付き合ってからの初デートで…
2日後、付き合ってからは初のデートだ。
ご飯を食べて映画を観て、時間はまだ夕方。
「愛花は行きたいところある?」
「ううん、隼人と一緒ならどこでもいいよ」
なんて乙女チックなことを言って、2人仲良く手を繋いで歩いていた。
もちろん最初に手を繋いできたのは隼人のほうだ。
嬉しくて陸はそれからずっと手を繋いでいる。
「なあ、俺んち来るか?」
「え…」
この言葉で、陸の脳裏に嫌な記憶が蘇ってきた。
中1のときの忘れ去りたい記憶…
付き合った日にキスされ、一週間経たずに家に誘われ、大事なバージンを捧げたのに
遊びだったという悔やんでも悔やみきれない過去。
隼人が付き合って2日で家に誘うのが信じられなくて不安になっていた。
隼人も…身体目的なの…………?
「ああ、勘違いするなよ。今、家に両親がいてさ、愛花を会わせたいんだ。
俺が引っ越すときに愛花と裕美が見送ってくれただろ、そのときの愛花だよってね」
「そういうことか」
やっぱり隼人はそんな人じゃないよね!って…両親?
「えええ??」
それはそれで困る。
引っ越しのときに会っただけで面識なんてないに等しい。
それに5年ぶりだ、隼人の両親だって覚えていないはずだ。
「やっぱ嫌だよな、悪い…忘れてくれ」
うん、忘れる…そう思った。
ところが、ふと彰が言った言葉が頭に浮かんできた。
付き合ったらちゃんと言うんだぞ。
親っていうのは娘がどんな相手と付き合ってるか心配するんだから
まだ彰に付き合っていることを言っていない。
どんな親でも、自分の子供がどんな人と付き合っているのか心配するだろう。
会えば隼人の両親は安心してくれるはず、それに信用されるはずだ。
「ううん、行く!」
「いいのか?」
「うん、その代わり今度隼人も私の両親に会ってね」
「あ、ああ!約束する」
とは言ったものの、いざ会うとなるとやっぱり緊張する。
そんなことを考えていたら、隼人の住むマンションへ着いてしまった。
隼人とともに玄関に入る。
「母さん、ただいま」
すると、奥から玄関へ隼人の母親が歩いてきた。
「おかえり、ずいぶん早かったのね…って、その子は?」
「俺の彼女、連れてきちゃった」
ちゃんと挨拶しないと…
「こ、こんにちは」
隼人の母親は陸の顔をマジマジと見て急に笑顔になった。
「こんにちは!ちょっとお父さん、隼人がすごく可愛い彼女を連れてきたわよ!」
その言葉を聞いて、今度は父親がすっ飛んできた。
「隼人の彼女だって??おお、いらっしゃい」
隼人の両親はウェルカム状態だった。
リビングに案内され、隼人の母親は紅茶を入れてくれた。
「そういえばお名前は?」
「あ、すいません自己紹介もしないで!佐久間です…佐久間愛花…」
「愛花ちゃんっていうのね…ん?」
「どうしたんだ?」
「いえ、なんか聞いたことあるような名前で」
父親の問いに答えたが、なかなか思い出せなかった。
「実は父さんも母さんも一度会ったことがあるんだよ」
「ええ!?いつ??」
「俺が4年のとき、引っ越した日だよ」
「あの日って確か裕美ちゃんともう一人…ああ!思い出した」
「ああ、あのときの子か!」
父親も母親も思い出したようだ。
「隼人が窓を開けて叫んでたな、愛花ーって」
紅茶を口に含んでいた陸が思わず「ぶっ」と吹き出してしまった。
「そうそう、それで愛花ちゃんも隼人ーって叫んでたわ」
そんなことを思い出さなくてもいいのに…
恥ずかしい思い出に陸も隼人も顔が真っ赤だった。
「それにしてもどうやって再会したの?隼人が手紙を書くとも思えないし」
「偶然同じ学校だったんだよ、それで…な」
「そうなんです、私もビックリしちゃって」
「そんなことあるのねぇ、けど…それなら裕美ちゃんも教えてくれればいいのにね」
その話を聞いて、裕美との約束を思い出した。
そうだ、付き合ったら3人で会う約束をしていたんだ!
隼人の両親は、とてもフレンドリーで和みやすかった。
ほぼ初対面に等しいのに陸はすっかり溶け込み、気がつくと夜になっていたので
そろそろ帰ることにした。
「愛花ちゃん、いつでも遊びにきてね。愛花ちゃんだったら大歓迎だから」
「ありがとうございます、ぜひ遊びにきます」
「ただし、くるときは私たちがいるとき、それとリビングだけだよ。
こんな可愛い子を隼人の部屋で2人きりにさせたら、
このバカが何を仕出かすかわからないからな」
「ちょっと、父さん!なにくだらないこと言ってるんだよ」
「真面目に言ってるんだ、何かあったら愛花ちゃんのご両親に申し訳ない」
「あははは…」
そんなことを期待していたわけではないが、陸は思わず苦笑いしていた。
「ということで、家まで送ってあげなさい」
「そのつもりだよ」
やっぱり隼人は優しい。
どんなときでも私を大切に思ってくれる…そんな隼人が大好きだ
「さようなら、愛花ちゃん」
「お邪魔しました、さようなら」
隼人の家を出ると、隼人は真っ先に謝ってきた。
「変な両親でごめんな」
「そんなことないよ、楽しかったし。行ってよかったと思ってるもん」
「そう言ってくれると助かる、今度は愛花の家に…な」
「うん!早い時間にね」
ちゃんと会うつもりでいる隼人に感謝した。
家の前まで着き、今度こそ抱きしめようとお互いが近づいてから、
思わず同時にあたりを見まわした。
「莉奈…いないよね?」
「いない…はず」
莉奈がいないのを確認してから抱きしめ合った。
「愛花、大好きだよ」
「私も…大好き」
少しだけ抱きしめ合って2人は離れた。
キスまではしない、今はこれだけで十分だ。
「また明日学校でな」
「うん、送ってくれてありがとう!」
いつも通り、陸は隼人が見えなくなるまで手を振って家に入った。
「へー、もう両親に会ったんだ!隼人くんもせっかちだね」
「でもすごく優しくていい両親だったよ」
「まあ愛花がそう言うならいいけど、私なら緊張して無理だなぁ」
仁菜の性格なら、どんな相手でも堂々と話せると思っていたので、ちょっと意外だった。
そんな話をしながら体育館に行き、着替えて準備運動をした。
この頃になると、1年生も2,3年生と一緒に練習をしている。
あまり部活の話をしなかったが、陸も仁菜も真面目に部活をしていたので、
最近は鬼軍曹こと、朱里に怒られることなく楽しみながら励んでいた。
休憩になり、タオルで汗を拭いていたら小陽が話しかけてきた。
「そういえば来月は高校野球だね」
「うん、それに向けて頑張らないと」
「愛しの隼人くんのためにね」
「もー、そうやってすぐにからかう!」
小陽はまだ陸が付き合っていることを知らないが、両想いということには気づいている。
まだ数日なのに言いふらすのもどうかと思って
学校の友達には仁菜とみな実にしか付き合っていることを言っていない。
けど小陽には近々言わないとな、と考えていた。
そこへ朱里が加わってきた。
「何、恋バナ?」
「ち、違いますよ!」
「全力て否定するところが怪しい。
まあいいや、近々みんなユニフォーム着てもらうからね」
「え、本当ですか?」
この言葉には陸だけじゃなく、小陽や仁菜も目を輝かせ、
早く着てみたい、着て踊ってみたい、そういう衝動に駆られていた。
この日の夜、隼人から今度の日曜に家に行くという連絡がきたので、
彰と美智子に伝えることにした。
「お父さん、お母さん、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「今度の日曜日って家にいる?」
「午後はいる予定だけど」
「会ってもらいたい人がいるんだ」
陸は無意識に笑みがこぼれ、彰も美智子も察してくれた。
「なるほど、愛花が彼氏を連れてくるなんてねぇ」
美智子は嬉しそうだ。
本当は過去にも彼氏がいたが、そのことは話していなかったので
隼人が最初の彼氏だと思っている。
「とうとう付き合ったんだな」
「お父さん、この話知っていたの?」
自分が知らないのに彰が知っていることが美智子には意外だったらしい。
母親としては父親よりも先に知っていたかったのかもしれない。
「違うのお母さん、付き合う前に送ってくれたとき、お父さんがたまたま目撃して…
付き合うまでは内緒にしていてって私が頼んだの」
「そうだったのね、でもお父さんもこっそり教えてくれればいいのに」
「愛花と約束したからな、言えるはずないだろう」
律儀な父に感謝です。
このあと美智子から「どんな子?」「かっこいい?」など質問攻めにあい、
「会ってからのお楽しみ」と名前以外は教えなかった。




