それぞれの道へ
センター試験が終わった。
自己採点をしたら予想以上の出来だった。
これなら目標だった地元の国立大学も大丈夫、そう信じて2次試験に臨んだ。
その結果、愛花は見事に合格することができた。
これで4月からは大学生になる。
莉奈も目標だった地方の大学に受かり、仁菜やみな実も第1志望ではなかったものの
他に受けた大学に受かったので、愛花のまわりで浪人する人はいなかった。
そして春樹も高卒枠の公務員試験に受かったので、
4月からは公務員として働くことになる。
みんながそれぞれの道を進む、今度こそ本当にバラバラになってしまうが、
これが大人になるということだ。
「もうすぐ卒業だ」
「なんか3年間って早かったね」
愛花は仁菜とファーストフードでご飯を食べていた。
「そういえば聞いた?隼人くん」
「噂でチラッとね」
本人に聞いたわけではないが、隼人はすべての大学を落ちたらしい。
浪人するとかしないとか揉めているそうだ。
愛花は隼人のことよりも、あの優しかった両親がかわいそうだと思った。
「愛花の元カレだから悪く言いたくないけど、どうしようもないよね。
一番頑張らなきゃいけない時期にあんな子と遊びほうけてたんだもん」
「別に元カレとか気にしなくていいよ。
どうしようもないというより単なるバカだもん。
あーあ、なんでわたしが付き合う男ってあんなのばっかりなんだろ」
「けど愛花ならすぐにいい人が見つかるって!」
「だといいんだけどね」
そう言って残っていたジュースを飲みほした。
3月中旬、とうとう卒業式を迎えた。
校歌を歌うのも今日が最後だ。
思い出がいろいろと蘇ってくる。
仁菜との出会い、これが愛花にとってかけがえのないものだ。
小・中の親友が莉奈なら、高校は間違いなく仁菜だ。
その仁菜とともに入部したチアリーディング部、
まさか後輩の理紗が入部してくるとは思わなかったが、
理沙が部にいたことで雰囲気はかなりよかった。
仁菜の彼氏の春樹。
最初はただのバカだと思っていたが、本当はすごくしっかりしていた。
ひょっとしたら自分を一番理解していたのは春樹だったかもしれない。
男女関係なく、春樹も愛花にとっては仁菜と同じくらい大切な友達だった。
そして愛花にとって大事な日もあった。
陸としての人生よりも愛花の人生のほうが長くなった7月27日。
陸としての人生にけじめをつけるために、初めて事故現場を訪れた。
そのおかげで、陸は本当の愛花になった。
しかし、これが発端となって隼人と別れることになった。
入学直後の偶然の再会、あのときは本当に驚いた。
それから少ししてから付き合いだし、毎日が楽しかった。
1・2年の思い出はほとんど隼人と過ごしたものだ。
そんな隼人が別れてから、あそこまでダメ男に落ちぶれてしまったのは残念でならない。
もしあのとき、隼人が沙織ではなく愛花を選択していたら、
きっと今も隣で笑っていただろう。
真面目に受験勉強もして大学に受かっていただろう。
しかし沙織を選んだのは隼人自身だ。
隼人の弱さが招いた結果だ。
もう隼人に対して恋愛の感情はない。
これから隼人がどんな人生を歩むことになっても関係ない。
愛花は自分のこれからの人生を、ひとりの女性として精いっぱい歩んでいく。
式が終わり、仁菜と春樹と3人で校門をくぐった。
「これで学校ともお別れだ」
「愛花や春樹がいたから本当に楽しかったよ」
「おい、仁菜」
春樹は楽しかったという言葉に気を使ってくれた。
愛花にとっては隼人との別れがあったので嫌な思い出があるといいたかったのだ。
先のほうでは隼人が沙織と腕を組んで歩いているのが見える。
愛花は気にせずに仁菜と春樹を見た。
「わたしも楽しかったよ、仁菜や春樹くんがいたから」
嫌な思い出もあるが、この3年間は愛花にとって全力で駆け抜けた、かげないのものだ。
最後まで3人で笑いあって、愛花の高校生活は幕を閉じた。
「なんか寂しくなるな…」
「ずっと一緒だったもんね…」
愛花は莉奈を見送りにきていた。
莉奈は4月から地方の大学に通う。
今日がその出発の日だった。
「でも夏には帰ってくるから」
「うん、待ってる」
「そのときはいい報告を期待してるよ」
「それは莉奈もでしょ」
莉奈は半年前に付き合っていた彼氏と別れた。
なので、愛花も莉奈もフリーだ。
「じゃあ…行ってくる」
「うん、またね…莉奈!」
莉奈が新幹線に乗り、出発するまで愛花はホームにいた。
そして出発すると、見えなくなるまで手を振っていた。
バイバイ、莉奈。
離れてもわたしたちはずっと親友だよ。