25.放課後の攻防①
近代的なデザインの門構え。タクシーより降り立った新垣は、一目散に正門のアーチをくぐっていた。
私立の女子高校は、ちょうど授業が終わったところだった。鞄を抱えた生徒達が、一斉に校舎から流れ出る。下校する生徒に混じって、ジャージ姿の者もいた。これからクラブ活動なのだろう。
新垣はその流れに逆行しながら、しきりに少女達に目を走らせる。その明らかに浮いた振舞と存在に、好奇の視線が向けられる。だが、それを気にしている余裕は新垣に無かった。
「――あれっ!?」
そんな中、新垣の顔を見た一人が声を上げた。すれ違いざまに、驚いた表情で振り返った制服姿の少女。肩の辺りでカールしている髪が揺れる。大きな瞳にくりんとしたまつ毛。里見香奈だった。
「どうした?」
男の子っぽい口調。隣にいた青いジャージを着た女子が不思議そうに訊いた。香奈は目を丸くしながら答える。
「あの人! 知ってる!」
新垣の後ろ姿を目で追い、つま先立ちになる香奈。背の高いジャージ女子は姿勢を伸ばし、同じように見知らぬ男性に視線を走らせた。
「何? 誰?」
急にそわそわとして、落ち着かなくなった香奈。
「……ち、ちょっと。部室、先に行ってて! これは一大事かも」
香奈は何かを合点したように手を叩くと、自分の持っていたバックをジャージ女子に押し付けた。まっしぐらに駆け出す香奈。呆気に取られるジャージ女子。
「え? はあ?」
カバンを抱えたジャージ女子。戸惑った顔で立ち尽くす。
「……で? 何?」
勢いよく入ってはみたものの、私立高校の敷地はかなり広かった。新垣は闇雲に捜し回ろうとしている自分に気付く。どうせストーカーなのだから、彼女の学校についても詳しく知らべておくべきだった。
これでは埒が明かない。我に帰って立ち止まる。会社を抜け出したまでは良かったが、よくよく考えたら、ここからはノープランだった。
深呼吸して焦る心を落ち着かせる。ブツブツと独り言がこぼれる。
「どうやって、彼女を探す? ……よし。まずは、学校の窓口で彼女を呼び出して貰おう……うーん。それでは、まどろっこしい。今は時間が無い。奴らが既に追って来ているかもしれない……では、大声で名前を呼んで探してみる……いや、それでは完全に怪しい感じになる」
黙考する新垣。
「……じゃあ、誰かに訪ねてみる……よし、これは妥当だ」
プランが決まった。
「――ねえ!」
「うわっ!」
突然の呼び掛け。不意を突かれ、素っ頓狂なリアクションをとってしまった新垣。照れ隠し半分、苦笑いしながら振り返る。
そこには、制服姿の生徒が立っていた。呆然とする新垣に、堰を切ったように畳み掛ける。
「ねえ、ちょっと! 友子を捜してるんでしょ? 違う? そうでしょ? どうなの?」
呆気に取られ、思わず仰け反る新垣。手を胸のところで組み、何故か目を輝かせている。新垣の後を追い駆けて来た香奈だった。
「……ともこ?」
新垣は動揺しながらも、その言葉は聞き逃さなかった。予期しない突然の進展にどぎまぎする。良く分からない状況だが、これは渡りに船なのかもしれない。この子は、篠崎友子を知っている? とはいえ、間違いのないように一呼吸置いて恐々と尋ねた。
「ともこ……いや、篠崎友子を知っている……の?」
思わず呼び捨てにしてしまったことに気まずさを感じたが、相手の表情は変わらなかった。それどころか勢いは増した。
「あなた、毎朝友子と同じバスに乗ってる人でしょ? でしょ!?」
意味ありげな含み笑いで新垣を見詰める。何かを訴えているみたいだが、それが何か分からない。取り敢えず、素朴な疑問を投げ掛けてみる。
「そうだけど……君は?」
「……え?」
香奈。キョトンとしながらも、自分を指差して可愛くまつ毛をしばたたかせてみせた。
「ほら。バスで友子の隣の席にいつも座ってるでしょ……途中から乗って来て……ほら……」
「……?」新垣はあんぐりとした顔で頸を傾げた後、頷いた。「……あ、ああ!」
香奈は少々複雑な気持ちで目を細めた。
「……なるほど、友子しか見えてないのね……」何かを振り払うように咳払いした香奈。「そう……ま、いいわ」
妙な空気を打ち消し本題に戻った香奈。
「友子を探してるのね?」
「ああ! そうなんだ、何処にいるの?」
素直に頷く新垣。香奈は大きな身振りでグラウンドの奥を指差した。
「今日は掃除当番だって言ってたから、渡り廊下の掃除をしてるはず。あの体育館と校舎の間!」
新垣がその方向を見遣ると、グラウンドの向こうに体育館があった。隣に校舎もある。
「あそこだね。分かった、ありがとう……だけど、あの……」
妙な調子のやり取りになっていることに戸惑う新垣。
「いいから、早く行って!」
だが、香奈に躊躇いは無い。彼女にとって全てはお見通しなのだ。
そう言われても、腑に落ちない新垣。何故、彼女が協力してくれるのかと。でも、今は考えている余裕がないのも確かだ。もう一度お礼を言ってその場を後にした。
背中を向けた新垣を満足気に見送る香奈。噛みしめるように呟いた。
「……しっかり、やるのよーっ、てね」
「――何を、やるって?」
「わっ!」
背後から長い腕に抱き付かれて声を上げた香奈。先ほどのジャージ女子だった。訝しむ表情。香奈の耳元で囁く。
「気になったから、来ちゃった……で、何なの?」
その一言を待っていたかのように、香奈はジャージ女子の腕を解き払い向かい合う。そして、自分より背の高いジャージ女子を上目遣いで見る。その表情には恥じらいが感じられた。
「決まってるじゃん! 告白よ! 告白! 告っちゃうのよ!」
「……誰が?」
「今の、ちょっとイケてるサラリーマン」
「……誰に?」
「友子! と、も、こ!」
「あー……ん。篠崎さん? ……香奈の友達の?」
「そうよ」
ジャージ女子は目を細めた。
「……何故に、今ここで?」
香奈自身も頸を傾げたが、それは全く問題ではないようだ。
「……さあ……それは、いろいろとあるのよ……きっと……とにかく、細かいことは別にして、そういう展開なのよ」
根拠が無いのはみえみえだが、自信ありげに頷く香奈。
「そうかな……良く分かんないけど、何かもっと訳ありな感じが……」
腕を組んだジヤージ女子はグラウンドを眺めた。香奈は勝手に余韻に浸って含み笑いをしている。
「……ああ、私にも誰か告ってくれないかな~」
呆れ顔で香奈を見下げるジャージ女子。
「あんた、何か怖いよ……そんなことより準備、準備。先生の所から、新しいシャトル貰って来るんでしょ!」
ジャージ女子は吐き捨てた。しかし、その場を名残惜しそうにモジモジしている香奈。
「行くよ、この恋愛中毒娘が!」
ジャージ女子は香奈の頸に腕をまわすと、問答無用で引きずり始めた。嗚咽を漏らす香奈。
「う、ぐぐぐ~」
グラウンドを横断し体育館の裏へと回った新垣。そこには、隣の校舎と繋がる渡り廊下があった。数名の生徒が掃除をしているのが見える。勢い良く駆け寄った新垣だったが、向けられた視線は冷ややかだった。
突然、現れたスーツ姿の男。しかも、息を荒げてハアハア言っている。生徒達が警戒するのも無理はない。皆一様に何事かと身を引いている。だからといって、新垣に躊躇している時間は無かった。かまわず、少女達の中に篠崎友子を探す。
「――何ですか!?」
凛とした声だった。それは険しい口調だったが、聞き覚えがあった。新垣が振り向くと、そこに篠崎友子が立っていた。
口を一文字に閉じ、こちらを見据えている。掃除する為だろうか、髪をポニーテールにまとめていた。とても似合っていて可愛かった。
余りにも、トントン拍子に進んだ偶然に戸惑ってしまった新垣。彼女を見付けられたことに何より安堵したのだが、この状況についてどう切り出して良いのか分からなくなってしまった。
「あ、あの……」
口籠る新垣。その顔をまじまじと見ていた友子。はっと息を呑んだ。
「えっ!? バスの人?」
目を丸くした友子。その言葉は、新垣にとっては好都合だった。自分を認識してくれている。厄介な説明が少し減ることは間違いない。慌てて、正解であると訴えるように大きく頷いた。
「もしかして……」
友子は、またもやはっとして口を手で押さえた。すると、友子は唐突に新垣の腕を取ると、引っ張って歩き出した。
「えっ?」
その行動に驚かされた新垣だったが、戸惑いながらも一先ずそれに従う。周りの生徒達が訝し気に視線を送る。
この状態を見かねたからか、ただ排除しようとしているのか。彼女の意図は分からなかったが、取り敢えず、大声とか出されずに済んで良かったと思った。
友子に連れられるまま体育館の端まで来てしまった新垣。頃合いを見計らって話し掛ける。
「あのですね……」
「――ごめんなさい!」
合わせたかのように振り向いた友子は、新垣の言葉を遮って深々とこうべを垂れた。意味が分からず、ぽかんと口を開けた新垣。目の前でのポニーテールが、ゆらゆらと揺れた。
「えっ! 何?」
友子の全く持って想定外、且つ不可解な行動に混乱する新垣。そんな新垣の表情を窺いつつ、友子は上目遣いでゆっくり顔を上げた。彼女が何をどう勘違いしたのか分からなかったが、新垣には早く伝えなければならないことがある。その為に来たのだ。
「あのね……」
「――この前のこと、怒ってるんですよね!?」
再び出端を挫かれる新垣。話を入れるスキを与えて貰えない。友子は俯き加減で片目だけ開け、懇願するような眼差しを向ける。
「あれは、その、冗談というか……その場の成り行きで、香奈が……香奈ってのは、バスでいつも私の隣に座っている子で……」
新垣はもどかしさを感じながらも、先ほどの女子生徒を思い出した。しかし、長広舌は続く。
「……で、香奈が私のこと恋愛オンチだっていうから……その、ちょっとなんかやってやろうって思っちゃった訳で。その、だから、決してからかおうとした訳ではなくて、勢いでそうしてしまったっていうか……だから、ごめんなさい!」
再びポニーテールが揺れて、友子の話は締め括られた。
新垣はようやく彼女達の誤解を大まかながら把握した。それぞれ、違う誤解をしているようだが。なるほど……そういうことか。予想通りというか……まあ、現実はそんなものだろう。ともあれ、この子達の若々しさというか、快活な姿は何とも微笑ましく思えた。苦笑する新垣。
それに、バスの中ではしゃいでいる姿は度々見ていたが、この子がこんなに奔放な性格だとは意外だった。新しい彼女の一面を知ることができて、なんだか嬉しかった。
だけど、今は喜んでいる時ではない。新垣は揺れるポニーテールに向かって言った。
「いや、違うんだよ」
「違う……?」
「そう、違うんだ」
友子は小首を傾げながら、恐々と顔を上げた。真剣な表情で見据える新垣。それに息を呑む友子。
「もっと、大事なことを、伝えたくて来たんだ」
「えっ?」
友子としては予想外だったようで、神妙な表情になる。
「ええ、と。何から説明していいのか分からない……けど」
「……けど?」
「だから……つまり」
「……つまり?」
何かを感じ目を丸くした友子。そして、新垣はくぐもりながらも感情を込めて言った。
「一緒に、逃げて欲しいんだ!」
その言葉は、今一番伝えたい実情を率直に表したものだった。決して間違ってはいない。但し、それは相手が状況を理解した上でのことである。
「えっ……」
ぱっと、頬を染めた友子。言葉をダイレクトに取ってしまった自分に気付く。頭の中で冷静に考えてみる。「……いやいや……でも、逃げるって? ……逃げるって、どういうこと? ……もしかして……これって、まさか……それなの?」既に、胸が熱くなっていた。恋愛の演算能力がオーバーロード。かつて経験したことのない焦りが友子を襲う。
かろうじて、自分を制御している友子。苦笑しながら平然を装う。
「……いや。でも……ですね。急にそんなこと言われても、私あなたのこと、よく知らないし……」
しかし、新垣は新たな誤解が生まれていることに気が付くこともなく、次の行動に出てしまう。頸をすくめている友子の腕を掴むと強引に歩き出したのだ。
「いいから、早く! 時間が無いんだ! 僕と来てくれ!」
「……ち、ちょっと待ってよ!」
彼女にもっと詳しい説明をする必要があるのは分かっていた。しかしながら、本当のことを話したところで信じて貰えない。それだったら、取り敢えず彼女を保護することが先決だった。そう、奴らに見付かる前に。
「いいから、僕を信じて! 大事なことなんだ!」
険しい口調になる新垣。先ほどとは、打って変わった態度に困惑する友子。まずは、おとなし目に抵抗してみる。
さすがに想われているとはいえ、知らない男にホイホイ付いて行く訳にはいかない。簡単に自分の価値を下げてはいけない。これは香奈の教えでもある。真剣さは伝わっているのだから、女を奪うならもう少し言葉に出して欲しいところである。少々、イケメンであってもだ。
「いいから! 一緒に来て!」
新垣は抵抗する友子の腕をきつく握った。しかも、ちょっと怖い形相になっている。それにしても強引すぎる。困惑を通り越して我慢の限界に達し始めていた友子。いったん区切りを付けるべく、強く拒絶して腕を振り払った。
「……ちょっと、離して下さい!」
「お願いだ! 事情は後で説明するから、一緒に来てくれ!」
「事情って、何ですか!」
しかし、新垣も粘る。ともかく、どうにかして連れ出せばいいと思った。体力に自信がある訳ではないが、女の子一人くらい何とかなる。天才プログラマーの女の子に対するコミュニケーション能力は、大いに問題有りであった。
案の定、押し合い圧し合いになった二人。切羽詰まった新垣は、咄嗟に抵抗する友子の肩に手をまわした。
――次の瞬間。新垣は自分の躰が不自然な体勢になっていることに気付く。両足が宙に浮いていたのだ。そして、続けざまに背中から後頭部にかけて衝撃が走る。何が起こったのか判らなかった。
朦朧とする中、草の匂いが鼻を掠める。手足に力が入らない。微かに目を開けると、篠崎友子の顔が見えた。新垣は芝の上で仰向けになっていた。
やってしまった。躰が自然に動く、とは恐ろしいものだ。友子は新垣を覗き込むと頭を抱えた。これでは、中学生の時と同じではないかと。
「おーい、どうした!」
遠くから声が掛かる。振り向く友子。
「……げっ」
学校の職員だった。スーツ姿の中年男性が、慌てふためいた様子で駆け付けて来た。職員は少ない髪が乗った頭に手を当て、大の字になった新垣を覗き込む。
「おお、篠崎……何だ? どうなっているんだ?」
職員は当惑した表情で友子に詰め寄る。
「いや……先生……私にも良くわからないんですが……」
頬を引き攣らせ、愛想笑いをつくる友子。眉間に皺を寄せた男性は教師だった。不可解そうに友子を一瞥する。
「この男を知っているのか?」
「ええ……一応、ですが……」
「そうか。だが、何故構内に入って来ている? ……君が入れたのか?」
「いえ、私は入れてません」
ブンブンと頭を振る友子。
「それじゃ、勝手に入って来たのか?」
「そう……なの……かな……」
すると、教師は新垣を指差して、一番の疑問点を問い質した。
「何で、伸びている?」
「それは……」
言葉に詰まる友子。気付けば他の生徒達が遠巻きにして、こちらを見ていた。新垣と友子のやり取りを見て、誰かが先生に連絡したようだ。
はっきりしない友子の返事に剛を煮やした教師。しゃがみ込むと新垣の肩を叩いた。
「おい! 君! どうしたんだね?」
声を掛けられた新垣だったが、うつろな瞳のまま言葉は出なかった。軽い脳陣頭を起こしているみたいだった。
「良く分からんが……事の次第では、警察に通報する必要があるな……」
新垣を見下ろす教師。判断にあぐねながらも呟いた。友子は飛び上がって慌てた。
「警察!? 警察って……そ、そこまでしなくてもいいのでは、ないですか? ……その、ほら、勝手に構内に入っただけですし……」
友子は取り繕いながら説明した。
「なんだ? こいつが君に、何かしようとしたのではないのか?」
「いや……何かしたのは、私ですし……」
「はあ? ……何を言っとる?」
「だから、それはですね……げっ!」
友子は教師の後方に現れた人影に驚愕した。どうやって騒ぎを聞き付けたのか分からないが、制帽とベルトに手を掛けた男二人組の制服警官が駆け寄って来るではないか。友子は呟く。「……絵に描いたような、タイミングだこと……」ますます話が複雑になることは、避けられない状況となった。恋愛ドラマから、一転して犯罪ドラマ。
「――どうかされましたか?」
やはりというか、まっすぐやって来た警官から単刀直入な問い掛け。警官は教師と友子、倒れている新垣を囲んだ。その一人がしゃがみ込み、新垣の肩に手を置いて振り返る。
「丁度、巡回パトロール中だったのですが、騒ぎが聞こえたもので……この男性が何かしたのですか?」
教師は憤慨した表情で答えた。
「ええ! 勝手に入って来て、うちの生徒に手を出したんです」
「いえ、違います!」
友子が速攻否定すると、教師は眉を吊り上げた。
「さっきから、どうして庇うのかね? 何だ、この男は君の……その、彼氏とかかね?」
「ち、違いますよ! ……だから、そうじゃなくて」
目を見開き、じたんだを踏む友子。
「じゃあ、こいつは誰なんだ!」
「――分かりました、分かりました」
黙っていたもう一人の警官が、見かねて割って入た。警官は落ち着いた口調で笑顔をつくった。
「一先ず、交番に行って事情を聞きましょうかね。彼もこんな状態ですから、病院に連れて行く必要があるかもしれないですし」
「び、病院! わ、私も行きます! 彼を投げたの私なんです!」
しかめっ面で手を挙げた友子。唖然とする教師。警官二人は顔を見合わせる。
「そ、そうですか……なんだか複雑な事情のようですから、この生徒さんもご同行して頂いても、よろしいでしょうか?」
同意を求められた教師は、苦い表情で唸った。
「しかし……」
「私、行きます! もう、放課後なんだし問題ないですよね?」
「そうだが……」
渋る教師に向かって、警官が治める口調で言う。
「この生徒さんのことは我々が責任を持ちますし、この件も事情が納得できるものであれば、事を大きくしたりはしませんから……」
教師は頭を掻いた。
「そ、そうですね。学校側としても、そのほうがありがたい……ですが、ともかく私も一緒に行きます」
「ええ、それは構いませんが、乗って来たパトカーが小さいものですから、先生は後で交番の方まで来て頂けませんか?」
「分かりました」
警官は教師に交番の場所を伝えると、新垣の腕を取りゆっくりと持ち上げた。新垣はふらついてはいたが、さっきよりはましになっていた。支えられながらゆっくりと立ち上がる。友子はもう一人の警官と一緒に、その後に続いて歩き出した。
「じゃ、先生は一度職員室に戻って、教頭先生に報告してから行くからな」
友子は頷き、警官達も笑顔で返した。
新垣は警官の登場に安堵していた。こうなったからには、このまま警察に行って事情を話そう。そのまま保護して貰えばいい。虚ろながらにそう思った。教師は周囲に集まっていた生徒達を解散させるようにして追い払うと、急ぎ足で校舎へ戻って行った。




