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第1話「戦女神と地球の少女」

 俺の名はマルス。

 最近18歳になったばかりの、しがない冒険者だ。

 ちょっと思い込みが強いと人に言われるけど、俺はそんなこと無いと思ってる。


 今は森の中、一人で日課の早朝訓練をしているところだ。

 毎朝3時間の訓練を欠かさずやっているけど、いまいち強くなれないんだよな。


「フッ! ハッ!! フン!」

 

 俺は剣を振る。

 一振り一振り集中して素振りをする。


 ふう……。


 素振り1000回終了と……。


 他の冒険者よりも訓練の時間は多いと思うんだけどなあ。

 どうも剣技が向上しない。


 そんな俺はいまだにDランク冒険者だ。

 冒険者ランクは、上からS、A、B、C、D、Eの6ランク制だ。

 Eが初心者ランクだから、Dは実質一番下なんだよな。


 俺は、昇格試験も5回連続で落ちていて、周囲から万年Dランク冒険者と馬鹿にされることもある。


「俺、剣の才能無いのかなあ……」


 ついぼやいてしまった。


 一向に剣の技術が上がる気配は無いし、弓や槍もからっきしだ。

 最近は、年下の冒険者にも抜かれたりしてるから、なおさらへこむ。

 みんなが夜飲みに行ってるときも鍛えてるんだけどなあ。


「はぁ~…………。だめだめだな、俺……」


 冒険者の道はあきらめて、農家でも始めようかな……。


 ……いや、まだ諦められない。

 そんな簡単に諦められるなら、初めから冒険者を目指したりなんかしていない。


 訓練の時間が足りてないんだ!


 今の訓練量を倍にしてあと一年、あと一年だけ頑張ってみよう!


 その時、頭の中に女の子の声が響いてきた。


『才能が無いなんて、そんなことないのじゃ』


 その声は幼いのに、しゃべりかたはひどく歳を感じさせるものだった。


「ついに、幻聴がきこえるようになるとは……。いろいろとヤバいな……」


 いろいろと精神的に追い詰められてるのかもしれない。

 しかも女の子の声で、自分を慰める言葉を言わせるとか……、ヤバいな。


『幻聴ではないのじゃ! (わらわ)は戦女神ミネルヴァじゃ』 


 周りに人は居ないし、ちょっと幻聴に付き合ってやるか。

 気分転換するのにちょうど良い。


「その戦女神様がどうしたのさ? 俺に剣の才能が無いことは、認めたくないけど……、事実だろ?」


 言ってて悲しくなる。

 それに見てる人がいたら、ブツブツ独り言を言ってる危ない男だ。


『むう……、妾の存在を信じないのは腹が立つがまあ良いのじゃ』


 こんな舌ったらずな戦女神がいてたまるかよ……。

 俺の不満をよそに女神ミネルヴァは続ける。


『お主はちょっと変わっててな、たくさん訓練しても剣の技術がほとんど上がらないのじゃ』


「ああ……、やっぱり才能ないってことじゃんか」


『そっちの方の才能はな。お主はそれを補って余りあるほど、ある才能を持ってるのじゃ』


 幻聴だと分かっていても、才能を持ってると言われると嬉しいものだ。


「それで、俺はどんな才能を持ってるんだ?」


『お主は、武器や道具の潜在力(ポテンシャル)を引き出す才能が超一流なのじゃ』


「武器や道具の潜在力(ポテンシャル)を引き出す才能?」


 どういうことだ?

 悔しいけど、俺は剣を上手く扱えてはいない。


『そうじゃな……。もし、魔剣とか聖剣とかを扱わせたら、お主は歴史に名を残すことになるじゃろう』


 その後、ミネルヴァから詳しく話を聞いて、彼女の言いたいことがやっと分かった。

 俺はミネルヴァとの話に夢中になっていて、いつの間にか幻聴とかそんなことはどうでも良くなっていた。


 どうやら、俺が今までやっていた訓練は、“アイテムの潜在力(ポテンシャル)を引き出す力”をひたすら鍛えるものだったらしい。

 それで剣技とか剣の技術(・・)の訓練には全くなっていなかったらしい。


 複雑な気分だ……。

 剣技の訓練をしていたつもりが、変な能力を鍛えることになっていたというのは。

 ミネルヴァが言うには、その変な能力を尋常じゃないほど鍛えていたらしい。

 彼女曰く「結果が出てないのに、よくまああそこまで過酷な訓練を続けられるものじゃ」とのことだ。


 剣の才能があったりする上位ランクの冒険者でも、俺ほど潜在力(ポテンシャル)を引き出す力はないらしい。


 俺がいつも使ってる普通の剣は、そもそも潜在力(ポテンシャル)が小さすぎて、力を引き出そうにも引き出すものが小さすぎて、強さを発揮できないという。


 俺と上位ランクの冒険者が、お互い同じ魔剣を持って戦ったら、俺が勝つらしい。

 魔剣という潜在力(ポテンシャル)の大きいものなら、その力を十分に発揮して戦えるとのことだ。

 

 いまいち信じられない。

 それに……。


「でも、結局は魔剣や聖剣なんか手に入らないんだから、何も変わらないだろ?」


 そんな希少で高価なものは、しがない冒険者の俺には手に入れられない。

 だったら、今までと何も変わらないのではないだろうか。

 

 ああ……、やっぱり農家になろうかな。


『それがじゃな……。これからちょうど良いことが起こるのじゃ』


「ちょうど良いこと?」


『まあすぐにわかる。そうじゃ! 妾はお主のことが気にいったから、加護をあげるのじゃ』


 ミネルヴァの言葉と同時に、俺の体が光に包まれる。

 光は俺の体に入っていくように、すぐに消えた。


「加護ってなんだ?」


『戦女神の加護じゃ。欲しがる人間は多いけど、なかなかあげないものじゃ。凄いじゃろ~? 敬えよ~』


「そうなのか? それでこれって何が変わるんだ?」


『ムッフッフ。お主の持つ“アイテムの潜在力(ポテンシャル)を引き出す力”が数段増すのじゃ。特に地球産のアイテムの潜在力(ポテンシャル)を引き出す力は、相性が良いゆえ恐ろしいほど強力になるのじゃ』


「ちきゅうさん?」


『そうじゃ。地球とは別の星……って言っても分からないな。別の世界のアイテムのことじゃ』


 ちょっと混乱してきた。

 別の世界って何だ?


「別の世界がどうしたんだ?」


『まあ、百聞は一見にしかずじゃ。妾の加護もあるし、見れば感覚的に分かるはずじゃ。それじゃ、またな~』


「ちょっと! お~い!!」


 勝手に声をかけてきて、勝手に去っていった。

 一体何だったんだ……。

 分からないことだらけだ。


 でも、今はもう幻覚では無かったと思う自分がいる。

 加護をくれたらしいけど、確かに体に力が湧いてくる気がする。


 その時、急に目の前の空間がグニャリとゆがんだ。

 俺が何も反応できないでいると、その空間のゆがみは少女を吐き出した。

 その後すぐに空間のゆがみは収まっていった。


「あれ? ここは??」


 目の前の空間から黒髪の少女が現れた。


 俺よりいくらか年下に見える少女は、キョロキョロと周囲を見回している。

 髪色が黒というのは珍しく、来ている服も見たことのないものだ。


 ただ、なぜかその少女には見とれてしまう可愛らしさがあった――。  

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