お兄
友達「お前のとこってさ、練習どれくらいやってるの?」
友達が唐突に聞いてきた。
俺「全体練習なら週一だよ。」
友達「だよなぁ?スタジオ借りるってもバカにならないし…」
俺「うちはB子さんの倉庫がスタジオになってるから、借りるって事はないけどな」
友達「マジ?さすがにスゲーな!」
俺「やっぱり凄いよな?」
女子高生バンドが自前のスタジオを持ってるって、やっぱり凄い事だよな…
友達「…スタジオ貸してくんない?」
俺「それは無理だろ。」
友達「だよなぁ?」
俺「彼女たちの私物も置いてるし、何より麻里さんが先輩の事嫌ってるし…」
友達「え?先輩嫌われてるの?」
あ、言っちゃダメだったかな?
俺「…先輩には黙っててくれない?」
友達「言えるわけ無いじゃん…先輩、まだ諦めてないのに…」
俺「……マジで?」
友達「……マジ。」
俺「……もしかして俺が加入した事も?」
友達「……多分、知らないと思う。俺は言ってない。」
………コイツも大変だな。
〜〜〜〜〜〜
駅で麻里さんと待ち合わせ。
改札を抜けると麻里さんが走ってきた。
麻里「ふー。お疲れさまw」
俺「おまたせしましたw」
麻里「じゃ、まず家に寄ってギターとキーボード取ってこよう!」
二人で麻里さんの家に向かう途中、スタジオの事を聞いてみた。
俺「専用スタジオがあるってすごいですよね?」
麻里「ん?言ってなかったっけ?」
俺「ん?」
麻里「あのスタジオは元々B子のお兄さん達が作ったんだよ」
俺「あ~、そうなんですか?」
麻里「ん。B子のお兄さん達って県内じゃ凄い有名だったからね。他県遠征とかもしてたし」
………イマイチ凄さがわからないけど
麻里「だからスタジオのアンプとかドラムセットはお兄さん達から受け継いだんだよ。」
俺「受け継いだって事は、もう音楽は?」
麻里「……んー。バンド活動はしてないね」
………それだけ凄いのに、やっぱり止めちゃうんだ。
麻里「って、実は私もお兄さん達のバンドは見たことないんだw 全部B子から聞いたのw」
俺「そうなんですかw」
麻里「うん。お兄さんには何回か会ってるけどね。後、義理のお姉さん。」
俺「って事は、バンド仲間で結婚したんですか?」
麻里「そう!ギターとキーボード!」
…………麻里さん、テンション爆上がり
麻里「良くない?ねぇねぇ良くない?」
俺「……良いと思います」
麻里さん、俺の返事に不満顔…。
麻里「……テンションひくいなぁ〜」
俺「……今、初めて聞いたんで、さすがに麻里さんほどテンションは上がらないですよ」
麻里「……そう?……でもたぶん、会ったらテンション上がるよ!」
俺「でも良いと思いますよ。同じバンドだったなら、お互いの趣味も合うでしょうし」
麻里「そうなの!娘ちゃんも可愛いんだよ!」
俺「あ、もうお子さんいるんですか?」
麻里「もう五歳かな?音楽好き夫婦だから、俺君みたいな子供に育ったりしてw」
…………それはよろしくないだろう
〜〜〜〜〜〜
麻里さんの家からスタジオまで、
凄いと言われた、お兄さん達のバンド
そんなバンドでも解散してしまう訳だ。
理由は何だったんだろう。
そんな事を考えてた。
麻里「おーい?」
俺「はい?」
麻里「お兄さん達の事を考えてた?」
俺「………スイマセン」
麻里「いや、良いよw それで何を考えてたの?」
俺「……解散の原因って何だったんだろうな?って」
麻里さん、ちょっと困り顔で…
麻里「私も知らない… B子も話したがらないしね。ただ、大学卒業が一つのきっかけとは聞いているよ。」
俺「…就職とかですかね?」
麻里「就職は大きいだろうね。学生より自由になる時間が少なくなるだろうし。」
俺「……………。」
麻里「ん?……私達の事、考えてる? 私達ならまだまだ先の話でしょw」
俺「……そうですねw 初ライブもしてないのに解散の心配とかw」
麻里「ないないw ただ、B子にはあまり聞いちゃダメだよ」
俺「はい。そうします。」
麻里「………でもなぁw 俺君、すぐに表情に出るから心配だなぁw」
〜〜〜〜〜〜
麻里さんの心配はあっさりと当たる…………
意識はしていたけど、やはりB子さんをチラチラ見てしまっていたらしくて、
B子「なに?何かおかしなとこあった?」
俺「はい?…いえ、凄い良いですよ!」
そしたらB子さん、ニヤニヤ笑いながらトンデモナイ事を言い出した……
B子「ふふふw とうとうお姉さんの魅力に気づいちゃったかなぁ?ww」
B子「……でも麻里ちゃんと盗り合うつもりは無いんだなぁww」
なんかトンデモナイ勘違いに絶句していると、
………もう一人も勘違いし、俺の目の前までやってきた。
麻里「………俺君?どうしたのかな?」
目が笑ってない!
俺「ちょっと麻里さん!こっちで…」
ちょっと奥の方、トイレの手前まで麻里さんを連れて行き………小声で………
俺「……さっきの解散の話が気になって、B子さんをチラチラ見ちゃってたらしいんですよ!」
麻里「ん?……………あっ、それか!」
俺「それをB子さんにからかわれただけですから」
麻里「……だから表情に出るからって言ったのに」
………麻里さん、…………ちょっと前まで自分でも忘れてたじゃないですか?
俺「俺が目で追っちゃうのは麻里さんだけですから!」
とりあえず、今後、麻里さんの誤解を呼ばないように釘を刺したつもりだったんだけど……
やっぱり、麻里さんのスイッチを押したらしい…
麻里さん、赤い顔して中央に戻り
麻里「よーし!!!! 休憩終わり!!!!」
ハイテンションで練習再開宣言…
当然、他の二人からはブーイング…
B子「はえーよ!」
D子「短期集中でしょ?」
麻里「えーー。」
そんな麻里さんを見て、B子さんがニヤニヤしながら話しかけてきた。
B子「なんだよ?喧嘩でもしてたのか? 相談でもしたかったのか?ww」
俺「いえ、違います。」
B子「じゃあ、ちょっとあのハイテンション抑えとけよww」
と麻里さんを指差す………
んーと…………
どうしようかなぁ……………
俺「……麻里さん、何か聞きたい曲でもあります?」
麻里「んー! 休憩中に弾いてくれるの?」
俺「はい! ちょっと切替られそうなの弾きましょうか?」
麻里「ん! クラシック!」
クラシックかぁ……
まあ、ハードロックを練習中の休憩ならクラシックも良いのかな?
弾いてみる。バッハの人の恵みのナントカってやつ
麻里「聞いたことある!バッハ?」
俺「当たりですw」
麻里「おー!バッハ!バッハ!」
いつかのようなノリに他の二人もやってきた
B子「………お前、普通にクラシックも弾けるんだなw」
D子「綺麗…リラクゼーション音楽だ…」
そして終了……
俺「ご清聴ありがとうございました」
三人「おー!!」
他の二人も喜んでくれたし、麻里さんのテンションも落ち着いた。
俺も解散の事で、少し集中が欠けてたと思うけど、リセット出来たと思う。
その後の練習は最初から綺麗に全曲通して演奏出来た。
ライブ用はこれでほとんど完成したと思う。
後はライブ前に一回の全体練習。
その前に俺と麻里さんのソロの絡みを集中して練習すれば、何も問題は無くなるんじゃないかな?
〜〜〜〜〜〜
麻里「そういやなんで解散の話になったんたんだっけ?」
いつものバカな帰り道、唐突に麻里さんが聞いてきた。
俺「最初は専用スタジオが凄いって話ですよ」
麻里「あっ、そっか。」
俺「どうも友達がスタジオ借りるのも、それなりにかかるんでキツイとか言ってました。」
麻里「スタジオとか借りた事ないしなぁw」
……………ん、あれ?
俺「バンド結成した時とか、お兄さん達のバンドと被ってないんですか?」
麻里「ないよw お兄さん達のバンドが解散したから、スタジオ空くのがもったいないってB子に誘われたのw」
……………なるほど。スタジオ有りきの結成なんだ。
俺「それまで麻里さんはバンドをやってなかったんですか?」
麻里「やって無いよ。ギターもB子に教わったし、完全な初心者w」
俺「D子さんは?」
麻里「D子は鼓笛隊で小太鼓叩いてたw」
…………なるほど。最初からB子さん中心のバンドだったんだ。
俺「それがここまで成長するって凄いですよね」
麻里「そうだねw B子はお兄さん達から楽器習ってたけど、他の二人は初心者だしw」
麻里「私がギターを買ったのも、中3の時だしね。」
俺の肩に担いでるギターを見て
俺「これですか?」
麻里「そう!楽器屋さんで一目惚れ!」
黒に金具が金のレスポール、麻里さんに良く似あってる…
俺「ピカピカですもんね」
麻里「毎日、磨いてるもんw」
大切にしているのはよくわかる。
だから最初、俺が担いでるのを見たB子さんが驚いたんだろう。
麻里「大切なんだから、落としたりしちゃダメだよw」
だったら持たせなきゃとも思うけど、1種の保証なのかな?とも思う。
『私の大切なものを預けるから信用してね』
麻里さん独特の…
麻里「でも、曲によってギター替えるバンドとかもあるでしょ?その必要はあるのかな?」
俺「せいぜいアコースティック・ギターに替える程度じゃないですか?ただ、今の選曲なら替える必要は無いと思いますよ」
麻里「じゃあ将来やりたい曲で替える必要があれば?」
俺「そうですね。その時に考えれば良いです。」
…………もしかしてやりたい曲ってあるのかな?
俺「なにかやりたい曲があるんですか?」
麻里「……Your Song」
…………あの時、俺の歌った、
麻里「………あの時、俺君、歌ってくれたでしょ?」
俺「………ステージ端で麻里さんも一緒に歌ってくれましたよね?」
麻里「うんw ずっとやりたかったけど、ピアノもいないし、キーボードもいないし、三人で演奏するのはキツイかな?って半分諦めてたw」
麻里「……そしたらイントロ聞こえて、急いで裏から見に行ったら、知らない男の子が歌ってたw」
俺「俺も好きな曲なんですよw」
麻里「先越されたw」
………あの曲が始まりだったんだ。
俺「俺も歌ってたら、ステージ端で小柄な女性が一緒に歌ってくれて嬉しかったですよw」
麻里「笑ってたもんねw」
……………ん?
俺「麻里さん、俺の顔が見えたんですか?」
麻里「ん? だってスポットライト浴びてたから、よく見えたよw」
………あ!そうか! ヤバイ、恥ずかしい
麻里「私がステージ端に行ったら、その男の子はずっと私を見ててねw 一緒に歌ったらニコーってw」
麻里「でも、その男の子が何者かわからなくてw その子のツレみたいな人にアドレス聞いても拒否られるしw」
俺「………スミマセン」
麻里「探し出すのに苦労したんだよw」
…………
俺「………探し出してくれて、ありがとうございます」
……あの時、麻里さんが探し出してくれなければ、
……こんな楽しい思いも知らなかっただろう。
麻里「んw あの時の苦労はこれから返してもらうw」
……いくらでも返します。
麻里「そうそう! しかもね、あの時、俺君の高校の生徒に【バンドやってる俺君】って聞いたら誰も知らないのw」
麻里「今ならわかるけど、【バンドを断っている俺君】だと一発だったんだww」
麻里「それから誰かに声かけられて、振り向いたら背の高い男の子がオドオドしながらやって来たw」
俺「麻里さん、さっきからツレとか誰かとか言ってるの、全部同一人物で俺の友達ですよw」
麻里「え?ファミレスの?」
俺「そうです。っていうか、顔忘れてますよね?」
麻里「………だから私、男子の顔を覚えるの苦手だって!」
………お?これは
俺「おーい、君の目の前にいるのは男子じゃないのかい?w」
麻里さん、俺の顔を見てニコリと笑って
麻里「俺君は特別でしょ?」
麻里さんは俺と二人の時は必ず俺の上に来る。
………明日は10時に麻里さんとソロパートの特訓。
………たぶん、明後日も特訓。
音楽の時には俺の下に来る。
これが二人のパワーバランスなんだろうな。




