第5話「ミラクル☆モカだよ!テヘッ」
今日は“黒歴史ノートby萌香”のお試しのために草原に来ている。
とりあえず失敗しても挽回のきくEランク魔物が相手だ。
少し離れたところに見えるプレーリーディアーが相手だ。
モカはプレーリーディアーを見て、鹿と呼んでいた。
「本当に試すの……?」
モカは“黒歴史ノート”を使うことに気のりしていないようだ。
モカが二年前くらいに書いたものらしい。
「これはおそらくかなり強力な武器だ。眠らせておくのはもったいない」
昨夜なんとか説得したけど、モカはまだ納得がいかない様子だ。。
「うん、でも……」
「使っても消えない武器って言うのは、今後のためにも必要だよ」
このノートの情報を得たときに、使用しても消えないことが分かってる。
トランプは使うと消えるからね。
「わかった……。はぁ……、黒歴史だけに消えないのね……消したい過去なのに……」
どうやらモカは自身の記した魔術書を読まれるのが恥ずかしいみたいだ。
使う前だけど、この武器の強力さは感じている。
自信を持ってもいいと思うんだけどね。
ちなみにこの魔術書の使いかたは、頭に情報が流れ込んできた時に理解している。
中に書いてある内容を読み上げると、そのページごとに様々な魔術が発動する仕組みのようだ。
トランプやコンドームの箱に書いてある文字は読めないけど、黒歴史ノートの文字は読めるようだ。
内容を読むことが武器の使用条件だからだろうか。
宿屋の中で発動すると危険もありそうだったので、まだ書いてある内容は読んでいない。
俺は魔法の素養が無いため、今まで魔法を使ったことはない。
魔道具は高価すぎて俺には買えないしね。
ついワクワクしてしまうのは仕方ないだろう。
さて、お試し開始だ。
「よし、まず一つ目だ。えーと……『我は宵闇のプリンセス。月と血よ、我に力を……愚かな人間どもめ、我にひざまずくが良い…………』」
「ひいっ!?」
黒歴史ノートが輝きを発し、炎の矢がプレーリーディアーに向かって飛んでいく。
炎の矢に貫かれたプレーリーディアーはその場に崩れる。
なんか、モカの悲鳴も聞こえた気がするぞ。
「モカ、大丈夫か? えーと、モカは吸血鬼だったのか?」
そんな感じのことがノートに書いてあった。
「ち、違うのよ! 聞かないでちょうだい!!」
モカは顔を赤くしてイヤイヤしてる。
ふむ……。人には聞かれたくないこともあるものだ。
俺はモカが吸血鬼だったとしても嫌ったりしないけどね。
「よし、次行こう。『止マレ、ワタシノ右手……。フ、封印ガ解ケル……、右手ニ閉ジ込メラレシ、ファフニールノ封印ガ……』」
ノートが輝きを発し、さっきとは別のプレーリーディアーに向かって雷撃がとぶ。
雷撃が、プレーリーディアーを仕留める。
「ぐっ……。その攻撃はわたしに効く……」
モカが胸を抑えてうめいている。
「モカ? 苦しそうだけど本当に大丈夫? も、もしかして封印が解けるのか?」
ノートには、なにやら凶悪な魔物がモカに封印されてるとの記述があった。
俺に力になれることはないだろうか。
「やめて……。二年前のわたしは何てことを書いてるの!?」
二年前にこの魔術書を記せたということは、今だったらどれだけのものが?
さすがだな、モカ……。
「もう一つ行くぞ。『私には人に言えない秘密がある。昼間は普通の小学生だけど、放課後は魔法少女をやっているという秘密だ。今日もミラクル☆モカは悪を倒すの!テヘッ』」
ノートが輝き、俺とモカの体を光が包む。
体の疲れが一気に取れた気がする。
回復魔法か?
そうか……、モカは地球で魔法使いをやっていたんだな。
これだけ凄い魔術書を記すくらいだもんな。
「もうやめて……、わたしのライフはゼロよ……」
モカがなにやらブツブツとつぶやいている。。
「モカは凄いな! これだけ凄い魔術書だと、国中の魔術師や貴族たちが大金を積んででも欲しがるぞ!」
売るつもりはないけど、それだけモカは凄いということを伝えたかった。
俺はモカの肩にポンと手をおいた。
「それを国中に広めるのはやめて~!!」
モカの叫びが草原の風に運ばれていくのだった。
ふむ……、“せいふく”っていうのか。
モカの肩に触れたときに、情報が伝わってきた。
◇◇◇
俺たちは冒険者ギルドに帰ってきた。
あの後も順調に狩りは進み、一日にしては結構な収穫があった。
ギルドの換金所で換金してる時に、壁の張り紙が目に入った。
「昇格試験って今日だったっけ」
すっかり忘れていた。
張り紙に書いてあるのを見て思い出した。
「昇格試験?」
モカが聞いてくる。
「ああ、受かるとランクを上げてもらえる試験だよ。定期的にやっていて、試験料を払えば受けられるんだよ」
俺はCランクに上がる試験を、5回連続で落ちている。
試験官を相手に戦って、強さを示せれば合格だ。
「マルス、受けてみれば」
「うーん」
ランクを上げたい気持ちはあるけど、以前ほど焦った気持ちも今はない。
モカとの出会いが俺に心の余裕を与えてくれている。
「マルスの戦いを見てる感じ、もっと上にいけるんじゃない?」
「今だったらいけそうな気はするんだけど、ちょっと問題もあってさ」
「問題?」
「地球産の武器は強力すぎて、試験官に大ケガをさせてしまいそうで……」
試験は、大けがになるような攻撃や致命傷となるような攻撃は禁止だ。
「そうなんだ」
「ああ、トランプも黒歴史ノートも攻撃力が高すぎるし……、コンドームなんて一番酷い結果を引き起こすだろう」
「なかなか丁度良いものってないんだね。…………それにしても、あれってそんなにヤバいの?」
後半のつぶやきは小さくて聞こえない。
モカの顔が少し赤い気がする。
そうだ。
良い感じにいけるかもしれないのがあった。
「モカ、頼みがある!」
「良い方法があったの? わたしに協力できることなら」
ありがたい。
そんなに大したことじゃないし、協力してもらえそうだ。
「モカの着ている“せいふく”を脱いで欲しいんだ!」
「えっ??」
「もちろん、そのスカートっていうやつもだ!」
「マルス、何言ってんの~!」
モカがスカートを両手で抑えて叫んだ。
ギルド内の人々の視線が集まるのだった。