は、僕の手のひらに置かれた彼女の手を見つめていた。


彼女の手が僕の手をぎゅっと握ってきた。


「うん。わかった。ありがとうね。話してくれて。」

そういって彼女はもう片方の手を僕の手の下に添えた。

「私もこういうことしてるからさ。好奇心で人を傷つけて、その度に何やってんだって反省する。」

「そんな私に比べたら全然ましだよ。過去は変えられないけどさ。そんな過去があるから今の優しい君につながってると思うし。」

「まあ、その、あれだ。元気出せ!!」

「私でよければいつだって取材という名の話し相手になってあげるから!!」


そう言って朗らかな笑顔を彼女は僕に見せてくれた。



---



昼食の時間が終わってしまい、先輩の糸を見損ねてしまった僕はまた今度占うという約束をしてそれぞれの教室に戻った。


午後の授業を終えて、放課後のHRが終わり、みんながそれぞれ動き出す中で1つの女子グループの会話が耳に入ってきた。


「日曜日デートしてたでしょ。すごい仲よさそうだった。上手くいってるんだね!」


「どこ行ったの?」


「映画見に行ってそのあとは感想言い合いながらご飯食べたよ。」


というような会話が繰り広げられていた。


上手くいってるんだ。

1か月と少し経ったな。と僕はぼんやりグループを眺めていた。


この時もう少し注意しておけば。いや、最初に彼女を視たときから注意しておけば、彼女が苦しむことにはならなかったかもしれない。



---


柊さんが休みがちになったのは藤田君と付き合って2か月目に入った頃だった。

久しぶりに登校してきた彼女に周りのみんなが話しかけても彼女は曖昧な返事でごまかしているように見えた。


「翔。柊さん元気なさそうだよな。なんかあったのかな?」


「ああ。そうだな・・・。」


嫌な予感がした。思い出したのは最初に彼女を視た時の感覚だった。

あの違和感。もしかしたら僕はまたとんでもないことをしてしまったのではないか。

だとしたら何とかしなくては。手遅れになる前に・・・。



先輩に協力をお願いしたのはその日のお昼だった。


「その柊さんって人をストーキングすればいいんだね!?」


「言い方。先輩言い方。」


少なくとも柊さんはみんなにそれを知られたくないようにしている。

学校でボロをみせるとは思えない。

ならば多少強引かもしれないけど、油断するであろう下校時、在宅時になんとか機を窺うしかない。


そのためにはそういったことに慣れてるであろう先輩に協力を仰ぐのがよいと考えたのだ。


「お返しは必ずします。どうかお願いできませんでしょうか。」


「いいよ!面白そう!!」


二つ返事で快諾してくれた先輩に感謝して、僕たちは早速柊さんをストーキングもとい調査することにした。


柊さんは帰り道を寄り道もせず帰っていく。


「すごいなぁ。私ならクレープ、たい焼き、たこ焼き、焼きそば、コロッケ買い食いしちゃう。」


「食べ過ぎです。」


「今度一緒に食べる?」


「考えておきます。」


緊張感のない会話をしながらも目線は彼女からそらさずに適度な距離を保ちつつ彼女を尾行する。

特に異変はないが、しばしば携帯を手にしているのが見受けられる。


「女子はそんなに携帯でする用事があるんですか。」


「女子の半分以上は携帯で構成されてるからね。」


「ふーん。」


「響かなかった?」


「うん。勉強になります。」


「こいつ~。」


とうとう家の前に彼女が到着したとき門前に藤田くんがいた。

なにか話した後二人で彼女の家に入っていった。


「なに話してたんでしょう?」

視線を柊さんの家に向けたまま先輩に問いかける。

「さあ?でもいちゃついてるような感じではなかったよね。」

先輩もまた質問に答えながら、視線は家の方向に向けたままだ。


「家の中でイチャイチャするんじゃないですか?」


「そういうもんなの?」


「え?」


「え?」

2人で顔を見合わせてお楽しみお互いの世間知らずを確認し合った。




---





その後数日間尾行を続けたが、初日とほとんど行動に変化は見受けられなかった。

それに反比例して柊さんの表情が段々と曇っていくのが余計に僕を焦らせた。


「え!?携帯を盗み出す!?」

先輩の素っ頓狂な声が響いた。


「しっ!声が大きいですよ!」


それは先輩を昼食に誘い、作戦会議の始まりとともに僕が持ち掛けた提案だった。

「ごめんごめん。でもまたどうして?」

手をかざしてごめんのポーズをとりながら口元にサンドイッチを運びつつ、先輩が尋ねる。


「ここ数日目立った行動は見受けられませんでした。ただ一つを除いては。」

唐揚げ弁当の漬物に手をつけつつ答えた。


「携帯・・・か・・・。」


「はい。あからさまに携帯を見る回数が学校内でも増えています。そのくせ、彼女の友達には何でもないと言っているようです。」

だし巻き卵に手を付けて続ける。

「携帯にヒントがあるのは明白。幸い明日の女子の体育の授業は水泳です。いくらなんでもプールに携帯は持ち込めないでしょう。そこで女子更衣室に忍び込んで情報を盗み見します。」

言い終わるときんぴらごぼうにゆっくりと箸をすすめた。


「いや~。さすがにまずいんじゃ。」


「ええ。だから先輩にお願いしたいんです。」

唐揚げにマヨネーズをかけながら話す。


「え。」


「先輩は一応女の子ですから。最悪ばれても何とかなると思います。(変人だし)」


「失礼な奴だな君は。」


「問題は携帯のパスワードですが。」


「それなら推測できるよ。」

先輩がサンドイッチを食べ終わり、ストレートティーのボトルキャップを開けながら話した。


「え。」

今度はこちらが呆けた声を上げる。


「大体そうじゃないかなぁー。ってのは全校生徒分あるから。」


「こわ。」

素直に怖い。


「そのおかげで調べられるんだから感謝しなさい。」

喉を潤した先輩がこちらの唐揚げをつまんで口内に収めた。


「ああ!!」


「前金いただきました。」


「楽しみにとっておいたのに!」


「うまかー。」

というわかりにくい返事で、これまた協力を快諾してくれた。




---



作戦当日。といっても僕が何かするわけではない。

僕がすることといえば先輩から送られてくる緊急の対応。もしくは作戦完了のメールを待つぐらいだ。

そのためジャージには携帯を忍ばせてはいるが、まぁ調査には絶対の自信を持つ先輩のことだ。

僕の力がなくても大丈夫だろう。


pppppppppp


メールだ!何かあったのかと自分の携帯をチェックする。


差出人:先輩

件名:やばい!!


やばい!!やばすぎる!!

ここすっごいいい匂いする!たまらん!!(*'ω'*)


ため息をつき、返信する。


宛先:先輩

件名:あなたいつもそこで着替えてるでしょ。



送信。めんどくさいから件名で返事してしまった。




即返信がきた。女子高生のメール返信速度すごい。


差出人:先輩

件名:てへぺろ


そうなんだけどやべーよ。まじフローラル。

今ビニル袋ぶん回して空気閉じ込めてるから後でかがせてあげるね。お土産。




・・・・・・。





差出人:先輩

件名:ぐへへ


今ちょっと悩んだでしょ?(´艸`*)



この女っ!



宛先:先輩

件名:いいですから


早く携帯チェックしてください。



送信。即返信。


差出人:先輩

件名:りょーかい!


肝座ってるよなーと感心した後、3分ほどして再びメール。


差出人:先輩

件名:やばい!


女の子かえてきた?!どしてなして!?

神崎先輩たすけて!!おにゃのこたちここから出して!!


「バカなことやってるからー!!」

そういいながら上の階にある女子更衣室に急ぐ。



到着。即、中にいる女子に叫ぶ。

「女子!窓の隙間からでっかいゴキブリ入っていったぞ!!」


キャーーーー!!と中から水着姿の女子が9,10人くらい出てきた。入れ替わるように中に入る。


「先輩!?」

扉が閉まるのを確認してら声をかける。

返事はない。すべてのロッカーをチェックするにはさすがに時間がかかり外の女子に怪しまれる。


「神崎君どうー?」


女子の声がする。


「まって。あと少し!」


開けるのは躊躇してしまうため。ノックして声をかけていく。


「まだー?」


さすがに限界だ。先輩。すみません・・・・。



女子更衣室から出た僕はさもゴキブリを包んだかのように丸めた大きさのティッシュを両手に持ちながら、

「結構手ごわかったよ。」

そう言ってその場を後にした。


後ろからはすごーい!男の中の男!などの称賛?の声があがる。



どうしよう。そう考えながら下の階に下がったところでメールが来た。


差出人:先輩

件名:ありがとう!


おかげさまで脱出成功!ついでに任務も完了。


いつの間に!?


宛先:先輩

件名:どうやって


僕がチェックしたときは反応なくて他のロッカーにいるのかと思いました。


返信。


差出人:先輩

件名:男の中の男


あれわたし。

神崎君が叫んでみんなが出て行ったタイミングで私もみんなに紛れて出て行ったの。

言ってなかったけど万が一のことを考えて私も水着着てゴーグルつけて探ってたからうまいこと

ばれなかったよー。助かった。ありがとね。



なるほど。


宛先:先輩

件名:すみません


色々ご迷惑をお掛けして。



差出人:先輩

件名:いいよいいよー


私の携帯で見れるようにしたから放課後新聞部の部室で確認しよ。


先輩に感謝しながら放課後を待つことになった。




---




放課後確認した携帯のメールの内容は藤田君が柊さんの行動一つ一つを監視し彼女の行動を縛るような

内容だった。


「どうせこんなろくでもない内容だろうなとは思ってたけど、予想以上のひどさだね。」

先輩がいつにもない真面目な表情で言う。


「早くしないと最悪の結末になる。」

決意をする。

「先輩。ありがとうございました。あとは僕がやります。」


「どうする気?」

真剣な瞳はその整った顔を強調させる。


「糸を切ります。」


「できるの?ううん。大丈夫なの?」

先輩が訊いてくる。先輩が訊きたいのが糸を切ったあとに起こりうる問題のことだと僕にはすぐわかった。


「大丈夫です。おそらくとしか言えませんが。少なくとも目の前にある危機を何とかしなければその先はありません。」

先輩が見つめ返して答える。


「そう。わかった。乗り掛かった舟だし、私も最後まで付き合うよ!」

いい人なんだよな。変人だけど。


「いえ。大丈夫です。記事にされたらかなわないですし。」

冗談めかして言った。先輩は十分頑張ってくれた。これ以上甘えるわけにもいかないし、何より先輩の身にも危険が及ぶ。

「来週藤田君に話してみます。」

嘘だ。なるべく早く藤田君とは話さなければならない。僕は明日にでもすることを決めた。


「・・・・・・。そう。わかった。」

先輩はしばしの沈黙の後に納得してくれた。


すべては明日決まる。



---



「藤田君。今日放課後2人だけで話せないかな?」

登校してすぐに彼に会いに行き、話しかけた。


「いいけど。ここじゃダメなのかな?」

いぶかしむ彼に僕は答える。


「柊さんのことで話がしたいんだ。他の人はいない方がいい。」

藤田君の眉がピクリと動く。


「ふーん。いいよ。校舎裏でいい?」

校舎裏そこなら人目につかないし、声もブラスバンド部の部室が近いし周りの音に消されてかなり大きな声でも聞こえないだろう。

「構わないよ。ありがとう。」


おそらくこの後柊さんは問いただされるだろうけど本人に覚えはないので問題はないだろう。


それより問題はどうやって彼を説得するかだ。

今まで培ってきた外面の良さを出すときが来た。

授業はごくごく通常通りに終わりついにその時が来た。


どうやら僕は先についてしまったようで、しばらく彼を待っていた。

日はまだ頭上近くにあり、やけにあつく、これから起こることへの不安を掻き立てた。


5分後ぐらいだろうか。藤田君が柊さんを連れてやって来た。

「話って何だい?」


「2人だけでって言ったはずだけど。」


「彼女の話だって聞いたから連れてきた方が話がスムーズかなって思ってさ。」

まずいな。これはまずい。だがこれ以上は柊さんがもたないだろう。


「単刀直入にいうよ。柊さんに過度に干渉してるよね。」


「なにをいってるんだ?」


「証拠はある柊さんの携帯を見た。機会があってね。あれは恋人だとしても過剰すぎる。君も日々疲れていく柊さんを見てきただろう?」


「君に言われる筋合いはないよ。仮にそうだとしても、真奈は嫌がってない。成立しているんだ僕たちの関係は。」

柊さんを見ると彼女が下をうつむいて震えているのがわかった。


「彼女に告白させる後押しを結果的にしてしまった責任がある。それにあの内容が正常なら世の中の大体は正常になってしまうよ。」

そういいつつまともに説得できてない自分に気づく。

「何とかできないものかな?別れろって言ってるわけじゃないんだ。抑えられないかな?」


「神崎君。愛にはいろんな形があるんだよ。与えるのも愛だし、奪うのも愛。傷つけるのが愛ならいやすのも愛なんだ。僕のこれもまた愛なんだよ。真奈もぼくに愛されたいと思ってる。」

・・・・駄目だ。話が通じるタイプじゃない。


「・・・・。わかった。なら僕の愛も受け取ってくれるね?」

「なに・・・・?」


ためらいはない。僕は手でチョキの形を作りゆっくりと彼の指から流れるその糸を切断した。

プツン と、本当に久しぶりに運命が切れる音が聞こえた。


「うっ!」

うずくまる藤田君。あの時もそうだった。あの時は少しして2人とも立ち上がり、その後仲が険悪になっていった。だが今回もそうだという確証はない。何分例が少なすぎるのだ。(だからといって多く経験したいものではないが)僕は念のために柊さんを自分のもとに移動させる。


しばらくして立ち上がる藤田君と柊さん。柊さんは先ほどと変わらない様子だ。おそらく糸を切断する前に藤田君への想いが弱々しくなっていたから影響も少なかったのだろう。

対して藤田君は柊さんを視界に入れた瞬間。


「真奈あああああ!!僕を裏切ったなああああ!!」

そう叫びながら懐から取り出したカッターナイフを持ち襲い掛かってくる。

その想いが強すぎた分反転の影響が強いのか!


「危ない!!」

僕はとっさに柊さんの前に出る。


「邪魔するなあああああ!!」

そのまま突進してくる。

僕は上手いこといなそうとするが恐怖からか身体がうまく動かない。


「いっっ!!」

何とか左手が彼のカッターナイフを持つ両手に触れたが力が不十分だったのか、シュッと音がして僕の左腕から血が流れた。


「邪魔するからだあああああ!!」

再び振りかざしてくるカッターを持つ腕を両手でつかむことに成功はしたがお互いに態勢を崩しマウントを取られてしまう。上から力任せに降りてくるカッターが徐々に近づいてくる。

もうダメか・・・・。そう思ったときだ。


「藤田!何やってるんだ!!」

体育教師の岡野が藤田君を羽交い締めにし、担任の浅倉がカッターを取り上げたのだ。


「やめろおおおおはなせええええええええ!!」

助かった・・・・。藤田君の叫ぶ姿を倒れたまま見上げながら一体誰が先生を呼んだのか腕から流れる血を眺めながら思った。


「良かったぁぁぁぁx。間に合ったぁぁぁ。」

先生たちのしばらく後に来たのは先輩だった。


「なんで・・・・?」

僕は疑問をそのままつぶやいた。


「ん?だって神崎君が来週までこの問題を解決しないまま待てると思わなかったし。場所だって藤田君の気持ちになれば、自分の大大好きな柊さんに関係ある話を男からされるようなら万が一のことを考えてばれにくい場所にするかなーって思ったから。そういった場所は予め把握しているんだ。日頃の行いがよかったね!!」

ふんす!と先輩は胸を張る。


「それは違うと思います。」

フッっと思わず笑ってしまった僕は安心したのか、途端に眠くなってしまった・・・。先輩がぼやけていく・・・。


「神崎君!神崎君っ!!」

先輩の声が遠くなっていくのを感じながら意識が途絶えた。


---



目が覚めたら僕は病院のベッドにいた。

目が覚めた僕を迎えてくれたのは警察だった。事件について事情聴取され、彼を許してほしい旨を伝えた。

保護観察処分が妥当なのではないかとは彼の弁護士の言葉だ。彼に元からそういった気質があったとはいえ、あんなことをさせてしまって申し訳ない気持ちになったが、同時に藤田君、柊さん共に最悪の形を避けられたことに安堵した。切断の影響も時間の経過とともに他の誰かとの糸の交わりで薄まっていくはずだし、あとは大人の方々に任せることにした。


落ち着いたころには先輩と柊さんがお見舞いに来てくれて、藤田君が転校したことを知った。


「ほんとによかったよ。いくらなんでも神崎君の死亡を記事にしたくはないからねー。」

先輩が僕のベッドに腰掛けながら話す。


「大げさですよ。出血が少し多かっただけで今だってほぼ治癒してるのに母が念のためって言って入院させられてるだけなんですから。


「あの、今回は本当にごめんなさい。私のせいで神崎君がこんなことになって。」

申し訳なさそうに柊さんが頭を下げる。


「いや、気にしないで。僕の方こそごめん。やっぱり占いなんてしなければよかったね。」


「そんなことはないです。私が無理にお願いしたんですから。」

柊さんが顔を横に振り答える。


「そうだよ。占いをしなくても、あのままいったら柊さんがどうにかなっちゃってただろうし、神崎君の判断は間違ってなかったと思うよ。タイミングは悪かったかもだけど。」

先輩もフォローしてくれる。どうでもいいけどお尻が足に当たってます。本当にどうでもいいけど。


「すいません。気持ちだけがあせってしまって。」


「ううん。君の過去ならしょうがないよ。」

先輩が優しい目で僕を見てくる。


「どういうことですか?」

首をかしげて訊いてくる柊さん。


「なんでもないよ。勝手かもしれないけど柊さんが無事で本当によかった。ありがとう。」

上半身を上げた状態で僕は柊さんを見つめた。


「い、いえ・・・・・神崎君のおかげです・・・/////」

顔が紅潮する柊さん。


「お、なんだこの雰囲気。」

そういいながら、先輩が僕と柊さんに交互に視線を送る。


「とにかく来週には学校に行くよ。悪いけど登校したらノート見せてくれないかな?」

柊さんは快く了承してくれた。



---



登校したら大騒ぎだった。どうやら僕は学校内で一躍有名人になっていたようで、どうやって柊さんを守ったのかクラス内のみならずいろんな人から尋ねられたが、面倒だったし、柊さんにも何か悪い気がして、必死だったからあんまり覚えてないと答えた。


昼食時にもそれが続きそうだったので僕は避難も含めて屋上に向かう階段に腰掛けながら焼きそばパンをほおばっていた。


「もっと景色いいところで食べようよ。」

そういって先輩が僕を横切って屋上のカギを開ける。


「なんでそんなもの持っているんですか?」


「んふふー知りたい??」

口を3を横にしたような(オメガだったろうか)形にして僕に問いかける。


「いえ、いいです。」

面倒なのは間に合っている。ぼくは先輩についていく形で屋上に上がる。

屋上には爽やかな風が吹いており、鬱屈した気持ちが晴れていった。


「いいでしょー。私のお気に入りの場所なんだ!」

クルっと振り返りながら僕に話しかける先輩。


「そうですね。すごくいいです。」

素直な気持ちを伝える。


「あなたが・・・・初めて、だよ?」

もじもじさせながら視線を送ってくる。


「意味深な感じやめなさい。」

何気ない会話をした後先輩が僕にきいた。


「ねえ。新聞部に入らない?」


「え?」


「君とは馬が合うし、知り合ってからなんだかすごく楽しいんだ~。だからもっと一緒にいたいなって・・・。これほんとの気持ち。どう?」

優しい微笑みで僕を見つめてくる先輩。卑怯だな。と思いつつ僕は答える。


「はい。僕も、先輩と一緒にいたいです。」

まるで告白みたいだ。


「まるで告白みたいだね。」

同じことを・・・。


「と、とにかくこれからよろしくお願いします。」

頭を下げる。


「こちらこそ。仲間の証として君には屋上のカギを進呈しよう!」

カギをこっちに投げてきた。


「えっ。いいんですか。」


「大丈夫。それ合いカギだから。」

複製してやがる。


「大丈夫じゃないと思いますが。ありがたく使わせていただきます。」

ポケットに入れて先輩のいる柵の方に歩み寄る。


「それなら私も欲しいです!」

聞きなれた声に振りかえると、そこには柊さんがいた。


「なんでこんなところに。」


「気になってついてきちゃいました。ごめんなさい。先輩、私も新聞部に入ります。駄目でしょうか?」

先輩に視線を送る。


「うむ。可愛いからおっけー!!」

もう一本カギをポケットから取り出し柊さんに投げる先輩。あんた何本持ってんだ。


部員がポンポン増えた先輩は嬉しそうにホクホク顔だ。


「でもまたどうして新聞部に?」

僕が尋ねる。


「それは・・・あはは。」

柊さんは僕をちらっと見ながらはにかむ。なんだなんだ。


これから騒がしくなりそうだなと思っているとチャイムがなった。


「あっ。そういえば神崎君、橘君があなたを探してたよ。なんかまた占ってほしい人がいるんだって。」

またか。


「はぁ。ちゃんと断るよ。すいません先輩また放課後。」

「先輩お先に失礼します。」


「うむ。またの。」


階段を下りながら、僕はこの力とどう向き合っていけばいいのか考えていた。今はまだどうするべきなのかはわからないが、これからの出会いで僕は僕の力を正しく付き合っていければいいと、そう、思った。












---




二羽の鳥が身を寄せ合っている。夫婦だろうか。仲睦まじそうに見える。

それを眺めていたフードを被った少女はおもむろに手でハサミの形をつくりその指を閉じる。

プツン。と音がした。鳥たちがお互いに相反する方向へ飛びだっていく。


すぐさま少女は両手で何かを持つ動作の後、結ぶ動作をした。

するとどうだろう。再び鳥たちは仲睦まじく身を寄せあう。


「やっぱりそっか。うん。実験は成功ってとこかな・・・。」

少女はスッとフードを脱ぐ。

ツインテールの髪が風になびく。


「これから面白いことになりそう。」

そう呟いて、少女は空を見上げた。



初めて書いたので至らない点が多々あるかとはおもいますが暇つぶしにでも読んでいただけたなら幸いです。

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