仁菜に説得されて
その日の放課後、隼人はイライラしながら部活に向かっていた。
愛花があんな女だと思わなかった。
ミスコン?くだらない、そんなのに出て何になる。
そんなにモテたいのか?なら勝手にしろ。
これは隼人の強がりだった。
愛花を容姿で好きになったわけではないが、
あれほどかわいい子が自分の彼女というのは隼人にとっては自慢であり誇りだ。
その愛花が自分の元を去ってしまうのではないか不安なのだ。
元々人気があった愛花がミスコンに出れば、もっと人気が出る。
他にいい男が現れれば振られてしまう可能性がある。
それが一番怖かった。
下駄箱まで行くと、そこには仁菜がいた。
「隼人くん、ちょっといい?」
「悪いけど部活があるから」
「いいから、少しだけ付き合って」
間違いなく愛花のミスコンのことだ。
推薦した仁菜にも怒りがこみあげてくる。
「時間ないから」
素っ気なく返し、行こうとした。
すると仁菜が言ってきた。
「逃げるの?」
隼人は思わず足を止めて振り向いた。
「なんで俺が逃げるんだよ」
「だってそうじゃない、自分の言い分を一方的に押し付けて愛花の理由も聞かないで」
「聞く必要がないからだよ、どうせ聞いたってたかがしてれてる。
優勝してチヤホヤされたいんだろ」
「本気で言ってるの?隼人くんは今まで愛花の何を見てきたの?」
「今までの愛花を見てきたから今回のが信じられなかったんだよ!」
仁菜はため息をついた。
「いいからちょっと来て」
隼人は仕方なく仁菜の後に着いていって屋上へあがった。
屋上は誰もいない、いるのは隼人と仁菜だけだ。
「隼人くんは、愛花がどういう女の子だと思う?素直にちゃんと答えて」
仁菜は自分と愛花の関係がどれだけのものかよく知っている。
隠す必要もないのでちゃんと答えることにした。
「かわいくて優しくて、誰とでも仲良くできて、
俺のことを一番に考えてくれる…それが愛花だよ。
だから、俺のことを一番に考えてくれるなら出てほしくないんだ!」
「なんで隼人くんを一番に考えれば出ちゃいけないの?
まさか愛花が出たことで他の男子に取られちゃうとか心配してない?」
「それは…」
「隼人くんを想う気持ちがそんなくらいで揺らぐはずないでしょ、
愛花の愛がそんなもんじゃないって一番わかってるのは隼人くんでしょ」
仁菜の言葉が胸に刺さる。
隼人は何も答えられなかった。
「あとさ、愛花のことで気づいたのってそれだけ?
もうひとつあるんだけどわからない?」
これに関しては本当にわからなかった。
仁菜ちゃんが気づいていて自分が気づいていないこと?
「ごめん、わからない…」
「男の人じゃ気づかないのかな…愛花が自分に自信がないこと
「どういうこと…?」
「どんなにまわりがかわいいって褒めても否定するでしょ。
最初は謙遜してるだけだと思ってた。
でも接しているうちに、本気で否定しているってことに気づいたの。
女の子なら、かわいいって言われれば嬉しいし多少は自信がつくのにね。
もっと極端なことを言えば、女なのに女だってことに自信がないときがある。
どういう経緯で愛花が自信を持てないのかはわからないけど」
隼人はその辺に関して深く考えていなかった。
確かに愛花はたまに弱さを見せるときがある。
そんな愛花を見て隼人は守ってあげたい、それしか思わなかったし
守ってあげるのが自分の役目だと考えていた。
むしろ、そんな弱さを見せる愛花がかわいいと思っていた。
「そういう自信のない弱さを包んであげるのが俺の役目じゃないのか?」
「そうかもしれない…けどそれだけじゃダメなんだよ。
それだといつまでたっても愛花は自信が持てない女の子なんだよ。
愛花が自分に自信を持てば、今までよりもっと素敵な子になれるんだよ」
「仁菜ちゃんが言っていることはわかった…でもそれとミスコンは関係ないだろ?」
「それがそうでもないの、愛花がミスコンに出て評価されれば、
女としての自信が持てるんだよ、そのために愛花はミスコンに出るの。
自分自身が成長するために。
モテたいとかチヤホヤされたいとか、そんなことは微塵も考えてないんだよ。
これでも愛花が出ることに反対するの?」
隼人は愛花のことを考えた。
愛花は成長しようとしている、
もし成長すれば今後は弱さを見せてこなくなるかもしれない。
隼人は頼られたかった、守っていたかった。
しかしそれは隼人の自己満足でしかない、
本当に愛花のことを思うならば、この成長を見守るべきだ。
やっと決心することができた。
「わかった、俺はもう何も言わない。それが愛花のためなら」
「うん、やっとわかってもらえてよかった。
それにさ、考えようによっては最高の立場になるんだよ」
「何が?」
「俺の彼女はミスコンで優勝したんだぜってね、鼻が高いでしょ」
「おい!」
「あはは」
軽く仁菜にからかわれたが、もう迷うことはなかった。
俺は愛花のために応援する、そう心に誓った。
その日の夜、陸の家に部活を終えた隼人が訪ねてきたので近所の公園にいった。
「どうしたの、急に?」
「昼間のこと、謝ろうと思って」
「じゃあ出ていいの?」
「愛花が出る理由を聞いたら反対なんてできないだろ」
仁菜がちゃんと話してくれたのがわかった。
ところが仁菜は部活のときに一言もそのことを言ってくれなかった。
その辺が仁菜らしいと思いながらも感謝していた。
やはり仁菜は大事な頼れる親友だ。
「ありがとう!わたし頑張るよ」
「ああ、俺はそれを応援するから」
「うん!それにしても隼人…本当にわたしがチヤホヤされたくて出ると思ったの?」
「ま、まあ…」
「バカだね隼人、わたしが隼人しか見てないの一番知ってるのは隼人でしょ!まったく」
陸は腕を組んで頬を膨らませて怒ってみた。
すると、隼人が珍しく弱みを見せた。
「わかってても不安なんだよ…愛花が離れちゃうんじゃないかって」
「もう…隼人のバカ、そんな心配しなくていいの」
そういって陸は隼人に抱きついた。
「わたしは隼人以外考えられないんだから」
すると隼人も抱きしめてきた。
「俺も…そうだ、愛花しか考えられない」
「ふふ、もし優勝したら自慢していいからね、俺の彼女ミスコンで優勝したんだぜって」
「それ、仁菜ちゃんも同じこと言ってたよ…」
それを聞いて陸は笑いってしまい、隼人もつられて笑っていた。
隼人も認めてくれた、これで迷うものも怖いものもない。
あとはミスコンに備えて準備をするだけだ。