はじまり
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を受け持つ女王様がおりました。
女王様は決められた期間、かわるがわるお城に住みます。女王様がお城に来ると、その国ではその季節がやってくるのです。
春は生まれ。いろんな命が新たな世界へこんにちは!
ぱっぱっぱっ、花が咲きます。
ぶんぶかぶん、みつをすう虫あっちへこっちへ。
そーよそよそよ、そよ風のって種は遠くへ。
夏は育ち。ふえて変わって、大きくなっちゃう!
ぐんぐんぐぐん、草はのびますてっぺんへ。
じーじーじかじか、さなぎにさよならおとな虫。
むわーっともくもく、空も暑くて雲をはく。
秋は実り。ちっちゃい子どもがたくさんできるよ!
さわーさざわっ、風で波打つきんいろ穂の先。
ぐらぐらん、重たくゆれるいろいろ木の実。
ぴーちくぱーちく、鳥が食べますおいしいくだもの。
冬はねむり。ねむってねむって春までお休み、ねぼすけさんはずっといねむり!
おぉぉぉーーー……ん、遠いこだまはけものの遠ぼえ。
ぱさん……ばさん……、枝から落ちる雪の音。
ぴゅー……ひゅー……、すき間で歌うすきま風。
ところがある時、いつまでたっても冬が終わらなくなりました。冬の女王様が、ずっとずっとお城にいらっしゃるのです。
あたりいっぱい雪におおわれ、通りもお店もまっ白けっけ。このまま雪が続けば、お家のご飯もすっからかんです。
こまった王様は、お知らせを出しました。
「冬の女王様と春の女王様を交代させた者には、好きなほうびを与えよう。けれども、冬の女王様を傷つけたり、いじめたり、この国に来たくない、と思わせてしまうやり方は禁止である。きちんと、春、夏、秋、そして冬の季節をめぐらせる方法にすること!」
それを聞いた国の人たちは、どうしたものか、と頭をひねりました。
10歳のマーも、頭をひねりました。毎日毎日、雪合戦やおこたでぬくぬく。楽しいけれど、ご飯がなくなるのはこまります。同い年の犬、ルゥのエサがなくなるのもこまります。ルゥは年をとっているので、冬の寒さでかたーくなったエサは苦手なのです。
大人たちは、あっちの道ばたこっちの街角、相談中で動きません。そこでマー、冬の女王様に聞いてみよう、とお城へ一直線! ルゥもぴょこぴょこ、いっしょです(友達ですので)。
「冬の女王様、冬の女王様、どうしてお城から出ないのですか? どうして春の女王様は来ないのですか?」
冬の女王様は、おっしゃいました。とてもやさしいお声で、おっしゃいました。
「みなさまは、生まれることも、育つことも、実ることも、いかようにもしているのですよ。好きなようにできるのです。ですから、わたくしのほかは、春も夏も秋も、みな、いなくなってしまったのです。みなさま、ご自分でどのようにもできるのだから、もう、私たちはいらないでしょう、と」
マーはびっくり! びっくりあまってルゥのしっぽをぎゅっ!(ルゥは「キャン!」)。女王様がいなくなるとは、これはおおごと!
「いらないなんてそんな! じゃあ、さがしに行きます! 冬の女王様、春や夏や秋の女王様は、いつもはどこに?」
冬の女王様、にっこりマーに教えてくれました。
「春は東、夏は西、秋は南におりましたよ。そこにいる人々を訪ねれば、どうすれば春や夏や秋が戻ってくるのか、おのずとわかるでしょう」
マーがお礼を言うと、冬の女王様は目をくもらせました。
「人よ、いなくなった女王を戻すには、人も変わらねばなりません。それは、時につらいことかもしれない。それでも人よ、女王を戻しますか?」
つらいこととは何でしょう? マーはちょっぴりこわくなって、ルゥをなでなでしました。ルゥの毛はするするなので、さわると気持ちが落ち着きます。
「冬の女王様、とにかく、春や夏や秋の女王様をさがしてみます。そうしてこまったことがあれば、みんなに聞いてみます」
一人でこまったらだれかと相談すれば良い。そう考えて、マーは答えました。頭をひねってくれる大人はたくさんいますしね。
冬の女王様はまたにっこり、東を指さしマーに言います。
「では人よ、まずは東へ。そこで春を見た者をお探しなさい」
マーとルゥ、「はい!」(ルゥは「ワン!」)と元気に返事し、そうして春をさがしに東へ向かいました。