夏
マーとルゥが西に来ると、そこは大きな川でした。たくさんの人が、川のほとり(川の両側のことです)を散歩しています。冬の寒さでぶあつーい氷がはり、スケートをしたりソリですべったりしている人もいます。
シャーーー、シャアーー、ベタンッ!
アイタ!
ずっこけた人もいるようです。川のむこうからこっちへ、楽しげに笑いながらだれかがすべってきます。
「こんにちは! スケート楽しそうだね!」
マーが声をかけると、やってきた少年が、ばっ、とふりむきました。
「こんにちは! 転ぶと痛いですが、スケートは楽しいですよ! 君もすべりますか?」
寒さでほっぺが真っ赤な少年は、ていねいな言葉づかいでお返事をくれました。同い年くらいのマーとしては負けられません。うんとがんばり、ていねいに話してみました。
「はい、今度すべってみたいです! ところであなた、実は夏の女王様をさがしているのですが、ごらんになりませんでしたか?」
少年は真っ赤なほっぺに手をあてました。
「夏の女王様? そういえば近ごろ見ていないですね。少し待ってくださいますか、父にも聞いてみましょう」
川のむこうから少年のお父さん?、がやってきました。「?(はてな)」がつくのは、マーもルゥも「あれ?」(ルゥは「ワゥ?」)と首をかしげたからです。その人はお顔しわしわ、「お父さん」というより「おじいさん」のようでしたので。
「お父さん、夏の女王様をご覧になられましたか?」
おじいさんは、髪と同じく真っ白なおひげをなでつけて答えます。
「そういえば拝見しておらんな。最後にお言葉を交わしたのは……おぉ、そうか、お前の成長を止めた時か」
少年がマーに耳打ちして教えてくれました。
「実はぼく、体が良くなくて、大人になったら死んでしまう病気にかかっているのです。父がいろいろ研究をして、ぼくの成長を止めてくれました。おかげでぼくは、ずっと子どものまま、こうして父のそばで生きていられます! ちょっとばかり父と見かけが離れましたけれども。川の向こう岸にいる子どもたちは、みなそういう子たちですよ」
おじいさんは冬の青い空を見上げてつぶやきます。
「……その時は、夏の女王様はこんなことをおっしゃっていたの。『人は成長をするもしないも、好きにできるようになったのね。もう私はいらないようだから、さよならするわ』と」
ルゥが「ワゥン!」とほえました。マーもそれだっ、と思って言いました。
「きっと、夏の女王様がいなくなったのはそれが理由です。大きくなるのもならないのも、みんな好きにできるようになったから、お仕事がなくなっちゃったと思ったんだ!」
おじいさんは頭をかかえました。
「それはありそうな話だがの。しかし、どうしろというのだ……この子が育てば、この子の体は耐えられない。わしにこの子を眠らせろというのか……だが夏が来ないのも困る」
そのままおじいさん、ウンウンウウン――「東の発射場で心をデータにしてもらうか、南の病院で新しい肉体を作ってもらうか、そうして2つをあわせれば、またこの子を作ることができるか、しかしそれは、はたしてこの子と同じものか」――うなっています。
ほっぺ真っ赤な少年が、またまた耳打ちしてくれました。
「……どうすれば夏の女王様が戻ってきてくれるか、父と相談してみます。君は、ほかの女王様を探してくれますか?」
そうして、マーにはホットココア(あつあつ)を、ルゥにはホットミルク(ぬるめ)を、ごちそうしてくれました。ココアを飲むと、じわ~、おなかにあったかさ、しみます。氷のそば、歩いてつかれたふくらはぎも、すこーしやわくなった気がします。
マーとルゥ、「はい!」(ルゥは「ワン!」)と元気に返事し、そうして秋をさがしに南へ向かいました。