第7話「必殺技としゃべり方はマネしたくなるよね」
「本当にこの家に入るの~……?」
俺とモカは小さな一軒家の前に立っている。
二階建てで、広くはないがちょっとした庭もついている。
モカは目の前の家に入るのをためらっているようだ。
「この武器があれば大丈夫だ。それにプチゴーストは怪我をするような攻撃をしてくることはない」
俺はバットという武器の使いかたを知って、数日前に冒険者ギルドで見た張り紙のことを思い出した。
張り紙には、「プチゴーストを退治してくれた人には、対象建物を一年間無料でお貸しします」と書かれていた。
対アンデッド用武器である“バット”の出番だ。
こいつなら聖属性の打撃をくり出すことができるのだ。
「たまって魂のことだったんだね……」
目の前の建物には、結構な数のプチゴーストという魔物がいるとのことだ。
Eランクの魔物で、下級のアンデッドだ。
プチゴーストはこっちが怪我をするような攻撃はしてこない。
ただ気を抜いた状態で長く居ると、気持ち悪くなったり体調を崩したりするだけだ。
まあ、それでも住居としては致命的だけどね。
通常の物理攻撃は効かず、一番有効なのは聖属性の打撃や魔法だ。
ちなみに聖属性を扱える人はかなりレアだ。
聖魔法使いなんて、王国魔術師団か教会のエリートくらいだろうし、聖属性の武器なんてそれこそ国の管理下だろう。
火の魔法もそこそこ効くらしいけど、今回のケースで火を使ったら家が燃えちゃうからね。
そんなわけで、誰もプチゴーストを倒せる人がいなくて、家の持ち主は困ってたわけだ。
一年分の無料貸し出しですめば、退治費用としては御の字ということなのだろう。
「わたし、幽霊とかお化けとか苦手なんだよね~……。子供のころお化け屋敷で怖い目にあってからね……」
さすがモカだな。
幼いころから対アンデッドの特訓を受けているとは……。
マジカル☆モカの二つ名は伊達じゃない。
「大丈夫だ。体調悪くなったらすぐ家を出ればいい。行こう!」
俺たちは家に足を踏み入れた。
「ひ~、なんかクラゲみたいなのがいっぱい浮いている……。」
モカは俺の背中に隠れるようにしている。
クラゲというのは分からないけど、家の中をプチゴーストがうじゃうじゃと行きかっている。
こいつらは住みついたら、その家の外には出ようとしないのが特徴だ。
「すぐ片づけるからちょっと離れててくれ」
俺は前に出て、バットを構える。
持ち手である右手は顔のすぐ横、バットは地面に水平になるように構える。
刺突をくり出す構えに近いだろうか、左手はバットに添えるように前に伸ばす。
「ちょっと!? なんでバットをビリヤードみたいに構えてるのっ!?」
モカはこの構えになにやら不満があるようだ。
ビリヤードって何?
「何を言ってる? バットの先の平らな部分でしか聖属性のダメージは出ないぞ」
先の丸く平らな部分で攻撃するには、これが一番効率的な攻撃方法だろ?
こん棒みたいに振り回しても、先の平らな部分は敵に当たらないからね。
俺は少し腰を落として、プチゴーストに突きを放つ準備をする。
こいつら意外に素早いからね。
「なんで雰囲気だしてるの!? なんか○突みたいな構えになってるし!!」
モカが叫んでいる。
ふむ、怖がっているよりもこの方がモカらしくて良いかもしれない。
「なんだ? 牙○って?? これが突きをくり出すのに一番向いている構えだろう」
モカが後ろで「そりゃあよくモップとか箒で練習したけどさ……」とつぶやいている。
何かの必殺技だったのだろうか。
今度教えてもらおう……。
そんなわけで、俺はプチゴーストに向けて突きをはなっていく。
「滅びろ! ――聖なる螺旋突き!!」
素早く突くために、手首に回転を加える。
「そっちなんだ!」
後ろでモカが騒いでるけど、やっぱりモカは元気な方がいいな。
突きの当たったプチゴーストはその場で霧散する。
聖属性の打撃だからだろうか。
その場で光がキラキラと舞っていて、とてもきれいだ。
さすが、地球の武器。
このバットも凄い武器だな。
使いこなしたら、伝説の聖剣に匹敵するのではなかろうか。
突く、突く、突く。ひたすら突いてまわる。
突きが当たった端から、プチゴーストが消滅していく。
一階が片付いたところで、二階に移動する。
そしてまた、ひたすら突きまくる。
はたから見ると楽しそうに見えていたのか、モカが「わたしにも……」と言ってきた。
モカもバットでプチゴーストを突いたけど、聖属性が発動せずスカってばかりだった。
その後、また俺がひたすら突いてまわった。
結果、わずかの時間で建物内のプチゴーストを一掃することができた。
「よし、今ので最後だ」
俺はモカに終わったことを伝える。
「本当にバットで除霊しちゃったよ……。なんか家の中が、キラキラしてるよ……」
聖属性の打撃の残滓か、建物内のいたるところがキラキラしていてまるで聖なる場所のようだ。
下手な教会よりも神聖さを感じる。
残滓はすぐに消えるとは思うけどね。
これで今日から一年間はただで俺たちの家だ。
4LDKの間取りで、ゆったり過ごせるな。
「神様だって住めるくらい良い雰囲気だな。モカ、今日からはここが拠点だ」
聖なる気が満ちていて、すごく晴れやかな気分だ。
ゆったりできる拠点ができるということも、心にゆとりを与えてくれるのだろう。
「うん! なんだかんだでラッキーだったかもね。マルス、おつかれさま!」
モカが笑顔で喜んでくれると、頑張った甲斐もあったというものだ。
その時、玄関の扉がノックされた。
なんだろ?
依頼を出していた不動産屋かな。
依頼を受けたのは伝わっているだろうから、結果を見に来たのかもしれない。
「どちらさまですか~?」
俺が玄関扉を開けると、そこには金髪の幼女がいた。
歳は7、8歳くらいに見える。
「遊びにきたのじゃ!」
見覚えのない幼女が遊びにきたと言っている。
この建物の前入居者と間違えられているのだろうか。
モカが後ろから近づいてくる。
「おおっ、可愛い子だね~。マルスの知り合い? おねえちゃんはモカだよ~」
モカが金髪幼女の手を取ってデレデレしている。
「俺はマルス。今日からここに住むことになるけど、前に住んでいた人のことは知らないんだ」
俺は幼女に向かって告げる。
せっかく遊びに来たところ可哀想だけど、俺にはどうしようもないからな。
「妾はマルスに会いに来たのじゃ! 妾じゃわらわ!」
ふむ……。
そうは言っても俺の知り合いに幼女はいない。
これは詐欺か何かか?
美人局という女性を使った詐欺もあるらしいからな。
女性には違いないけど……、ちんまいけど……。
のじゃっ娘の知り合い……。
うん……? もしかして……。
俺はポンと手を打つ。
「もしかして、戦女神ミネルヴァにあこがれている近所の女の子?」
戦女神ともなれば憧れている子供がいてもおかしくない。
俺は知らない女神だったけど、子供たちには人気の神様なのかもしれない。
それに子供はすぐマネをしたくなるものだ。
のじゃ女神に憧れたら、のじゃりたくなるものだろう。
俺の言葉を聞いた幼女は、信じられないといった表情をする。
そしてすぐさま口を開いた。
「違うわ~! 本人じゃ~!! ミネルヴァ本人じゃ~!!」
冗談だよね……。
聖なる場所(一時的)が女神様を呼び寄せてしまったのだろうか……。