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第9話「猫は気まぐれにつき」

 ん?

 もう朝かな?


 俺はいつも同じ時間に目が覚める。

 それは新居に引っ越しても変わらない。

 習慣化しているということだろうか。


 ベッドから体を起こそうとしたところで、お腹あたりに重さを感じた。

 柔らかで温かい、心地良い重さだ。


 何か抱えて寝たっけ?

 掛けていた毛布をまくってみる。


「……ン……ニャウ」


 銀色の毛玉がお腹に乗っていた。

 昨夜召喚された猫が、丸まって眠っている……。


 昨夜、この猫の名前は、『シルヴィ』となった。

 モカが、「毛色がシルバーだからシルヴィにしよ!」と言ってすぐに決まったのだ。


 今度こそ『ルバー』の出番だと思ったのにな。

 どうやらこの世界と異世界とでは感性というものが違うようだ。


「シルヴィはモカと一緒に寝てたはずなんだけどな……」


 モカが自分の部屋に、ミーネとシルヴィを連れて行ったはずだ。

 それにいつの間にか、人型から猫の姿に戻っている。


 どうやら潜在力(ポテンシャル)を引き出しても、時間が経つと元に戻ってしまうらしい。

 俺の力が増したら、人型になってる時間も長くなるのだろうか。


「それにしても、この油断して寝てる姿は可愛いな……」


 この猫という生き物の寝姿は、やばいくらいに可愛い。 

 下手な芸術品よるも芸術してると思ってしまうくらいだ。


 背中をナデナデしてみる。


「……ウミャ」


 可愛らしい鳴き声を発して幸せそうな寝顔をしている猫を見て、つい油断してしまった……。


 ついうっかり力を引き出してしまったのだ。


「あっ……」


 一瞬の後、お腹に乗っていた重みが増す。


「……うにゃあ。……おはようにゃあ」


 シルヴィが人型になってしまった。


 昨夜召喚された時と同じく生まれたままの姿だ。

 そんなシルヴィが俺の上にまたがっている……。

 シルヴィが人型になったときに、小さな袖机(そでづくえ)を倒してしまいガタンと音を立てる。


「……まずい」


 シルヴィは見た目が幼くて、俺の恋愛の対象からは程遠い。

 ミーネと同じくらいの歳に見える。

 人族でいうと7,8歳といった感じの見た目だ。


 シルヴィを見守る俺の心持ちは、保護者のそれだ。

 だけど、どうもモカは理解(わか)ってくれない。

 エッチな目で見るとか勘違いするのだ。


 ……まだ朝は早い、きっとモカはまだ寝てる時間だ。

 シルヴィを猫に戻して、俺は朝の訓練を始めれば何も問題ないはずだ。


「……みゃ?」


 シルヴィは不思議そうに俺の方を見てる。

 銀色のモフっとした耳がピコピコ動いている。


「シルヴィ、いったん戻ってくれ」


 俺はシルヴィの肩に手をおいて元に戻そうとして……。


 あれ? どうやって戻すんだっけ?


 人型にする方法は分かるんだけど、猫に戻す方法が分からない。

 もしかしたら人型にする時と同じで、背中をなでながら力を使うのかな?


 シルヴィの背中をなでながら、力を使おうと念じてみる。


「にゃはっ! くすぐったいにゃ~」


 シルヴィが笑いながら身をよじる。


 戻れ~、戻れ~!


 その時、部屋のドアがカチャリと音を立てて開いた。


 一瞬、空気が止まったとはまさにこのこと……。


「マ~ル~ス~……。何をやってんのかなあ~」


 開いたドアからモカが姿を現した。


「誤解だっ!」


 何が、とは言うまでもないだろう。


 ちなみに、シルヴィが俺にまたがっているため、俺とシルヴィは抱き合っているような位置関係だ。

 裸のシルヴィをベッドに連れ込んでいるように見えるかもしれない。


「マルス……、ちょっとお話をしようね……。ロリコンは駄目だと思うんだ……」


 モカは笑顔なのに目だけ笑っていない。


 シルヴィだけは無邪気に笑っている。

 どうしよう、この状況……。



 


 なんとか誤解は解けた。

 明日からは気をつけよう。


 モカは俺と一緒に朝の訓練をするつもりだったらしい。

 起きていたところ、隣の俺の部屋から音がしたから見に来たとのことだ。


 シルヴィは手すりをつたって開いてた窓から入ってきたらしい。

 俺の部屋は二階で、手すりなんて凄く細いのに……、猫すごいな……。


 結局、朝の訓練は三人でやることになった。

 俺、モカ、シルヴィだ。

 ぐーたら女神はまだおやすみ中だ。


 俺とシルヴィは木剣、モカはバットで素振りだ。


「モカ! バットの構えはそうじゃない!」


「バットで突きって違和感あるの。これがバットの振り方だよ!」


 モカはバットをこん棒のように振っている。

 いい音出してるけど、それではアンデッド倒せないのにな……。


「えいにゃっ!!」


 シルヴィが木剣を上段から振り下ろした。


 あっ!


 振り下ろした剣は途中で止まらず地面に当たった。


 バキっと音を立てて、木剣が折れる。


「うわー! シルヴィ、凄いね!」


 モカが折れた木剣を見て驚いている。


「たしかに凄いな……」


 木剣は結構丈夫にできている。

 それを一撃で折るなんて、かなりの力ではなかろうか。


 この世界の獣人も人族に比べて力が強い。

 けど、シルヴィはそれをしのぐ才能を秘めているかもしれない。

 見た目の幼さとのギャップが凄い。

 

「折れちゃったにゃ……。ごめんなさい……」


 シルヴィが落ち込んでいる。

 猫耳もペタンと閉じている。


「大丈夫だ! 今度シルヴィに合う武器を買いに行こうな」


 シルヴィの力が分かっただけでも良いことだ。





 昼間は、シルヴィの冒険者登録や庭の手入れなどをした。

 途中でシルヴィが猫に戻ったけど、すぐに人型に戻した。

 周りに人がいなくて良かった。

 この世界の獣人は獣になったりしないし、人型になる魔物はかなり希少だからね。

 

 そんなわけで、あっという間に日が変わる時間帯だ。


「今夜は何が出てくるかな~」


 モカのそばに俺とシルヴィが位置取る。

 ミーネは少し離れたイスに座って見ている。


「ご主人様、何をするにゃ~?」


 シルヴィが不思議そうに見ている。

 昨日はシルヴィ自身が召喚された魔法をモカが使うところだ。


「シルヴィも見ててね。――地球より愛をこめて(トランスレーション)


 いつものようにモカの手の上に光が収束する。


 現れたのは……。


 お皿?


 円形で平べったいものが現れた。

 色は赤一色だ。


「モカ、そのお皿みたいなのは……?」


 モカに聞いてみる。


「あれ? これってもしかしてフリスビー?」


 モカがお皿みたいなものをひっくり返したりしながら見ている。


 百見は一触にしかず……、ということでそれを触らしてもらう。


「このフリスビーっていうのは……、そうやって使うのか……」


 使いかたが頭に流れ込んできた。

 これは俺が使ってもいいけど、もしかしたらシルヴィの武器にいいんじゃないか?


「なんか出てきたにゃ。ご主人様すごい! これでシルヴィと遊んでくれるにゃ?」

 

 シルヴィが目をキラキラ輝かせてモカにねだっている。


「そうだな。俺もこれはシルヴィに合ってると思う。さっそく明日試してみよう!」


 俺もモカにそう提案してみる。


「えっ? 投げて、走り回ったら楽しそうだけど。今回はそんな普通の使いかたなの? 犬に使うところ、シルヴィは猫だけど……そういう意味ではたしかに使いかた違うけど。違った使いかたが楽しみになってきたわけじゃないけど……」


 モカがつぶやいているけど、最後の方は小さくて聞き取れなかった。


 明日はフリスビーを使うために草原に行こう。



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