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第4話「夢うつつのクーゲルシュライバー」

……

…………

………………



 雲が日の光を閉ざし、雷鳴がとどろいている。

 俺は今、ドラゴンと対峙(たいじ)している……。

 

 こいつは竜の中でも古竜と呼ばれる最上位の魔物だ。

 この古竜の二つ名は“絶望”。

 真の絶望をもたらす存在。


 だが、俺は負けるわけにはいかない。

 相手が伝説の存在であろうともだ。


 俺には守らなければいけないものがある。


「展開っ!!」


 箱から取り出したボールペン(・・・・・)を空中に展開させる。


 モカの世界には複数の言語がある。

 地球産武器の別言語での呼び方は、俺には自然とわかる。

 

 こいつ(ボールペン)のドイツ語での呼び名は、クーゲルシュライバー。


 1200本のクーゲルシュライバー(ボールペン)の展開が終わる。

 古竜を包囲するように展開されている。


「グルゥォォォオオォ!!」


 古竜が、武器の小ささを侮っているかのようだ。


 だが、俺の勝ちだ。


 空に浮かぶ1200の(ペン)に、俺は意思をのせる。


「踊れっ! クーゲルシュライバー!!!」


 俺が腕を振るうのを合図に、神話級の攻撃が始まる。


 1200本のボールペンが聖光の矢となり、全方位から古竜に降りそそぐ。

 一本一本が、聖剣の一振りに匹敵するものだ。


 辺り一帯が光に包まれ、白で塗りつぶされた。


「グルァァァア!!!」


 ボロボロになった古竜は、断末魔の悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。


「ボールペン……、100ダースだ」


 ダースはモカの世界の単位のこと。

 12本で1ダースだ。



――――その日、ドラゴンスレイヤーが誕生した。



………………

…………

……



「……うーん、もう朝か」


 俺は床の固い感触を背中に感じながら目をさました。

 何か夢を見てた気がするけど、内容を思い出せない。


 それにしても、昨日はいろんなことがあったな。


 モカはまだベッドで夢の中だ。


 まだ日が昇る前の時間だけど、俺にはやることがある。

 数年間続けてる朝の訓練だ。


 俺は訓練のために、宿屋の庭に向かうことにした。





「……995……996……997」


 素振りをしていると、後ろから人の気配を感じた。

 振り向くとそこにはモカがいた。


「あ、ごめん。邪魔しちゃったかな?」


「いや、もうすぐ終わるところだったし大丈夫だよ」


「毎朝、訓練してるの?」


「ああ、才能無いか……」


 答える途中で、ミネルヴァの言葉を思い出した。

 才能あるって言ってもらえたんだよな。


 本当に良かった……。

 これからも努力を続けよう……。


「どうしたの?」


 俺がぼーっとしてたのを不思議に思ったようだ。


「いや、努力が実をむすぶっていうことが、こんなに嬉しいものだとは思ってなかったからさ」


 昨日の戦いを思い出す。

 モカの力と俺の力を合わせてだけど、今までにはできなかったことができた。


「ふーん……。昨日の戦いの時のマルス、凄く強かったじゃん。わたしのいた世界では、あんなことできる人いないよ」


「あれは、モカのおかげだ。俺の剣の腕は万年Dランクだからね。最近では、年下にも抜かれてるよ」


「わたしは何もしてないよ。みんなマルスより強いなんてこの世界の人は強いんだね……」


 最近まで、自分でDランクと言う時はちょっと卑屈な気持ちになっていた。

 けど、今はすがすがしい気持ちで言えてる。


「モカは俺にとって、運命の人だよ」


 昨日、俺の運命を変えてくれた。

 これからも一緒にいて欲しいな。

 モカが嫌じゃなければ……。


「ま、マルス!? それって! …………どうしよ、わたし女子校だったから、告白なんて生まれて初めてだよ」


 モカがわたわたしている。

 後半はつぶやきが小さくて聞き取れなかった。

 俺、なんか変なこと言ったかな?


「モカが嫌じゃなければ、これからもよろしくお願いしたい」


「うん、ありがとう。この世界に転移してきたばかりの時はいまいち現実感が無かったけど、だんだんいといろと実感してきて心細かったんだ……」


 これからもよろしくね、とモカが微笑む。


「それとさ、俺と冒険者パーティーを組んでくれないか?」


 俺は今まで特定のパーティーを組まず、ずっと雑用等のヘルプ要員をやっていた。

 けど、モカとだったらパーティーを組みたいと思ったんだ。


 俺の気持ちを大きく変えてくれたモカに恩返しをしていきたい。

 モカがこの世界に慣れるまでの力になりたい。

 いつかモカがこの世界で一人でもやっていけるようになって、パーティーを解消することになってもいい。


 地球産のアイテムが使えくなってもいい。


 地球産のアイテムが使えなくなっても、昨日の想いは忘れない。

 努力が無駄じゃなかったこと、俺にも可能性が広がってること。

 それに気づかせてくれただけでも、モカには感謝している。


 俺は冒険者生活で初めてパーティーを組みたいと思ったんだ。


 モカが可愛い女の子だからというのも…………、無いと言えば嘘になる。


「うん、いいよ。昨日冒険者ギルドでパーティーの説明を受けた時に、わたしもマルスとパーティーを組みたいと思ったんだ」


 モカが人懐っこい笑顔で、パーティーを承諾してくれた。


「ありがとう……」


 モカと握手をする。


 モカのためにも、自分のためにも……頑張ろうと、俺は固く誓った。





 昼間は近場で下位ランクの魔物を狩ることにした。


 Eランクのフォレストラビット4体とDランクのフォレストボア1体を狩ることができた。

 モカはウサギとイノシシと呼んでいた。


 トランプを落ち着いた場所で使ってみたかったんだ。

 トランプは使用して相手に刺さると消えてしまうようだ。


 使い捨てのナイフのようなものだろうか。

 威力は普通のナイフよりも強く、コントロールもしやすいから使い勝手はかなり良い。

 昨日と今日で使った分が減って、残りの枚数は41枚だ。

 消えない武器があるといいのだけど。


 ちなみにコンドームを試させてもらおうと思ったら、「こ、これはまだダメ! わたしが保管しておくから! いいね!」と、顔を赤くしたモカに言われてしまった。


 今まで女っ気が無かったからか、女の子が考えてることはよく分からない……。





 素材を換金しようと冒険者ギルドに帰ってきたときのことだ。

 ふと、後ろから声をかけられた。


「お~、マルスじゃないか? どうしたんだ女連れでよ」


 声をかけてきたのは、何度か雑用で参加させてもらってたパーティーのリーダーの男だ。

 名前はランスだったかな。


「素材の換金に寄っただけだよ。じゃあ……」


 話をしたい相手ではないので、サクッと切り上げようとする。


「つれないね~。おっ、近くで見るといい女じゃねーか」


 ランスが品定めするようにジロジロとモカに視線を向ける。


「俺のパーティーメンバーだ。俺たちは用があるから行かせてもらう」


 ランスにモカをジロジロ見られるとイライラする。


「彼女さ~、こんな万年D男より、うちに来たほうが楽しいよ~。いろいろ(・・・・)とさ」


 ああ、こいつは女好きのいい加減なやつだった。

 けど、Bランク冒険者で冒険者としての実力はあるんだよな。

 顔も良いから女にもてるんだ。


「ふへー、オラオラ系イケメンと鈍感系主人公の逆ハー展開か~……」


 モカがいつものことながら意味の分からないことを言ってる。

 鈍感系って俺のことじゃないよな?


「ん? 俺について来る気になったのか?」


 ランスが自信満々にモカにつげる。

 女性はこういう自信満々な男がいいのか?とモカのほうを見る。


「ごめんなさいねー。あたしの好みじゃないんだ。ほら、マルス行こ!」


 モカは俺の腕を強引に取って、その場を離れるようにスタスタと進む。


 呆然としているランスを見て、少し気が晴れたのだった。





 街で買い物したりしているうちに、あっという間に日も暮れたので、宿に戻ることにした。

 これから二人で過ごすなら今の宿屋だと狭いし、なんとかしないとなあ。


 今夜もやってきた。

 召喚の時間。


 俺もモカも何が出てくるのかドキドキする時間だ。


「いくよ!」


「ああ……」


「――“地球より愛をこめて(トランスレーション)”」


 輝きがモカの手に収束して、アイテムが現れる。


 これはなんだろ?

 魔術書?

 それにしては薄いような。


 黒い表紙の一冊の本がモカの手の上にある。


「あれっ? これってまさか!?」


 モカが慌てたように、黒い本を開いて中を確認する。


 そして……、モカは叫んだ。


「なんで、この恥ずかしいノートが召喚されるのよ~!!」


 モカは叫びながら本を投げ捨てた。


 うん、やっぱり引っ越したほうがよさそうだな。

 ここの壁は薄いから、周りに迷惑だろう。


 モカに投げ捨てられた黒い本を拾ってみる。


 頭に情報が流れてくる。


「黒歴史ノートby萌香(もか)……?」


 モカが書いた本?


「ま、マルス! 読まないで~!!」


 今夜もモカの叫びは響きわたるのだった。

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