プロローグ
倒壊を始める大規模な研究施設。
ここはWAOと呼ばれる〈世界AI機構〉であり、人類最後の決戦地に選ばれた場所。
そして最後の決戦に挑み、私は完膚なきまでに敗北した。左腕を失い、右眼はフルフェイスマスクの破片が刺さり、開く事は不可能だった。
渾身の一撃を放とうとする強敵に、私は膝をつき殺されるのを待った。
しかし、私は知らなかった。その運命を捻じ曲げる存在がいる事を。
私はいきなり首元を掴まれ、後方へと投げられた。受け身をとれず派手に転がった私は、投げた張本人を見て驚く事しか出来なかった。
何故なら、そこには居るはずもない彼女がいたからだ。
彼女はクスッと笑うと、白衣のポケットから30センチ程の長方形のスケルトン構造の小さな箱を取り出すと、意識が朦朧する私にそれを向かって投げつける。
すると、その中の1つの宝石が煌めき突如直上に謎の亜空間が開き、私はなすすべも無くそれに吸い込まれる事となった。抗おうにも無重力空間にいるようで、体が思うように動かない。
私はどうなってもいい。だが、このままじゃ彼女は死んでしまう。私は泣きながら彼女の名前を叫んだ。
しかし、それを嘲笑うかのように彼女の体を鋼鉄製の両手長剣が貫いた。
白衣がどんどんと赤く染まっていく。痛みのあまり失神そうな彼女は、吐血を零しながら私に微笑みかける。
「良かった…君が無事で…。」
それが私が聞いた彼女の最後の言葉だった。