春
マーとルゥが東に来ると、そこはロケットの発射場でした。たくさんの人が、あっちで「点火!」、こっちで「点火!」と合図し、たくさんのロケットに火がつきます。あまりの熱に、雪もここではドーロドロドロ。
ゴオオオオオ、ゴオオオオオ!!
地面や空気はびりびりびり。大きなエンジン大きな火をふき、空の果てへと飛んでいきます。
「こんにちは! ここのロケットはどこへ行くんですか?」
マーが声をかけると、メガネをかけた青年が、ばっ、とふりむきました。
「君、興味があるのか? よくぞ聞いてくれた、ここのロケットは宇宙船だ。遠く遠く、何十年もかけて遠くの星まで人を運ぶ。さっき飛んでいったのはなんと100年もかかる予定なんだ。最新式の核融合エンジンを積んで、ものすごい速度で飛ぶんだが、それでもそんなにかかる。そうだ、核融合エンジンといえば……」
おっと、説明好きさんにあたってしまったようです。でも大丈夫、なれています(マーのお母さんもお話が長いので)。マーは青年の話にふんふんとうなずき、言葉がとぎれた時にすかさず聞きました。
「へぇ、そうなんだ! ところでお兄さん、実は春の女王様をさがしているんだけど、見ませんでしたか?」
青年はメガネをくぃっ、と持ち上げました。
「春の女王様? そういえば最近見てないな。ちょっと待ってくれ、仲間にも聞いてみる」
発射場にいた人たちが集まりました。青年が春の女王様を見たか?、と聞くと、仲間の人たちはくちぐちに言います。
「そーいや見てねーなー」
「最後に見たのは5回くらい前の宇宙船の時だな」
「あれって宇宙船軽くするために人間もデータにして積んだ時でしょ? 性格とか趣味とかデータにするの、大変だったわー」
「まったくだよ! おかげで宇宙船の燃料はだいぶ節約できたけれど、肉体は捨てなければならなくなった。目的地の星に着いたらちゃんと体を作れるといいね」
黒髪のきれいなお姉さんが、小さな声でマーに教えてくれました。
「……その時、春の女王様がごあいさつに来られたの。『人は自由に形を変えて、どこにでも行けるようになったのね。もう私はいらないようだから、さよならするわ』って」
ルゥが「ワゥン!」とほえました。マーもそれだっ、と思って言いました。
「きっと、春の女王様がいなくなったのはそれが理由です。みんな好きに変わってどこへでも行けるようになったから、お仕事がなくなっちゃったと思ったんだ!」
メガネの青年がうでを組んでうなりました。
「それはありそうな話だ。しかし、どうするか……人から体をなくして、データだけにできたから飛ばせる宇宙船もあるのに、データにできないとなると……だが春が来ないのも困る」
仲間の人たちもどーたらこーたら――「いっそ人を積まないとか」「それじゃなんのために移り住むのよ」「積むのは人工知能でもよくねー?」「人に近いことをするけれど、あれは人かい?」――話し合いです。
きれいな黒髪のお姉さんが、またまた小さな声で言いました。
「……どうすれば春の女王様が戻ってきてくれるか、みんなで相談してみるわ。あなたは、ほかの女王様を探してくれる?」
そうして、マーにはアメを、ルゥにはお肉ひとかけ、くれました。アメを口にふくむと、じわわ、あまーく広がります。雪の中、歩いてつかれた足も、すこーし軽くなった気がします。
マーとルゥ、「はい!」(ルゥは「ワン!」)と元気に返事し、そうして夏をさがしに西へ向かいました。