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second life  作者:
99/112

田中家の過去

「お義父さんが亡くなってから、お義母さん一人で暮らしてたんだけど、ボケちゃってね…」

当時、まだ認知症という言葉はなく、ボケるという言葉で言われていた。

「それで、誰が引き取る?っていう話になったの。

うちの人、一人っ子だから自然とうちが引き取るような話になって、

わたしも仕方ないって覚悟したの。

そしたら、うちの人が拒否して施設に入れるべきだって言って、親戚中に猛反対されたの。

それでもあの人折れなくて、大喧嘩になって…親戚と縁を切ったの。

だからうちって親戚がいないのよ」

「大変だったのね…でも美智子さんの親戚は?」

「わたしは…駆け落ち同然で結婚したから。

結婚はまだ早いって言われたのに無理やり籍を入れてね」

この家族はいろいろと苦労している。

美智子は、この話を聞いて田中家とは家族ぐるみの付き合いをしようと思った。


「そうだったんだ…でも、父さんはどうして拒否したんだろう?」

「ここからは、憶測でしかないけど…

紀美子さんや陸くんに負担をかけたくなかったんじゃないかな。

あの頃は認知症なんて言葉はなかったから、薄情と思われたかもしれない。

でもね、そういう症状の人を面倒みるって大変なことなのよ。

修さんはそれがわかっていて、施設に入れるのが一番いいと思っていたのよ。

それがお母さんのため、紀美子さんのため、陸くんのため…ってね」

「父さん…」

父さんは、おばあちゃんのことも含めて、家族のことを思っての行動だったんだね。

そっか…ありがとう、父さん。

こんな家族思いの子供に生まれてよかったよ。

謎が解けた愛花は晴れ晴れとしていた。

「お父さん、お母さん、教えてくれてありがとう」

「愛花、愛花が田中さんに自分のことを話したかったら、話していいんだからな。

もう子供じゃない、わたしたちのことなんか気にしないで、

自分の意志で行動していいんだから」

今ならわかる。

仮に田中に真実を告げても、それが彰と美智子に対して裏切りにならないということを。

わたしには大事な親が4人いる。

修と紀美子の家族を想う気持ちが、再確認できた。

そして、今の両親の彰と美智子も自分のことを大事に想ってくれている。

こんな4人の親がいるわたしは幸せな子だ!

「お母さん、お腹減った。今日なに?」

愛花はいつものテンションで美智子に話しかけると、美智子も彰も笑っていた。

これが、愛花なりの親孝行だった。


翌日、愛花は久しぶりに両親の墓参りに行った。

墓場の近くまで行くと、誰かが墓参りをしていた。

誰?

疑問に思って近づくと、それはなんと田中だった。

愛花は慌てて隠れようとしたが、田中が振り向き、気づかれてしまった。

「愛花ちゃん…どうしてここに?」

愛花は迷ったが、打ち明ける決心をした。

「父さんと母さんの墓参りしてくれて、ありがとうございます」

「愛花ちゃん…何を言っているんだい?」

「前に田中さん、わたしと釣りをしたときに、

父さんの子供と釣りをしている気分だって言ったでしょ…

それ間違ってない、わたし田中陸なの」

愛花は、田中に今までのいきさつをすべて話した。

最初は半信半疑だった田中も、徐々に理解して、最後まで話を聞いてくれた。

「そうか、陸も大変だったんだな…」

「でも、今のわたしは幸せだから。それよりどうして墓参りに?」

「陸と釣りをしててな、修のことを思い出したんだよ。一度も墓参りに行ってないなって。

縁を切ったのは35年も前のことだ。

そんな過去にこだわっているのはくだらないことだなって。

それに…今考えれば修は間違っていなかった。間違っていたのは俺たちだったんだ」

父さん、田中さんはちゃんとわかってくれてたよ。

よかったね。

「それにしても陸が紀美子さんに似ていたのは気のせいじゃなかったんだな。

お母さんにそっくりだよ」

「ありがとう、田中さん」

紀美子に似ていると言われ、素直に嬉しかった。

墓地の入り口まで歩くと、帰り際に田中が言ってきた。

「陸のことは誰にも言わないつもりだ。

きっと陸は愛花という第2の人生があるんだろう。

過去の親戚がいろいろと出てきても迷惑だろうからな」

「迷惑だなんて…」

でも田中の言うことは正しかった。

もう田中陸ではなく、佐久間愛花だ。

田中は偶然、こういう形になってしまったが、

これ以上の親戚との接触は避けるつもりだった。

「ありがとう、おじさん。それとね…陸じゃなくて愛花って呼んでくれる?」

「そうだったな、ゴメンゴメン。愛花ちゃん」

「田中さん…」

2人は親戚であって親戚ではない。

過去にとらわれずに、今までのように釣り仲間の関係でいるのが最善ということを

愛花も田中も理解していたのだ。

「また今度釣りをしよう」

「うん!」

「彼氏も一緒にね」

そういって田中は笑っていた。

そうだね、祥吾のこともハッキリさせないと!

愛花は田中に別れを告げ、家に向かった。


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