再会
肌寒くなり始めた10月上旬、
この日のバイトの遅番は愛花と蒼佑だけだった。
客もいないので、カウンターで2人は雑談をしていた。
蒼佑は映画が好きで、おもしろい映画の話をずっとしている。
愛花も映画は好きなので、楽しんで話を聞いていた。
「でもあれだね、愛花ちゃんって90年代とか結構古い映画知ってるんだね」
「そうかも…しれないですね、あはは」
思わず苦笑い。
今は2023年、90年代はかなり前という認識になる。
陸から換算すれば本来は37歳なので、
90年代の映画はリアルタイムで見ていたものだった。
「よかったら今度一緒に映画行こうよ」
「本当ですか?喜んで!」
「なら明後日の土曜は?俺はバイト休みだし愛花ちゃんも夕方まででしょ?」
「大丈夫です、楽しみにしてますね」
これってデートだよね?
デートなんてすごい久しぶりだ!
愛花は明後日が待ち遠しかった。
蒼佑と何度かデートを重ね、12月に告白されて付き合いだし、
約1年半ぶりにできた彼氏だった。
蒼佑は隼人と違い、毎日の連絡は必要最小限しかしてこなかった。
束縛もせず、思った以上にドライだった。
それでも決めるときはしっかりと決めるので頼りがいがある。
まさに大人の男性といった感じだ。
この人とならずっと付き合って行けそう、今度こそ本当に大丈夫だ、
そう思える相手だった。
3月になり、桜の木につぼみができ始めたころ、
歩いていたら工事現場で働いている人たちがお弁当を食べていた。
何気なく見てみると、そこには隼人の姿があった。
顔は疲れきっていて、とても同い年には見えない。
みんながお弁当を食べているのに、隼人はカップラーメンだった。
その隼人が顔を上げて愛花をみてきたので、目が合ってしまった。
隼人は立ち上がり、愛花の前まで近づいていた。
「ひ、久しぶり」
「うん…結婚したんだってね」
「ああ…もうすぐ子供が産まれる」
「おめでとう」
「ありがとう…」
この「ありがとう」にはまったく嬉しい感情がこもっていなかった。
よく見ると顔はやつれ、若々しさを感じない。
カップラーメンを食べていたが、おそらく沙織はお弁当を作ってくれないのだろう。
愛花はキャンプ以来、美智子に教わってある程度の料理はできるようになった。
きっと沙織はお弁当を作るというより料理をしないのだろう。
あくまでも予想だが、間違っていない自信がある。
沙織はそういう子だ。
女としての魅力はあるかもしれないが、母親になるタイプではない。
もっと年齢を重ねれば別だが、まだ18歳、まだまだ子供だ。
雰囲気だけで隼人は相当苦労しているのがわかる。
「田辺くんは幸せ?」
聞いてはいけないのかもしれないが、聞かずにはいられなかった。
しかし隼人は何も答えない。
それこそが答えだった。
もうこれ以上、ここにいる意味はない。
隼人と話す意味はない。
過去を振り返っても仕方ない。
昨日よりも今日、今日よりも明日を生きるために。
愛花は足早にその場を離れた。




