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Your Song  作者: 松田玉葱
3/54

アップライトピアノ

麻里「アップライトピアノ?」

俺「そうです。昨日帰ったら突然あって…」

麻里「普通のピアノだよね? エレクトーンは?」

俺「エレクトーンもあります。L字型にに並んで…」


父が言うには「やっぱりクラシックは本当のピアノで聞きたい」


だからといっていきなりピアノを買うかな…


麻里「もしかして俺君んちってお金持ち?」

俺「いやー、多分、普通ですよ。音楽に注ぎ込みすぎな感じはありますけど」

麻里「でも、防音室にピアノとかすごくない?」

俺「でも車は軽ですよw ピアノも中古だし、そもそも俺自身にはあまりお金がかかってないんじゃないかな?」

麻里「あーw 外でないもんねw」



6月の日曜日、スタジオに向かいながら、麻里さんと並んで歩いていた。


俺は当然のように、

ギターとキーボードを担いで、


麻里さんはびょんぴょん跳ねるように歩いていた。


麻里「鍵盤の数、凄いことになってるよねw」


…その発想はなかった




〜〜〜〜〜〜




スタジオに入ると、今日はB子さんが居なかった。


麻里「見れなくて残念w とか言ってたよw 見てないで参加しろってのw」

俺「学校でも三人いつも一緒なんですか?」

麻里「三人ってよりも、もっと5〜6人で一緒って感じ。

俺君は?」

俺「基本的に一人ですよw たまに友達と一緒にいますけど」

麻里「あーw やっぱりw」


やっばりって言われるとイマイチ釈然としない。



麻里「…友達って人間だよね? バッハの絵とかじゃないよね?」



ここ数日で麻里さんは意外と天然なのはわかった…



俺「麻里さん、友達に会ってるじゃないですか? ファミレスで」

麻里「………あーw 忘れてたw」

俺「ライブでも、友達に俺のアドレス聞いたんじゃないですか?」

麻里「あーw 同じ人かーw」


友達、良い奴なのに…。なんかゴメン。


麻里「私、男子の顔、覚えるの苦手でねーw」


そんな苦手があるのか?とか

俺は男子じゃないのか?

とか、色々ツッコミたくはなったけど置いといて…


俺「さて、3曲目いきましょうか?」

麻里「おー!!」



〜〜〜〜〜〜


 

3曲目は意外とスムーズに修正できた。

B子さんがいない分、俺がコーラスを入れて、


キーボードが入る事で麻里さんのギターはかなり変更になってるけど、むしろ自然に歌えるみたいだ。


麻里さんの音域は意外と狭い。

でも、ファルセットの使い方が独特で、聞いてるとなんとも言えない心地よさがあった。


麻里「俺君がピアノが上手い理由はわかったけど、歌も上手いのはなんで?」

俺「………小さい頃から歌っているからじゃないですか?」

麻里「別にボーカルトレーニングとかしている訳じゃないんだよね?」

俺「習い事は姉と一緒にエレクトーン教室行ったぐらいですね」


麻里「…………やっばり練習か…。もっと上手く歌えたらなぁー…」


俺「麻里さん上手いじゃないですか?音も全然外さないし」


麻里「でもねー。高音あんまり出ないしさー。すぐ裏声使っちゃうしー」


俺「麻里さんの裏声使うタイミングって凄い良いと思うんですけど…」


麻里「…ほんとー?」


俺「本当ですよ。凄い魅力的だと思いますよ」


自分で言ってて恥ずかしかったけど、

麻里さんも、また耳まで真っ赤にして…

何かを言おうとした瞬間…



ガチャ


D子「おはよ」


なんか二人で固まった………




〜〜〜〜〜〜




麻里「…えっとー…」


D子「あ、なんかここに来ると微笑ましい光景が見れるらしいんで」


俺「………カルガモとかっすか?」


D子「見てると癒やされる人と、イライラする人がいるらしいよ?」


俺「………ドラム叩きます?」


D子「いや、今日はちょっと覗きにきただけだし」


俺「………そうすか」


D子「……で、麻里はなんで固まってるの?」


麻里さん、なんかギクシャクした動きで俺の前に立って叫んだ。



麻里「…………きゅーーーけーーーいーーーっ!!!!!」



俺「そ、そうっすね。休憩しましょう…」


D子「えー、せっかく来たのにー」


麻里「いや!詰め込み過ぎは良くない!短期集中!」


D子「昨日は朝から晩までやってたんじゃないの?」


麻里「だから!短期集中を何回もやったっ!!!!!」


D子さん、ニッコリ笑顔で…


D子「私は癒やされるタイプだわーw」


麻里さん、また耳まで真っ赤にして、俺の方を見て


麻里「私は変な事いってないっ!!!!! ねっ?ねっ?ねっ?」


俺「え?…そうですね…ライブ用は後一曲まで進みましたしね」


麻里「ほ、ほらー……短期集中の成果だっ!!!!!」


D子さん、ケタケタ笑って、涙まで流してた…


D子「いやーw 癒やされたわーw」


とか言って帰っていった…



麻里「………………」

俺「そろそろお昼なんで、コンビニでも行きます?」

麻里「………うん」





〜〜〜〜〜〜



二人でサンドイッチを食べながら


俺「いよいよ Miss a Thing ですね」

麻里「…それなんだけど、俺君、ボーカル指導してくれない?」

俺「…指導?…俺、指導なんて出来ませんよ?」

麻里「…なんか言葉違うかなー? 俺君、この歌覚えてるでしょ?」

麻里「私、サビくらいしか知らないし、他の部分の発音とか怪しくなりそうなんだー」

俺「あーそういう事なら大丈夫ですよ」



二人で床に座って、歌詞カードを見ながら


俺が指で、なぞって、くちすさんでいく。


その後を麻里さんが復唱していく…


麻里「俺君って、英語の歌詞ってどうやって覚えるの?

やっばり耳で聞いただけとか?」

俺「いやw 普通に歌詞カード見ますよ。それと耳で聞いたのを比べたりして…」


麻里「でもピアノとかは耳コピーでしょ?」

俺「そうですね。でも歌は歌詞カード見なきゃ無理ですよ。歌詞カード見てても『これあってるのかな?』とか思いますし」

麻里「私とおんなじだったw 少し安心したw」


俺「じゃあ、ピアノで伴奏しますんで、ちょっとボーカルしてみませんか?」

麻里「おー!!」


俺の伴奏に合わせて麻里さんが歌う。


途中で何回か発音チェックして


繰り返して覚えて…


ある程度進んだとこで、


俺「少し休憩しませんか?」


麻里「うん! 短期集中だねw」


俺はピアノの椅子、麻里さんはパイプ椅子を出して座って…


麻里「これもアップライトピアノだよね?」

俺「そうですね。」

麻里「昨日、帰ってから何か弾いた?」

俺「父からのリクエストの曲を少し弾きましたよ」


麻里「聞きたいなぁーw」

俺「…クラシックですよ?」

麻里「…実は私も小学生の時にピアノ習ってたんだよw」

俺「あっ! だから音感良いんですね?」

麻里「それはわかんないけどw クラシックも大丈夫w」

俺「…じゃあ、少しだけ」


父のリクエストはショパンのバラード 


有名な曲だから聞いたことはあると思う。


麻里「聞いたことある! …バッハ?」


俺「…ショパンです」


麻里「おー!! ショパン!ショパン!」


なんだかわからないノリになってきた…


麻里「俺君はすごいねーw エアロスミスからショパンまでw」


俺「父からのリクエストがなければ俺も覚えませんけどねw」


麻里「じゃあ、お父さんが凄い! リクエストを通して俺君を教育している!」



ハッとした…


そんな事を考えた事もなかった…


確かに最近はクラシックのリクエストが多い。


たまに楽譜が用意されてる事もある。


そして、アップライトピアノ…


ピアニストとして教育してるとか?



………………ピアニストって儲かるのかな?


そんな事を考えていたら


麻里「俺君の将来はピアニスト?」


……ちょっとビックリしたし ……………テレパシーとか?


俺「……エレクトーンジャンキーのままって可能性のほうが高いかもしれないっすw」

麻里「…わかったw あまりのエレクトーンジャンキーっぷりに、お父さん心配してピアノを買ったんだw」


俺「………あーw 可能性はありますねw」

麻里「あまり、お父さんを心配させちゃダメだぞw」

俺「でも、この3日間は外に出てますよw脱引きこもりですw」

麻里「そこは私に感謝しなきゃw」

俺「麻里さん、ありがとうございます」


麻里「んんーw じゃあ休憩終わり! ギターも合わせたい!」

俺「はい!」




〜〜〜〜〜〜




まずはギターとボーカルだけ、


麻里さんの弾き語り


そしてピアノを合わせていく。


オリジナルとは違うけど、


良い雰囲気に


仕上がってきた。


そして…


時間的にそろそろ来るかな?


なんて思ってたら




ガチャ




B子「イチャイチャしてんじゃねーよw」


後ろにD子さんもいる。



麻里「へへーw そろそろ来るかなって思ってたw」


俺「俺もそう思ってましたw」


B子さん、ちょっと不服そうな顔して

B子「…なんだよ? もう開き直ったのかよ」


とか言いながら、ケースからベースを出してくる。


D子さんもドラムセットからカバーを外す。




B子さん、ベースを鳴らしながら

B子「どう?音合ってる?」


俺「ちょっとだけ高いですね」


B子さん、チューニングしながら

B子「やっばり、絶対音感って便利だねー」




あっ…




B子「あんたの高校に行ってる友達に聞いたw 流石に麻里のイチオシでも名前しか知らない相手と組むのは抵抗あるしねw」

B子「バンドの誘いを断りまくってる人が、なんでいきなりライブに出たのかは疑問だけどさ」


俺「……不合格ですか?」



B子「いやいやいやw そんな事したら麻里ちゃんに怒られちゃうーw」



それまでポーっと会話を聞いてた麻里さん、やっとからかわれてるのを自覚した。そして例のごとく真っ赤になって




麻里「怒んないからっ!!!!!」




いや、麻里さん…

そこは怒って欲しいんだけど…



D子「麻里w 俺君をクビにしていいの?w」


麻里さん、ハッとして



麻里「ダメ! 怒るからっ!!!!!」



B子「どっちだよw」


D子さんもケラケラ笑ってるし…


麻里さん、更にヒートアップ!しかし…




麻里「俺君がバンドの誘いを断ってたのはエレクトーンジャンキーだからっ!!!!!」




麻里さん、何?その理由?


二人とも「は?」って顔してるし…




麻里「引きこもりだから仕方ないんだよっ!!!!!」



……………ダメだ。止めないと。



俺「麻里さん、かばってくれるの嬉しいんだけど…それじゃ…」



麻里「俺君はちゃんと更生したんだっ!!!!!」




B子さん、ベースごと床に倒れてヒクヒクしてるし、


D子さんはドラムセットの横で過呼吸起こしてるし、




麻里さん、涙目の俺の手をとって




麻里「絶対に二人で更生するからっ!!!!!」




B子さん、倒れながら「おめーいつグレたんだよw」とか


D子さん、ハヒハヒ言いながら「もー止めてーw」とか


もう、収集のつかない修羅場な展開…





俺、とりあえず麻里さんを椅子に座らせて、お茶を差し出した。


そしたら少し落ち着いて…ちょっと俯いて


麻里「……なんかまた変な事言っちゃったよね?」



麻里さん、目が潤んでる。

おれの事をかばおうとして暴走してしまったんだ。


内容はともかく…

まあ、内容はともかく、俺のために必死になってくれたんだ。

泣かせちゃいけない…俺が感謝している事を、

今の気持ちを伝えてあげなきゃ…


俺「気持ちだけでも嬉しかったんで、ありがとうございます」



そしたら麻里さん、パーっと顔が明るくなって


麻里「そーだよね?大切なのは気持ちだよね?」

麻里「よーし!全員揃ったし、1曲合わせるよ!」



麻里さんって本当にタフだと思う…



でも、麻里さんの暴走にやられた二人は立ち上がる事も出来ずに、


B子「…ゴメンナサイ…今日はもう、無理で…す…」

D子「はひぃ…はひぃ…』


二人はそれから10分以上動けないでいた…




〜〜〜〜〜〜ー




ひとまず、改めて3人に俺の事を話した。


中学時代の事。

高校で音楽を隠した事。

あのバンドに参加した理由。

エレクトーンジャンキーの意味。

そして、このバンドのメンバーになりたいと改めてお願いした。


麻里さん以外の二人はほぼ無言…喋る元気がなかったのかもしれない。

麻里さんは時より頷き、時よりドヤ顔になって聞いていた。


エレクトーンジャンキーの話の時にB子さんが、ボソッと

「すげーな…」って言った。



そして…

B子「金曜日の時点で、あんたはバンドのメンバーだからw」


こう言ってくれた。



俺、その言葉が嬉しくて、嬉しくて、


涙目で「ありがとうございます」って頭を下げた。

横で何故か麻里さんも頭を下げた。



B子「結婚の挨拶かよw」

D子「まぁまぁ、お父さんw」



麻里さん、このツッコミはスルー。

さっきので少し懲りたのかもしれない。



B子「麻里から聞いてると思うけど、金曜日の練習と月末のライブは恋愛感情抜きで真剣にな。」

B子「それ以外の時間はプライベート優先で構わない。ここのスタジオを使って練習するのも自由。ただし…」


B子「…ラブホ代わりに使うなよw」


麻里さんさんの体がビクンと跳ねた。


俺は反射的に麻里さんの肩に手を置いた…


麻里さん、真っ赤になってるけど、堪えている…


D子「すごいね…」


B子「んーw まぁいいやw」



B子「つーか、俺君って普段の麻里を知ってるの?w」



麻里さんの体がまたビクンと…肩に手は置きっぱなしだから、

暴走は抑えられてるのかな?


って、普段の?麻里さん?


これ普段の麻里さんじゃないの?



B子「ひひひーw 昨日、言ったでしょーw」


麻里「あぁあああーーー!!!!」


B子「さっきは笑い死にさせられかけたからねーw」


B子さんも懲りない…


けど麻里さん、その場でバタバタするだけで…


…これ、肩に乗せてる手を離したら…どーなるの?



………………すっげー離してみたい。



B子「ん! 手離すなよ!絶対に離すなよ!」


俺「…………お笑い芸人の押すなよ!絶対に押すなよ!とかと同じですよね?」


B子「違うから!」


D子さん、また過呼吸起こしかけてる…


俺「………でも…そろそろ時間だから、帰る準備しなきゃ…」


B子「いや、私が先に帰るから!」


麻里「んーーーー!!」


俺「…………じゃ掃除しますね」


と肩から手を離した…




バタバタ走りまくってる麻里さんとB子さん……


危ないのでパイプ椅子とかしまって、


ベースもケースにしまって、入り口付近へ…


麻里さんのギターとキーボードも同じく…


ゴミもちゃんとかたして…


ドラムセットにカバーをかけて…


見てみたら、二人は動けなくなっているD子さんを挟んでフェイントの掛け合いをしてるし…


喧嘩?みたいなはずなのに陰湿な感じがしない…


なんだかんだで三人は仲良いいんだなぁ

なんてちょっとニンマリと見てしまった。



そんな俺の姿に気づいたB子さんが

B子「オメー責任取れ!」

とか言うんだけど、どうすれば良いの?



試しに「麻里さん?」って声かけても止まらんし…



まさか肩に手を置いたら止まるとか?


D子さん、うずくまったまま変なジェスチャー送ってくるし…


なんか収まりどころが無いのかな?



って、事で「麻里さん」って声かけて、肩に手を置いた


麻里「ん?」


……………止まるしw


B子さん、髪グチャグチャで肩で息してるし、


D子さん、今度はむせちゃって大変そうだし、




麻里さん、俺の顔をじっと見つめて…




麻里「ん! これが本当の普段の私だから!」







〜〜〜〜〜〜



 




帰り道、また麻里さんが駅まで俺を送って、俺が自宅まで麻里さんを送るバカな道筋…



B子さんの言う、普段の麻里さんが、どんな麻里さんなのかはわからない。


けど、さっきの麻里さんの宣言は


俺には本当の麻里さんを見せてくれてる、


そんな風に取ろうと思う。


俺のクラスメイト達は、俺が女の子と楽しくお喋りしながら一緒に歩いてる、と言っても信じないだろう


けど、今の俺は間違いなく本当の俺だし…


多分、麻里さんもそんなとこなんだろう。




麻里「明日からは学校だね…」


俺「なんか学校に行ってたのが、ずいぶん前の気がします」


麻里「あー、わかるなぁw この3日間は濃かったからねw」


俺「…充実感がすごいですよw」


麻里「……疲れさせちゃったかな?」


俺「気持ちいいですよ」


麻里「んー? 疲れたのに気持ちいいの?」


俺「…うまく言えないけど、心は疲れてないって言うか…」


麻里「あーw 気持ちが大事って事ねw」


俺「そんな感じですねw」


麻里さんの自宅の前でギターとキーボードを渡す。


麻里「あっ キーボード持ってく?」


俺「設定は済んでるし、家に鍵盤はたくさんあるんでw」


麻里「それもそうだねw じゃまたねw」





一人での帰り道、次は金曜日まで会えないのか…


練習に誘ったほうが良いのかな?


でも、俺のパートはマスターした訳だし、


麻里さんの個人練習の時間も考えなきゃな、


なんてウジウジ考えてた。


ウジウジ考えて、考えて、なんだかわからなくなって…





そして理解した。



俺は麻里さんに恋をしている。



それだけはわかった。












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