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剣聖の初恋は終わらない  作者: りょうと かえ
第三章 剣聖の力
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第七話 レインは刺客を誘い出す

体調不良により、カンカクガ空いて申し訳ありませんでした!

 ニアから焚き付けられた翌日、レインは一人で唸りながら色々と考えていた。


 ニアは今日も冒険者として出掛けている。

 ちゃんとやっているようで、レインとしては安心することしきりだった。


 もちろん来週のシェリルとのデートも大いに気になるものの、本命は武術大会だ。

 そこで無様な姿をさらせば、全て終わるだろう。


 当然、勘を研ぎ澄ませて技を練り直さなければならない。

 ニアは手合わせの相手としては不足ないが、どうしても自分に近すぎる。

 まぁ、師匠と弟子なので仕方ないが。


 レインとしては、他流派の腕利きと稽古がしたかった。

 加えて今大会でなくても、出場経験者であればーーそう、思っていた。


 しかし知り合いにそういう人物は思い当たらない。

 隠れ家を用意するのを断った手前、シェリルにはなんとなく言い出しづらい。


(でもなぁ……当てがない)


 山籠りみたいな真似をして集中力を高めるのは、最後でいい。

 その前に、帝国全土から集まるという武術大会の幅広さを知っておきたいのだ。


「……んん?」


 レインは、自宅を見つめる視線に気がついた。

 武芸者特有の殺気が混じっている。

 レインにとっては間違えようもない気配だった。


 数は……3人だ。

 時刻は昼前で、住宅街の人通りは少なくない。

 いきなり真っ昼間から武器を抜くようなことはないだろう。


 それにしてもタラーン公の刺客が、早くも現れたのか。

 レインは敵の情報と動きの素早さに感嘆した。


(昨日の今日だっつーのに……)


 夜になって騒ぎを起こされても困る。

 さて……どうしたものか。

 官警に連絡するか、まだ様子を見ているか。

 とはいえ相手はまだ動き出してもいない。


 思案したレインは、ふと気が付いた。

 こいつらは、それなりの腕利きのはずだ。


 仮にも武術大会の出場者に殺気を飛ばすくらいだ。

 荒事にも慣れているだろう。


(こいつらで、試してみるか)


 シェリルが聞いたら怒るだろう。

 しかし、真の一流は無闇に殺気を飛ばしたりはしない。

 いいとこ、2流か3流だというのがレインの感触だった。


 そうと決めたら、さっさとやってしまおう。

 レインは身軽な服に着替えて、刃が悪いーーいわゆる切れない剣を持って家を出た。


 帝国ではいまだに帯剣して歩く人は珍しくない。

 突然街中にも現れる神出鬼没のダンジョンーーそして魔獣の存在が、平和の中にあっても市民の武装を許容していた。


 太陽が半分雲に隠れている中、通りには馴染みの顔もいる。

 剣を持つレインに不審そうな顔を向ける人はいない。

 この辺りでは、レインとニアが剣士であることは知れ渡っているのだ。


 刺すような視線は家を出ても、びっちりとレインから離れない。

 流石に人目があるところでは仕掛けては来ないだろう。


 ゆっくりとした足取りでレインは大通りとは逆、人の少ない通りへと歩いていく。


「やぁやぁ、散歩ですかい?」


 日焼けしたご近所のおじさんが、荷物を持ちながら声を掛けてくる。


「いい天気なもんでね、ちょっと林までな」


 大通りとは真逆に行くと、小一時間ほどで林に出る。

 しかし柄の悪い所を通るため、近隣の人たちはあまり行くことはない。


 おじさんは頷くと、アゴをあげて空を見た。


「でもね、元漁師の私の勘だと今日は雨が降りそうですよ。空気が重いや」


 レインも空を見上げると、空の三分の一ほどは雲が覆っている。

 灰色がかなり濃く、気分的には曇り空だ。


「わかった、気を付けるよ」


 レインは手を振るとそのまま、住宅街を離れていった。

 道に砂利が多くなり、家も段々と少なくなる。

 通りが寂れて、家も小さく人気が乏しくなっていく。


 帝都は外に伸びて拡がった街だ。

 レインの家は中級層が多く、治安も良い。

 それが外側になるにつれて家の手入れも雰囲気も悪くなっていく。


 いわゆる、スラム街だ。

 素性の明らかでない人がぼろぼろの空き家に住み着くような。


 レインはやや厚みを増した空の雲を眺めながら、家々から視線が集まるのを感じていた。

 明らかな警戒と不審、さらに背中には三人分の殺気が張り付いている。

 しかし、まだ何も起きてはいない。


 道というよりは、単なる踏み固められた土の上を歩き林へと入っていく。

 隙間が空いているが光は絞られ、林の中は影のように暗くなっている。


 小石を蹴ってみると、すっと木の根の間へと吸い込まれていった。

 特に、変わったことはない。


(やれやれ……何の手出しもないと、それはそれで厄介なんだがな)


 あくまで見られているという感覚は、レインの主観でしかない。

 何かの罪に問えるようなことではないのだ。

 仕方ない、もう少し踏み込んでみるか。


 レインは一息吸うと、大声で呼ばわった。


「おおい、せっかく人気の無いところへ来たんだぜ……俺に用があるんじゃないか?」


 一瞬、怒りともつかぬ感情が沸き立つ。

 レインの物言いが、気に食わなかったようだ。


 レインもわかっていて挑発したのだが。

 木の影から、ぬらりと三人が這い出してきた。

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