C'mon Everybody
ゲーセンからの帰り道、
聞くだけなら、
男の甲斐性とか関係ないよなと思い、聞いてみた。
俺「チケットの販売ってどうやってるんですか?」
麻里「チケット?欲しい人はB子に言うと買えるとか、そんな感じだよ。…欲しいの?」
ん?…あれ?
俺「割当とかじゃないんですか?」
麻里「割当? あーw B子から割当されたんだ?」
麻里「私達は同じ学校だし、同じバンドだからB子が管理してくれるの」
麻里「多分、B子は他の学校にも売りたいんだと思うよw」
…なるほど。つまり、俺は他の学校への営業マンって事か?
麻里「俺君…お金大丈夫? 今日もたくさん使っちゃったし…」
麻里さんに心配させてしまった…男の甲斐性どうした?
俺「実は小遣いって全然使わないんで、貯まってるんですw」
麻里「あっ、元引きこもりだもんねw」
俺「麻里さんのおかげで更生しましたw」
麻里さん、UFOキャッチャーで捕まえた猫のぬいぐるみを口元に当てて…
麻里「(変声で)僕を助けてくれてありがとー」
俺「オスなんですね」
麻里「(変声)オスって言うな!名前で呼べ」
俺「…………名前は?」
麻里「ジャンキーw」
俺「ひどいっすよw」
なんかどうやってメールするとか考えてたのがバカみたいに思えてきた。
俺「麻里さん、良かったら明日一緒に練習しませんか?」
麻里「良いよー。私も誘おうと思ってたんだ」
俺「じゃあ、どうしましょう?麻里さん一回帰ります?」
麻里「いや、学校にギター持ってくから、駅で待ち合わせしよう」
俺「キーボードは?」
麻里「やりたい練習があったから、ピアノで良いよー」
〜〜〜〜〜〜
次の日、友達から相談を受けた。
友達「コーラスって、どう練習すればいいの?」
俺「まずは楽器をちゃんとマスターしないと…楽器に気を取られていると歌えないよ」
友達「そっか…今日時間ある?」
俺「ゴメン、無い」
友達「麻里さん達と練習?」
俺「うん」
友達「お前、変わったなぁー。」
変わったかな?この会話で変わった部分ある?
友達「だって女の子と普通に練習してんだろ?」
友達「このクラスでも、お前と話した女子なんて殆どいないだろ?」
……いや、否定できない。
友達「それがあんなキレイな人達と一緒に練習してるなんて…」
友達「……俺なんてさ・・・」
その後、キレイなB子さんから可愛い麻里さんの写メを貰った。
友達には絶対に言えない。
〜〜〜〜〜〜
放課後、駅に着くと麻里さんがいた。
制服にギターケースの組み合わせって、そういや初めて見るな。
とか考えてたら、いきなりくらった。
麻里「………また隠し撮りしたでしょ?」
いや、だからそれはB子さんだって
麻里「………変顔だったでしょ?」
ん?なんか怒ってはいない?
俺「………笑顔でしたよ。可愛かったです」
麻里さん、耳を赤くして
麻里「待受はダメだからね」
って、ギターケースを俺に持たせた。
正直、良い雰囲気だと思う。
自然に可愛いとか言える自分に驚くし、
俺がギターを持つのが当たり前みたいな感じになってるのも、
何か嬉しい。
友達が見たら発狂しそうだけど。
俺「今日したい練習ってなんですか?」
麻里「今日はね C'mon Everybody 」
ん?それは何回もやってる定番で、俺が適当に合わせるって予定だったはず…
麻里「この曲をラストに持ってくる時は、間奏でMCとかメンバー紹介とかはさむの」
うん…ちょっとづつソロはさむって聞いた。
麻里「で、俺君のソロの部分を切らないで、そのままギターと重ねるみたいな感じがカッコいいかな?って思って」
なるほど。それはいいかもしれない。
俺「じゃあピアノソロの流れをそのまま、ギターソロに繋げてくって感じですね?」
麻里「そうそう!だから二人で考えたいなって思ってて」
俺「いいっすね。カッコよく作りましょう!」
麻里「おー!」
〜〜〜〜〜〜
麻里「なんかね、ギターとピアノで会話するようなイメージ」
麻里さんがギターをケースから出しながら、
麻里「そしてメロディに戻って、サビに繋げてくような」
言いたいことはわかる。…けど、
俺「あんまり絡めすぎちゃうとB子さん
が麻里さんの紹介するタイミング難しくなりませんか?」
他のメンバーは麻里さんが紹介するんだけど、麻里さんだけはB子さんが紹介する予定になってる。
麻里「んー、B子に怒られるかなぁ?」
俺「会話するってより、ピアノが合いの手入れるみたいなイメージにします?」
麻里「いや、やっぱ会話にしたい」
俺「…じゃあ、ピアノの終わりとギターの終わりに少しためを作りますか?」
麻里「それもイヤだなー。やっばり重ねたいし…」
俺「…………んーと」
そしたら麻里さん、ちょっと嬉しそうに
麻里「あっ、俺君でも悩むんだw」
俺「そりゃー悩みますよw こうやって人と音楽作る経験って少ないですし…」
麻里「リハビリwリハビリw」
…………ん?そのフレーズ
俺「麻里さん? ………もしかして今日、B子さんと隠し撮りの話しました?」
麻里「…したよw B子にプリクラからかわれたから」
俺「それでリハビリ?」
麻里「んwリハビリ。」
俺「そしてB子さんは俺にメール」
麻里「オメーのキモい笑顔送ってやったとかw」
俺「それで変顔?」
麻里「俺君のいわく可愛い変顔w」
俺「流れがつかめました…」
麻里「んw …B子からそんなにメール来るの?」
俺「お昼に…100%麻里さんの話ですが」
麻里「ん? 私の話って?」
………ちょっと流れがまずいような気がする
俺「えーっと、B子さんですから…」
麻里「んーー。どんな?」
これはまずい。
つーか時間的にB子さん来てもいい時間だろ?
なぜ今日に限ってこない?
どうしよう?
先輩が駆逐されてた話?
ハードな写メの話?
麻里さん分の金額も払う話?
2番目なら笑い話になる可能性は高いよな?
ほかのは嫌な予感しかしない。
俺「隠し撮りの話とかですよ」
麻里「…だから隠し撮りはダメだよ」
俺「いや、B子さんですよ」
麻里「依頼でもダメ!」
えーっと…依頼したって事になってるの?
俺「依頼してないんですけど…」
麻里「ん? あれ?」
俺「…依頼した事になってるんですか?」
麻里さん、徐々に赤くなってきた
麻里「えーっと、どうしても写メが欲しい…トカ」
なんか小声になってるんですが…
とりあえず、昨日の真相がわかったと思う…。
これは…メール公開しちゃったほうが早いと思う。
つーか公開しとく。
俺「…これが例の隠し撮り添付のメールです。そして次が俺の返信。そして…」
麻里さん、メールを見て…
そして最後まで見て…
麻里「出すもん出したの?」
えーーーー? そこ?
俺「いやいや、出してませんから!」
麻里「………んー、本当に?」
俺「本当に!」
麻里さん、ニッコリ笑って
麻里「…信じとくw」
良かったー。また冤罪になるとこだよ…
〜〜〜〜〜〜
俺「じゃあこんなのはどうです? 俺のピアノソロの終わりをそのままギターで引き継ぐ。
ギター入った段階でB子さんが紹介する。
紹介終わったら、俺がギターに重ねてく。」
麻里「ピアノと同じフレーズを弾くってこと?」
俺「と言うよりも、ギターとピアノのソロを合わせて1つの曲にするイメージです。」
麻里「んー?」
俺「歌みたいにAメロBメロはピアノ、サビがギター。そしてピアノがハモったりしてコーラス入れたり」
麻里「おー! それが良いかも!」
俺「メロディって言うか、コード進行だけはかっちり決めるとB子さんも合わせてくれるでしょうし」
麻里「おー!やっばり俺君すごいねー」
やっとイメージを統一出来た。
一人でやってると経験できない苦労。
やっは俺は変わったんだろうな。
チケット入ったら宣伝もしてみよっかな?
俺「じゃあ二人でコード進行考えましょうか?」
麻里「うん!」
コード進行は原曲から外れ過ぎないように、
最後は原曲に戻れるように
俺がピアノを弾いて、麻里さんに意見を言ってもらう。
と言うよりも好きか嫌いか言ってもらう。
やっぱりメンバー紹介でのソロなんだから、
気持ちよく、カッコよく作りたいと、思って
やっと固まった頃には九時を回っていた。
麻里「遅くなっちゃったね」
俺「お家は大丈夫ですか?」
麻里「練習するって言ってあるから、親も場所知ってるしね」
俺「なら安心ですね。小学校から知っでる相手ですもん」
麻里「そーいえば俺君は大丈夫?」
俺「何がですか?」
麻里「おうち?バンドやってるって言ったら、お父さん怒ったりしない?」
俺「多分、喜んじゃうと思うんで内緒にしてます」
麻里「ん?喜ぶのに内緒?」
俺「喜びのあまり、家族や親戚引き連れてライブに来そうでw」
麻里「それはちょっと恥ずかしいかもw」
俺「まあ遅い帰宅が増えてきてるんで、聞かれたら白状しますけどね」
麻里「実は私も俺君の加入は内緒にしてるんだw」
あっ、そうか…女の子だけだと思って安心してるはずだもんな。
俺「すいません、気づいてなかったです…」
俺「送るんで早く帰りましょう!」
そしたら麻里さん、少し考え込んでから
麻里「あーーー!違う違うw 心配するとかじゃないよw」
麻里「うちの両親、クラシック好きだから、俺君のこと知ったら是非連れて来いとか言うよw」
………あ、そういうことか
俺「だからピアノ習ってたんですね」
麻里「そうそう!それでうちにピアノもあるから、俺君呼んでピアノ弾いてもらえって言うよw」
俺「俺で良かったらいつでも弾きますよw」
麻里「本当? んー、でもまだ言わないw」
俺「……俺は大丈夫ですけど」
麻里「だって、まだアレンジの修正終わったのってライブ用だけだよ?」
あっ…俺ってやっぱりバカ
俺「土日で修正出来たのって4曲ぐらいですもんね…」
麻里「ん!だから、後6回とか7回とか土日を頑張ったら、うちでピアノ聞かせて?」
あっ…………すっげー嬉しい予定が出来た。
これから週末は麻里さんと過ごせるんだ………
やべ……なんか泣きそう……
そんな俺の表情を見て、麻里さん、ちょっと勘違いして
麻里「あっ…予定が出来たらそっち優先で良いからね!」
俺「いやいやいやー! 予定なんて無いです! 引きこもりだったんですから!」
麻里「ヘヘーw 引きこもりは更生したでしょ? 今度はリハビリなんだよーw」
……正直、麻里さんの言うリハビリの意味が良くわからないけど、
プリクラ=リハビリって事は、社会復帰みたいな意味なのかな?
俺「リハビリっすね? 頑張ります!」
麻里「ん! でも次のリハビリは私がおごるね? 慰謝料の慰謝料!」
んー?
またわからなくなってきた…
リハビリをおごるって意味がわからん…
慰謝料の慰謝料は【依頼しての隠し撮り】の誤解の事を言ってるんだろうけど、
もしや……
リハビリ=デート
って解釈でいいの?
じゃあ、さっきの俺の発言は
デート頑張ります!
意味が通じないよな…
でも、ここまでは確定だと思うんで
俺「明日は全体練習、土日はアレンジの練習で」
麻里「うん!次のリハビリは来週だね!」
……あってるっぽい
……いや、もしや
引きこもりからの脱却=更生
いろいろ出歩いて社会を知る=リハビリ
これじゃないか?
つーか、これだわ
俺「リハビリ頑張って、ちゃんとした人間になります!」
麻里「うん! お互い頑張ろー!」
ん!ん! お互いって?
ちょっと待て…
そういやプリクラがバレた時にリハビリって言ったんだよな?
社会を知る=リハビリ
だと、何かおかしい。
社会を知る=リハビリで意味が通じるのは俺の場合だけだ。
麻里さんは引きこもりにはなってないし、別に社会を知らない訳じゃない。
じゃあ、やっぱりデートの意味で使っている?
いや、待て。
さっきは違う。
さっき、リハビリと言ったのは、
人と協力して云々とか、言ってた時だった。
人との付き合い=リハビリ
これっぽい
人と協力して音楽を作る=リハビリ
二人でプリクラを撮る=リハビリ
お互いって事は麻里さんも人付き合いが苦手?
麻里「おーい? また自分の世界に入ってるぞーw」
俺「えっ? あっあ~ゴメンナサイ」
麻里「良いよw じゃあ帰ろう!」
〜〜〜〜〜〜
麻里「まずは二人でいるのに自分の世界に入る癖から治そうw」
俺「ゴメンナサイ。」
麻里「一人でいる時は良いけどねw 私もよく突入するしw」
俺「え? それは意外ですね?」
麻里「そーお? B子からはよく言われるよw 一人でボケっとしてたと思ったら変な事言い出すってw」
俺「え? 俺、変な事言ってます?」
麻里「…………そんな事無いね。…………あれ?」
麻里「この前も、その前も…変じゃなかったなぁ…」
俺「…………ですよね?」
麻里「んーん?」
俺「……なんか色々考えすぎちゃうんですよね。バカなのに」
麻里「俺君がバカだったら、私なんて大バカじゃんw」
俺「いやいや、麻里さんはバカじゃないですよ」
麻里「だったら俺君もバカじゃないっ!!!!」
俺「…………」
麻里「………」
俺「じゃあ、二人ともバカじゃないって事でw」
麻里「………うん………でも、俺君………自分をあんまり下げちゃダメだよ」
麻里「俺君はすごい人なんだから!ちょっと人付き合いが下手なだけなんだからね」
………ヤバイ、泣きそう
麻里「私ね、多分、俺君の凄さを結構わかっているほうだと思う。お父さんやお母さんの次ぐらいにわかっていると思う。」
麻里「けど、B子やD子はまだわかっていない。凄いのは知ってるけどわかっていない」
麻里「だから、明日が楽しみなんだw あの二人がどんな顔するのかw」
麻里「ライブも楽しみw みんなに見せつけたいw」
……もうダメだ。
……涙が止められない。
……俺、麻里さんに会えて良かった。
……俺、本当に…
麻里「……泣いちゃダメだよw まだ始まったばかりなんだから」
麻里さんが優しく頭を撫でてくれる…
麻里「これから俺君はもっともっと凄くなるの。……私も必死でついていくからね。」
麻里「……だからね。………俺君の側で歌わせて。………頑張るから。」
………麻里さん、泣いちゃダメって言ってるのに、自分も泣いてるじゃないですか?
麻里「………本当に………本当に……頑張るから………ね。」
麻里「………俺君より………歌下手だけど………本当に………頑張るから…ずっと……ね。」
麻里「………ずっと一緒に……歌わせて………ね。」
6月の夜、
全然ロマンチックじゃない、住宅街の道路脇、
曇り空で月も見えやしない。
単なるバカ話で始まった、この夜の会話は………
俺の中の何かを変えた………