ヤキモチ
麻里「さてw 業務報告を聞かせてもらえるかな?」
いつものカフェ。
そして俺の前にはストロングブレンド。
席に着くなり、有無も言わさず麻里さんに注文された。
俺が苦いコーヒー苦手なのをわかっている、
そして、ストロングブレンドとか、いかにも強烈そうなブレンド。
俺「えっとー、先ず最初から説明します。」
麻里「…どうぞ。」
俺「この前話した、昼休みにピアノを弾いての営業。それを今日の昼休みに決行しました。」
麻里「…それで?」
俺「……生徒が何人か来ました。音楽室は二階にあるので、多分、上級生だと思います。」
俺「そして…」
麻里「性別は?」
………
俺「………女性です。」
麻里「何人来て、そのうち何人が女性だったの?」
俺「……多分、5人くらい」
麻里「女性は?」
俺「………全員、女性です。」
麻里「………続けて。」
…………怖いんですけど
俺「……そして、ハードロックとビートルズを交互に演奏してたんです。そして…」
麻里「曲目は?」
…………
俺「Alwaysを弾きました。」
麻里「…名曲ね。私も好きだよ。」
俺「……そうですよね! 麻里さん好きかな?って」
麻里「…続けて。」
俺「……はい。」
俺「彈き終わったら、女性の一人が、君達でバンドを組んでいるのか?と聞いてきました。」
麻里「…それで?」
俺「俺達はそれぞれ別なバンドに所属していると答えました。」
麻里「誰が?」
俺「俺がです。友達は最初一緒に組んでると言いかけましたが、俺が否定したので対バンだと答えました。」
麻里「……そこまでは良いわ。」
俺「……はい。」
麻里「………続けて。」
俺「女性達はチケットを買ってくれました。そして、まだチケットはあるか?と、聞かれたので、あると言いました。」
麻里「………そして、放課後ね?」
俺「………はい。」
麻里「………続けて。」
…………やっぱりこの後が問題なのか。
俺「放課後に昼間の女性達とは別な女性が訪ねて来ました。」
麻里「指名されたのは誰?」
俺「俺です。」
麻里「理由は?」
俺「…どうやら前にバンドの誘いを断ったらしい相手との事です。」
麻里「………覚えてなかったの?」
俺「……はい。」
麻里「続けて。」
俺「昼間の女性達は、かなり大袈裟に俺の演奏を伝えたらしく……」
麻里「大袈裟じゃないよ。俺君は凄いんだから。」
俺「…………はい。そして、チケットを買ってくれました。」
麻里さん、紅茶を一口飲んで、
麻里「……その後ね?」
俺「………女性はチケットを買うので、他のメンバーにも会って欲しい。対バンの要望も出したいと言いました。」
麻里「………そして行ったのね?」
………なんで、こうなるの?
………先週は、あんなに楽しかったのに!
俺「………はい。」
麻里「………そしてこれね?」
麻里さん、メモ用紙をヒラヒラさせる。
俺「そうです。メンバー全員がチケットを買ってくれて、尚且つ、対バンの要望として自分達のメンバー表をくれました。」
麻里さん、はーっと溜息をついて、
麻里「……このメンバー表にはバンド名、音楽のジャンル、各メンバー名、担当楽器………」
麻里「…………そして、何故か全員の携帯番号とアドレスが書いてあるよね? しかも手書きで?」
俺「……そうですね。」
麻里「………名前から見ても全員女性ね。」
俺「そうでした。」
麻里「それで?」
俺「対バンの要望は聞くけど、自分じゃ決められない。リーダーに話を持っていくので、そちらのリーダーを教えてほしいと言いました。」
麻里「そのリーダーの女性が、この赤丸のついた人ね?」
俺「そうです。」
麻里「そして?」
俺「こちらのバンド名とリーダーの名前を教えてほしいと言われたので、バンド名とB子さんの名前を伝えました。」
麻里さん、別な紙をヒラヒラさせて、
麻里「今度はこっちね?」
…………だって麻里さん、他の女性と話したって
…………業務報告したら良いって!
俺「そうです。」
麻里「続けて。」
俺「バンド名を告げた途端、女性達が騒ぎ始めました。」
麻里「どうして?」
俺「どうも麻里さん達のファンらしいです。」
麻里「……もう、俺君もメンバーなんだから、麻里さん達の、じゃなくて、俺達の、でしょ?』
俺「………はい。」
…麻里さんの顔色が変わったのはメンバー表を見てからだった。
それまでチケットが売れたことを一緒に喜んでくれたのに……
麻里「それから?」
俺「…自分達と仲の良いバンドも、あなた達のファンなので、会って欲しいと言われました。」
また、麻里さん、ふーっと溜息をついて…
麻里「それで会ったのね?」
俺「…会いました。」
麻里「そして、さっきと同じようなやり取りね?」
俺「そうです。俺達とつながりが出来て嬉しいと言ってました。」
麻里「……俺達なのかな?」
俺「……えっ?」
麻里「………そして、さっきと同じように、こっちにも手書きのアドレスと携番が?」
俺「そうです。その場で書いてました。」
麻里「そして、チケットは完売?」
俺「いや、友達との共同宣伝なので、まだ少し残ってます。」
麻里さん、メンバー表をトントン指で叩きながら…
俺の目を見て…
そして、やっと笑顔を作ってくれた…
麻里「コーヒーにミルクと砂糖を入れて良いよw」
……助かった?
麻里「ごめんね。ちょっとイジワルになっちゃったw」
………機嫌直ったぁ…良かったぁ…
麻里「私も甘く考えてたよ…」
麻里「学校での俺君って知らないし、友達も少なくて、女子とも話さないって言ってたから、凄い地味なのかと思ってたw」
……………いや、凄い地味ですが?
麻里「考えてみれば、入学早々に色んなバンドから誘われたんだもんねw そんな人が突然ピアノを弾き出したら騒ぎになるわw」
…………大した騒ぎにもなってないと思うんですよ?
麻里「俺君、見た目も悪くないし、そりゃ女の子もアドレス渡すよね?」
………………は?
俺「………見た目が悪くないなんて言われるの、初めてなんですが?」
麻里「………俺君、また自分を過小評価するんだ?」
いやいやいや……
俺「本当ですよ!見た目褒められた事なんて無いですよ!」
麻里「………ちょっと携帯貸して?」
俺「え? …あ、はい」
麻里さん、携帯をポチポチいじって、例の自画撮りを出して
麻里「前も思ったけど、俺君って、お姉さんそっくりだよね?」
俺「………小さい頃は、よく双子に間違えられました。」
麻里「お姉さん美人だよね?」
俺「は? ………見慣れてるので何とも?」
麻里「少なくともブスじゃないよね?」
俺「………まぁ少なくとも」
麻里さん、ニヤッと笑って
麻里「そっくりな俺君がブスって事はないよね?w」
また言質を取られるパターンだ…
俺「………男と女じゃちょっと違いませんか?」
麻里「そお?元はこんな美人さんのお姉さんと同じ顔だよw」
麻里「確かに髪型や服装はアレだけど、そのぶん背も高いでしょ?」
俺が言い返せないでいると
麻里「ふふーんw 良いこと思いついたw」
俺「え?……なんですか?」
麻里「まだ内緒w とりあえずB子に話しに行こうよ?」
〜〜〜〜〜〜
スタジオでB子さんに事の次第を伝えると、
B子「で? そのメンバー表を麻里に見せたの? お前、馬鹿だなぁwwwwwwwwwww」
大笑いされた………。
…………なんで?
B子「私、対バン希望でメンバー表なんてもらった事無いw」
……………はぁ?
B子「チケットもらう事はあるけどねw」
……………どうゆうこと?
B子「で?麻里は? 当然怒るよな?w」
麻里「………………。」
B子「麻里さぁ〜ん、対バン希望来ましたよぉ〜 とか言っちゃったの?w」
………………あっれー?
B子「お前の話だと、少なくとも最初のバンドは、うちらの名前を出す前に対バン希望してきたんだよな?w」
B子「つまり、最初のバンドが対バン希望してるのは、うちらじゃなくて、お前w」
B子「多分、後のほうも対バン希望してるのは、うちらじゃなくて、お前w」
B子「このメンバー表を見てわからんかな?w もっとスペースあったら好きな物とか血液型とかも載っけてたぞw」
……………え?え?え?
B子「このホームラン級の馬鹿は、これをニコニコ笑顔で麻里に見せた訳だw」
……………ちょっと待って………
B子「ぷぷw めっちゃその光景見たいわw」
……………いや、だから待ってって
B子「で? つながりが出来て嬉しい? それも麻里に言っちゃったの?w」
……………時間って戻せないの?
B子「馬鹿だーwww」
……………昼休み前まで戻したいんですが?
B子「麻里どんな顔してた?w ねぇねぇ麻里ちゃん、どんな顔してたの?wwwww」
………………夢かな?これ?
B子「怒るよねぇーww でも本人、何が悪いかわかってないの?ww」
………………きっと夢だよね?
B子「ぷぷw もしかして、今やっとわかった?w」
………………さっきの麻里さんの態度がやっと理解できた
B子「これを見せられた麻里がどんな気持ちか、やっとわかった?wwwwww」
…………………はい。わかりました。
B子「『大好きな俺君から、自分のファンクラブの名簿見せられたの…麻里、悲しい』とか?wwww」
……………………あーーーどうしよー
なんか立ってられなくなって、床にへばりつく俺。
B子「やっぱお前らおもろいわwwwwwwww」
なんか深い土下座みたいなポーズになってる俺
B子「何それww土下座?wwwwww麻里ちゃん許してくれるかなぁwwwwwwwwww」
背中にムニュっと何かが乗った?麻里さん?
麻里「許すw」
B子「尻にひかれとるやんwwwwwwwww」
俺「麻里さぁん……ゴメンなさぁい………」
麻里「許すよw」
B子「麻里さぁんwwwwwwwwウケるwwwwwwwwww」
〜〜〜〜〜〜
B子「お前さー、私が友達にお前の事調べてもらった時におかしいと思わなかった?」
正座して、二人の前に座っている俺………
B子「だって学年も違う、新入生のお前の事を、私の友達は簡単に調べられたんだぞ?」
……………ん?
B子「つーか、私の友達、お前の事知ってたし」
……………そういやなんで?
B子「お前、自分で思っているより、ずっと有名なんだよw」
………………いや、俺は単に地味で友達も少ない高校生ですけど
B子「お前が入学してから、お前の争奪戦が起きたんだよ」
………………確かにバンドのお誘いは多かったけど
B子「で、お前の高校のバンドの共通認識で、お前はバンドに興味は無いって事になったらしいぞ」
……………いや、興味はあった。同じ高校が嫌なだけで
B子「さてwww この前は話さなかった、俺君伝説でも公開しましょうか?w」
……………凄い嫌な予感がする
俺「ちょっと待って!! 伝説とかなんすか!?」
麻里「聞きたい!」
B子さん、ニヤニヤ笑って
B子「校内最人気バンドの誘いを断った時のセリフ!」
B子「『興味ないんで』」
麻里「カッコいいー!!」
……………なんだ、そんな話か………
B子「校内で一番可愛い女子ボーカルの誘いを断った時のセリフ!」
B子「『あんた、誰っすか?』」
麻里「カッコいいー!!」
…………それ、記憶ない。
B子「ヤンキー軍団バンドの誘いを断った時のセリフ!」
B子「『音楽性合わないでしょ?』」
麻里「カッコいいー!!」
……………だんだん怪しくなってきた
B子「では俺君の学校生活での伝説いきますw」
麻里「おおー!」
……………これはなんかヤバそう
B子「指を痛める可能性のある球技では、ボールをさわらない!w」
麻里「スゲー!!」
俺「ちょっ!ちょっと待って!! さわらないんじゃなくて、さわれないだけです! 球技苦手なんで!」
B子「指を痛める可能性のある柔道で、投げられた時に、キレた!」
麻里「おおー! 俺君がキレた!」
俺「違います! 痛かっただけです!」
B子「ふふふw 次は強烈よwwww」
麻里「聞きたい!」
俺「…ゴメンナサイ……そろそろ勘弁してください」
B子「俺君は休み時間……一人で音楽を聞きながら、机に向かってエアピアノ!」
麻里「……あらーw」
やべ!麻里さん並に耳まで赤くなってるのがわかる…
俺「……友達いない……だけなんで……エアピアノは…無意識かと…」
B子「さてwトドメww そんな俺君ですが、周りからは決してバカにはされてません」
麻里「とーぜん!」
B子「むしろ周りからは
【間違って普通高校に来た天才ピアニスト】
として扱われております」
麻里「おおー!」
俺「………はぁ?」
B子「今、話した伝説は、周りからは
【芸術家として当たり前の行動】
と取られているらしいですww」
………はぁ? 俺、そんな目で見られていたの?
B子「しかし!今日の昼休み! この天才ピアニストはいきなり音楽室でハードロックを奏でると言う暴挙にでました!!」
麻里「………ゴメン、止めれば良かった」
俺「……いえ、麻里さんは知らなかったんですから」
俺「……つーか、俺も初めて知った!なにそれ?」
B子「ふふふw さてw 明日からはチケットたくさん売れるねーww」
俺「………学校行きたくないっす」
B子「ふふふw ファンクラブ名簿も増えるんじゃない?」
俺「………対バン断って良いっすか?」
B子「どーしよっかなwwww」
B子「………しゃーないなw 麻里ちゃんも嫌な顔しだしたし、対バンの条件は相手バンドのライブを見ることにしとく」
俺「…ありがとうございます!」
B子「た・だ・しw チケットは売っとけよww後払いで良いからww」
〜〜〜〜〜〜
いつものバカな帰り道、麻里さんは俺を見上げてこう言った。
麻里「地味な高校生どころか、伝説持ちとは思わなかったよw」
俺「………勘弁してください。本人が一番驚いてるんですから…」
麻里「…気づかなかったの?」
俺「…全然ですね。……むしろ周りの事はワザと気にしないようにしてましたし」
麻里「……そっか。今日はイジワルしてゴメンね」
俺「……いや、怒られて当然でした』
麻里「もし、明日、また名簿もらったらどうするの?」
俺「……対バンは相手のライブを見てからって言って、断りますよ」
麻里「相手ライブのチケットと一緒に渡されたら、断れなくない?」
俺「…………どうしましょ?」
麻里さん、ちょっと悩んで………
麻里「貰っていいよ! ただし業務報告はちゃんとしてね」
でも、見せたら、また怒るんじゃないだろうか?
そんな俺の疑念が、また顔に出てたんだろう。
麻里「………ちょっとぐらいはイジワルすると思うよw」
麻里「…だから隠したかったら隠しても構わないけど?w」
………俺は麻里さんにはキチンと話すって決めてるし、
俺「いや、ちゃんと報告しますよ。隠すより、怒られたほうが良いんで」
俺「……そもそも、そんな用意周到な人もなかなかいないでしょ?」
麻里「……まあねw でも多分だけど、明日の放課後も業務報告する事になるんじゃない?w」
次の日、麻里さんの予想は的中し、
カフェで麻里さんに怒られる事になった…