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second life  作者:
71/112

結果じゃなく成果

いよいよ文化祭が始まった。

ミスコンは日曜なので、土曜は隼人や仁菜、春樹、いつもの4人で楽しんだ。

「愛花、明日だな。頑張れよ!」

「もちろん、みんなも協力してくれたんだから何が何でも優勝しないと!」

そして日曜、出場者は体育館に集まった。

最初は制服での審査なので、みんな制服を着ている。

どの子もみんなかわいくて、ここから気合が入っている子もたくさんいる。

陸は場違いのところに来てしまったのでは?と自信をなくしかけていた。

こんなの勝てるはずないよ…優勝なんて考えが甘かった…

そこへ異常なくらい陸にライバル心を燃やしている女の子がいた。

「佐久間先輩ですね、わたし絶対に負けませんから!」

それは1年生の工藤沙織だった。

なぜ自分がライバル視されているのかわからない。

しかしこういう風に言われると、負けたくないと思ってしまう。

陸は自信を少し取り戻し、審査に挑んだ。

審査は、ステージ脇からセンターへ移動し、真ん中を歩いて往復する。

まるでファッションショーのランウェイを歩くような形だ。

その左右には生徒がぎっしりと埋まっている。

ここを歩くだけでも相当の勇気が必要だった。

1年生からクラス順に出場していく。

沙織は堂々と歩き、笑顔で手を振ったりもしている。

どこまでも自信に満ち溢れていた。

そんなことを考えていたら、あっという間に2年生になり、陸の番になった。

おどおどしながらステージの中央へ進む。

みんなが注目していることで、緊張と恥ずかしさが込み上げてきた。

どうしよう…どうしよう…

自分で決断したはずなのに、出場したことを後悔していた。

やっぱりわたしには無理だよ…

そのとき視界に隼人が入った。

ジェスチャーで頑張れと合図を送ってくれる。

近くには仁菜も春樹もいる。

それ以外にクラスのみんなもいる。

彼らは陸を応援してくれている。

そうだ、わたしにはみんなが付いているんだ!

陸の表情が変わった。

沙織のように手を振ったりはしないが、堂々と前を向いてしっかりと歩くことができた。

最後にお辞儀をして袖のほうへはけて、陸の制服審査は終わった。

次は私服になる。

控室へ行き、急いで着替えてコテを使って髪を軽く巻いていた。

そこへ再び沙織がやってきた。

沙織はパステルカラーのワンピースにカーディガンを羽織っていた。

沙織が持っている雰囲気のせいか、甘めなのに大人っぽさを感じる。

「佐久間先輩って見たまんまなんですね」

「どういう意味?」

「女の子女の子してるなって思って、ぶりっ子みたいな」

陸はカチンときた。

何も知らない後輩になぜこんなことを言われなければいけない。

「工藤さんだっけ?先輩としてアドバイスしてあげる。

人を見た目で判断しないほうがいいよ」

陸は我慢して冷静に返してやった。

ところが沙織は更に言ってきた。

「そんな格好して言っても説得力ないですよ、ぶりっ子先輩。

男の人の前では別人のように甘えてるんじゃないですか、きっと」

ムカつく、とにかくムカつく。

なんなんだこの女は!

嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まない。

「そういえばさっき工藤さんにしたアドバイス、中学1年のときにも同級生に

言ったことがあった。

工藤さんは何年だっけ?あ、高校1年だよね、まさか中1のとき同級生に言った言葉を

高校生になって言うと思わなかった」

沙織はムッとした顔をしている。

ざまーみろ、わたしにケンカ売ろうなんて100年早いよ。

なんたってわたし本当は18歳の…

ここまで思って陸は思い直した。

この考えがいけないんだ…わたしは陸じゃない、愛花なんだから。

今は愛花としての自信をつけるために出場している。

こんな後輩を相手にして本来の目的を見失うことになるところだった。


沙織は私服でも同じように笑顔で手を振りながら歩いていた。

そしてPRタイムになり、放送部の生徒がインタビューをしていた。

「今日のテーマは?」

「脱甘めです。女だったら甘めにすればいいって勘違いしている人もいますけど、

着こなしひとつで甘めの服も大人っぽく着ることができるんですよ」

明らかに陸を挑発していた。

確かにそれは一理あるが、体型や顔の雰囲気によっては甘めにしかならない場合もある。

沙織は大人っぽく、背もそこそこ高い。

こういう子は大人かわいいという表現になる。

しかし陸のように背が低く、あまり顔が大人っぽくない場合は、

仮に沙織と同じ格好をしても甘い感じのかわいい系になってしまう。

女子なら誰でもわかっていることだが、男子は意外と知らない。

これをこの場で言うということは、

これから出てくる陸を批判して評判を落とす行為以外なんでもない。

先手を取られたと思った。

「では最後に一言お願いします」

「みなさん、今日はご来場ありがとうございます。

生意気かもしれませんが、優勝しか考えていません。

そのためには、みなさんの投票が欠かせません。

どうかよろしくお願いします」

沙織は言い終わると、笑顔でお辞儀をして控室に戻ってきた。

その表情は自信に満ち溢れている。

ここまで堂々とできることは、ある意味すごいことだと思ってしまった。

そして少しして陸の番になった。

沙織に嫌味を言われた甘めの格好でステージを歩く。

こっちは制服よりも恥ずかしい。

顔が赤くなってしまったところで春樹が叫んだ。

「愛花ちゃーん、似合っててかわいいよ」

その言葉で拍手が起こった。

隼人はこういうことを言えないので、代わりに春樹が言ってくれたのだ。

逆に恥ずかしくなったが、拍手をしてくれたということは認めてくれているということだ。

陸は最高の笑顔でステージを歩ききった。

「今日はどんなテーマなんですか?」

「特別な日をイメージしました。

何気ないデートだったらこんな格好はしません。

もっとカジュアルだったり、もう少し抑えめにしています。

特別な日、つまり相手の誕生日やクリスマス、

そういう記念日にちょっとだけ普段の自分と違う恰好をしてみようかなって」

「なんか妙にリアルですね、実話ですか?」

なぜ突っ込んでくる?

他の子にはそんなこと聞いてないのに…

陸は回答に困ってしまった。

けど大半の人は隼人と付き合っていることを知っているので開き直った。

「ここまでじゃないけど、ほぼ実話です」

会場からは驚きと冷かしの声が聞こえてきた。

中には隼人の名前を呼んでいるのもいる。

ちらっと隼人を見ると照れて困っている感じだった。

ごめん隼人、巻き込んじゃった…

「では最後に一言お願いします」

ちょっと、実話だって答えたんだから受けてよ!

これって答え損だよ。

答えを受けずに最後の質問をしたことに腹が立ったが、

気を取り直して一言話した。

「最初、ミスコンの代表に選ばれたとき、辞退するつもりでした。

こんなわたしが出たって意味がないし

代表になれるほど自分をかわいいなんて思っていないからです。

そんなわたしを後押ししてくれたのは、親友やクラスのみんな、そして彼氏でした。」

陸はあえて彼氏も加えた。

隼人には申し訳ないと思ったが、自分の素直な気持ちを話そうと考えていたのだ。

話していくうちに、心の中に引っかかっていたものが自然と消えていく。

「わたしは今までずっと自分に自信が持てませんでした。

それでも出れば少しは自分に自信が持てるのかなって何かがかわるのかなって考えて…

そしてこんな…なんでもないわたしをそこまで押してくれるなら…

そう思って出ることにしました。

けど、出ている人たちみんな自分よりもはるかに素敵です。

本心でそう思います。

それでも優勝したいんです。

それは自分のためではなく、後押ししてくれたみんなのためです。

みなさん、よろしくお願いします」

今までのPRはナルシストな要素が含まれる自己主張ばかりだったが、

陸はそれらと違っていたので、今まで以上の拍手が起きた。

控室で沙織は嫌味を言ってきたが、無視して制服に着替え、最後の人が終わるのを待った。

あの舞台に立ち、しゃべったことで陸はここにいる本当の意味を理解した。

それは、等身大の自分を見つめ直すことだった。

今ここにいるのは、みんなの前にいるのは佐久間愛花という17歳の女の子、

田中陸という18歳ではない、

わかっていても心のどこかにずっと潜んでいたものは、やっと陸の中から消えていった。

陸は本当の意味で佐久間愛花になったのだ。

そうなると順位や他人は気にならない。

ただ、さっき話した通り、後押ししてくれたみんなのために優勝したい、

それだけを願っていた。


全員が終わり、生徒は投票箱に名前を書いて投票して戻っていった。

陸たち出場者も一度解散になり、発表の午後3時に再集合となったので

陸はクラスのみんなのところへ戻った。

するとみんなから割れんばかりの拍手で出迎えられ、嬉しい気持ちになった。

真っ先に仁菜が話しかけてくる。

「愛花!すごくよかったよ。あんな堂々と本音を言っちゃうんだもん」

「仁菜やみんなのおかげだよ、あの場に立ってやっと気づいた、

わたしはわたし、佐久間愛花なんだって」

「なに当たり前のこと言ってるの、愛花はずっと愛花でしょ」

そうだ、この意味は莉奈しかわからなかった。

それでもみんな笑ってくれて、陸は自然に笑みがこぼれていた。

「それよりも隼人くんのところに行ってあげたら?」

「うん、行ってくる!」

隼人のところへ向かうとき、クラスのみんなが温かい目で見送ってくれた。

それは愛花と隼人のことを応援してくれていることにほかならなかった。

隼人は数人の男子と一緒にいた。

陸はお構いなしに声をかける。

「隼人!」

「愛花、頑張ったな」

「ありがと、ごめんね巻き込んじゃって」

「いいよ、気にするな。俺は逆に嬉しかったよ。

あそこに立っているのは俺の彼女なんだって。

順位なんて関係ない、俺にとっては愛花が1位だ」

「その言葉、すごく嬉しい!わたしは隼人の1位だったら他に何もいらない」

こんな話をしていたら、一緒にいた男子が咳払いをした。

「おい、あまりみんなの前でイチャつくなよ。見ていてこっちが恥ずかしくなる」

それを言われて陸も隼人も顔が真っ赤になってしまい、それを見た男子たちが笑っていた。

陸のあの言葉が、まわりを祝福モードにしたのだ。

出場して正解だった、改めてそう思えるくらいの雰囲気だった。


午後、結果が発表された。

発表するのは5位から1位。

その中で陸は3位だった。

24人中での3位だから立派な数字だ。

優勝ではなかったが、陸は満足だった。

みんなも3位なら褒めてくれるよね?

そして2位は、なんと陸に散々嫌味を言った工藤里紗だった。

優勝できなかったことが相当悔しかったらしく、顔に出ていた。

そして1位は3年生の園田カレンになった。

カレンは誰から見てもキレイで、圧倒的な結果だったらしい。

沙織以外は、みんなやっぱりと思っていた。

発表が終わったので戻ろうとしたら、沙織が近づいてきた。

「優勝できなかったのは悔しいけど、佐久間先輩より上でよかった」

「おめでとう、よかったね」

陸は挑発する沙織をさらっと返した。

「先輩悔しいでしょ?けどわたしはもっと下だと思ってました。

ちょっとかわいいだけで特別なオーラもないし」

「わたしもそう思ってた、だってわたしは普通の女の子だもん。

3位になれただけでも奇跡だよ」

沙織の挑発には乗らない。

最初はムカついたけど、今はどうでもいい。

むしろ、こういう態度しか取れない沙織が哀れに思えた。

なんか麻理恵のときに似てるかもしれない。

けど、麻理恵は同級生だったし本当は素直でいい子かもしれないと思って話したが、

沙織は学年も違うし、本当に性格が悪そうに思えたので

相手にしないのが一番だと思った。

「じゃあね、工藤さん」

沙織が何か言っていたが、陸は無視してみんなのところに戻った。

予想通り3位でもすごいと喜んでくれたので安心した。

その日の帰り、陸は隼人と帰った。

「3位おめでとう」

「ありがとう、でもさっきも言ったけど順位はどうでもいいんだって」

「ああ、でも一応な」

「もう一回聞いていい?隼人の1位は?」

「愛花に決まってるだろ」

「隼人ー、大好き!」

まるでバカップルのような感じで陸はずっと喜んでいた。

今までの陸ならこんなことは聞かなかっただろう。

この発言は、陸が佐久間愛花という自分自身に

自信がもてたから出た言葉にほかならなかった。


帰ってから莉奈に電話をしたらすぐに飛んできてくれた。

「どうだった?」

「うん…やっと今の自分がだれなのか気づくことができた。

もう田中陸じゃない、佐久間愛花だって」

「今度こそ…本当にそう思えたみたいだね」

何度かこういう話を莉奈にしていたが、陸の表情を見て莉奈は安心していた。

「ご心配をおかけしました」

「ホントだよ、わたしはずっと愛花は愛花だって言ってるのにさ」

「だってぇ…そうは言っても…」

「もういい、この話はおしまい!だって解決したんだもん」

「だね、じゃあ莉奈の彼氏の話でも聞こうかな」

「ちょっと、今日はミスコンの話でしょ」

仲がいい2人はたわいもない話で盛り上がった。

そんななか莉奈は、うまく説明できないけどいつもより陸が女っぽく感じていた。


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