第5話 それは嵐の前触れ その1
セドリックと合流後、ハルカ達は鉄平のいる岩陰に向かっていた。
少し歩けば着く距離ではあるらしいが、それらしき岩陰を覗いてみるものの一向に鉄平は姿を現さない。
「ねぇ〜セドリック?一体あのクソ馬鹿は何処に居るのかなぁ〜?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよハルカ…!
いつもキュートなお目めがとんでもなく釣り上がってるのは気のせいかい…??」
笑って誤魔化そうとするセドリックをハルカは問い詰める。
「ねぇ本当にあいつはここら辺にいるって言ってたの?」
「顔が近い…!ごめんごめん怒らないでくれ!ああ…確かに言ってた!本当だ、信じてくれよハルカ!通信記録にも残ってるし、ほら!これこれ!」
セドリックは左腕の端末をハルカに見せる。
「確かに…証拠はあると…。ん〜とすれば…。あ、ねえセドリック?私を探してる時何か周りでおかしな事無かった?」
「おかしな事?それは些細な事でもいいのかい?それなら…ファングがやたらとあの森の方に走っていくのが見えたくらいか?」
「え…それってかなりの有力な情報じゃ無い?だってほら!ファングの習性として戦闘音を感知するとそこへ向かってくっていう…。」
そうハルカが呟いて瞬間、すぐ隣の岩陰に見覚えのある何かを見つける。ハルカはその岩陰に走っていきそれを拾い上げた。
「待ってくれよハルカ!はあはあ…。で、それは…一体何だい?」
それはぼろぼろになった宇宙人のストラップだった。所々塗装が剥がれており、かなり古い物に見える。
「これ…私が小さい頃鉄平にあげたストラップだ…!待って、これってまさか!」
ハルカはセドリックの言っていた森の方を見る。よく見ると微かに土煙が上がっている。
「ハルカ…。これは相当不味い事になってないか…?この推測が正しいとあそこに…。」
セドリックが何かを言いかけた時にはもう、ハルカはその森の方へ走り出していた。
「待ってくれ、ハルカ!流石に今俺たちが行ったところで巻き添いを食らって全滅しかねない!ここは一旦様子を!」
「だって、あの馬鹿がもしかしたらあそこで必死に戦ってるかもしれないんだよ!黙って見てるだけなんて…そんなの出来るわけないじゃない!!!」
「確かに…君の意見は正しい!でも、今の君では奴らとは戦えないだろ!」
セドリックは走っていたハルカの腕を掴む。
「離して!セドリック!私にも何か出来るかもしれないでしょ!!」
激しく抵抗するハルカにセドリックはそっと包み込むように彼女を抱きしめる。
「いいかいハルカ?俺はただ策がないとは言ってないだろ?だから少し落ち着いてくれ。クールビューティのハルカちゃんは何処に行ってしまったんだい?」
「……甘い言葉を囁いて私が止まるとでもおもう?馬鹿なの!?いいから離して!」
ハルカはセドリックハグから逃れるとため息を着く。
「はあ…ごめんセドリック。取り乱して悪かったわね…。少し落ち着いたからあんたの策って言うの聞かせてちょうだい?」
「それはだな…。もし、鉄平がそこにいたとして僕が囮になって奴らを引きつけるから彼を連れて逃げてくれ。以上だ。」
「却下。それは無い。」
ハルカは即答でその提案を拒否する。
「え…じゃあどうすれば…。」
セドリックは真顔で首を傾げる。
「全く…これだから脳筋は…。走るよセドリック。時間が惜しい。今考えてるから走りながらひらめいたら指示を出すそれでいい?」
「だったらそれを始めからやれば…」
「つべこべ言わず走る!」
「は、はい!!」
2人はプランを練りながら森の方へと向かっていくのだった。
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(何だよあれ…。はぁ…。あれがAIだって言うのかよ…。あいつらぜってぇこっち来んなよ…頼むから…!そうじゃねえとマジに洒落になんねぇから…!)
その頃、鉄平は小さな岩陰に身を潜めながらひたすら祈っていた。まるでそれは、吹き荒れる嵐をただ通り過ぎるのを待っているかのように。
セドリックとの通信を終えた鉄平は目印になりそうな岩陰に隠れていた。まだ把握していないオベリスクの機能を左腕の端末で確認していると、唐突に現れたファング達に見つかってしまってしまい、急いであの森の中へ逃げ込む形となった。
どうにか奴らを巻くことに成功した鉄平は見つからないよう屈んでその森の中を進んでいると少し開けた場所を発見した。しかし、そこに待ち受けていたのは…。
(奴に勝てる勝算何てあるのか…?いや、絶対と言っていいほど今の俺達じゃ勝てるわけがねぇ…。待てよ?そうか…本部と通信をとれば!)
鉄平は左腕の端末をタップし、本部との通信
を試みる。何ダイヤルがした後、聞き慣れたオペレーターの声が聞こえる。
ーこちらオシリス!荒村二等兵!聞こえますか!応答して下さい!ー
ーこちら荒村二等兵!聞こえます!新人3名無事です!ですが、2人とはいま逸れている状態で、後、バルコニー隊長が…俺達を守って…戦死されました…。ー
ーそんな…。では彼はあの爆発に…!はい、分かりました…。慌てる気持ちは分かりますが、取り敢えず落ち着いて下さい。今から兵藤副司令からの指示を送ります。荒村二等兵はそこを動かず…ー
その時だった。鉄平は後方から影が指すのに気がつく。はっと後ろ振り向いた瞬間、彼は岩ごと吹き飛ばされ派手に転がっていった。
ー!荒村二等兵!?応答して下さい!荒村二等兵…応答…ズズズ…し…ー
「かはっ…何で…何でだよ!何で奴がここにいるんだよ…!」
彼の目の前には赤い目を光らせ徐々に迫ってくる巨大なシルエットがあった。
(おい…嘘だろこんな所で終わるのかよ…チクショウ!)
鉄平が諦めかけた時、巨大なシルエットの後方に2人が姿を現した。こちらに気付きこちらに向かってくる。
「馬鹿!こっち来るな!くんじゃねっていってんだろ!!!!」
鉄平は全力で叫ぶがそれも虚しく、ハルカ達はこちらに向かってくる。
「馬鹿野郎…このままじゃ…。」
言いかけた時には鉄平はもう、先程の攻撃で受けたダメージにより気絶してしまうのだった。