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second life  作者:
89/112

再会

肌寒くなり始めた10月上旬、

この日のバイトの遅番は愛花と蒼佑だけだった。

客もいないので、カウンターで2人は雑談をしていた。

蒼佑は映画が好きで、おもしろい映画の話をずっとしている。

愛花も映画は好きなので、楽しんで話を聞いていた。

「でもあれだね、愛花ちゃんって90年代とか結構古い映画知ってるんだね」

「そうかも…しれないですね、あはは」

思わず苦笑い。

今は2023年、90年代はかなり前という認識になる。

陸から換算すれば本来は37歳なので、

90年代の映画はリアルタイムで見ていたものだった。

「よかったら今度一緒に映画行こうよ」

「本当ですか?喜んで!」

「なら明後日の土曜は?俺はバイト休みだし愛花ちゃんも夕方まででしょ?」

「大丈夫です、楽しみにしてますね」

これってデートだよね?

デートなんてすごい久しぶりだ!

愛花は明後日が待ち遠しかった。

蒼佑と何度かデートを重ね、12月に告白されて付き合いだし、

約1年半ぶりにできた彼氏だった。

蒼佑は隼人と違い、毎日の連絡は必要最小限しかしてこなかった。

束縛もせず、思った以上にドライだった。

それでも決めるときはしっかりと決めるので頼りがいがある。

まさに大人の男性といった感じだ。

この人とならずっと付き合って行けそう、今度こそ本当に大丈夫だ、

そう思える相手だった。


3月になり、桜の木につぼみができ始めたころ、

歩いていたら工事現場で働いている人たちがお弁当を食べていた。

何気なく見てみると、そこには隼人の姿があった。

顔は疲れきっていて、とても同い年には見えない。

みんながお弁当を食べているのに、隼人はカップラーメンだった。

その隼人が顔を上げて愛花をみてきたので、目が合ってしまった。

隼人は立ち上がり、愛花の前まで近づいていた。

「ひ、久しぶり」

「うん…結婚したんだってね」

「ああ…もうすぐ子供が産まれる」

「おめでとう」

「ありがとう…」

この「ありがとう」にはまったく嬉しい感情がこもっていなかった。

よく見ると顔はやつれ、若々しさを感じない。

カップラーメンを食べていたが、おそらく沙織はお弁当を作ってくれないのだろう。

愛花はキャンプ以来、美智子に教わってある程度の料理はできるようになった。

きっと沙織はお弁当を作るというより料理をしないのだろう。

あくまでも予想だが、間違っていない自信がある。

沙織はそういう子だ。

女としての魅力はあるかもしれないが、母親になるタイプではない。

もっと年齢を重ねれば別だが、まだ18歳、まだまだ子供だ。

雰囲気だけで隼人は相当苦労しているのがわかる。

「田辺くんは幸せ?」

聞いてはいけないのかもしれないが、聞かずにはいられなかった。

しかし隼人は何も答えない。

それこそが答えだった。

もうこれ以上、ここにいる意味はない。

隼人と話す意味はない。

過去を振り返っても仕方ない。

昨日よりも今日、今日よりも明日を生きるために。

愛花は足早にその場を離れた。

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