表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5






 マーとルゥが西に来ると、そこは大きな川でした。たくさんの人が、川のほとり(川の両側のことです)を散歩しています。冬の寒さでぶあつーい氷がはり、スケートをしたりソリですべったりしている人もいます。


 シャーーー、シャアーー、ベタンッ!


 アイタ!

 ずっこけた人もいるようです。川のむこうからこっちへ、楽しげに笑いながらだれかがすべってきます。


「こんにちは! スケート楽しそうだね!」


 マーが声をかけると、やってきた少年が、ばっ、とふりむきました。


「こんにちは! 転ぶと(いた)いですが、スケートは楽しいですよ! 君もすべりますか?」


 寒さでほっぺが真っ赤な少年は、ていねいな言葉づかいでお返事をくれました。同い年くらいのマーとしては負けられません。うんとがんばり、ていねいに話してみました。


「はい、今度すべってみたいです! ところであなた、実は夏の女王様をさがしているのですが、ごらんになりませんでしたか?」


 少年は真っ赤なほっぺに手をあてました。


「夏の女王様? そういえば近ごろ見ていないですね。少し待ってくださいますか、父にも聞いてみましょう」


 川のむこうから少年のお父さん?、がやってきました。「?(はてな)」がつくのは、マーもルゥも「あれ?」(ルゥは「ワゥ?」)と首をかしげたからです。その人はお顔しわしわ、「お父さん」というより「おじいさん」のようでしたので。


「お父さん、夏の女王様をご(らん)になられましたか?」


 おじいさんは、(かみ)と同じく真っ白なおひげをなでつけて答えます。



「そういえば拝見(はいけん)しておらんな。最後にお言葉を()わしたのは……おぉ、そうか、お前の成長を止めた時か」


 少年がマーに耳打ちして教えてくれました。


「実はぼく、体が良くなくて、大人になったら死んでしまう病気にかかっているのです。父がいろいろ研究をして、ぼくの成長を止めてくれました。おかげでぼくは、ずっと子どものまま、こうして父のそばで生きていられます! ちょっとばかり父と見かけが(はな)れましたけれども。川の向こう岸にいる子どもたちは、みなそういう子たちですよ」


 おじいさんは冬の青い空を見上げてつぶやきます。


「……その時は、夏の女王様はこんなことをおっしゃっていたの。『人は成長をするもしないも、好きにできるようになったのね。もう私はいらないようだから、さよならするわ』と」


 ルゥが「ワゥン!」とほえました。マーもそれだっ、と思って言いました。


「きっと、夏の女王様がいなくなったのはそれが理由です。大きくなるのもならないのも、みんな好きにできるようになったから、お仕事がなくなっちゃったと思ったんだ!」


 おじいさんは頭をかかえました。


「それはありそうな話だがの。しかし、どうしろというのだ……この子が育てば、この子の体は()えられない。わしにこの子を(ねむ)らせろというのか……だが夏が来ないのも(こま)る」


 そのままおじいさん、ウンウンウウン――「東の発射場(はっしゃじょう)で心をデータにしてもらうか、南の病院で新しい肉体を作ってもらうか、そうして2つをあわせれば、またこの子を作ることができるか、しかしそれは、はたしてこの子と同じものか」――うなっています。


 ほっぺ真っ赤な少年が、またまた耳打ちしてくれました。


「……どうすれば夏の女王様が(もど)ってきてくれるか、父と相談してみます。君は、ほかの女王様を(さが)してくれますか?」


 そうして、マーにはホットココア(あつあつ)を、ルゥにはホットミルク(ぬるめ)を、ごちそうしてくれました。ココアを飲むと、じわ~、おなかにあったかさ、しみます。氷のそば、歩いてつかれたふくらはぎも、すこーしやわくなった気がします。


 マーとルゥ、「はい!」(ルゥは「ワン!」)と元気に返事し、そうして秋をさがしに南へ向かいました。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ