第4話 時々見せる行動は凡ゆる万能薬よりも優れる
ーこちらオシリス…!応答せよ!こちらオシリス…!第1小隊…!聞こえるか!おい!バルコニー!応答しろって言ってんだろ!…ちぃ!ー
ブチィン…!
勢いよく通信を切る。
「おい、おい、おい!!どういう状況だこれはよ!何でいきなり通信途切れてんだよ?なぁ!?」
「す、す、すみません!いきなりの事でこちらとしてもまだ状況が掴めてません鳴海矢3佐!」
オペレーターに怒鳴り散らしているのは所々破れているライドスーツを身を包む赤茶色のストレートロングが特徴的なある気の荒々しい女性だった。
彼女の名は鳴海矢 杏果。年は25歳。バルコニーが経験したあの事故の数少ない生き残りの1人である。実力はご覧の通りその歳で3佐まで上り詰めており、オシリス内では五本の指に入るオベリスク使いである。
「騒ぐな杏果!今解析班に絡んだところで意味がないだろ!いい加減場をわきまえろ!」
そう言って杏果に怒鳴りつけるのは、オシリスの副司令である兵藤 静香だ。
冷静沈着、頭脳明晰、おまけに顔良しと非の打ち所がない完璧美人。艶のある黒髪を束ね、制帽を被るその姿は誰もが振り向く可憐さを備えている。
「じゃあ、この状況を見てあんたは黙って見てられんのかって言ってんだよ…。」
怒鳴られ、ふてくされながらも杏果は静香に問うのだった。
「……。お前の気持ちはよくわかるが今騒いだところで何になる?取り敢えず、生存者いるのかいないのかはっきりとしない内は大人しくしておけ。」
静香は杏果を宥めるように頭を撫でる。静香は杏果の心情をよく理解している。だからこその静香なりの対応だった。
「映像解析終了!映像出ます!」
小型監視ドローンの解析が完了し、巨大なモニターに今起こった一部始終が映し出される。数十秒後、無人機は爆発した。
「悪い。そこから15秒程巻き戻してくれ。…………そこだ、止めろ!」
静香は解析班に止めるよう指示する。
そこに映っていたのは遠方から放たれたとされる巨大な弾丸のような物が無人中型輸送機のメインエンジンを見事に撃ち抜く瞬間が捉えられていた。
「遠距離からの正確な狙撃だと…?なあ、杏果。そんな事ができるAI兵器見たことはあるか?無人機が飛んでいたのは高度およそ一万キロメートル。昔飛んでいた旅客機と呼ばれるものと同じ高さくらいだ。しかも、動いている標的を見事にだ。」
「最低でも…あたしらが降下する12500フィート辺り。ま、大体3800メートル辺りくらいなら機関銃をぶっ放してくる鳥型機械獣兵器イカロスってのはいるが…。つまりだ。そんな遠距離射撃を行えるようなAI兵器はあたしは見た事がねぇ…。」
杏果がそういうと静香は黙り込み、考え始める。
他のオペレーター達はその雰囲気に緊張感を募らせながらも彼女から導き出される結論を今か今かと待っている。
「ふぅ…。」
静香は一息する。どうやら、結論が出たみたいだ。
「解析班!その映像を徹底的に解析してくれ。隅々まで全部だ。何か分かったらすぐに報告してくれ。連絡班!今出ている他の部隊に現在地を知らせるよう伝えてくれ。爆発地点から近い部隊は直ちに撤退させろ。」
「了解しました!直ちに解析始めます!」
「はい!こちらオシリス応答願います…。」
静香の指示でオペレーター達は一斉に作業に取り掛かる。
「それと杏果。お前はそのボロボロのライドスーツをさっさと脱いで新しいやつに着替えてこい。待機しているメンバーから先鋭部隊を結成し原因を探りに行ってこい…アイツが待ってるかもしれんからな。」
「え…なんでそれを…!」
顔を真っ赤にしながら焦る杏果をスルーし、静香は中央のメインデッキに上がる。
「現時刻をもって本作戦は謎の狙撃の主を特定し対策を立てるものである。いいか!深追いはするな!第1小隊を見つけ次第本部に連絡し直ちに撤退しろ。その後、我らオシリスのありとあらゆる軍事的制裁を奴に下す。いいな!」
「「「 了解!!! 」」」
静香を筆頭に原因調査という名目で第1小隊の救出作戦が決行された。
「おい、静香!いや、兵藤副司令…。貴殿の心意気に感謝する!」
そう言い、杏果は技術部の元へ駆けていく。
「まさかあんたがお礼を言う日が来るなんてね…。ふふ、やった甲斐あったな。それよりも後で不在の総司令に何を言われることやら…はあ…。」
静香のこの先絶対に回避できないであろう総司令の説教を受けることが確定した瞬間であった。
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(バルコニー隊長は私達を助けて…。
それに、2人は一体どこに居るの…?)
ハルカはバルコニーの死を受け入れられず困惑していた。それに何だかんだで頼りにしている2人と逸れた上、オベリスクも壊れている。死と隣り合わせなこの状況はハルカの恐怖心を煽り困惑させる原因となっていた。
(2人を探す…?オベリスクが使い物にならないのに?この状況で動けるわけないじゃん…。誰か…誰でもいいから助けてよ!)
ハルカはもう限界だった。
その時、後ろの草むらで物音がする事に気付く。恐る恐る物音がする方を見つめると同じ部隊のセドリックだった。
あの状況の中でどうやら生きていたらしい。
「セドリック!良かったぁ無事だったんだね!本当に良かった…。」
ハルカはセドリックの手を取り、安心したのか涙が溢れてくる。
「ハルカ!無事だったのか!それにそんなに心配されると照れるな…。それにオベリスクが…。君がどれだけの無茶を強いられたか分かるよ。でも、体に異常はなさそうだね。不幸中の幸いってやつかな?本当に良かった。」
「ぐすっ…。それよりセドリックこそ…なんでさっきよりもオベリスクがボロボロなの…?」
「あ〜それはだね、君の事を探している途中にファングに見つかってしまってね。単騎で行動していたから増援を呼ばれる前に潰してきたのさ。」
どうやら命がけでセドリックはハルカを探してくれていたらしい。ハルカはセドリックが男前に見えてくる病気にかかりそうになっていた。
「!?静かに…!」
突然、セドリックが真剣な表情になり静かにするようにジェスチャーをしてくる。
ハルカは突然の事で少し驚いたがそれに従い、周りを見渡す。するとその近くをファングが通過していった。
「ふぅ、危なかったね…。ハルカ、ここにいると危険だから移動しよう。実は僕の通信機能だがどうか生きていてね、さっき鉄平に連絡が取れた。彼は少し行った所の岩陰に身を潜めているらしい。だからそこで落ち合おう。」
「え!鉄平もいきてるの!?やっぱあいつ悪運強いなあ…。まあ、それは置いといてとりあえず移動しよっか。」
(oh…相変わらず、鉄平の扱いがひどいなぁ…)
とセドリックが思っているとハルカが突然笑顔で振り向き、
「セドリック…探してくれてありがとう。」
ズキューン!
(あ、やばい死ぬ。)
突然見せる美少女の笑顔を見ると大抵の男は心を撃ち抜かれる!
それをセドリックは知った。
「どうしたの?」
「!?あ、ああ。これは…僕の事を少し見直してくれた証!ハルカ!この前僕に落ちてくれても構わないよ?」
「あ〜うん。ぷっ。ははは!!やっぱいつものセドリックだなぁ…。」
ブレないセドリックを見てハルカはつい笑ってしまった。
「これは…うん、失敗か…。はぁ…。」
どうやらフラグ選択を間違えたらしいとセドリックは肩を落とすのだった。