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second life  作者:
79/112

隼人と春樹

愛花は一人で泣きながら歩いていた。

今日は自分にとって大事な日、今日から本当のスタートを切る大事な日が

こんな日になると思わなかった。

そこへ後ろから莉奈の声が聞こえてきた。

「愛花!」

「莉奈…どうして…」

「わたしも球場に来てたの、それよりも大丈夫?」

「大丈夫…じゃないよ、莉奈ぁ」

大泣きする愛花を莉奈は慰めた。

「愛花は悪くない、だから泣かないで…愛花の味方はちゃんといるから」

「莉奈しか…莉奈しかいないよ…隼人も仁菜もみな実も…みんなわかってくれなかった」

「ううん…一人ちゃんといたよ、その人がみんなの目を覚まさせるって」

「誰…?」

「それよりも…みんなわかってくれると思うよ。

多分、甲子園まであと少しっていうことで舞い上がって

本来見えているものが見えなくなっちゃっただけだと思うんだ。

だって…本当の愛花を知ってる人は、愛花を嫌いになんてなれないもん」

「わたしは…そんな人間じゃないよ…きっと最低なことをしちゃったんだよ…」

「愛花は本当に今回行かなかったのが最低なことだと思ってる?」

「わかんない…でもみんなの反応を見ればそうだと思う」

「わたしはそう思わない、愛花だってそう思わなかったから

けじめをつけに行ったんでしょ。

甲子園は青春、でも愛花はこれからの人生のためだもん」

愛花はまったく同じことを思っていた。

だから今回は応援よりも優先した。

これが例えば、隼人でも仁菜でもみな実でも知り合いの誰かが

事故に遭って命にかかわるとか、そういう事態だったら迷わずそっちへ向かっただろう。

勝っても負けても人生が終わるわけではない、それが愛花の考えだった。

試合が終われば隼人もわかってくれると信じていた。

しかし今の愛花の隣には莉奈しかいない。

誰もわかってくれなかった。

それが悲しくて涙が止まらなかった。

そこにやっと仁菜たちが到着した。

「みんな…」

「愛花、ごめんなさい!わたしたちがバカだった…

莉奈ちゃんと春樹に言われてやっとわかった…本当にごめん!!」

仁菜もみな実も小陽も理沙も頭を下げている。

「やめてよ…頭なんて下げないでよ…」

「だって愛花にひどいことを…試合負けたのだって愛花は関係ないのに…」

莉奈が肩に手を置く。

「ね、愛花。みんなわかってくれたでしょ」

「うん…もういいから…」

「許して…くれるの?」

「許すも何も…友達でしょ、仁菜もみな実も小陽も理沙ちゃんも」

「ありがとう…愛花!」

みんなで抱き合って和解した。

愛花の胸に閊えていたものが少しだけスッとした気がした。

「莉奈、一人って春樹くんのことだったんだね」

「うん、彼ってすごいと思う、ちゃんと全体を把握してるんだもん…

仁菜ちゃん、絶対に手放しちゃダメだよ」

「わかってる…だから隼人くんのことも春樹に任せる」

仁菜たちのほうは解決した。

あとは隼人だけだった。


隼人は沙織と歩いていた。

手をしっかりと握っている。

「先輩、わたしは何があっても先輩の側にいますからね」

「ありがとう、その言葉…信じていいんだよな?」

「はい!わたしはあの女のように上辺だけじゃないですから」

「なら俺と…」

ここまで言いかけたとき、突然春樹が現れたので驚いた。

「春樹…」

「隼人、お前何してんの?」

「何ってお前に関係ないだろ」

その瞬間、春樹は隼人を殴り飛ばした。

強烈な一撃に隼人は尻餅を着いていた。

「ってーな、何すんだよ!」

「うるせー、愛花ちゃんを放ったからして何してんだって聞いてんだよ!」

「愛花は関係ない、もう俺の中では終わったんだ」

「お前、本気で言ってるのかよ。

たかが応援に来なかっただけで終わるような仲だったのかよ」

「たかがじゃない、俺にとっては大事な試合だったんだ!」

「なら愛花ちゃんが応援に来てれば勝てたのかよ?野球ってそんな甘いスポーツなのかよ」

「う、うるせぇな!とにかく終わったんだよ、もう」

「お前…マジでムカつくわ」

春樹は何発も隼人を殴った。

沙織はオロオロしている。

隼人も殴り返したが、ケンカの力は春樹のほうが圧倒的に上だったので

一方的になり、隼人は大の字に倒れていた。

「約束したよな、愛花ちゃんを悲しませないって」

「う、うるせぇ…」

「世の中甲子園より大事なことなんてたくさんあるだろ、

今日の愛花ちゃんはそれだったんだよ、それくらい理解してやれよ。

男ならもっと広い心で見守ってやれよ」

「俺にとっては…甲子園より大事なものはない」

「たまたま決勝戦まで勝ち上がれたからだろ、

今までベスト16までしか行ったことがない学校が偶然決勝まで行ったから

そう思っているだけだ。

本当に甲子園しか考えていなかったら365日練習してるだろ、

デートなんてしないだろ、そもそも北高になんて入らないだろ、

勝手に浮かれて本当に大事なもの見失ってんじゃねーよ。

負けたことの腹いせを愛花ちゃんのせいにしやがってよ、お前最低だよ」

春樹にすべてを見透かされていて隼人は何も言い返せなかった。

「あとはテメーで考えろ、ただしふざけた答えを出したら…

俺は本気でお前と友達やめるからな」

それだけ言って春樹は去っていった。

「先輩、大丈夫ですか?」

「ああ…」

隼人はゆっくりと起き上った。

顔は痣だらけで鼻血もたれていた。

「どんな理由があっても暴力は最低です」

「いや…いいんだ、本当に最低なのは俺だから…

くそ!どの面さげて愛花に会えばいいんだよ!俺はこんなに情けない人間だったのかよ」

「会わなくて…いいと思います」


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