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Your Song  作者: 松田玉葱
7/54

男嫌い

スタジオに帰るとB子さんとD子さんが、何か神妙な顔つきで話し合っていた。


麻里「あれー? まだ居たんだ?」

B子「…いやー、邪魔するつもりは無かったんだけどな」

D子「ごめん、1曲だけ合わせたくてね」


俺「良いですよ、じゃあ…」


言いかけた俺の言葉を遮るように、B子さんが

B子「曲は Miss a Thing 」


そういや新ネタだし、昨日も合わせられかったからなー

とか、そんな感じにとらえていた。


俺「俺はいつでもいいんで準備出来たら教えてください。」

ストレッチをしている麻里さんに声をかけた。


麻里「よし!スタンバイ完了!」

俺「じゃあD子さん、カウントおねがいします」

D子「1…2…3…4…」


この曲のアレンジは、最初はピアノとボーカルだけ、

サビから各楽器が入ってくる。

よくあるアレンジだけど、麻里さんのボーカルがよく生きるアレンジだと思う。


麻里さんが俺を見つめながら歌っている。

俺のピアノに合わせて歌っている。



そしてサビ


タタンタタンタン


D子さんのドラムの入るとタイミングもピッタリ!


リズムマシンと相性はやっぱり良いんだな。


そして2コーラスからはギターもアルペジオで………




………………あれ?


何故かD子さんが演奏を止める。

B子さんも…



B子さんがちょっと困ったような顔をしている…


B子「…今のドラムのタイミングはピッタリか?」

俺「…ええ….良かったと思いますよ」

B子「…お前の感覚でもピッタリ?」

俺「……そう思いますけど?」


そして、D子さんが真剣な表情で


D子「何故、俺君はピッタリ演奏出来たの?」




〜〜〜〜〜〜




……………何故?って?


ちょっと意味がわからない。


俺の困惑顔を見て、B子さんが説明してくれた。


B子「D子と練習していて気づいたんだよ。 Miss a Thing が変な設定になってるって。」


………そんな設定にした覚えは無いけど?


D子「この曲はピアノでスタートするでしょ?

でも、リズムマシンは最初っから入ってるよね?」


………それが変な設定?

俺「サビに入るタイミングがあるから、最初からじゃないと計れないと思うんですけど?」


なんか二人で顔を見合わせてるし、


B子「ドラムが入るタイミングを計るために最初から設定入れてるのはわかった」

B子「でもそれだと、お前はリズムマシンとビッタリのタイミングでピアノを弾いてる事になるよな?」


ああ、なんか言ってる意味がわかった。


俺「つまり…何故リズムマシンとビッタリに弾けるのか?って事ですよね?」

B子「そうそれ!聞いてもいないんだぞ」

D子「しかも1分間以上も!」


んー、単純に覚えてるだけなんだよな。


俺「 Miss a Thing は何回か弾いてますし、その弾いたのと同じリズムで設定してるんで、別におかしなことじゃないですよ」


B子「いや、おかしいだろ?」


麻里「ふふーんw」


今まで黙って聞いていた麻里さんが会話に入ってきた。

しかも、めっちゃドヤ顔。


麻里「まだまだw 俺君の凄さはこんなもんじゃないぞw」

B子「…だからなんでお前がドヤ顔なんだよw」

麻里「ふふーんw 二人のさっきの顔w その顔が見たかったw」


麻里さん、俺の両肩に手をかけてビョンピョン飛ぶ。


B子「うわw コイツうぜーw」


またいつものドタバタが始まった…思っていたら


しばらく黙ってたD子さんが口を開く…


D子「麻里、俺君がここまで凄いってわかってて誘ったの?」






〜〜〜〜〜〜




D子さんの言葉に固まる麻里さん…


固まるって事は、

俺を誘ったのは、そんな理由じゃないと言ってるようなもんだけど…

そもそも俺もこんなに凄い凄いと言われるとは思っていなかったし、今でも思っていない。


麻里「……いや、タダモンじゃないとは思ってたっ!」


あっ…暴走の兆候が少し…


B子「…なんだよ? オメーもわかって無かったんじゃんw」

麻里「今はわかってるっ!2日目にはわかったっ!」


…そうなんだ。 2日目って土曜の特訓?


B子「…いや、入れる前にわかれよw」


…そりゃごもっとも。

麻里さんも言い返せないし…


B子「………ふーんw なーんだw やっぱりそういうことじゃんw

あの男嫌いの麻里ちゃんがね〜w」



………えっ? ………そうなの?



麻里「もーっ!!!!! なんで言うのーっ!!!!!!」


顔を真っ赤にして追う麻里さんと、

大笑いしながら逃げるB子さん。

椅子を挟んでフェイントの掛け合いをしている二人

いつもの樂しい光景。


それを横目に見ながら、D子さんに話しかけた。


俺「麻里さんって男嫌いなんですか?」

D子「男嫌いってより、あからさまに避けてたね」

俺「……結構気さくに話しそうですけどね?」

D子「いや、麻里が甘えるのは俺君にだけだよ」


どちらかと言うと、甘えてるのは俺のほうだと思う。

ただ、荷物運びとかさせてるのは、甘えてるように見えるのかな?


D子さんと話していると、

麻里「そこーっ!!!!!! 何話してんのっ!!!!!!!」

麻里さんが突撃してきたので捕まえて椅子に座らせる…


それを見た二人は、顔を見合わせ、ニヤニヤしながら

B子さんはベースを片づけ、D子さんはドラムにカバーをかけて、


B子「はいw お邪魔しましたw」

D子「麻里をよろしくねw」


と、軽やかに去っていった。





〜〜〜〜〜〜





俺「俺もこの前、友達からクラスで話した女子なんて殆どいないだろ、なんて言われましたよw」


とりあえずの話題振りのつもりだったんだけど、思った以上に麻里さんが食いついた。


麻里「そうだよね!そうじゃないとね!」


いや、変人扱いされてるんだけど…


麻里「みんな変なんだよ!」


多分、世間じゃ俺達のほうが変な扱いだと思う…


ただ、男嫌いの理由はちょっと聞いてみたいな…


俺「麻里さん、ちょっと聞いても良いですか?」

麻里「…なに?」

俺「麻里さんって、なんで男嫌いなんですか?」


麻里さん、ちょっと考えて………


俺の目をチラッと見てからこう言った。


麻里「あいつら、やらしい目でばかり見るから!」


……………うーん。 なるほど。


麻里「しかも節操ないの! D子を見ていたと思ったら、次はB子を見てて、私が立ち上がったら私を見るの!」


……三人ともタイプの違う美人だしなぁ

……って俺は? 間違いなく麻里さんを目で追ってる自覚があるんだけど………


俺「………俺、麻里さんをよく見ちゃうんですけど?」

麻里「…それはいいの! 外の人とは喋ってもいないんでしょ?」


…なるほど。つまり…麻里さん以外を見たら許さんぞと。

……これは気を抜けない。


ん? あの二人はノーカン?


俺「俺がB子さんやD子さんと喋るのは良いんですか?」

麻里「バンドのメンバーは別でしょ?」


ああ、そうなんだ?


俺「ライブハウスの関係者は?」

麻里「業務なら我慢する」


業務ってバンド関係って意味なんだ。


俺「じゃ俺も我慢します。」

麻里「んw 対バンの人も挨拶ぐらいなら我慢するw」



後は…………

あっ、これも聞いておかないとね………


俺「麻里さん、うちの学校でチケット売ろうと思ってるんですけど?」

麻里「ん? 大丈夫? キツイなら私からB子に言っても良いんだよ?」

俺「いや、せっかくだから、うちの学校でも見てもらえるようにしたいと思って」

麻里「………俺君、営業とか苦手そうだけど?」

俺「もちろん苦手ですよw」

麻里「でしょ?w 無理しなくても良いのにw」


俺「ただ、これからの事を考えると、宣伝は早いうちからしとかなきゃなって」

麻里「おおー! 先を考えた営業!」

俺「今回は売れなくても、次回は売れるかもしれない。更に対バンの申し込みなんてあるかもしれない」

麻里「おおー!! スーパー営業マン!!」


ここからが本題だ……


俺「それでですね…その過程で女子と話すこともあるかもしれません…」


麻里さん、ちょっと表情を固くした…

麻里「…たくさん?」

俺「わかりません。そもそも誰と話すのかも決まってません。」

麻里「んー。業務だしなぁ。」

俺「うちの学校じゃ、俺がバンドやってるって知ってるのは友達一人なんで」

麻里「あ~ファミレスの?」

俺「そうです。次のライブで対バン予定です。」

麻里「へー。知らなかったw」

俺「これから宣伝するんで、誰が声をかけてくれるかわからないんですよ」

麻里「んー。わかった……。ちゃんと業務報告してね」


えっ?業務報告?んーと


俺「わかりました。欠かさす麻里さんに話しますね」

麻里「うむ!よろしい!」






〜〜〜〜〜〜





で、ここからは相談…


俺「それで、昼休みとかに音楽室でピアノ弾いてみようと思うんですよ」

麻里「ん? なんで?」

俺「正直、知らない人にチケット買ってとか言えないんでw」

麻里「うんうんw そうだねw」

俺「それでピアノを弾くと、興味ある人は勝手にやって来るかな?って

麻里「おー! 撒き餌だ!」

俺「そこで、来た人に友達から説明させると」

麻里「………結局、俺君喋んないじゃんw」


俺「………で?どうですか? いけると思います?」

麻里「……わかんないけど、見にくる人はいると思う」

麻里「…けど、何弾くの? クラシック弾いて、うちのバンドのライブには来ないと思う。」


何を弾くかは考えてなかった…


俺「友達のバンドがビートルズなんで、ハードロックと交互にとかですかね?」

麻里「あー、俺君もあの時はビートルズやってたね。」


そして、あからさまに嫌な顔をして


麻里「対バンって、アイツのバンド?」

俺「……そうです。その人のバンドですね。」

麻里「………俺君って、アイツと仲良かったんだっけ?」

俺「いや、その人の後輩が俺の友達なんで、俺自身はほとんど知らない人ですよ。」


麻里さん、ホッとした表情で

麻里「良かったぁw アイツ嫌いなのw」


そういや駆逐されたんだよな…


麻里「何が嫌って、私の事を麻里って呼び捨てにするのが嫌!」


ああ、あの人馬鹿なんだな…


でも、あの人が麻里さんを狙って、バンドを作らなければ、

俺が、バンドに参加しなければ、


俺達はお互い知らないままで、

そして…………


俺「でも、ちょっとは感謝してます。もし、あの人のバンドに参加したから、今の俺がいる訳で…」

麻里「…ん………でも、アイツに感謝するのは嫌w」


麻里「それに……」

麻里「もし俺君が、あのライブに参加してなくても、私はいずれ俺君を見つけたよw」


………どうやって?


俺「……あのライブに出なかったら、俺は引きこもりになってますよw」


そしたら麻里さん、ドヤ顔で

麻里「俺君がピアノを弾いていたら、必ずどこかで見つけるよw」

麻里「そして必ず一緒にバンドを組むのw」

麻里「逃げても無駄w 必ず会いに行くからw」


えっと……


俺「麻里さん、ちょっと怖いっすよw」

麻里「ふふーんw 自信あるんだw」


麻里「だって最初に会った時には、猛ダッシュで逃げたんだよw

私、必死に追いかけたのに、あっという間に離されて、見失ったんだからw」


………それは初耳っす


麻里「でも、今はこうやって一緒にいるんだよw」

麻里「だから逃げても無駄w 必ず追いついて、手を引いて連れてくるからねw」


あの、号泣した夜を思い出した…

グズグズ泣いてる俺の手を引いて、歩いていた麻里さん。

後から迷子の姉弟みたいだと思ったんだ。


俺「俺は迷子だったんですかね?」


麻里さん、キョトンとしたけど、すぐに笑顔で

麻里「俺君は迷子だったのw 私はずっと俺君を探してたのw 多分ねw」


俺「あのライブは店内放送みたいなもんですねw」

麻里「そうw この大きな迷子さんは、自分のピアノで店内放送するのw」


俺「ピアノは泣き声みたいなもんですねw」

麻里「泣き虫だしねw」

俺「もう泣かないっすよ」

麻里「ふふーんw 絶対に泣くw」



男嫌いの麻里さん

みんなの言う、普段の麻里さん


でも、目の前にいる笑顔の麻里さんが

俺にとって普段の麻里さんで…


俺だけに甘えてくれて

俺を甘えさせてくれて


俺を自慢にしてくれて

俺に自信をつけてくれて



麻里「ふふーんw ほらw もう目が潤んでるw」











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