仁菜と春樹
今度の日曜に愛花の両親に会う約束をした隼人。
そこへ春樹が日曜に4人で遊びに行こうと誘ってきた。
「悪い、その日はダメなんだ」
「なんだよ、どうせ愛花ちゃんと遊ぶんだろ?だったら4人でもいいじゃん」
「いや、その日は愛花の家に行く約束しちゃったから」
「家に?ってことはついに?」
「ああ、最近付き合い始めた」
「お前~なんで言わないんだよ」
「そのうち言えばいいかなって」
「そのうちじゃなくてすぐに言えよ、まったく」
そう言いながらも春樹は笑顔だった。
春樹は愛花を気にっていたが、
本心は隼人とくっついてほしいと考えていたので嬉しかったようだ。
そんな春樹に対し、結構前から気になっていたことがある。
それを問いただしてみることにした。
「春樹、お前さ…仁菜ちゃんのこと好きだろ?」
「さて、何のことか」
すっとぼけやがって、この野郎。
春樹がその気なら意地でも真意を確かめてやる。
「一緒にいると何となくわかるんだよ、仁菜ちゃんと付き合っちゃえよ」
「断る」
「なんで?好きなんだろ?」
「俺は今の関係が好きなんだよ」
「お前がわざとバカなふりしててもか?」
隼人は春樹がわざとバカなことを言ったりしているのを知っている。
本当はまともで、意外にカッコいい、いいやつというのを知っている。
そんな春樹は、なぜか4人でいるとバカを演じているのが不思議だった。
「俺がバカやって、仁菜ちゃんが突っ込んで、それを隼人と愛花ちゃんが笑う。
今はそれでいいんだ。
俺はみんなが楽しんでくれればそれでいい」
「損な性格だな」
「まあな」
「けど、そのうちちゃんとケリつけろよ」
「ああ、時がくれば…な」
ちょっとキザっぽく格好つける春樹が本当の春樹だ。
隼人はこれ以上は何も言わず、本人のタイミングに任せることにした。
陸は思わず、仁菜に隼人が家に来ることを言ってしまった。
それを聞いた仁菜は大はしゃぎ。
「なんか展開早くない?」
「そんな気もするけど、親に隼人なら安心だよってわかってもらいたいしね」
「まあ、それはあるかもしれないけど…
なんかこのままずっと付き合って結婚しちゃいそうな勢いだよね」
「結婚!?まさかそこまで考えてないよ!」
まだ高校1年生、結婚なんてはるか先の話だ。
そんなことまでは微塵も考えていない。
それよりも今はみんなに、ただ隼人とのことを祝福してもらいたいという気持ちだけを
持ち続けている。
「それもそうか、でも愛花幸せそうでいいなぁ」
その言葉を聞いて、陸は春樹のことをさりげなく聞いてみることにした。
「仁菜も付き合えばいいじゃん、春樹くんと」
「んー、まだいい」
仁菜は「まだ」と言った。
ということは、少なからず春樹に気があるということになる。
「やっぱり春樹くんのこと好きなんだ」
「うん、好きだよ」
平然と言うところが仁菜らしい。
「なら付き合えばいいのに…そうすれば本当のダブルデートとかできるよ」
「あいつがそれを望めば付き合うよ、でも今のところ望んでないから」
「なんで望んでないってわかるの?」
「ずっとバカを演じているから。
バカを演じているってことは、現状がいいってことでしょ。
だから、あいつがそれをやめるまでは、私も現状のまま」
仁菜は春樹がわざとバカをやっていることに気づいていた。
つまり、全員がそれをわかっている。
仁菜が思った以上にしっかり考えていることに対し、予想以上に大人に思えた。
「そっか、じゃあ私はそれを横から見守っているよ」
「うん、ありがとう」
2人が早く付き合う日がくればいいな。
そんなことを考えながら日曜日を待った。