隼人とクリスマス
一か月後の10下旬、希美は無事に男の子を出産した。
そして今日、その赤ちゃんを連れて家にやってきた。
「かわいい~!」
陸はずっと赤ちゃんを抱いていた。
「海斗、愛花おばちゃんだよ」
「おばちゃんじゃないもん!愛花お姉ちゃんだよ、海斗」
赤ちゃんは海斗という名前だった。
陸、次は海、だから海斗。
男の子ということで陸を意識したのだろう。
理由は聞かなかったが、なんとなく陸はわかっていた。
海斗は陸に抱かれてスヤスヤと眠っている。
「いいなぁ、赤ちゃん」
「欲しくなったの?まだ早すぎるよ」
「そんなのわかってるって!だからしばらくは海斗を可愛がるの」
いつか自分も子供を産む日が来るのだろうか。
そのときの相手は隼人だったらいいな、そんなことを考えていた。
月日が経つのは早い。
12月に入り、季節は冬になっていた。
「みな実おはよう」
「おはよー、今日も寒いね」
「ね、このあいだまで夏だと思ってたのにもう冬だもん」
コートに手袋、マフラーをして自転車でみな実と学校へ行った。
教室に入り、仁菜といつも通り会話をする。
授業が終わり、部活へ行く。
陸にとって平穏で何もない日々が続いていた。
そして12月も中旬を過ぎたころ、陸は仁菜と買い物に来ていた。
「どういうのが喜ぶかな?」
「春樹くんだったらマフラーとかいいんじゃない?」
2人はクリスマスプレゼントを選んでいた。
「マフラーねぇ、確かに春樹ってマフラーしてないもんなぁ」
そう言いながら仁菜は男物のマフラーを手に取って考えていた。
「愛花は何あげるか決めたの?」
本当は陸もマフラーをあげたかったが、隼人と春樹は親友、
その2人ともマフラーをもらうのはどうかと思ったので別のものを考えていた。
「財布にしようかなと思う」
「あ、財布いいね!わたしも財布にしようかな」
「だったらわたしはマフラーにするよ」
「なんで?同じでいいんじゃない??」
「えー、だって隼人と春樹くんは友達だよ。
その2人がそれぞれ彼女から同じものもらうって絶対に嫌だよ!」
「そうかなぁ…わたしは愛花と同じものもらったら嬉しいけど」
「わたしもそうだけど、男と女は違うんだって」
「ふーん…なんか愛花って男の気持ちをしっかり理解しているんだね」
「いや、そういうわけじゃないけど…何となく嫌かなって」
理解しているのではなく、知っているのだ。
ほとんど陸としての、男の感情など忘れてしまったが、このときだけはふと蘇ってきた。
きっとプレゼントを失敗したくないと思ったからだろう。
結局、仁菜が財布を買ったので陸はマフラーにした。
あとはクリスマスを待つだけだった。
12月24日、ついにクリスマスイブがやってきた。
陸にっては初めて恋人と過ごすクリスマス、いつも以上に気合が入る。
白をベースにしたワンピース、
その上に薄いベージュ系のコートを着てブーツを履く予定だ。
ところが陸は髪型に迷っていた。
大分髪が伸びたので大抵のアレンジはできる。
今はコテを手に持って考え中だ。
「隼人が喜びそうな髪型…恥ずかしいけどやってみるか!」
陸は小学生以来のツインテールにして、コテを使い巻き髪にした。
そして前髪もコテで巻いて横に流した。
最後に少しだけメイクをして鏡でチェック。
いつもより甘めな自分が映っていて恥ずかしくなる。
「やっぱツインテールは無理!」
そう言いながら解こうとしたが、隼人が見たがっていたのを思い出してそのままにした。
そしてコートを羽織り、バッグ、プレゼントが入った袋を持って玄関に向かった。
「お母さん、行ってくる」
「ずいぶんオシャレしたのね」
「クリスマスだからね」
「隼人くんもメロメロになっちゃうんじゃない」
「もー、バカなこと言わないの!いってきまーす」
今日はいつもより寒く感じる。
空も曇っていて雪が降りそうだ。
そんなことを感じながら、いつもの待ち合わせ場所へ向かうと、すでに隼人が待っていた。
チノパンにニット、その上にコートを羽織っている。
いつもジーンズにダウンが多いので、少し気を使ったのが一目でわかる。
陸はそれだけで嬉しかった。
「隼人、お待たせ!」
「あ、愛花…」
隼人の顔は真っ赤だった。
隼人が照れていた。
「い、行こうか」
「ねえ、この髪型どう…?」
「す、すごくかわいいよ」
この言葉が聞けただけでやった甲斐があった。
2人は手を繋いで歩きだした。
普段食べるレストランよりちょっと高めのイタリアンのお店に入る。
事前に隼人が予約してくれていた。
5000円のコース、高校生にしては割高だったが、
特別な日だから陸も隼人も気にしなかった。
食事をしていたら隼人がプレゼントを渡してきた。
「はい、クリスマスプレゼント」
「ありがとう、開けていい?」
「ああ、気に入らなかったらゴメンね」
ラッピングを剥がすとジュエリーケースが出てきた。
更にその蓋を開ける。
「わぁ…かわいい…」
中身はオープンハートのネックレス、オープンハートの中には
ピンクゴールドのハートが付いて2重のハートになっていてとてもかわいい。
「付けていい?」
「むしろ付けてもらいたい」
隼人が笑顔で言うので遠慮しないで付けてみた。
「どう?」
「予想以上に似合っててよかった」
こんな素敵なプレゼントがもらえると思っていなかったのですごく嬉しかった。
今度は陸が渡す番だ。
「はい、わたしからも」
「サンキュー、開けるよ」
隼人はなんだろう?と言いながら中身を開けた。
「マフラーか、欲しかったんだ」
「隼人いつもマフラーしてなかったから」
やはりマフラーにして正解だった。
食事が終わる頃になると時間は7時半近くになっていた。
「そろそろ行こうか」
「うん」
隼人はあげたマフラーをして店を出た。
次に向かう先は決まっている。
そこまで手を繋いで一緒に歩いた。
「わー…きれい…」
そこはイルミネーションスポットだった。
まわりにはたくさんのカップルがいる。
陸たちもその1組だ。
花火のときも感動したが、これはこれで別の感動がある。
ゆっくりと眺めながらイルミネーションを楽しむ。
クリスマスならではのデートだ。
「写真撮ろうか」
「うん!」
2人で何枚かセルフィーしたあと、近くにいるカップルに頼んで写真を撮ってもらった。
その写真をチェック、見てみると幸せそうな2人がイルミネーションをバックに
写っている。
陸にとって宝物になる1枚だった。
「来年も再来年もずっと一緒にイルミネーション見ような」
嬉しい言葉をかけてくれた隼人に寄り添い笑顔で頷いた。