策士 後編
「私はホントに下衆いことしかできませんけど、悪く思わないで下さいね」
坂上妹はそう呟いて部室を後にし、バットを片付け忘れたふりをしてまた部室に片付けに行った後、
何事もなかったかのようにいつも通りに帰っていった。
「先輩みたいに毎日コツコツ勉強していると思えないもん、あのくそ兄貴。それで先輩より上の点数とかマジで頭の中かち割りたくなるわ」
そんなことを思っていた。
さすがに学校が近くなるにつれて大夢の顔色がだんだん悪くなっていったのを察知していた。
「あーやっべー答えなくした、死ねばいいのに・・・」
という声をこっそり聞いていたのだ。
そう簡単にあげるとは言えないから何か良い方法はないかと彼女なりに考えた結果がそう、「暴力」だ。
大夢がドMだということは知っていた。しかし暴力もひどいことだと自覚はしていた。
暴力とは、単純に乱暴な力や行為のことで合理性や正当性を欠くものである。
いかに合理的に誰からも文句を言われないような正当な力を振るってあげられるかどうかを彼女自身は悩んでいた。
暴力という従来の定義を変えてまでも力を行使し、ドMな変態兄貴のために何かできることはないのかと。
Hiromu is sleeping now.
せっかく早起きして学校着いたって言うのに大夢君ねぇ。
気がつけば教室で寝てたんだよ。
ホント、熱心だったよねぇ。
何の声かと思った。
さぁ何が起こったんだろうね。
珍しく学校は六時前に開いた。
大夢は嘘でも「ちょっと朝勉強をしようと思って」と言って教室に入った。
夏休みの課題は終えており、勉強道具を出して勉強する振りをしていた。
そうするうちに寝てしまっていた。
大夢が寝ることを想定して坂上妹は早めに登校した。
先生に突っ込まれるところではあるが、兄に忘れ物を届けるという口実で3年の教室に入っても大丈夫だった。
登校日は給食がない。弁当を届けるためだと言った。
その時のせっかく早起きして(ry、だった。全部妹の演技だった。
「なんだ、狸寝入りか。本当は関口先輩のプリント返せなくて困ってるくせに。私が返しに行かなきゃダメね、どっちにしろカバンは部室の中。お兄ちゃん残念でしたー。」
そう言って忘れ物を届け、例のプリントを取り、部室へ向かった。
この時既に6時半だった。
結局ばれずにしまうことができた。
それでも堂々と朝練を行う。
もし部室に何回も出入りするところを見たと怪しまれた場合でも、
気がつかなかったんですよーの一点張りで済ましても許される自信はあった。
なぜなら坂上妹は可愛い後輩だから。
それだけ。
実は予想もしないことが起きていた。
「関口先輩、おはようございます!」
「ごめんごめん」
いきなり謝る莉香子。
「実はさ、これ、大夢君来たらマジでごめんって謝っといて!」
そう言って渡されたのは例の答えプリントだった。
「あ、彼ならもう学校に来てますよw」
「そうなの!やっぱ答えがなくて困ってるのかな~。直接謝ってくるから大丈夫だよ、ごめんね!」
なるほどそういうことか。
そして莉香子本人もカバンを忘れたことに気がつかない、いや気づいてないふりをしているのか。
坂上妹はそれ以来先輩を怖がるようになった。




