隼人の選択
愛花は莉奈と仁菜と一緒に春樹を待っていた。
他のみんなは先に帰り、今は公園に3人だけがいる。
15分ほどして、やっと春樹がやってきた。
「悪い、待たせちゃった」
「春樹くん、いろいろありがとう!」
愛花がお礼を言うと、春樹はよせよせといった感じで手を横に振った。
「それよりも隼人のことだけど、言いたいことは言ってきた。
ちょっと手も出しちゃったけど」
本当はちょっとどころではないが、ボコボコにしたとは言えない。
「それで隼人くんなんだって?」
「大丈夫だと思う、あれでダメだったら俺はもう知らないよ」
「そんな無責任な!」
「違うよ仁菜、ダメだったら俺はあいつの友達をやめる」
隼人の親友の春樹がここまで言うということは、並々ならぬ思いということだ。
「ありがとう、春樹くん…わたし隼人を信じる!」
「それがいい、それしかできないしな」
春樹は空を見上げていた。
おそらく春樹も隼人を信じているのだろう。
そんな春樹に莉奈が質問した。
「春樹くんは何でここまで愛花のためにしてくれるの?」
「逆に聞くけどさ、莉奈ちゃんは愛花ちゃんのために何でいろいろしてくれたの?
直接の友達じゃない仁菜に怒ったりしてまで」
「それは愛花が大事な友達だからだよ」
「俺も同じだよ、愛花ちゃんみたいにいい子は他にいないよ。
恋愛感情を除けば、俺は愛花ちゃんが一番好きだし。
そんな愛花ちゃんを悲しませるようなことは許さない。
それが仁菜だろうと隼人だろうと」
ひょっとしたら、一番愛花を理解しているのは春樹かもしれない。
この話を聞いて莉奈はそう思った。
「それにさ、今回のは明らかに仁菜や隼人が悪いしな」
春樹は仁菜を見ていた。
仁菜は気まずそうな顔をしている。
「それはわかってるよ…だから愛花にちゃんと謝った…」
「もうその話はいいよ、
わたしには莉奈も仁菜も春樹くんもみんな大事な友達だってわかったから。
それにきっと隼人も…」
あとは隼人からの連絡を待つだけだ。
「沙織ちゃん…」
「会えばきっと、同じことを繰り返します。
どんな事情があったとしてもあの女は今後も隼人先輩よりも自分のことを優先します。
でもわたしは違います、絶対に先輩のことを最優先します。どんなことがあっても!」
隼人の心が揺らいでいた。
隼人は愛花を信じきれなかった。
それが今回の結果を招いてしまった。
今後も同じようなことがあったとき、信じきれる自信がなかった。
そう思ったとき隼人は気づいてしまった。
愛花にはどんなことがあっても自分のことを最優先に考えてもらいたかったことを。
わがままと言われようが、自己中と言われようが、
常に自分だけを見ていてほしかったということを。
恐らく愛花にそれは出来ないだろう。
特に最近の愛花は芯が強い、黙って俺についてこいと言われてもついてこないだろう。
愛花は変わった…いや、俺が子供のままなのかもしれない。
今の俺には、愛花よりも沙織ちゃんのほうが合っているのかもしれない。
隼人は言ってしまった。
「沙織ちゃん、俺と一緒に帰ろう」
「本気…ですか?」
「ああ、本気だよ」
隼人は再び沙織の手を握り歩き出した。
これが隼人の出した結論だった。
この日、愛花は隼人からの連絡を待ったが、連絡はこなかった。
そしてそのまま一週間が過ぎた。




