秋
マーとルゥが南に来ると、そこは大きな病院でした。おなかの大きい男の人や女の人、どっちかわからない人たちがどんどん入っていきます。
オンギャアーー、オンギャアーー!
大きな泣き声!
まるで恐竜のようです。病院からは、「産まれたぞ!」という声も聞こえます。病院の前にもだれかいます。どうやら、雪で寒い中、お産をいまかいまかと待っているようです。
「こんにちは! 赤ちゃんを待っているんですか!」
マーが声をかけると、待っていた二人?が、ばっ、とふりむきました。「?(はてな)」がつくのは、ちょっと変わったすがたをしていたからです。
「こんちは、ヒトの子ども。ああそうだぜ、俺とつがいの子を待っているんだ。すげぇ大変らしくて、ずいぶん待ってる」
「ご機嫌よう、ヒトの子ども。ええそう、わたくしとアレの子を待っているの。どうにも大変らしくて、ずっと待ってる」
男の人?、けむくじゃらじゃら、羽根まではえています。
女の人?、ながながなーがく、こしからヘビになっています。
見かけはずいぶんちがいますが、お話はできそうです。マーは二人(お話ができるなら「?」はいらないでしょう)に聞いてみました。
「早く赤ちゃんが産まれるといいですね! ところでお二人とも、実は秋の女王様をさがしているんですけど、見ませんでした?」
男の人は羽根をバサバサしました。
「秋の女王様? そういやここんとこ見てねぇな。そっちはどうだい?」
「わたくし? そうね、とんとお見かけしていない」
女の人は体をズズズッ、とくねらせました。
マーとルゥ、顔を見合わせ(ルゥは「ワフゥ……」)、どうしよう!
秋の女王様、まったく手がかりがありません。このままだれも見ていなかったら、どこをさがせばいいのでしょう!
そこへ、「鳥のかたー、ヘビのかたー、産まれたぞ!」と声がかけられました。入り口には、赤ちゃんをだいた男の人と女の人、そして白衣を着たどっちかわからないお医者さんがいます。
待っていた二人、お医者さんにあいさつし――「俺とつがいの子だ! あんがとな!」「わたくしとアレの子! 感謝を!」――大喜びで、鳥の人は男の人へ、ヘビの人は女の人へとかけよりました。
「ふあぁ~あ、ひどい難産だったが、ちゃんと産まれて良かったわー……おや、ヒトの子どもじゃないか、どうしたの? そこのワンコロと赤ちゃん作りにきた? 本人、いや本犬のオッケーがいるから、ちゃんと通訳さんを……え、そうじゃない?」
大あくびしたお医者さん、とてもねむそうでしたが、マーは「秋の女王様を見ませんでしたか?」と聞いてみました。ルゥも「ワン!」とおうえんします。
「……そういやけっこう見てないぞ。最後に会ったのは……そうだ、そこの鳥さんと人、ヘビさんと人との赤ちゃんのもとを、どうにかこうにか作った時だわ。そういや言ってたなぁ、『人はどんなものとも命をなせるようになったのね。もう私はいらないようだから、さよならするわ』……え、うそ、さよならってそういうこと!?」
ルゥが「ワゥン!」とほえました。マーもそれだっ、と思って言いました。
「きっと、秋の女王様がいなくなったのはそれが理由です。すがたがぜんぜんちがっても、どんな人が相手でも、みんな好きに赤ちゃんを作れるようになったから、お仕事がなくなっちゃったと思ったんだ!」
お医者さんはあごに手をあてました。
「それはそうかもしれないね。でもこれ、ちょっといったい、どうしろって話だか……病院はこの先ずっと予約でいっぱいだよ、子どもを作りたいやつはたくさんいるし……でも秋が来ないのも困る」
そのままお医者さん、ぶつぶつぶっつん、ぼやきます。
羽根をバサバサ、体をズルズル、赤ちゃんをだいた二人がやってきて言いました。
「……どうすりゃ秋の女王様が戻ってくんのか、ここらで相談してみっから」
「ヒトの子よ、ほかの女王様はもう探したのか? では、冬の女王様に伝えておくれ。『話が決まれば、王より申しあげる』と」
そうして、マーには羽根を、ルゥにはウロコを、お守りにくれました。羽根はえりに、ウロコは首に、つけて歩けばひらひらキラキラ。寒い中、いたくなった足の先も、すこーしなおった気がします。
マーとルゥ、「はい!」(ルゥは「ワン!」)と元気に返事し、そうして冬の女王様のもとへと向かいました。