迫る決断
勢いに乗った北高野球部は、2回戦、3回戦と次々に勝ち進み、
気がつけば北高初のベスト8まで勝ち上がっていた。
「愛花、甲子園まであと3つだ」
「ホント…ここまできたんだね」
「約束したろ、甲子園に連れて行くって」
「うん…」
隼人は上機嫌だ。
それもそのはず、隼人は全試合で勝利に貢献する活躍をしてきた。
隼人がいなかったら負けていたといっても過言ではない活躍ぶりだった。
しかし、愛花には不安がよぎっていた。
もしこのまま勝ち進み、決勝戦まで行くと、その日は7月27日になる。
7月27日は、陸にとってけじめをつける大事な日だ。
ここまできたら優勝して甲子園に行ってもらいたい、
その反面、27日に試合がかぶらないでほしい、
2つの感情に挟まれ、苦しんでいた。
北高野球部は準々決勝も勝ち、準決勝まで進んだ。
野球部どころか学校全体がお祝いムードで盛り上がっている。
みんなが喜ぶなか、陸の表情だけが硬かった。
「愛花どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ…あと2つだね」
「こうなったら絶対に甲子園だよ」
仁菜たちもはしゃぐように喜んでいた。
陸は家に帰り、次の対戦相手をチェックしていた。
準決勝の相手は甲子園5度出場経験のある私立の強豪校、大山学園。
ここまでも圧倒的な点差で勝ちあがっている。
勝てるはず…ないよね。
莉奈から連絡が来た。
「家?」
「うん」
「ちょっと行っていい?」
「うん」
5分後に莉奈は来た。
「野球部すごいね、甲子園も夢じゃないんじゃない?」
「そうだよ、あと2つだもん…」
「ゴメン愛花、日程調べちゃった…決勝戦って27日なんだね」
「そう…まさかここまで勝ち上がるなんて思っていなかった…
隼人が頑張ってるの知っているから、もちろん甲子園に行ってもらいたいと思ってたけど
現実問題難しい…そう思っていたのに」
「愛花はどっちを取るの?」
「わかんない…どうしたらいいんだろう」
陸は真剣に悩んでいた。
隼人の頑張る姿を最後まで側で応援したい、この気持ちは素直な気持ちだ。
その反面、8年前から決めていた自身のけじめをつけ、これからの人生を歩むために
欠かせない日でもある。
天秤にかけても結論が出なかった。
「わたしからは何とも言えない…愛花が田辺くんを想う気持ちを知っているし、
愛花が本当の意味で陸にお別れを告げて、愛花として生きていくために
どれだけ大事な日かも理解しているつもり…ごめん、なんのアドバイスにもならなくて」
「ううん、こればっかりは自分自身で決めないといけないことだから」
そう、これは陸自身が決めること。
しかし決断のときは迫っていた。




