かわいい?後輩
話は少し戻って、春休み中の4月上旬。
今日は隼人の誕生日だった。
隼人は部活だったのでデートをせず、プレゼントを渡すだけになる。
前は隼人が陸の家まで届けてくれたので、今回は陸が届けに行く。
部活が終わって帰宅した夜の7時にマンションの下で待っていると隼人が降りてきた。
「隼人!誕生日おめでとう」
「サンキュー、誕生日で人に祝ってもらうことなんてないから斬新だよ」
「そうだよね、男の人って友達同士でそういうのしないもんね」
これは陸が愛花になってから知ったことだが、女の子は友達同士でプレゼントをあげたり、
お祝いをしたりする。
男同士ではそういうことは絶対にしないので、陸も最初はかなり斬新だった。
しかし今は当たり前になっている。
「これ、誕生日プレゼント」
「ありがとう、開けるよ」
「うん、たいしたものじゃないけど…」
「お、スポーツタオル」
「部活頑張ってるから、役に立つものがいいと思ったんだ。
ホントにたいしたものじゃなくてゴメンね」
「そんなことない、これがあればもっと頑張れるよ、ありがとう」
そういって隼人は陸の頭を撫でてくれた。
陸は笑顔で溢れていた。
新学期が始まり、2年生になった陸は幸いにも仁菜と同じクラスだった。
隼人や春樹は別のクラスだが、また仁菜と同じクラスというのはとても嬉しかった。
「よかった、愛花と同じクラスで」
「わたしも~、また1年間よろしくね」
2人で廊下を歩いていたら後ろから元気な声で呼びかけられた。
「愛花先輩!」
振り向くとそこには、中学の後輩だった理沙がいた。
もちろん陸と同じ北高の制服を着ている。
「理紗ちゃん!北高受けたの?」
「はい、愛花先輩と同じ高校がよかったから猛勉強して受かりました」
仁菜が誰?と聞いてくる。
「中学の後輩の理紗ちゃん」
「ああ、なるほど」
「愛花先輩の後輩の矢島理紗です!」
「どうも、愛花の友達の斎藤仁菜よ」
「仁菜先輩ですね、よろしくお願いします」
妙に馴れ馴れしいので仁菜は苦笑いしていた。
「こういう子なの、理沙ちゃんって。ところでみな実には会った?」
「さっき会いました、みな実先輩は高校も吹奏楽部なんですね」
「うん、理沙ちゃんも吹奏楽部に入るの?」
「いいえ、愛花先輩がチアリーディング部って聞いたので、
わたしもチアリーディング部に入ります」
「ええ!?」
「もう決めたんです」
「け、結構大変だよ…」
「愛花先輩と一緒に部活がしたいんです、なのでよろしくお願いします!」
そういって理沙は自分の教室に戻っていった。
「なんか…すごい疲れそう」
理紗の異常に高いテンションについていけなそうな仁菜がそう呟いた。
「いい子なんだよ…人懐っこくてテンション高いけど…」
「そんな感じはする…それにしても愛花にゾッコンだね、
だって同じ高校受けて同じ部活に入るくらいだもん。隼人くんに嫉妬しそう」
「ちょっと仁菜、隼人は関係ないでしょ」
「だといいけどね」
そういって仁菜は笑っていた。
数日後、理沙は本当にチアリーディング部に入部してきた。
新入部員は理沙を含めて4人だった。
顧問の神田直子が初めに挨拶をした。
「4人とも先に言っておくけど、チアリーディング部は体育会系だからね。
練習も大変だから覚悟しておいてね」
4人が「はーい」と返事をしてから練習に加わった。
3年のキャプテン、岡いづみが新入部員の指導に仁菜を指名した。
「ええ、わたし?」
「そう、仁菜が一番最適だからよろしくね」
「そ、そんな…こういうの苦手なのに」
困っている仁菜の元へ笑顔で理沙が近づいた。
「仁菜先輩、お願いします!」
すると開き直ったのか、「ビシバシいくから覚悟してね!」と言って仁菜が指導に入った。
陸はそれを見てクスクス笑っていた。
新入部員の初日が終わり、帰宅の準備をしていた。
「愛花先輩、一緒に帰りましょう」
いつも途中までは仁菜と一緒に帰るが、
理紗は同じ中学なので最後まで方角が一緒、
これから部活がある日は3人で毎日一緒に帰ることになりそうだ。
しかし、陸は懐いてくる理沙が嫌いではないので問題なかった。
ただ、あまりにも馴れ馴れしいので他の部員に「中学の後輩?」と聞かれたので
そうだよ、と答えると、みんな納得しつつも苦笑いしていた。
それは理沙の人懐っこさとやはり高いテンションのせいだった。
駐輪場へ行き、仁菜と理紗とそれぞれ自転車に乗って校舎を出ようとしたら
隼人に出くわした。
隼人も部活が終わって帰るところらしい。
「愛花」
「隼人、もう部活終わったの?」
「ああ、今日は新入部員が入ったから早めに終わった」
2人のやり取りを見ていた理沙がキョトンとしている。
「愛花先輩、あの…」
「ああ、彼氏の隼人。隼人、この子は中学の後輩で理沙ちゃん、
チアリーディング部に入ったの」
「そうなんだ、愛花の中学の後輩か」
「愛花先輩の彼氏ですか?…すごくお似合いです!
こんな背が高くてスポーツマンで」
「ど、どうも…」
「あ、ありがとう…」
陸も隼人も苦笑いしていた。
それでも理沙は止まらない。
余計なことを言いだすのではないかと心配になった。
「やっぱり愛花先輩にはこういう人がピッタリなんですよ、豪先輩なんかより全然いい!」
「理紗ちゃん!」
嫌な予感は的中した。
出してほしくない名前を隼人の前で出さなくてもいいのに!
「豪先輩?」
「愛花先輩が中学のときに付き合っていた人です」
「ふーん…」
隼人が少し不機嫌な顔になっていた。
それを察した仁菜が間に入ってきた。
「理紗ちゃん、今日はわたしと帰ろう。愛花は隼人くんと帰るから」
「えー…」
「理紗ちゃんも高校生になったなら少しは気を使わないとダメだよ」
「わかりました…じゃあ今日は仕方ないから仁菜先輩と帰ります」
「仕方ないは余計でしょ!」
「はい、仁菜先輩と楽しく帰ります!」
仁菜はため息をついてから理沙と帰って行った。
「隼人…一緒に帰ろ」
「ああ」
いつになく隼人は無言だった。
明らかに豪のことを気にしている。
「あのね隼人…豪とはとっくに別れてて何もないからね」
「わかってるよ、そんなこと」
「ならいいんだけど…」
「ただ、過去に愛花が付き合ってた話を聞いたことがなかったから少し嫉妬しただけ」
「嫉妬なんてしないでよ、だって今のわたしは」
「知ってるよ、愛花は俺の彼女だ。悪かった、変な嫉妬して」
いつもの隼人の表情に戻ったので安心した。
「そうだよ、わたしは隼人の彼女なんだから」
豪のことなんかで嫉妬しないでよ、隼人のことしか見えてないんだからね。
爽やかな春風に吹かれながら2人は仲良く下校した。
しかし陸には豪の名前が出たことで嫌な予感が漂っていた。




