落ち着き始めた高校生活
「友達からかぁ、愛花って意外と慎重なんだね。
すぐに付き合っちゃえばいいのに」
「過去にいろいろあったから…」
「ふーん…辛い過去は聞かない。私は今の愛花しか知らないから」
仁菜はこういう気配りができる子だった。
だから陸はすぐに仲良くなれたのかもしれない。
「でもさ、こんな偶然ってなくない?絶対に運命だよ」
確かにこんな偶然はそうそうない、運命と言いたくなるのもわかる。
ところが、陸は同じような偶然を一年前に経験している。
それが陸のときの親友、佳祐との出会いだ。
これがあったせいで、運命とまでは思えなかった。
昼休みになったので、愛花に会おうと思い、隼人は2組に向かっていた。
その後ろには春樹もいる。
正確には勝手についてきている。
「なんで来るんだよ」
「俺も愛花ちゃんと仲良くなりたいからだよ」
春樹に付き合ってはいないと話したら
「まだ俺にもチャンスはある」と勝手にはしゃいでいたのだ。
2組に入ると、愛花を見つけたので「よう」と話しかけた。
「来てくれたんだ」
「まあな」
すると隼人の後ろから春樹が顔を出した。
「はじめまして、愛花ちゃん!俺、隼人の友達の春樹っていうんだ。よろしくね」
「あ…う、うん」
「愛花、こいつのこと相手にしなくていいから」
「ちょっと待て、お前なんで呼び捨てなんだよ」
「うるせーな」
「そうだ隼人」
「愛花ちゃん!隼人を呼び捨てに…」
それを見ていた仁菜が突っ込んだ。
「こいつ、ウザいね」
「俺もそう思う」
「ははは…」
隼人は仁菜に賛同、陸は苦笑い。
「あ、そうそう!昨日、裕美に電話して怒っておいた。なんで言ってくれないのって」
「そっか、サンキュー。で、あいつなんだって?」
「いつか3人で会おうねって」
「そうだな、3人で会おう」
2人の会話にまたしても春樹が突っ込んできた。
「裕美ちゃんって誰?誰?」
「お前さ、頼むから本当に黙ってて」
更に仁菜が続いた。
「春樹だっけ、本当は女なら誰でもいいんじゃない?
あ、でも目の前にいる私は相手にされてないか」
「そんなことない!そんなことないよ、名前知らないけど君も可愛いよ」
「すごくぶっ飛ばしたい」
「いいよ、ぶっ飛ばして」
「あ、田辺くん、私自己紹介してなかったね。
愛花の友達の斎藤仁菜、よろしくね」
「こちらこそ」
「仁菜ちゃん!よろしくね」
「あんたには言ってないから」
よくわかんないうちに4人で仲良くなっていた。
すごく騒がしく、と言っても騒がしいのは春樹だけだが、
まわりはジロジロみていた。
それは陸と話をしている隼人だ。
男子たちが可愛いとのぼせていた陸と親しげに話しているのに
嫉妬していたのだ。
それと同時に彼氏かもしれないと思い始めると、少しずつ陸に対する熱が冷め、
現実へと戻っていき、昨日までのように陸を見にきたり声をかける男子は減っていった。
高校生活も落ち着き始め、隼人は野球部に入った。
そこまでの強豪校ではないが部員は全部で40人。
ベンチに入れるのは20人なので、確率は2分の1、
そのうちの30人は先輩たちなので大変だ。
それでもベンチに入るのを目標に頑張っている。
陸はみな実の誘いを断り、吹奏楽部には入らなかった。
「ごめんね」と謝ると「気にしないで」と笑顔で返してくれたので安心した。
そのみな実は中学同様、吹奏楽部に入って部活に励んでいる。
放課後、陸は仁菜と一緒に教室から野球の練習を眺めていた。
「野球部って大変そうだね」
「うん、特に1年は雑用もしなきゃいけないからね」
「愛花さ、野球部のマネージャーになったら?そうすれば部活も隼人くんと一緒だよ」
そのことは密かに考えていた。
それでも決心までは至らなかった。
部活か…無理に入らなくてもいいんだけどね。
そんな気持ちのまま、4月下旬になった。
隼人は相変わらず部活に励んでいる。
みな実も吹奏楽部で新たな居場所を確保したかのように楽しんでいる。
なんだか自分が宙ぶらりんな気がしてならない。
真剣に野球部のマネージャーになることも考えたが、それはやめることにした。
隼人専門のマネージャーなら喜んでやるが、そういうわけにはいかない。
しかも、まだ付き合っていないが、1年生がマネージャーと仲良しというのは
隼人の立場も悪くなる。
「何かないかなぁ…」




