佳祐、千夏
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
頭がガンガンする。
「うー…水…」
フラフラしながら立ち上がると、服を着たままだったので、
そのまま寝てしまったらしい。
コップに水道水を入れて一気に飲み干した。
「はあ…それにしてもここは…ラブホ?」
昨日何があったんだ??
一生懸命昨日の記憶を探り出した。
誕生日だったのに蒼佑に遊ばれてたって知って…居酒屋に入った。
そこからが思い出せない。
ガンガン飲んで…
そこで一人の顔が浮かび上がった。
「そうだ、佳祐!佳祐に会ったんだ!!」
それから一緒に飲んで…エッチしようってせがんだような…
「え?ってことは佳祐とエッチしちゃったの??嘘でしょ??」
慌てて室内を見たが、部屋には誰もいなかった。
「先に帰ったんだ、きっと…
なんであんなこと言っちゃったんだろう…しかもよりによって佳祐に…」
佳祐とエッチ…なんでバカなことを…
そう思ったが、改めて考えてみるとエッチをした感じがしなかった。
服も下着もちゃんと着ている。
脱がせて着させることなんてしないはずだ。
あの感じだと終わってから自分で着たとも考えられない。
「してないってこと…?」
よく見るとテーブルにメモが置いてあった。
愛花はそれを慌てて読んだ。
「佐久間へ
先に言っておく、俺は何もしてないからな!
女になったとはいえ、元生徒で…親友のお前を抱くほどバカじゃない。
ただ、本当に魅力的な女だと思ったのは事実だ。
独身の俺が言っても説得力ないかもしれないが、
間違いなくお前の理想の男性が現れるはずだから、もっと自分を大切にしろよ。
そういうことで、俺は授業があるから先に帰るぞ。
あ、あと今度俺が酒の飲み方を教えてやるから、二度とあんな飲み方するなよ。
未成年じゃなきゃ酒くらい一緒に飲んでも構わないだろ。
以上
それと、帰るとき事故には気をつけるように 佳祐」
メモの下には携帯の番号が書いてあった。
「佳祐…ありがとう」
自暴自棄になって大きな過ちを犯すところだった。
それを止めてくれた佳祐には感謝の気持ちしかなかった。
もう蒼佑のことはいい、何度も失敗したけど気にしたらきりがない。
そうだよね、佳祐。
だっていつか理想の男性が現れるんだもんね。
後日、愛花は佳祐に電話をして2人で飲みに行った。
普通に友達感覚での飲みだった。
たとえ陸じゃなく愛花でも、佳祐は大事な親友の一人だった。
今日は千夏と2人で女子会。
蒼佑に遊ばれていたことを話したら、千夏が飲もう!と言いだしたのだ。
佳祐のおかげである程度は吹っ切れたが、正直まだ落ち込んでいる部分もある。
なので、千夏がこうやって一緒に飲んでくれるのは嬉しい。
「愛花、なに注文する?」
「わたしカクテルでいいよ」
「食べ物は?」
「んー、そんなに食べたくないからサラダとかでいいよ」
そういったのに、店員を呼ぶと千夏は…
「シーザーサラダと焼き鳥…塩ね、それと唐揚げと卵焼きとカルパッチョと…」
次から次へと注文していた。
「千夏!そんな食べられないって…」
「何言ってるの、こういうときは飲んで食べる!それからコレとコレもお願いします」
この様子を見ていた愛花は苦笑いするしかなかった。
「かんぱーい!」
愛花がカクテルを一口飲むのに対し、千夏は中ジョッキのビールをグビグビと飲んでいた。
「ぷはー、今日はガンガン飲むよ!」
「それ…わたしのセリフ…」
千夏は愛花の言葉も聞かず、再びビールを飲んでいた。
千夏…やけ酒だよ、それじゃ…
でも、やけ酒って千夏じゃなくて、わたしじゃ…
そんな千夏は何杯も酒を飲み、いい感じに酔っぱらっていた。
「愛花!あんな男はダメだよ!どうしようもない男!」
それも自分のセリフだと言いたかった。
それでも、こんな千夏を見ていると自然と笑えてくるから不思議だ。
「ホントだよ…あんなダメ男!大体アイツさ…」
愛花もノッてきて、千夏と一緒に蒼佑の文句を言いあっていた。
モヤモヤしていた気分が晴れてくるのがわかる。
盛り上がってきたところで、千夏は言ってきた。
「はい、次はカラオケね」
愛花は千夏と遊ぶと、大抵最後にカラオケに行く。
いつものパターンだった。
そんな感じが好きだったので、お店を出てカラオケに行くと…
「愛花、予約しないとドンドン入れちゃうよ」
千夏は何曲も連続で予約していた。
歌いたい気分はこっちなんだけど…
気がつけば千夏のオンパレードのようになっていた。
しかも間奏のときに「あんなやつ見返せ!」「後悔させてやれ!」などと叫んでいる。
これが千夏なりの元気の付け方なのだ。
そんな千夏を見ていて、悩んでいたり落ち込んでいたことがバカらしくなってくる。
気がつくと、愛花も一緒になってマイクで叫んでいた。
「あんな最低な男、絶対に後悔させてやる!」
「そうだ、愛花!」
千夏でよかったと思った。
これが仮に莉奈や仁菜だったら、励ましてはくれるけど
こういうテンションで元気にはならなかったかもしれない。
千夏はとにかく明るく、そして元気だ。
ありがとう、千夏!
千夏が友達でよかったよ、おかげで完全に吹っ切れたもん!
愛花は心から笑って、千夏に感謝していた。




