追い込みの時期
冬休みになった。
来月はセンター試験、追い込みの時期だったが、
今日は少しだけ中断して久々に莉奈と遊んだ。
「莉奈とこうやって気軽に会えるのもあと少しだね」
「うん、別の高校になっても頻繁に会ってたもんね」
莉奈は地方の大学を志望していた。
受かれば4月からは一人暮らし、つまり愛花から離れたところに行く。
今までのように急げば1分で来れる距離ではなくなるので、それだけは寂しかった。
「なんか本当にみんなバラバラになっちゃうんだね」
仁菜もみな実も小陽もみんなバラバラの大学を目指している。
春樹は進学校にいるにも関わらず、就職をすると言っていた。
散々母親に迷惑をかけたので少しでも楽できるように
恩返しの意味で就職を選んでいたのだ。
それでも希望しているのは公務員、春樹なら受かると信じている。
そして愛花は国立大学を目指していた。
教師になる一番の近道は、教育学部のある国公立大学に行くことだ。
「愛花が教師かぁ」
「まだなってないよ、まずは大学に受からないと」
「でもきっと愛花なら受かるよ」
「だといいんだけどなぁ」
久々に会っても話題は進路の話だけだった。
それほど将来のことをしっかりと考えているのだ。
年が明け、3学期が始まった。
センター試験まであと数日に迫ったある日、愛花は駐輪場で隼人に出くわしてしまった。
塾に行く関係で最近はずっと一人で帰っているので仁菜もみな実もいない。
隼人の隣には珍しく沙織もいなかった。
最近、隼人の評判はすごく悪かった。
人目を気にせずイチャイチャしているのが癇に障る人はたくさんいる。
春樹をはじめ、隼人の友達はほとんど隼人の元を去っていったという話も聞こえていた。
春樹の言うように、隼人はダメになっていた。
無視しようと思ったが、足を止めて話しかけた。
「久しぶりだね」
「あ、ああ…」
隼人と会話をしたのは実に5か月ぶりだ。
相変わらず隼人のほうは気まずそうだった。
「何してるの?」
「沙織を…待ってるんだ」
もうすぐセンター試験だというのに、とても受験生の言葉とは思えない。
「ちゃんと勉強してる?もうすぐセンター試験だよ」
「そうなんだけど…沙織がさ」
「ふーん、じゃあ勉強してないんだ」
「してなくもないけど…沙織がね」
一言目には沙織、沙織。
この様子だと勉強などまったくしていない。
学校が終わったあとでも沙織とベッタリしている。
付き合う相手次第で人はここまで変わってしまうのだろうか。
愛花は豪に再会したとき以上の失望感を抱いてしまった。
こんな情けない隼人は見たくなかった、話しけなければよかったと後悔した。
「わたし塾があるから」
「あ、ああ」
自転車のペダルに足を置き、漕ごうとしたが一言だけ隼人に言った。
言わずにはいられなかった。
「わたし…隼人と別れて正解だった。
今の隼人に魅力を感じない、ハッキリ言えばわたしが嫌いなタイプ」
「愛花…」
「さようなら、田辺くん」
愛花は隼人と呼ばず、あえて田辺くんと呼んだ。
そして振り返ることなく自転車を漕いだ。
隼人だけは違うと思っていたのに…
伸也、豪、そして隼人、つくづく男を見る目がないんだな、わたしって…
愛花はすぐに気持ちを切り替えた。
隼人のことなど気にしていられない、今は目先のセンター試験。
恋愛は受験が終わってから!
そしたら、今後こそ本当にちゃんとした彼氏を作るんだ!