小学校へ
4年3組、ここが陸のクラスになる。
「はい、みんな静かに!今日からクラスメートになる佐久間愛花さんです」
「どうも…佐久間愛花です」
「それだけ?」
「はい、席は?」
「あ、ああ…窓際の一番後ろだよ」
「わかりました」
そこまで歩くと、ランドセルを下ろして席に着いた。
とうとう小学生としての初登校を迎えた陸だったが、
やはり仲良くなる気にはなれなかった。
トレーナーにジーンズ、髪は特に縛ったりせず自然な感じにしておいた。
とにかく目立ちたくなかったのだ。
美智子や希美はもっと可愛くして行けと言ったが、陸はそれを拒否し、
今の服を選んだのだ。
前の女の子が「よろしくね」と言ってきたので一応「こちらこそ」と
返しておいた。
担任の木場義雄は40歳くらいで、可もなく不可もなくといった
タイプの教師だったのでホッとした。
これが熱血タイプだと陸を無理やり輪に入れようと考えたりするかもしれない、
そんなのは真っ平ごめんだ。
一時間目は国語だったので、国語の教科書を開いた。
まさか最初に漢字の練習がくるとは思わなかった。
まわりは「案」という漢字を書いている。
みんな覚えるように一所懸命書いているが、陸は普通に知っている。
スラスラっと書き終えると、次の「残」に取り掛かった。
こんな感じであっという間にすべて書き終わり暇になってしまったので
外をボケーっと眺めていた。
校庭では体育をやっている。
ドッジボールをしているところもあれば、サッカーをしているところもある。
正直、体育だけは嫌だなと思った。
体育だけは他の子と体力が変わらないので、
どうしても同レベルで行わなければいけない。
「佐久間さん」
「は、はい」
ボーっとしていたので木場に呼ばれ慌てて返事をした。
「転校初日で緊張してるのはわかるけど、
ちゃんと漢字の書き取りをしないとダメだよ」
「あ、終わりました」
「え?」
この発言にはみんな驚いていた。
早い子でも半分までいくかいかないかくらいの速度なのだ。
木場が慌てて見に来たが、本当に終わっていたので苦笑いしていた。
「漢字、得意なんだね」
「いや、普通ですけど」
「そ、そうか…じゃあ少し待っててくれ」
木場は困ったように指示をし、陸はそれに従った。
やはり小学生の授業は退屈だ。
漢字の練習が終わると、次は教科書を読むことになった。
小説を一行ずつ、全員が声を出して読む。
子供らしく大きな声で元気に読む子もいれば、
恥ずかしそうに小さな声で読む子もいる。
やっぱり子供だな、なんて思っていたら陸の番になった。
「やはり、一つのことをやり遂げるのは難しい」
陸は普通のトーンで、普通に読んだ。
「はい、みんなちゃんと読めたね」
木場が声を出したタイミングでチャイムが鳴り、休み時間になった。
早速陸のまわりには人が集まってきた。
「佐久間さんすごいね」「勉強得意なの?」「どこから転校してきたの?」
やはり転校生というだけで注目を浴びるのだ。
面倒なので適当に相槌を打っていると、
あっという間にチャイムが鳴り再び授業になったのでホッとした。
次の算数も、その次の社会も理科も簡単すぎて話にならなかった。
こんなのが毎日続くのかと思うとうんざりする。
みんなノートに書いたりしてるが、書く必要がなかったので陸は書くのをやめた。
幸いにも一番後ろの角なので書いてなくても目立たない。
今度は給食の時間になった。
机を向い合せて食べるので、このときは休み時間以上に話しかけられた。
前の席の女の子、山崎莉奈が質問をする。
「佐久間さんは何のアニメが好き?」
「いや、アニメ見ないから」
「えー!?じゃあ漫画は?」
「読まないよ」
隣の席の男子、田辺隼人が質問してきた。
「佐久間の家って厳しいの?」
呼び捨てかよって思ったが、そこには触れないことにした。
「そういうわけじゃないけど、見たいと思わないから」
「ガリ勉女だ」
「田辺くん、そういう言い方はダメだよ!」
「だってそうじゃん」
何とでも言え、そう思い陸は反論をしなかった。
給食の時間が終わり、5時間目は一番嫌な体育だった。
意外なことに、着替えるときは男女別だった。
小学生なんだから一緒かと思っていたが、今の時代は違うらしい。
女子たちが体育着を持って移動を始める。
陸は莉奈に付いていき、着替え用として使われている教室へ行った。
そこで女子たちは普通に着替えている。
その中に自分がいるのを考えると、
改めて同性なんだなということがわかってしまう。
この日の体育はサッカーだった。
小学生なので男女混じってのチームになる。
陸の体力は予想以上になく、運動神経も鈍い感じだった。
元々やる気もなかったが、まったく活躍できずに体育の授業は終わった。
戻る途中に莉奈が話しかけてきた。
「運動はあんまり得意じゃないんだね」
「そうだね」
「よかった」
「何が?」
「だって可愛くて勉強できてスポーツもできたら完璧すぎるもん」
「可愛い?誰が?」
「佐久間さんに決まってるじゃん!あ、愛花ちゃんって呼んでいい?」
「それは構わないけど…可愛くはない!」
精いっぱい否定しておいたが、莉奈はそんなことないと言い続けた。
そんな会話をしていて陸は、
なぜか莉奈と仲良くなりつつある自分自身が不思議でならなかった。