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ポルタトーリ  作者: Vapor cone
27/46

26.放課後の攻防②

 警官達に促されるまま、学校の裏門まで来た友子と新垣。気が付くと、辺りは暗くなり始めていた。西の空を見上げる。雲が赤く染まっていた。

 学校の裏手は小高い山になっている。裏門に通じる道路を隔てた向こうには、雑木林が広がっていた。正門のある表は大きな通りに面していて、車や人の通りも多くコンビニなどの店もちらほら見受けられる。しかし、こちらは何も無かった。普段からこんな感じで、裏門を利用するのは物品を学校に納入する業者くらいだ。

 相変わらず、裏門付近はひっそりとしていた。横にあるラクロス場にも人影は無い。照明も付いておらず、今日は練習が休みのようだ。

 警官に支えられていた新垣は、幾分か回復した様子だった。それを一瞥した後、友子は辺りに目を配る。

「――あれ、お巡りさん。パトカーは?」

 警官は答えなかった。同時に黒っぽい車が、こちらに向かって来るのが窺えた。すると、突如として口調が変わった警官。何故か、ほくそ笑む。

「突然の呼び出しだ。パトカーまで用意できる訳ねーだろ」

「……?」

 言葉の意味が理解できなかった。小首を傾げた友子。目の前に急停車した、黒のアルファードに目をぱちくりさせる。

「……ん、これ?」

 アルファードの後部スライドドアが勢いよく開いた。

「うあっ!」

 驚愕の声を漏らしたのは新垣だった。血相を変え、支えて貰っていた警官の手を振り払おうとする。その狼狽ぶりに戸惑う友子。

 車から降り立った一人の男。不敵な笑みを浮かべている。柄の良くないおっさん。友子にはそう見えるだけだったが、新垣にとっては違った。男はあの坊主頭であり、最悪の展開だった。

 戸惑っていた友子だが、次に起きた異常な状況に動揺する。

 警官が取り乱す新垣を押さえ込んだのだ。しかも、容赦ない勢いで両手を後ろに取ると、体重を掛け道路にうつぶせに倒した。そのまま、有無を言わせず背中を膝で押さえ手錠を掛ける。

 友子は乱暴過ぎる行為に、憤慨して叫んだ。

「ちょっと! 何するの! そんな酷い扱いしなくても――」

 言葉が途切れた。不意だった。もう一人の警官が、後ろから友子を羽交い絞めにしていた。喉にしっかり食い込んだ警官の腕。

「こ、こいつら、偽者だ!」

 顔をアスファルトに押し付けられた新垣が、唾を飛ばしながら叫んだ。身動きの取れない二人を前に、悠然と立つ坊主頭。より一層の無粋な笑み。満足そうな表情でもあった。

「さっきは、してやられたよ。だが、そんなに簡単に逃げられるはずがないだろう? 俺が言ったことを忘れたのか? 素人のくせに舐めるなよ」

 蔑んだ視線を新垣に落とした坊主頭。言葉に抑揚が無い為、不気味な迫力がある。

「ハッキングの腕は大したものだが、我々の追跡はかわせんよ。携帯からの位置情報を気にして電源を切ったようだが、そんな事は何の役にも立たん。我々もプロなのでね……しかし、このお嬢さんを尋ねてくるとは笑わせてくれる。追跡するまでも無かったよ」

 坊主頭は足元にある新垣の頭をつま先で小突いた。

「お嬢さんを巻き込んでしまったのは、お前の責任だ……後悔するといい」

 顔を引き攣らせ、坊主頭を睨み付けた新垣だったが、男の言う通りだった。この結果を招いてしまったのは自分だった。自責の念に駆られる。悔やんでも遅かった。

 友子も羽交い締めに耐えながら後悔していた。今更だが、この展開の奇妙さをもっと早く疑うべきだった。如何せん、微妙に芽生えた乙女心が判断を鈍らせてしまっていた。ただ、今はこいつらに無性に腹が立っていた。詳しい事情は知らないが、間違いなく正義はこちらにある。

 友子の感情が高まり始める。それとは逆に頭が冷静になる。後は、心の導くままに躰を委ねるだけだった。武者震いと共に眼差しが鋭くなった。腕を振り上げると渾身の肘鉄を背後の偽警官の脇腹に入れた。

「おっ、何だ?」

 手応えはあったのだが、打撃は着ている防刃チョッキに阻まれていた。女子高生の意外な反撃。偽警官は悦に入る表情を浮かべる。面白いおもちゃでも手にしたかのようだ。

 暴れる友子を更に締め上げる。嗚咽し、悶える友子。回された腕は的確に頸の動脈を捉えていた。拘束術を心得ている者の締め方だった。朦朧とし始める。このまま落とされる。「大人の世界では通用しない……」父親の言葉が頭を過る。

 抵抗していた友子の両手がダラリと落ちた。それを見ていた新垣が、言葉にならない叫び声を上げる。ニヤリとした偽警官は腕の力を抜いた。

 だが、次の瞬間。失神したはずの友子の目が見開く! 回された偽警官の腕に両手でぶら下がり、目の前にあったアルファードのボディを全力で両足蹴りする。仰け反りながら、その反動を背中の偽警官にぶち当てた。

 不意打ちにバランスを崩した偽警官。友子に押された勢いのまま、背中から裏門の壁面に激突した。顔をしかめ嗚咽を漏らした偽警官だったが、腕は解かれなかった。友子は続けて頭をハンマーのように思い切り後ろに振る。男の鼻骨に友子の後頭部が入る。何かが、くしゃげる音がした。たまらず手を放した偽警官。

 友子は後頭部の痛みによろめきながらも、間髪入れず振り向きざまに右足を上げた。翻るチェックのスカート。ハイキックが偽警官の延髄を捉えた。渾身の力で振り抜く。

 頭を揺さぶられた偽警官は、白目を剥いて道路に崩れた。

 完全に追撃モードに入った友子。続いて、新垣を押さえ込んでいる偽警官に向う。予想外な展開に、慌てて身構える相手。それを見ていた坊主頭。冷静さを失うことなく、ジャケットのポケットから何かを取り出した。赤いマーカーが友子の背中に照射される。軽い破裂音。

「うっ!」

 衝撃が友子を襲っていた。今まで経験したことのない苦痛。躰が痺れ硬直していた。何の抵抗も出来ないまま、道路に倒れ込む。アスファルトで額を打った。嫌な音が頭に響く。しかし、全身を締め付ける痛みの方が強烈だった。呻きながら、かろうじて視線を上げる。

 仁王立ちで見下ろす坊主頭。その手には銃のような物が握られていた。一見してオモチャのピストル。そこから、二本の細いワイヤーが友子に伸びていた。

 見覚えがある。父親の読んでいる雑誌に載っていた。ワイヤーの付いた電極針をガスで飛ばすタイプのスタンガン。

「……女子相手に……って、あり得ないし」心の中で呟いてはみたものの、数万ボルトのパルスを流されては勝ち目がない。少しの間、悶え続ける友子を見てから、坊主頭はテイザーガンのスイッチを切った。

 まともに呼吸ができるようになったのもつかの間。先ほど友子に蹴倒された偽警官が、頭を振りながら起き上がるのが見えた。鼻孔から血を流した顔は、怒りで真っ赤になっていた。血の気が引いた友子。

 お決まりの展開。目を剝いて襲い掛かかる偽警官。後ろからブレザーの襟を掴み友子を引き起こすと、アルファードの側面に容赦なく叩き付けた。

「ぎやっ!」

 悲鳴を上げた友子。偽警官は友子を車体に押し付けたまま、後ろ手にして手錠を掛けた。力任せに締め込んだ手錠が手首に食い込む。苦痛で友子の顔が歪む。それでも怒りが納まらない偽警官。ポニーテールを掴むと、アルファードの窓ガラスに友子の顔を叩きつけた。そして、グリグリと押し付ける。

「やめてくれ!」

 新垣の懇願する悲痛な叫び。

 友子は黙って、それに耐えるしかなかった。口の中に血の味が広がる。倒れた際にアスファルトで切った額から血が滲み出した。

「ふざけやがって! 舐めたまねしてくれるじゃねえか、この糞ガキが!」

 偽警官は自分の鼻血を指で拭うと、友子の制服に擦り付けた。そして、アルファードに押し付けたまま、後ろから友子のお尻を鷲掴みにする。

「やっちまうぞ、コラ!」

 屈辱に奥歯を強く噛み締めた友子。偽警官は蔑んだ目であざけ笑う。先ほどまでの親切な警官と同じ人間とは思えないほど豹変していた。野蛮そのものだった。

「――さあ、遊びは終わりだ! 撤収するぞ!」

 窘める坊主頭。テイザーガンを偽警官に渡し、新垣と友子を車に乗せるよう目配せする。鼻で笑う偽警官。仕方なしといった表情で従った。

 その時だった。背後に気配を感じた坊主頭。それはあり得ないことだった。世界中の戦場を渡り歩いた自分が、こんな平和ボケした国で作戦行動中に背後を取られるなど、あろうはずがない。しかし、それは現実に存在していた。

 背後で鳴った、何かを伸ばす擦れる音。それに反応して、坊主頭は素早い身のこなしで腰のホルスターから自動拳銃を抜いた。ベレッタPx4。薬室に装填済みのハーフコック状態。

 鍛錬された無駄のない動きだった。だが、ダブルアクションでハンマーを起こす分、僅かに遅れを取っていた。銃を向けた坊主頭を待ち受けていたのは、右手への強烈な痺れだった。銃のスライドが歪む程の力で叩き落とされたPx4。続けざまに、衝撃が坊主頭の腹部を襲った。

 黒い棒状の物が、みぞおちを捉えていた。鈍い嗚咽を漏らし、身をよじって後ずさりした坊主頭。口を開けたまま瞠目し、頬を引き攣らせながら相手を睨んだ。

「おまえ……」

 突然の展開に、たじろぐ偽警官達。

 異変に気付いた新垣。そこには、手に棒のような物を携えた人の姿があった。編み上げのブーツ。タイトなパンツに黒いジャケット。風に揺れる髪。薄暗い中に浮かび上がる、女のシルエット。

 特殊警棒を握って立つ、リサ・パーカーだった。

「――くそっ!」

 泡を食ったのは、運転席で待機中のショートボブの女だった。ガキ共を捕まえる作戦など興味はなかったが、打ちのめされた坊主頭を目にしてスイッチが入った。腰のホルスターからグロック19自動拳銃を引き抜く。運転席で振り向きながら、開いたスライドドア越しに外へ向かって躊躇わず発砲した。

 突然の銃撃。偽警官達は慌てふためいて、その場に伏せた。友子と新垣も引き摺られて倒れ込む。

 リサを狙ったショートボブだが、リサはアルファードの陰に身を翻していた。標的を見失ったショートボブ。焦りながら周囲に視線を走らせる中、ドアミラーに女の影を見付ける。運転席側に回り込んだリサだった。既に射撃姿勢を整えている。手にはCZP-07自動拳銃。容赦なく運転席に向かって引き金を引いた。

 .40S&W弾の連射に砕け散る運転席の窓ガラス。咄嗟に身を伏せたショートボブだったが、弾の一つがその右腕を捉えた。呻き声と共にフロントガラスに血が飛ぶ。グロックを手から落とし、苦痛に顔を歪ませたショートボブ。しかし、すぐに左手で床に落ちた銃を必死に探す。簡単には怯まないプロの動き。

 銃を構えたまま、運転席に近付くリサ。

「――早く、車を出せ!」

 後部座席から叫んだのは坊主頭の男だった。腹を押さえ、口から出た吐しゃ物を手で拭いながら車内に倒れ込んでいた。

 思わぬ反撃。頭に血が上ったショートボブだが、昂ぶった感情を抑え坊主頭の指示に従う。形勢不利は否めない。

 姿勢を低くしたまま、シフトを入れアクセルをベタ踏みした。アルファードはスライドドアを開けた状態で、激しくタイヤを鳴らし発進する。薄暗い中、遠ざかるアルファード。リサは銃口を向けた前傾姿勢のまま、冷ややかな表情でやり過ごす。

 残された偽警官達が、呆然と立ち上がる。目の前には銃を持ったリサ。それを見据えながら、偽警官達は後退りした。足元には手錠をはめられた友子と新垣。

 リサは偽警官を見遣ると銃を下ろした。

「腰に吊るしたM37は、あなた達と同じ偽物ってことね。そこに落ちているベレッタも、きっと使い物にならないし……」

 平然とした顔でジャケットの前身頃をめくるリサ。銃を腰のホルスターに入れた。そのうえで、特殊警棒に持ち替える。ゆっくりと腕を上げ、クイクイと手招きした。偽警官二人は顔を見合わせる。

「……なるほど、そういうつもりかい」

 先ほど友子を痛めつけた方が、ニヤリと笑って腰から警棒を抜く。もう一人も、同じく抜いた。軽い音と共に警棒が伸びる。

 へたり込んでいた友子が気付く。目の前に現れた女性。間違いない。この前スーパーで会った美人さんだった。友子と新垣が瞠目する中。偽警官二人が同時にリサに襲い掛かった。

 荒々しく振り回される警棒。しかし、リサはその動きを予測しているかのように、的確に捉えて特殊警棒で弾きかわす。しかも、二人交互に来る攻撃をものともしない。偽警官は苛立ちと共に一層激しく打撃を加えるが、リサには掠りもしなかった。偽警官達の息が上がり、一瞬動きが止まった。

 冷淡だったリサの眼光が豹変する。まるで獲物を狩る獣の如く、一転して防御から攻撃に転じたリサ。決着には十秒もかからなかった。

 その光景に目を丸くする友子。思わず呟く。「……この人は強い。とてつもなく……怖いくらいに」

 偽警官の一人は足を撥ねられ転倒。そのまま坊主頭同様、みぞおちに一撃。もう一人は両手を潰された後、無残に顎を砕かれた。そっちは友子をいたぶった方だが、余分にやられているように見えた。同情する気はないが、その痛々しさに友子は顔をしかめた。

 意識を失い倒れる偽警官達。リサは淡々とした表情で辺りを見回した。静まり返った裏門。騒ぎの割に、学校から人が出て来る様子は無かった。たとえ目撃したとしても、この危険な状況。おいそれと近付く気にはならないだろう。

 手錠を掛けられ、へたり込んだ友子。何も言えずリサを見上げていた。傷だらけの顔。口から出た血が顎に伝っていた。新垣も豆鉄砲をくらった鳩のように、口を半開きにして固まっていた。その顔を一瞥するリサ。冷たい視線にドキッとして身を震わした新垣。

 リサは特殊警棒を仕舞いながら友子に近付いた。黙ったまま、ゆっくりとしゃがみ込む。アスファルトに片膝を着け躰を寄せた。二人の顔が向かい合う。

「……大丈夫?」

 手を伸ばし、そっと友子の頬に触れるリサ。唇から流れる血を指で拭い取ると、視線を合わせ優しく微笑む。

 胸がぎゅっと苦しくなった。友子にとって経験したことのない感覚。嬉しいけど、恥ずかしくもあり切なくもあった。自分の気持ちを確かめるように、じっと相手を見詰めた。

 すると、今度は別のものが込み上げてくるのを感じた。それはとても心地良いもの。手から伝わってくる温もりと共に、うっとりした感覚に包まれる。

「あっ……」

 友子は驚いた。自分の頬を何かが伝っていた。何故なのかは分からない。緊張から解放され、安堵しただけなのかもしれない。でも、確かにそれは涙だった。両方の瞳から溢れ出ていた。何か言おうとしても言葉にならなかった。

 時が止まったかのように見詰め合う二人。

「――ともこー!」

「……え?」

 何処からともなく聞こえて来た悲痛な叫び。それは父の声だった。瞠目する友子。


「――今の!」

 目的地の女子高校へ通じる道路を走っていたブルー・パールのWRX。すれ違った車を見て鷹野が叫んでいた。猛スピードで遠ざかって行く黒のアルファード。ブレーキを踏んでスピードを緩めた鷹野が助手席の越谷を見遣る。

「フロントガラスに銃撃跡! 運転手は女! ――どうします!?」

 胸騒ぎを覚えた越谷が叫ぶ。

「このまま行け! 今の車両の追跡は所轄にやらせる」

 越谷は携帯を取り出した。鷹野はアクセルを踏んで加速させる。緩やかな登り坂。勢いを増したWRXが疾走する。


 最初の一撃は空振りに終わった。だが、直哉はバランスを崩すことなく、続けて蹴りを繰り出す。だが、またもやそれを軽くかわされる。

 突如、現れたのは直哉だった。リサと友子の間に飛び込むように割って入り、問答無用でリサに殴り掛かっていた。

 予想外の展開。絶句した友子だが、我に返って叫んだ。

「お、お父さん!? なんで!」

「……おとうさん!?」

 横にいた新垣が、戸惑った表情で呟く。

「お父さん! やめて! 違うの! お父さん!」

 絶叫する友子の声は聞こえたが、攻撃の構えを崩さない直哉。

 この状況を直哉が正しく判断できるはずもなかった。倒れる二人の制服警官。手錠を後ろ手に掛けられ、座り込んだ自分の娘と見知らぬ青年。更に友子は怪我をしている。直哉の激高は簡単に納まるものではなかった。

 直哉は再び仕掛ける。現役ではないとはいえ、PMCで仕込まれた近接格闘術だ。日頃のトレーニングも欠かしていない。普通の人間が食らえば致命傷にもなりかねない。

 しかし、相手はそれを平然と受け流す。しかも、顔には笑みすら浮かんでいる。頭に血が上っているとはいえ、こんなに簡単にかわされるはずはなかった。

 その異変に、ふと冷静さを取り戻した直哉。誰に言う訳でもなく呟いた。

「……何だ……こいつ」

 リサが大きく間合いを取ったところで睨み合いとなる。友子が叫んでいるのが、再び聞こえてきた。

「――お父さん! 違う! その人は悪くない!」

「……どういうことだ?」

 友子を一瞥して、やっと答えた直哉。

「だから! その人が助けてくれたのよ!」

「……」

 疑心暗鬼な直哉。相手を標的として捉えたまま、その姿を凝視した。外国人っぽい容姿をしているが、見たところ普通の女だった。それにしても、こいつの動きは尋常ではない。

 もう一度、友子を見遣る。

「友子。どうなってるんだ?」

「だから、言ってるじゃない――」

 閃光に友子の言葉が止まった。裏門に滑り込むように現れた車。ヘッドライトによって、周辺が眩しく照らし出される。目を細めた直哉。光源に向けて手をかざす。友子と新垣も目を背けた。

「……次は……何だ?」

 目まぐるしい展開に、ぼやくしかない直哉。渋い顔のまま、視線を女に戻した。

「あ……」

 忽然と消えていた。女の姿が、さっきまでいた所に無い。辺りを見回しても気配は感じられない。暗闇の奥にラクロス場が広がるだけだった。

「――そのまま、動かないで!」

 唖然とする直哉だが、掛けられた女の声に振り向いた。ヘッドライトを背に、こちらに近付いて来る人影を見遣る。

 鷹野だった。左肘を突き出し逆手でフラッシュライトを持っている。右手にはコンパクトな自動拳銃、スプリングフィールドXDsが握られていた。周囲の現状確認を行いながら、慎重に歩み寄る。

 道路に倒れる警官が二人。座り込む制服姿の女子高生とスーツを着た青年。前者の二人は意識がないようだ。後者の二人は怪我をしていて、手錠をはめられている。そして、横に立ち尽くす男。鷹野は男に照準を定め構える。だが、抵抗する様子は無かった。

「――クリア」

 合図を送るように叫んだ鷹野。自分が当てたフラッシュライトの光に目をしばたたかせる男。その顔を見て驚く。

「あなたって……」

 困惑した表情の鷹野。その背後に現れたのは越谷だった。辺りを見回すと、表情を崩さず訪ねた。

「説明してくれないか? 篠崎さん。これは、どういうことだ?」

「……さあ、聞きたいのはこっちの方だよ」

 越谷と鷹野を厳しい眼差しで見据えた直哉。友子と新垣は座り込んだまま、お互いに顔を見合わせる。

「大丈夫ですか?」

 そう言った友子だが、背中にはテイザーガンのワイヤーが刺さったままだ。新垣はあんぐりとした顔で答えた。

「……いや、君の方こそ」


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