策士 前編
大夢たち榛名町民の中学生はみな榛名中学に通う。
榛名中は今は合併されて高崎市立になっている。
山の頂上には榛名湖があり、夏はバスフィッシングやボート、
冬はワカサギ釣りやスケートが楽しめる県内有数の観光地だ。
2学期初日。
大夢は自転車を使っていの一番で学校に着いた。
誰にも気付かれないように忍び足で向かう。
AM5時30分。当然だが学校の玄関は空いていない。
妹が盗んだであろう同級生の課題のプリントを返すためだった。
「ったく、俺がプリントなくしたからってそこまでするかぁ。あいつに申し訳ないじゃないか」
その『あいつ』とは関口莉香子のことだ。
大夢のクラスメートでソフトボール部だから妹の先輩にあたる。
背は高いが何かと鈍感でその上天然でおとなしい性格だから、それをうまく利用したのだろう。
妹は策士である。母の松代真田六文銭の血が繋がっている故か。
まぁそんなことはどうでもいい。
では、なんで坂上妹は関口のプリントを奪ったのか、そのカラクリを教えてやろう。
関口はもちろんソフトが好きで自身が試合に出れなくとも後輩に色々アドバイスしたりして、
引退後も後輩のことを思いちょくちょく練習に来ていた。
午前は学校で勉強し、午後はグラウンドに姿を見せていた。
高校でもソフトを続ける意思を固めていたため自身も練習に参加していた。
それでクタクタになるのだろう。
頭がボーっとしている関口にちょっかいをかける3年生。
関口は部活の間ではいじられキャラだ。
勉強するために朝早く起きてきたのか午後には部室に入ったまま寝てしまったり、
帰る時にカバンを忘れることも度々あった。
関口のカバンを発見した坂上妹は他の部員がわかりにくいところに隠した。
坂上妹は一瞬のスキを逃さなかったのだ。
「ねぇあゆみ~、まだ帰らないのー?」
「あーちょっと素振りして帰る!顧問にもオッケーもらってるから!」
「努力家だなぁ、じゃぁまた明日ね~」
嘘だ。
この日ばかりは嘘だった。
誰もいなくなったことを確認し、
部室の中に隠しておいた関口のカバンの中から夏休みの宿題プリントを取り出す。
プリントに傷がつかないように自分のファイルにそっと入れた。
しかし、坂上妹は自分がまずいことをしているとは思わなかった。
なぜならまずいことは誰にもばれずに帳消しにできる自信があったからだ。
続く。




