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第2話「トランプの使いかた間違ってるから!」

 戦女神ミネルヴァから加護を授かった直後、目の前に黒髪の少女が現れた。


「あれ? ここは??」


 少女が周囲を見回している。


 何が起こった? 転移魔法?

 転移魔法自体を見たことないけど、聞いていた転移魔法の特徴に近かった気がする。


「お、おい……、大丈夫か?」


 悪い奴の可能性もある。

 魔物の可能性もゼロではない。

 人の姿をした魔物だっているからだ。


 ただ、なんとなくこの少女は悪い奴ではない気がしたんだ。

 ミネルヴァの言ってた、これから何かが起こるという言葉が頭に残っていたのもある。


「………………」


 少女はキョロキョロと周囲を見回した後で俺を見つめてくる。

 黒髪は珍しいけど、かなりの美少女だ。


 着ている服はこの辺りでは見ない服だけど、世界は広いから俺が見たことない服なんていくらでもあるだろう。

 背中まである黒い髪が、木漏(こも)れ日を反射させて輝いている。


 歳は13、14歳くらいだろうか。

 背は小さく、見た目だけなら明らかに非戦闘員だ。


「だ、大丈夫か……、どこから来たんだ?」


「ほ、本当に異世界転移しちゃった……。えーと……どこからと言えば、地球からかな?」


 少女はあまり慌てたようすもなく転移したと言う。

 地球といえば、さっき戦女神ミネルヴァの言ってた名前だ。


 たしか……、別の世界だったか?

 ということは、別の世界から転移してきたってことか?


 そんな話は、おとぎ話くらいでしか聞いたことないぞ……。


「俺はマルスだ。悪いけど、突然のことに混乱してる」


 戦女神からの少女出現で、頭の整理が追いつかない。


「え~と、わたしは如月(きさらぎ)萌香(もか)……、こういう時はモカでいいのかな? …………まさか本当にラノベみたいに異世界転移するなんて」


 黒髪少女は可愛らしい声でモカと名乗る。

 最後の方のつぶやきは小さかったのと意味が理解できないのとで、いまいち聞き取れなかった。


「モカと呼んでいい? いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいかな? そっちも俺にいろいろ聞いてくれていいから」


 ミネルヴァの話が本当なら、地球という世界からやってきたモカは、俺の運命を変える存在だと思う。


 仲良く……、っていうのは変か?

 とりあえず、怪しい人とは思われないようにしないとだな。


「いいよ、わたしはマルスって呼んでいい? 多分わたしの方が年下だと思うけど」


「うん、呼び捨てでいいよ」


 年下の女の子とはいえ、久しぶりに女性に名前を呼ばれた気がする。

 嬉しくて(ほお)がゆるむのを抑えるのに必死だ。


 大体いつもパーティーに入れてもらっても雑用ばかりだし、「万年D」とか「荷物持ち」とかそんな呼ばれ方がほとんどだ。


「わかった。マルス、よろしくね。それよりさっきから気になってるんだけど、この辺って何か臭くない?」


 俺は自分の体が臭いのかと思って焦った。


 けど、すぐに臭いの原因にきづいた。


「まずいな……。せめて一体くらいなら……」


 この生臭いにおいはオークで間違いないだろう。


 こんなに近づかれるまで気づかないなんて。

 いろいろと混乱することがあって、周囲に気が回ってなかった。

 普段なら、ここまで近づかれる前に離れることができるのに。


 一体であってくれ……。


 オークはDランクの魔物だ。

 魔物ランクと冒険者ランクは強さの目安となっている。

 それぞれの同ランクが大体同じくらいの強さという意味だ。

 Dランクの俺では、Dランクの魔物一体で手一杯になる。


 俺の願いはもろくも崩れることになった。


「「グゥゥーー!!」」


「くっ!?」


 木々の間から俺とモカを囲むように同時に5体のオークが出てくる。

 人より一回り大きい体を持つ、豚頭の二足歩行の魔物。

 オークどもは、剣やこん棒を手に持っている。


 しかも、その中の1体は一回り大きい上位種のオークジェネラルだ。

 魔物ランクもCだ。

 Cランクの魔物は完全に俺の手にあまる。


「オーク?」


 モカの声だ。


 どうやらオークを知っているようだ。

 別の世界といっても、案外似たような世界なのかもしれない。


 ということは、この魔物の酷い習性も知っているのだろうか。

 女は捕まったら、殺されたほうがマシなくらい酷い目に合うということを。


 くそっ!


 俺は剣をかまえる。


 いつも使っている――ミネルヴァに言わせれば潜在力(ポテンシャル)の小さい――数打物(かずうちもの)だ。


「モカ……。右側のオークを俺が抑えるから、その間を抜けて逃げろ。その方向にまっすぐ行けば街道に出るはずだ。後ろは振り返らず、全力で走れよ」


 俺はモカに小声で告げる。


 この数のオークからは逃げきれない。

 あいつらはあの図体でも、けっこう俊敏だからな。

 けど、俺が足止めになって、さらに運が良ければモカだけは逃げられるかもしれない。


 冒険者として、もっと強くなりたかったな……。


 でも……、最後に女の子を助けられたら、結構かっこいいかもな……。

 俺は覚悟を決めた。


「マルス、今のままではオークに勝てないってことだよね? ちょっと待っててね、たしか地球産の武器やアイテムを召喚できるはずだから……」


 地球産の武器?


 それは戦女神ミネルヴァの言ってた武器のことか?


 それにしても、モカはずいぶん落ち着いているな。

 オークの習性を知っている女だったら、取り乱すと思ったんだけどな。


「武器を召喚できるのか?」


 ミネルヴァの言葉を信じるなら、地球産の武器とやらは潜在力(ポテンシャル)が大きいらしい。

 武器によっては俺が使うことで強力な力を発揮するということだった。


 今はわずかな可能性にでもすがりたい。


「そのはずだよ。えーと確か呪文は……、“地球より愛をこめて(トランスレーション)”と。……銃よ来い、手りゅう弾でもいい」


 モカが呪文を唱えると、モカの手が光り輝く。

 ジュウって何だ?

 強力な武器の名前か?


 よし! ジュウよ来い!


 すぐに光は収まる。

 モカの手のひらの上には、手のひらサイズの四角いものが現れた。


 それが地球産の武器か。

 もしかしてジュウってやつか。


 たしかミネルヴァが言っていたはずだ。

 加護を与えるから、武器を手に取れば理解(わか)ると。


「ごめん! 時間がないから、その武器借りるよ!」


 俺はモカの手の上から四角い武器をとる。


 なっ!?


 武器を手に持った瞬間に、名称と俺が使うとどうなるかが頭に流れ込んでくる。


「これは……、トランプというのか? 凄い可能性を感じる……」


 これがミネルヴァが魔剣に匹敵すると言ってた地球産の武器か……。


「……えっ? なんでトランプが出てくるの? 武器やアイテム……、たしかにアイテムも出るって言ってたけど、大半は武器が召喚されるって言ってたのに」


 モカが凄く焦っている気がするけど、今は時間が惜しい。

 それにつぶやきが小さくて、いまいち何と言ってるかが聞き取れない。


「話はオークを倒してからだ! トランプよ、俺に力を貸してくれ!!」


 その潜在力(ポテンシャル)を俺に貸してくれ!


 俺は不思議な素材でできた箱を開ける。

 中には不思議な素材でできた、手のひらサイズのカードがいっぱい(たば)になっている。


「ちょっと、マルス! それ、武器じゃないよ!」


 モカが何か言ってるけど、トランプの潜在力(ポテンシャル)を引き出すために集中していて、なんて言ってるか聞こえない。

 きっと応援してくれてるんだろう。


 ミネルヴァの加護のおかげか、この武器(・・)の使いかたは直感的に分かる。


 こうだ!


「魔を(きざ)め! トランプ!!」


 俺は人差し指と中指にカードを一枚はさみ、オークに向かってカード投げつけるように、腕を振り下ろした。


 俺の手からはなれたカードが、一体のオークの胸に刺さった。

 潜在力(ポテンシャル)を引き出されたトランプは、斬属性をともなっている。

 スーっとオークの心臓の位置に吸い込まれていく。


 不思議な素材だが、切れ味はナイフの非じゃないほどに凄まじい。

 急所への一撃になったようで、オークはその場に崩れ落ちる。


 仲間がやられたのを見て、他のオークがひるむ。


 すぐさま、残りのオークにもトランプをはなつ。


 ドサッドサッとオークが倒れていく。


 ただオークジェネラルだけは、そう簡単にやられてくれないようだ。

 小型の丸い盾で、トランプを弾かれた。


 オークジェネラル以外のオークは全て倒せたようだ。

 

「グルルゥゥウゥ!!」


 仲間をやられて怒り狂ってることが伝わってくる。


「ちょっと! マルス!」


 モカが後ろから声をかけてくる。

 戦闘中に後ろを振り向くわけにはいかないので、そのまま返事をする。


「大丈夫だ! トランプの真価はこんなものじゃない!」


 俺は数あるトランプの中から、道化師のような絵柄が描いてあるものを取り出す。

 これを使った場合のだいたいのイメージは、頭に浮かんでいる。


「グラァァー!」


 オークジェネラルが剣を振りかぶって、こちらに突進してくる。


「終わりだ! 道化師の爆炎(エクスプロージョン)!!」


 俺はそれを迎え撃つように、道化師のカードを指から放つ。


 指から離れたカードが、火の玉となってオークジェネラルに向かう。


 あっという間に火の玉がオークジェネラルに到達する。


 爆発音が響き、周囲が煙につつまれる。


 煙がはれると、そこにオークジェネラルの姿は跡形も無く、地面にえぐれたような跡が残っているだけだった。


「ふぅ……」


 俺は一息ついて、モカの方を向く。


「マルス……」


 モカは酷く驚いているようだ。

 俺が武器(・・)潜在力(ポテンシャル)をモカの予想以上に引き出したから驚いているのだろうか。


「モカ、ありがとう。オークを倒せたのは完全にモカのおかげだ」


 モカを助けられて良かった。


 それに……、今まで才能が無いと思ってた自分自身が救われた気がした。

 今までの特訓は無駄じゃなかったんだ。


 俺の今までには意味があったんだと……。


 そんなことを考えていると目頭が熱くなってきた。

 戦いの砂ぼこりが目に入ったようだ……。


 そんな、俺に向かってモカが叫んだ。


「トランプの使いかた間違ってるから!」

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