小陽のために
冬も終わり3月の下旬、明日からは春休みになる。
「明日から春休みかぁ、なんか1年って早いね」
「そうだよ、もう来月は2年生だし」
終業式を終えて、陸は仁菜と部活にきていた。
チアリーディング部はちゃんと継続している。
そこへ小陽が加わってきた。
「2人は春休みデート?」
小陽は陸が隼人と、仁菜が春樹と付き合っていることを知っている。
「どこかには行こうと思ってるけど、具体的にはまだ決まってないよ」
「いーなー、わたしも彼氏ほしい」
最近、小陽は彼氏がほしいとばかり言っている。
小陽は明るくてかわいい雰囲気なのですぐにできそうな気がするんだが、
なかなかできないので本人は悩んでいる。
その理由を陸も仁菜も知っていた。
「誰か紹介してよ」
同級生でよければ隼人たちに頼めば紹介はしてくれる。
過去にも2人紹介してもらったことがある。
しかしうまくいかなかった。
その理由は小陽の性格だった。
男の人に慣れていないせいか、小陽は男の人の前だと急におとなしくなるのだ。
そのせいで相手からの印象があまりよくなく、2回とも失敗に終わっている。
もう少し免疫がつけばうまくいくと思うんだけど…。
「でも小陽さ、男の人の前だと緊張しちゃって大人しくなっちゃうよね」
仁菜がズバッという。
「そうなの…彼氏欲しいのに…なんでダメなんだろ」
「それは慣れるしかないよ」
そこで陸はある案を思いついた。
「今度隼人たちと一緒に遊びに行く?そうすれば少しは慣れるんじゃない?」
「えー、だって2人ともカップルじゃん…気まずいよ」
それもそうか、名案だと思ったんだけど…
すると、仁菜が更に案を加えてきた。
「カップルじゃなきゃいいんでしょ、だったらわたしと隼人くんと小陽、
愛花と春樹と小陽、この組み合わせでそれぞれ遊べばいいんじゃない?」
「ええ!?」
一番驚いたのは陸だった。
「別にいいでしょ、わたしが隼人くんと遊んでも何もないってわかってるし、
春樹も愛花と遊んだって何もないのわかってるんだから」
「それはそうだけど…」
結局、仁菜の提案で話がまとまってしまった。
隼人と春樹に事情を説明すると、2人とも快く承諾してくれた。
こうして恋人を入れ替えて遊ぶことが決まった。
春休み、陸は駅で待っていた。
相手は小陽と春樹だ。
小陽は別として、春樹と遊ぶのに隼人も仁菜もいないのは不思議な気分だった。
特にオシャレをする必要がないので、ボーダーのロンTにベージュのショートパンツ、
それにスニーカーとカジュアルな感じにしてきた。
少し待つと春樹がやってきた。
「よ、愛花ちゃん。今日はラフな感じだね。
いつもキメキメな愛花ちゃんしか見たことないから新鮮だよ、これはこれでいいね!
今日はデート気分で楽しめそうだなぁ」
春樹は会うなり褒めてきた。
仁菜がいなくてもいつもの雰囲気だった。
とてもケンカばかりして恐れられていた人物には見えない。
「仁菜に言いつけるよ」
「じょ、冗談だって!けどそういう服装もいいっていうのは本当だよ。
たまにはそんな感じで隼人とも遊んでみなよ」
どこまで本気かわからないが、アドバイスとして受け止めておこう。
するとやっと小陽がやってきた。
「ごめん、遅くなっちゃった」
あらまぁ…小陽、そんなオシャレしてこなくていいのに。
相手はわたしと仁菜の彼氏の春樹くんだよ?
そう突っ込みたくなるくらい小陽は気合が入っていた。
肩が開いたピンクのニットに白のスカート、ヒールのあるサンダル、
髪もバッチリセットしてある。
男の人に免疫がないと、遊ぶだけでもこうなっちゃうのかな…
先が思いやられると思ってしまった。
「小陽ちゃん、すごくいいよ!同じクラスだったのに
こんな可愛かったなんて気づかなかったよ」
「あ、ありがとう…」
いきなり春樹に褒められて小陽は戸惑っていた。
それもそのはずである、同じクラスなのにほとんど会話もしたことないのに
このテンションだ。
「小陽、あまり相手にしないほうがいいよ」
「冷たいなぁ愛花ちゃん、俺は思ったことを素直に」
「仁菜に報告しておく、小陽をかわいいってべた褒めしてたこと」
「じょ、冗談だって!」
今日、このやり取りを何回繰り返すのだろう?
陸はそんなことを考えていた。
とりあえずショッピングモールをブラブラする。
その間、春樹は積極的に小陽に話しかけていた。
最初はおとなしそうに受け答えするだけだったが、
慣れてくると自然に表情が柔らかくなっていた。
隼人は誰とでも普通に話すが、春樹のように積極的には話しかけない。
そういう意味では最初が隼人じゃなくて春樹だったのは正解かもしれない。
このあと3人はボーリングに行った。
春樹がストライクを取ると陸も小陽もハイタッチをする。
陸がスペアを取ってもそれぞれハイタッチする。
小陽がガターになってしまって「あー」と言いながら笑っている。
少なくともここにいる小陽は、春樹の行動のおかげで陸が知っているいつもの小陽だった。
陸はこのとき思った。
小陽は彼氏うんぬんというより、まずは複数で遊ぶことを前提に始めたらいいのでは?
少し時間はかかるけど、慣れてきていつもの小陽になる。
そこから恋愛に発展すればスムーズに行く、そんな気がした。
後日、小陽と遊んだ隼人と仁菜も同じ意見だった。
なので今度は隼人と同じ野球部の男子を交えて複数で遊ぶことになった。
今は電話で隼人と話している。
「それにしても愛花は友達思いなんだな。俺はそこまで自分の友達にできないよ」
「だって小陽が彼氏ほしいっていうから」
「だから紹介までして終わりじゃない?そこから先は自分の問題だし。
でも愛花はその先の面倒を見るんだから…たいしたもんだよ」
「乗りかかった船だからね、本当はみんなで遊ぶより隼人と二人で遊びたいんだよ…」
「愛花…」
「ゴメン、聞かなかったことにして」
「いや、俺も同じ意見だ。小陽ちゃんがうまくいったら、その分2人でたくさん遊ぼう」
「ありがとう、隼人」
早く小陽がうまくいかないかな…
そう思いながら電話を切った。
そして3か月後、小陽に初めて彼氏ができた。




