第14話「魔物襲来に立ち向かえ!(頭にブラジャーを添えて)」
ティターンとの戦いから数日が経った。
一連のことは、マックが冒険者ギルドに報告してくれた。
ティターンに関しては、消滅してしまったため討伐部位が無く、報酬が出なかった。
ギルド側もマックの報告に半信半疑だったらしい。
それでも、異常が起こってることは他の冒険者からの報告からも確からしく、記録には残してくれたそうだ。
一方、バジリスクとオーガバジリスクの討伐報酬はしっかり出た。
証明部位が残っていて良かったよ。
Bランク魔物の報酬は今まで見たことがないくらいに多いものだった。
それとは別に、ここ数日のモカの召喚アイテムがある。
どれも素晴らしいアイテムだ。
5つの新召喚アイテム。
【ボールペン 12本】
モカは「安物ボールペン1ダース」と言ってたな。
1回の召喚で一気に12本あらわれた。
【スクールバッグ 1つ】
モカが通っていた学院の指定バッグらしい。
中身は空っぽで召喚された。
【美少女フィギュア 1体】
これが召喚されたとき、モカとシルヴィは使いかた予想クイズっていうのを始めた。
俺が答え合わせ役だ。
ちなみに、モカの予想は「フィギュアが動き出して戦う」で、シルヴィは「やっぱり、投げて爆発させる」だった。
なんだよ、“やっぱり”って。
【腕時計 1つ】
モカに見てもらったら、時計が止まってるとのことだった。
腕時計の突起をカチカチと押しながら、「眠らせる針が飛んだりしないのかな?」とか言ってた。
なんのこっちゃ?
【チェスの駒 1セット】
透明な素材でできた32個の駒。
まるでキレイな宝石みたいだ。
地球の遊び道具らしい。
見た目もあいまって、貴族に売り出したら売れそうだな……、と思った。
現在ギルドから、街の外に出るのを控えるように勧告が出ている。
それもあって新アイテムはいまいち試せていない。
ちなみに“スクールバッグ”は、大きさに関係なく様々なものを収納できる便利なものだ。
モカが「つ、ついにアイテムボックスきたよ! 異世界チートらしくなってきたよ」と、嬉しそうにはしゃいでいた。
たしかにスクールバッグは、大きな魔物を狩った後に持ち帰るのに便利そうだ。
俺が潜在力を引き出している時間が切れても、あとでまた力を引き出せば問題なく、中の物を取り出すことができた。
バッグの中で物が混ざることなく、しっかり分別分類されてるのも有難いね。
◇◇◇
冒険者ギルドの状況発表を待っていた日のことだ。
突然、街中に警鐘の音が鳴り響いた。
猫状態のシルヴィを抱えて、ベッドで横になっていた時のことだった。
鐘の音にびっくりしたシルヴィ(猫)が、飛び起きた。
俺の腹を足場に思いっきり蹴り上がってだ……。
「グフッ!?」
空気を一気に吐き出させられた。
猫って小さな足に力が集中するから、結構痛いんだな……。
そんなことを思いながら体を起こすと、部屋の扉が開けられた。
「マルス! 何かあったみたいだよ」
モカが、少し慌てた様子で部屋に駆けこんできた。
「ああ、すぐ用意をする」
街中で警鐘がなるなんて、相当な異常事態だ。
ここ数年は無かったことだ。
一番考えられそうなのが、魔物の襲来だが……。
そう思って俺たちは家の外に出た。
俺の予想は当たっていたようで……。
「何あれ……?」
モカが城壁近くの空を見つめてつぶやく。
「あれはワイバーンだな」
ここからはまだ遠いけど、5体も見える。
ワイバーンはれっきとしたAランクの魔物だ。
大きさも先日のティターンより一回り小さいくらいで、かなり大きい。
見た目が竜に近く、厳密には違うのだが下位竜と位置付ける地域もある。
「空飛ぶ恐竜みたい……、ティラノが飛んでる……」
モカがつぶやいている。
地球にも似た感じの魔物がいるのだろうか。
「モカ……。あれはAランクのワイバーンだ。このままだと街に大きな被害が出るのは間違いない。“災害”と呼ばれる凶悪な魔物だ」
「見るからにヤバそうなのは分かるよ。多分、この前の巨人よりもヤバい感じだよね……」
モカもワイバーンの危険さを理解してるようだ。
Aランクの魔物が同時に5体というのは、実際相当にヤバい。
「ちょっと行ってくるよ……」
何処にかは言うまでもない。
俺の言葉を聞いて、モカが心配そうな顔をする。
「大丈夫だ! ティターンに傷一つ負うことなく勝ったのを見てただろ?」
実はあの戦いもギリギリだった。
地球産アイテムが一つでも少なかったら、どうなっていたか分からない。
だけど、そんなことは顔に出さず、俺は見栄をはった。
大きな街だ。
俺が行かなくてもAランクの冒険者たちがなんとかしてくれる可能性も十分にある。
けど、俺には地球産のアイテムがある。
力を持つ者はそれを皆のために使う義務があるなんて、きれいごとを言うつもりはない。
ただ、俺は逃げたくないだけだ。
自分のためにも、地球の武器を使ってワイバーンを倒したい。
モカと一緒に住んでるこの場所を守りたい。
「……うん。無事に帰ってきてね!」
モカが笑顔でうなずいて、俺に抱きついてきた。
予想外のことに、ティターンとの遭遇時よりもドキドキした。
華奢でやわらかな感触……。
いつも一緒にいるとはいえ、これだけ近づくことはあまりない。
なんだか良い匂いもしてきた……。
普段とは違うモカにドキドキする。
もしかしたら、見栄を張ったことは気づかれてるかもな……。
「シルヴィと家の中で待っててくれ」
モカの背中をポンポンと優しく叩く。
少し名残惜しかったけど、モカと体を離す。
俺はスクールバッグを肩に背負う。
足元にスリスリと寄って来たシルヴィを、撫でて人化させる。
俺も手慣れたもので、人化する瞬間にシルヴィに布をかける。
布を体に巻いた、猫っ娘が現れた。
「いってらっしゃいにゃ!」
俺はうなずき、ブラジャーを頭に巻く。
「ち、ちょっと!? 何で良い雰囲気だったのに、ブラジャー巻くのっ!? ……ワイバーンに向かうマルスが、ちょっとカッコイイって思ったのに」
モカが何やら不満そうだけど、頭に巻いておけば防具になるし、いつでも外して剣にできるし良いことづくめだろ。
この前、ティターン戦の後でちゃんと説明したのになあ。
俺はワイバーンの方に歩みを進める。
後ろではモカが何やらブツブツとつぶやいていた。
「……数年間、毎日の使用方法は頭から離れないよ。どうしても武器とは思えないよ……」




