第3話 一難去ってまた一難
ビービービービービー…。
(ん…何…?)
体の隅々まで伝わってくるフワッとした感覚と聞き覚えのある妙に危機感を覚える警告音 でハルカの意識は覚醒した。
目を開けた瞬間に入ってくる光と顔に吹き付ける強風に顔をしかめながら辺りを見渡す。
そこはどこまでも続く空だった。
夕陽に染まった赤い空と夜を告げる紫色の空が混ざり合いとても幻想的な世界を生み出している。
普通ならその景色を眺め余韻に浸りたい所だが、ハルカにとって今はそれどころではなかった。
「まってぇ!!なんで!?なんで落ちてるわけぇ!!」
突然の事で状況が呑み込めていないハルカはあたふたしながらもうつ伏せの姿勢を必死にとろうとしていた。
数十秒後、どうにかその体制を保つ事が出来るようになったハルカは向かい風に煽られながらも状況を整理しようとする。
まず、先程から鳴り響くアラートを解除しようと左腕の小型液晶パネルを確認する。
すると、彼女の身体は突如石にのように微動だにしなくなる。
「え…嘘でしょ?」
ハルカの顔からどんどんと血の気が引いていていくのが分かる。
そのパネルの表示には、オベリスクのライドスーツに搭載されている緊急用のパラシュートが指定された高度に到達時に開くよう設定されているはずなのだが、何らかの原因で自動展開がされていなかった事を示していた。
どうにかパラシュートを開こうとパネル操作をするのだが一向に反応がない。最終手段である脇腹付近にある専用の紐を引っ張るのだが…。
「何で開かないのこれ!!訳がわからないんですけど!」
何故かパラシュートは開く事は無かった。ハルカは必死に開かない理由を考える。そして導き出された答えは。
「まさか…ね…?」
嫌な予感を感じながらも背中のパラシュートの入っているバックパックに触れると大きな切れ込みが入っており、パラシュートは完全にお釈迦となっていた。
「うわぁ…この後に及んで何てついてないんだろ…いや死ぬよこれ!」
左腕の端末を確認すると高度は3000メートルを切っており、仮にパラシュートが開いていたとして無傷で助かる可能性は限りなくゼロに近い状態だった。恐らくこのままだと後数十秒で地面とご対面。そして味わった事のない苦痛と共にあの世へ行くのだ。
「…!…けない…!ふざけないでよ!こんな最後嫌だっつうの!絶対に生き残ってやるんだから!」
ハルカは覚悟を決め、ライドスーツに埋め込まれたコアユニットに触れる。
「スタンバイ オン!」
直後、コアユニットから物凄い勢いで鋼鉄製の装甲が出現し彼女の体を覆っていく。そして全身を覆うと彼女の体にフィットするように縮まっていき接続が完了する。
〝オベリスク コード 009 装着完了。パイロット認識確認。佐々波ハルカ二等兵。スーツの損傷率は…〟
ブチッ。
ハルカはオベリスクの音声案内を切り、急いでブースト機能の入力を開始する。ハルカがやって退けようとしている打開策とは、オベリスクのブースト機能を利用して減速を図る事だった。
(間に合ってよぉ…!)
左腕の端末からは危険を知らせるアラートが鳴り響く。
(っ…!残り1500メートル!)
焦せるがもうこればかりはいくら足掻いてもどうしようもない。訓練兵の持つオベリスクにはブースト機能を搭載してはいるもののそうそう使う場面がない為、基本的に入力に時間がかかるのだ。
(ここで死んでたまるかっての!だからお願い!)
目を瞑り願うハルカ。端末からは高度1000メートルを切るアナウンスが流れる。
ピピーン!
ついにブースト機能の入力が完了した。
「ファイヤァァ!!!」
キュイィィィイーン…!!!
ブースト機能が起動し、物凄い勢いの推進力が体全身にかかる。歯をくいしばりながら体を制御するハルカ。
(何これ!やばい…!)
ブースト機能が思った以上に扱いが難しく、体制を維持する事できないハルカ。
(くっ…!ここで終われない!絶対に生きて帰るんだから!!)
天に祈るかのように手を伸ばす。
数秒後、ハルカは飛行機の緊急着陸のように地面と接触しながら派手に地面に転がっていき、どうにか着地に成功するのだった。
「はぁはぁ…。痛ったぁ…!本当に死ぬかと思ったぁ!!!」
苦悶の声を漏らすハルカ。痛みで意識が飛びかけたがどうにか生きているらしい。すぐさまフルフェイスマスクを脱ぎ捨て荒い息遣いで呼吸を整える。
仰向けの状態で左腕の端末に触れ、オベリスクの損傷具合を見る。
オベリスクの機能の六割程損傷しており、コアユニット壊れオベリスクを解除できなくなっていた。もはや、完全に鋼鉄の鎧同然の状態である。
「まあ、そうだよね…。こんな使い方して壊れない訳がないもんね。でも壊れて解除出来ないとはいえ、軽くて丈夫なのは凄いよねこれ。」
オベリスクの鋼鉄製の装甲にはオリジンと呼ばれる鉱石が使われていた。
この鉱石はオベリスク以外にも日常的に使うものから軍事兵器まで幅広く使用でき、また頑丈さ、重さ、加工のしやすさと言った部分では他の鉱石よりも群を抜いてトップクラスの性能を誇る。
生きている機能がないか調べていると奇跡的にスキャンシステム機能が生きていた。スキャニングを開始する。
スキャニングが完了しその結果を見てハルカは絶望した。
ハルカの墜落した場所はオシリスによって指定された危険区域と呼ばれる無法地帯の一角だった。
そこにはファングと言われる地上での戦闘を得意とする狼のような機械獣兵器が巡回していると言われている森林地帯。オベリスク無しで動き回るなど自殺行為でしかないが、部隊に連絡をとろうとするにも通信装置は壊れている。
「あぁ…終わったこれ…ダレカタスケテェ…。」
ハルカは再び半泣きになりながらも、ファング達に見つからないように近くの岩陰に身を潜めるのだった。