65話 新拠点といばらの道
ようやくコリアラ王国まで到達した。魔国や帝国と比較すると街道が整備されていない。街道整備に関してメリットとデメリットがあるらしいが、地球じゃ先進国は大半の道が舗装されている事を考えると言わずもがな。
未開地の新拠点でリリアナから霊薬に関する情報を聞き出す。だが知らない可能性の方が高いと思っている。入手できなかった場合は、所持している薄いエリクサーの濃度を上げて治療を試みよう。高名な錬金術師を探して依頼する。魔国の手が及んでいない国まで移動すれば見つかるかもしれないな。
早くアルカを治療して、そして元気を取り戻してほしい…
王国内でも街などには寄らず未開地へ直接向かう。荷馬車の揺れが酷く、ラミの気分が悪そうだ。御者をしているシロへ少し速度を落として進むように伝える。
「ラミ、大丈夫か?」
「うん…」
「休憩が少なくて悪いな。」
「うん…いいの…」
コリアラ王国まで来ると魔国の追手は大丈夫だろう。
だが、ハグルの街に住んでいたころ、サザ教の異端審問官がカトリク教の聖職者を捕縛して教会を乗っ取ったと報告を受けた。その時にハグルの街まで魔国の手が伸びている危機感、戦争による消費が原因の不景気、万が一の避難先確保が理由で未開地に拠点を作る方向へ動き出したな。
今はサザ教と魔国軍は同一と見なさないと危険だな。
そう考えるとコリアラ王国も安全じゃないな。
未開地の拠点メンバーは特に問題ないが、今いるメンバーは魔国から追われる身だから俺達だけで遠方の国へ移動するか。
その数日後、特に何事もなく目的地である未開地へ着いた。
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コリアラ王国の西側は未開地だ。関所などもなく、王国との明確な境目もない。途中で街道がなくなり目前に森林が出てくれば、その先が未開地だ。森林に広くはないが馬車が通れる程度の踏み均された道ができていた。おそらく新拠点に残った連中がハグルの街の経路として作ったのだろう。
その道を荷馬車で進み、しばらく走ると丸太で組み合わせた質素な小屋が何棟も出てきた。新拠点の開拓を依頼してから、まだ数か月しか経過していない。寝床を確保するのに最優先で建設したのだろう。自給自足ができるように開墾も指示したのだが、作業途中なのか作付けなどは見当たらなかった。まあ短期じゃ無理だろうし。
帝国からの避難民と思われる男性に声をかけ、エボルを呼んでもらった。
「テセウス様!ご無事でしたか!」
「エボル。迷惑をかけたな。色々とあるんだがアルカの救出はした。」
「それは喜ばしい限りです!」
「あぁ…」
「?? どうかされたのですか?」
「いや…何でもない。リリアナを呼んでくれ。」
エボルが近くにいた男性にリリアナを呼びに行かせる。
しばらくして、質素な農民服を着用したリリアナが現れた。
「あら、お久しぶりですですわ。テセウス様」
「ああ、久しぶりだな。少し込み入った話がある。向こうまで来てくれ。」
エボルから離れ、皆が待機している荷馬車へ歩く。
そして俺達以外には話が聞こえない距離でリリアナと向き合った。
「リリアナ、まずサムス男爵との件だが、俺は謝罪するつもりはない。」
「まあ、そうですわね。保身のためにわたくしを除籍するぐらいですもの。テセウス様からの手紙を読み、お父様の性格を考え、色々と調べましたのよ。その結果が…事実で……あり、御家が……取…り壊しになっ………」
話の途中でリリアナが泣き崩れた。
俺は彼女が落ち着くまで無言で佇んでいた。
………
……
…
「ふぅ…、見苦しいところをお見せしましたわ。」
「いや、いいんだ。本題は別にあるんだ。」
「??」
「単刀直入に聞く、霊薬の作り方と必要材料を知っているか?」
「なぜですの?」
「こっちに来て荷馬車の中を見てくれ…」
リリアナにアルカの現状と起きた事を簡潔に伝えた。
彼女は震え、そしてアルカへ抱き着き、アルカは暗い表情のままだった。
「テセウス様、申し訳ございませんが、わたくし知りませんの。霊薬に関する情報は文書などにも残さず、口伝で、貴族当主のみが知る情報と聞いておりますわ。」
「そうか…ありがとう。」
あとはエボルに話があるから、持ち場に戻ってくれ。と伝えた。
荷馬車から少し離れたエボルのところまで歩き、再び話しかける。
小屋の中で話しませんか?とエボルから提案されたが、時間がないと断った。
今の新拠点には、エボルやオンジュ、他のエルフ族、ジャギ隊やリリアナ、アルカの弟子や帝国からの難民、あと獣人村長の村からの希望者などを合わせて200名ほどで暮らしていた。
ミスリルを最後に換金した時点で、クラン資産は金貨8950枚(8億9500G)を所持していた。その後、魔道具ポットの販売やミスリル銃の開発費などで増減はあるが、金貨9000枚ほどだったと思う。
俺の魔道具袋に金貨3000枚に収納していたので、約6000枚(6億G)ほどが新拠点の予算だったと思う。
もう俺が居なくても十分に暮らしていけるだろう。
「エボル、ミスリル銃の開発状況はどうだ?」
「はい、アルカ様の弟子達が優先事項として、弾丸を鉛5000発、ミスリル1000発、銃本体100丁の製造の指示を受けていると聞いております。」
「どれぐらい製造が進んでいるんだ?」
「鉛の弾丸2000発、ミスリルの弾丸1000発、銃本体は20丁と聞いております。」
「そうか、鉛の弾丸1000発、ミスリルの弾丸1000発、銃を10丁持っていく。残りは拠点で使ってくれ。」
「もう行かれるのですか?」
「ああ、あまり時間がないんだ。あと馬車も1台持っていく。ここにも馬車が必要だろうから、渡している資金で購入するなどして、対応してくれ。」
「はい。馬車と銃などを用意いたします。少しお時間をください。」
エボルがテセウスから離れ、誰かに声を掛けていた。馬車と銃などを用意させているのだろう。そして再びテセウスのところへ戻ってきた。
「テセウス様、リナとレナを連れて行ってくれないでしょうか?」
「エボル、お前にだけ俺達の置かれている状況を説明する。他言は無用だ。」
………
……
…
「という状況だから連れてはいけない。危険すぎる。それに俺達は、もうここには戻ってこないだろう。」
エボルが突然、目の前で土下座をはじめた。
すると姉妹が走ってきてエボルに並び、同じく土下座をはじめた。
「テセウス様、リナとレナとは既に親子の縁を切っておりますが、一緒に暮らした時間まで失ったわけではありません。二人のことは誰よりも理解しております。この二人の願いは、テセウス様と共に歩むことなのです。なにとぞ、なにとぞ、この願いをお聞きくださいますよう、伏してお願い申し上げます。」
「「………」」
リナとレナは何も言わず、伏せたままだった。
「わかってくれ。本当に連れて行けないんだ。俺には大切な目的がいくつもある。今、俺といる連中とは何度も死線をくぐり抜けて、ギリギリで生きている状況なんだ。リナとレナを守りながら進んでいくことはできない。そんな簡単な連中を相手にしていないんだ。」
「私たちのことは守って頂く必要はございません。自分の身を守れないときは潔く散ります。また、不要な時はいつでもお捨てになってください。私たちはテセウス様に従事することが天命であります。」
「ふぅ……、少し待ってくれ…」
俺は荷馬車へ戻り、皆に相談した。
『主殿、両翼殿は覚悟を持ち歎願しております。私は反対ではありません。』
「アタシはテセウスの意見に異論はないよ。」
「ラミは連れて行ったらすぐ死んじゃうと思うんだけどなー」
『ふむ、ワシもラミと同じ意見じゃ。あの二人だと死ぬじゃろ。」
「クロ、居るか?」
『いるゾ』
「クロはどう思う?」
『手が足りナイ 増やすべきダ 死ぬならソレまでダ』
皆の意見を聞き、姉妹をどうするのか決めた。
「エボル、リナ、レナ、まずは立ってくれ。」
三人は動こうとしなかった。
「ちゃんと俺の考えを伝えたい。立ってくれ。」
ようやく三人が立ち上がった。
「先に宣言しておく。俺についてくるなら確実に死ぬ。これは誰かがお前たちを守るとか守らないとかではなく、お前たちは弱すぎるからだ。そして鍛えても無駄だと思う。そんな時間もない。また才能もない。お前たちはただのエルフだ。俺達とは違う。普通の人族だ。」
「「「………」」」
「いま、お前たち三人の前に魔物がいる。分からないだろ?」
「「「???」」」
「クロ、シャドーたち、解除しろ」
幻影化を解除したクロとシャドーウルフたちが並ぶ。
「「「ひぃ……」」」
「こう言うことだ。ラミ、俺の横にきて獣化しろ」
「はーい」
ラミが獣化してジャバウォックの姿になる
「「「ガクガクガク…」」」
「おい、ハナコ、俺の横にきて獣化しろ」
『うむ』
ハナコが獣化してレッドドラゴンの姿となった
「ゴボボッ…」
エボルが泡を吹いて倒れた。
「グッ…ゴフッ…」
レミが小便を漏らし泡を吹きながら立っている
「ゥゥゥ…ゲボッ…」
ラミは嘔吐し、涙を流しつつも立っている
「この魔物たちと戦えるか?敵はこれより強大でそして強い。口だけならなんとでも言える。こいつらが本気になればお前たちは1秒も掛からず死ぬ。」
「それで…も、わ…わたしたち…は…あなたについ…ていきたい…」
「……そして俺は、この連中を確実に殺せる。それでも敵は俺よりも強い。俺たちが進む道はそんな道だ。この道にお前たちは何の役に立つ?」
「テセウス?」
「アルカどうした?」
「連れて行ってあげなよ」
「そうか、わかった。リナ、レナ行くぞ」
「「……」」
鶴の一声で同行が決定した瞬間だった。




