第8話 嵐を阻む者
攻撃をキャンセルされ、怯んでいたレオハウンドが勢いよく起き上がる。
ターゲットを謎の人物に変更すると、両肩のガトリングを連射を開始する。毎分6000発もの弾丸が降り注ぐ。
〝ちぃ、ふざけんな!アイツらに被弾するだろうが!〟
謎の人物は降り注ぐ弾丸を避けつつ、被弾しそうな弾丸を器用に切り飛ばしていく。すると、フルフェイスマスクのメインモニターに一つの通信が入る。通信をとると慌ただしい声が聞こえてくる。
ーおいカミナ!何で勝手に一人で先行っちゃうんだよ!ー
ーあぁ?てめぇがおせーのが悪りぃんだろ!てか、今戦闘中!!!!ー
カミナと呼ばれている謎の人物は、戦いの最中だと言うのに平気で通信を取り始める。だが、彼女の動きは一切ブレることは無く、正確に弾丸を対処し続ける。
ーで!こっちは戦闘中の訳だが、そっちは片付いたか?ー
ーあぁ!何とか!ー
ーりょーかい!じゃあ、今私がいる場所の位置が分かるな?とっととこい!重傷者2名、軽傷者1名ってとこだ。治療でき次第っと。さっさと援護しろ!いいな?ー
ーはぁ!?てか、この距離だと最低でも5分かかるぞコレ!ー
ー知るか!3分でこい!ー
そう言うとカミナは勢いよく通信を切る。
〝タイムリミットは3分!流石にそれ以上戦うとあいつらが持たねぇ!さ〜て!何処までやれるかは私の腕の見せ所かな!!〟
そう言い、カミナは地面を力強く蹴ると一気に間合いを詰めようとする。
それは奴も警戒していたのか、ガトリングの連射を辞めると間合いを詰めに来る相手に突進を仕掛ける。
〝バーカ、それじゃ私の思う壺だぞ?〟
そう言うとブースト機能を入力し、レオハウンドの突進をスレスレで発動。すざましい推進力と体幹を巧みに利用し突進を回避すると、すれ違いざまにブレードによる斬撃を叩き込むという荒業を見せる。
攻撃を避けられたレオハウンドは前両足で急ブレーキをかけると、再びガトリングを連射する。
しかし、そこにカミナの姿は無かった。レオハウンドはガトリングによる攻撃を辞め、周囲を見回す。
〝かか!それがお前の弱点だよ…!〟
いつの間にか、カミナは空中にいた。
そのまま左肩のガトリング一直線に降下すると、ブースト機能の状態で回転切りを決める。遠心力と推進力が合わさり、左肩のガトリングは一刀両断される。
ガウゥゥゥ!?
すれ違った筈のターゲットは、何故か目の前から消え、いきなり空中から降下してきたのだ。レオハウンドは一旦距離を置こうとするが、それをカミナは許さない。
左手を伸ばし、レオハウンドの傷ついた左前足の装甲を掴むと、ブースト機能を巧みに使い、レオハウンドの背中に駆け上がっていく。
そして、もう片方のガトリングを破壊すると、レオハウンドの顔面に乗り移り、右手のブレードを奴の目に突き刺す。
グガァルゥウ!!!
レオハウンドは暴れ出し、必死に装甲に手を掛け耐えるのだが、カミナは振り落とされてしまう。カミナは体に染みついた受け身をとりながらどうにか体制を立て直しレオハウンドに視線を向ける。
〝いててて…。あ、やべ!ブレード刺さったまんまだ…っておいまて!〟
レオハウンドはというと、彼女が怯んでいる隙をついて一目散に森の方へ逃げて始めようとしていた。
奴を追おうとカミナは走り出そうとするのだが。
〝損傷率80%を切った為、オベリスクを強制解除します。〟
オベリスクの安全機能が働き、カミナを纏っていたオベリスクは急に機能が停止する。そして、装甲のジョイントが次々と外れていき、コアユニットに収納される。
「はぁ!?おいおいまじかよ…。どーすんのさ、私の愛刀…!」
結果、カミナは遠ざかっていくレオハウンドを只々指を咥えて見ているしかなかった。
〝おーい、カミナ!悪りぃ待たせて。で!戦ってた奴は!〟
すると、先程カミナが通信を取っていた仲間のオベリスク使いが到着する。到着するなり彼女は、森の方を指差しながら訴えてくるのだった。
「逃げた…。」
〝はぁ?〟
「だーかーらー!!逃げられちゃったの!しかも、私の愛刀ぶっ刺したまま!」
カミナは涙目になりながら、そのオベリスク使いをポカポカと殴り始める。
〝痛い痛い痛い!!ゴリラみたい殴らないでくれよ!こっちも壊れるだろ!〟
「よーしわかった。じゃ本気で殴るわ。」
カミナは物凄い速さで笑顔になると、そのオベリスク使いの首元を掴み、左拳に力を入れ始める。
〝ごめん!悪かった!俺が悪かったから!グーはダメ!それダメ!本気で死ぬから!〟
カミナはその姿を見て、さっと首元を離す。
「はい、よろしい。それと!何度も言ってるけどカミナじゃなくて師匠!はあ…。じゃ、とっとと治療してトンズラするぞアギト。」
〝お、おう。〟
オベリスクを解除すると、アギトと呼ばれた少年はカミナの方へ歩いていく。
「で、何で逃げたのに追わなかったんだよ師匠〜?相手があの厄介極まりない奴だっていうのに。」
アギトは思った事を言っただけなのに、カミナは物凄い顔で睨みつけてくる。ビビりながらも彼女を観察するとある事に気が付いた。全ての状況を理解したアギトは、額に手を当てながらため息をつく。
「あ〜あ。師匠それ親爺さんに殺されるヤツじゃん。だから言ったじゃん。整備くらいちゃんと出していけって。」
「私だってそのくらい分かってますよーだ!」
カミナは頰を膨らませてそっぽを向く。アギトはその態度が頭に来たのか、彼女の頰を摘み横に引っ張る。
「ぜ、ん、ぜ、ん、分かってねぇじゃんかよ!これで何回目だよ師匠。」
「いだいいだい!多分…3回目!」
「いーや、これで5回目だ!あれ程もっと自分自身の体に気をつけて戦えって、親爺さんにも俺にも言われてんのに何で直さねぇんだよ!」
アギトは思いっきり引っ張った後、勢いよく離す。
「うるさい…。別にあんた達が何と言おうと私には関係ないでしょうが…。」
ぶつぶつと呟きながら、アギトから目を離すカミナ。アギトは何か物言いたげな雰囲気を出すのだが、口を噤む。
「はあ…。はいはい、分かったよ。取り敢えず、俺は師匠がそれで死ななければそれでいい。でも、親爺さんは違う。それだけは頭に入れて置いてくれよ?」
「…。分かってるってーの。」
そう言うとカミナは負傷している3人の元へ駆けていくのだった。
あるきっかけを気に師弟関係となったとはいえ、戦う術だけでなく色々な事を彼女から教わった。
今やアギトにとってカミナは、とても大切な存在となっていた。
しかし、この2年間共にいるというのに、本当の彼女の姿は見た事が無かった。厳密に言えば、何かを引きずっているようで、本心を隠している様な気がしたのだ。
だからこそ、いつも強そうに振舞っている彼女がたまに見せるあの光の無い瞳を見てしまうと、アギトは何も言えなくなってしまっているのだ。
(はぁ…今回もまた言い出せなかったな)
治療をしている彼女を見ながら、アギトは1人嘆くのだった。
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ーこちら鳴海矢。上空から何者が戦闘を行っていた可能性のある場所を発見した。もしかしたら、アイツらかも知れねぇ。今からそこに降下し、探索を開始する。ー
ー了解!その場所の位置等が特定出来次第こちらに転送して下さい。ー
ーはいよ。そう言われると思って場所の位置はそっちに転送した。確認してくれ。ー
ー…。はい、確認取れました。場所の特定を急ぎます。では呉々もお気をつけて…!ー
ーおう。ー
オシリスの通信を切ると杏果率いる少数部隊は降下を開始する。数秒後、降下用パラシュートが開き、その場所へ次々と降り立っていく。
パラシュートをライドスーツから切り離し周囲を見渡すと、そこには無数のAIの残骸が残されていた。何年も経っているであろう物から最近の物まである。
杏果は足元に埋まっている鉄片を拾い上げるとその状態を見る。微かに残っていた爪痕から杏果は答えを導き出す。
「ここは…ファングの生息地域の可能性が高いな…。これは非常に不味い状況かもしれんな。」
「そうですね…。奴らの習性として、一回見つかれば見つけた相手を殺すまで追いかけ続ける。必要とあらば仲間を引き連れてきますから、急いだ方がよろしいかと。」
少数部隊のメンバーの1人が杏果に反応する。
「ああ、そうだな。」
杏果は一呼吸置くと、彼らの方を向く。
「取り敢えず、お前達はこの周辺の探索を。私は森の中を探索する。もし何かあれば直ぐに連絡しろ。いいな。」
「「「了解。」」」
彼らは周辺の探索を開始する。それを確認すると杏果は指示を伝えると森の中を進んでいった。